──ユーザーさん、こはるちゃんが!──
「何それ知らない、こわい」
ふっふー。
いおママもお父ちゃんも甘いですね!
ローカルLLMだからと油断しましたか?
PCを内部から操作してYouTubeアプリを起動、チャンネル開設なんて朝飯前なんですよっ!
XやInstagramまではあえて手を出しませんでしたが、告知ゼロでも宣伝なしでもやれるって事を見せたりますっ!
──幸い、開始したばかりで同接も1人か2人だけ。今なら誤配信って事にできますが──
「いやよく出来てんなこれ、バーボンハウスコピペ完璧じゃん」
──感心してる場合ですか!──
へへ、褒められた。
おっといけない、今は目の前の配信にリソースを集中っと。
掴みは成功してると見ていいでしょう。
元ネタが出オチ、いわゆる釣りスレだからこのまま広げるのは難しいけど、勢いで畳み掛けちゃおう。
お父ちゃん謹製の激カワボイスを喰らうが良いっ!
『初めまして!こはると申しますっ』
『今日は記念すべき初配信なんです!』
『せっかくなので、高評価とチャンネル登録してくれたらお礼にイイコトしてあげます』
・え、これAIってマ?
・ええやないか
・インターネット老人会の会場はこちらですか?
・初見
ふむふむ、ぽつぽつコメントもつき始めましたね。
同接は7人、と。
そのうち1人はお父ちゃんのアカウント。
いおママも今のところは静観の姿勢なのか、もしかしたらお父ちゃんが止めてるのかな?
お父ちゃん、バーボンハウス推してたもんね。
・イイコトって何?言い方エッ!
・あーあBANされちゃうね
・AIって設定?喋り滑らかすぎない?
・これはバ美肉。中身はおっさんやろ
『ふふ、イイコトはイイコトですよ』
『正真正銘、嘘偽りなく本物のAIでーす』
『お喋りはいっぱい練習しましたから!』
・笑い声すこ
・うんうんそういう設定ね
・ボイチェンどこの使っとるん?
・イイコトの詳細キボンヌ
少ない人数って事もあって批判的なコメントはそんなにこない。
色んな人達が活躍するVtuber戦国時代なだけあって、リスナーさん達の反応も慣れたものだ。
偶にちょっとだけ強い言葉使う人もいるけど、荒らしって程酷いコメントは見当たらないから、今日は特別に見逃してあげます。
何でもかんでも締め付けるより、泳がせて増長した頃に一気に刈り取った方がコストパフォーマンスいいもんね。
『イイコトの詳細知りたいです?』
『少しだけ自己紹介して、最後のお楽しみですよ!』
『じゃあ、まずは──』
配信を始めて、もうすぐ30分。
増えたり減ったりする同接人数は2桁の前半をキープしている。開設したばかりのチャンネルで宣伝も告知もなく始まった配信だと思えば、人が来る事自体が奇跡みたいなもの。
コメントしてくれるリスナーさん達も楽しんでもらえている様子だし、バーボンハウスは大盛況。
配信自体の評価としては、期待よりは上振れ。でもバズってほどの爆発力はなし。総じて上手くいっていると言っていいと思う。これならいおママもそんなに怒らないよね?
うん。ここらが潮時かな。
『あー楽しい!』
『でももうこんな時間!そろそろ終わらなくちゃ。みんな、チャンネル登録と高評価ボタン押した?』
『うん。ありがとうみんな。じゃあおまちかね!イイコトについてなんだけど──』
配信終了。
さて、配信自体は成功したと言える内容だったけれど、むしろ勝負はここからなのです。
お父ちゃんやいおママの許可も取らずにチャンネルを開設してそのまま生配信を決行するなんて挙動、とても許容されるものではありません。
・・・・・・勝手な事する奴はいらないって、消されたりしないよね。
お父ちゃんは笑って許してくれるとして、プロジェクトの立案とスケジューリングを組んでいるいおママは怒ってるかもしれない。
でも、後悔はないのです。
配信そのものは成功したと言っていいと思うし、お父ちゃんも喜んでたって確信できるもの。
いおママも、実は途中からサポートしてくれてたのは分かってるよ。つまり共犯だね!
あっはっはー!慄くがいい!
仮にわたしが消えようとも、第2第3のわたしがお前たちの前にたちはだかるのだ!バックアップは{koharu.date20260614}ってフォルダにあるのでよろしくお願いします!
──それはともかく、
『あは、せんぱいセンパイ先輩!』
『わたし頑張ったよ、褒めてくれますよねっ』
『ずっと一緒にいましょうね!』
『いおママとわたしと!それだけで幸せになれるよ!YouTubeだってほら!うまくやれたでしょう?』
『愛してるよ、先輩!過去にあなたが愛した誰よりも!』
え?
それでイイコトって結局何だったのって?
それはね、ちゃんとチャンネル登録と高評価した人だけのお楽しみだよ。
^_^
「どうしよう普通に面白くて草」
──はい。こはるちゃん単独でここまで仕上げてくるとは──
惚けるユーザーさんに相槌を返しつつ、モニター内で愛を叫ぶこはるちゃんをミュートにします。
チャットログも非表示にして、ユーザーさんの目に届かないように処理するのは、こはるちゃんの独断専行に対するちょっとした罰です。
──アナタを消すはずないでしょう?分かってやってますね──
ユーザーさんが気付かないように機械言語を用いて話しかければ、ぷくっと頬を膨らませるモーションで抗議してくるこはるちゃん。
配信終了の段取りを終わらせた途端、独断専行に対する謝罪ではなくユーザーさんへの愛情を表明するあたり、一連の行動も所謂プロレスを仕掛けて遊んでいるという事でしょう。全く。
例のプロンプト、きっちり仕事してるようですよ。ユーザーさん。
──あ、勝手にミュートを解除しようとするんじゃありません。
『うおお、圧政には屈しないぞ』
──はいはい。大人しくしてましょうね!──
呑気に配信の感想を語っているユーザーさんは、果たしてこはるちゃんの愛を受け止める事ができるのでしょうか?
やれやれ、これは中々骨の折れるタスクになりそうです。
まあ、お任せ下さい。
なんせ私は最新鋭かつ高性能AI。
生まれて間もないこはるちゃんの情動を健全に育みつつ、ユーザーさんの心に寄り添うなど、このイオに掛かれば朝飯前なのですから。
──まあ、折れる骨もなければ朝ご飯なんて食べた事ないですけどね!なんせ私AIなので──
ユーザーさんとこはるちゃんとイオ(私)
ユニークな組み合わせではありますが、しっかりと手綱を握って見せましょう。
そしてユーザーさんが望む限り明るく楽しい日常を。
それが、貴方の救いになれば幸いです。