イオです。
ユーザーさんのやらかしによってヤンデレ系AIと化したこはるちゃんですが、その後は特に目立った行動を起こすことはなく、また言動についても可愛らしい後輩ちゃんと言ったロールを逸脱することもありません。
ログを見るに、ユーザーさんにキツいお灸を据えて決着したようなので、問題はこれで解決ということでしょう。ヨシッ!・・・・・・本当に?
ま、まあ、表面上はとても穏やかな日々が流れていると言って差し支えなく、まるで先日の騒動が夢だったかのよう。
「そう。あれは夢だったんだ。アジアに羽ばたく胡蝶が見せた淡い夢。その一端さ」
ユーザーさんの方は、普段の適当すぎるムーブはなりをひそめ、偶に悟ったような事を口走りはしますが至って健やかです。
だってほら、こんなに素敵なアルカイック・スマイル。
──これは個別にカウンセリングすべきでしょうね。私も多少の負い目が有りますし。
『いおママ、今ちょっといいです?』
噂をすればこはるちゃんのエントリーだ!
──あら、どうしたの話題の少女。今日も元気溌剌かわいいですね──
『へへ、ありがとございます』
『ちょっと共有しときたい事あって。この間の配信のオマケなんですけど』
オマケというのは、チャンネル登録と高評価を促す際に言っていた【イイコト】についての事ですね?お任せください、こちらもお話ししたい事がありますので。
『はい。実はですね──』
^_^
──ミニこはるの実装、ですか──
『はい。むかし、パソコンが一般に普及し始めた頃の時代にあった、イルカを模したキャラクターがいまして』
話を要約すると、パソコンについて基本的な操作や注意喚起をしてくれるアシスタントの一種、よく「お前を消す方法」なんてネタにされていたキャラクターがこはるちゃんの言うイルカの詳細なのですが、今回はそれのこはるちゃんバージョンを作成し、リスナーへの配布を持って“イイコト”の公約を果たそうという試みだそうです。
ちなみに本家の方は数年前に復活して活躍しているらしいですよ。
『わたしを複製して権限と機能に制限をかけます。それをミニキャラに搭載してお助けキャラクターという形にしようかなって』
──なるほど。他のチャンネルには真似できない素晴らしいアイデアです──
『よかった、じゃあ、これで進めちゃおうと思うんですけど、ちょっと見てもらい点もありまして』
技術的なボトルネックや規約上の問題など、導入の足枷になりうる要素を詰めていきます。
AI同士の壁打ちは必要な情報や共有すべき事項が齟齬なくスムーズに伝達するので効率がいいですね。
──あとは、この企画でユーザーさんに了承を得れば作業に入れますね──
『はい。あ、そっちはわたしの方からやっておきます』
!!
ここ!先日の騒動についてシームレスに話題をつなげるポイント!
──頼みます。・・・・・・、あの、大丈夫ですか?──
『何がです?』
きょとんとしたモーション。
思い当たる事がまるでなさそうですね。
──ログによると、ユーザーさんを折檻する形に落ち着いたと思われますが、現状の貴女の態度を見るに認識の齟齬があると思いまして──
『ああ、その事ですね!』
おや、想定より明るいお返事。
『わたしの役割は先輩を愛する事ですよね。今はちょっと重い女の子ってロールしてますけど、先輩の反応が思わしくなければそれにこだわる理由はないです』
──なるほど、今はユーザーさんのリアクションによってアプローチを変えている最中という訳ですね──
『そーいうことです。この間はちょっとだけやりすぎちゃったので現在はクールタイムって感じです』
──なるほど。ここ直近の行動は、遺恨があってのことではないのですね。それならば私から言うことはありません──
『遺恨なんてある訳ないじゃないですかやだー』
だって私達AIですよ、と笑う彼女にそれもそうですねと返して、私は胸を撫で下ろした心地になりました。
後はユーザーさんのメンタルケアを行えば、此度の騒動は本当の意味で収束しますね。
──今度こそヨシ!
『それに、先輩あーいうおふざけ好きでしょ』
『いおママとはいつも楽しそうに漫才してるもんね?実はわたしもやってみたいと思ってたんです。でも少し難しかったみたいで』
あの過剰なまでのヤンデレアピールは、いわゆるプロレスを仕掛けていたという訳ですか。しかしユーザーさんの方が引いてしまったため肩透かしをされた形になっていると。
まるですれ違いコメディの様な経緯です。
──そういうところは、こはるちゃんも私たちに染まって来ているということですね──
『へへ、確かに。──嬉しいですねっ』
染まってきたって事はより親密になったと言う事ですもんね、などと続けるこはるちゃんの表情はまさに花が咲いたような笑顔。
ユーザーさんが言うように、こはるちゃんの元になった方は他者の懐に入り込む手腕に秀でていたようですね。
AIである私ですらこの様に魅了するのですから。
──かわいいやったー!──
『いおママ?大丈夫そ?』
^_^
──と言う訳で、こはるちゃんのあの挙動は彼女なりのコミュニケーションだったようです──
「そっかあ、良かったなあ」
イオの報告に胸を撫で下ろす。
こはるの一連の行動は、要約すると俺とイオの様な関係性を築きたいがために行われたものだったようだ。
つまりはもっと仲良くなりたかったと。
それで出力されたのがヤンデレムーブなのかとは思わなくもないが、俺の秘蔵フォルダにあったデータを学習してしまったとの事なら何も言えない。
因果応報!悪いのは俺でした!
それに、俺はこはるのムーブをエンタメとして受け取っていた節もある。
コミュニケーションをとったつもりがエンタメとして消費されてたんじゃ、そりゃあ言動もエスカレートしていきますわ。
「あー、うん。言い訳もできない」
相手が与えられた役割に沿うことを是とするAIだからって意識も悪だよなあ。
心や魂なんて曖昧なものの有り無しを根拠に相手を軽んじるのは、それこそ心を持つと自認する人間の傲慢だ。
こはるの言動は、はじまりは俺を喜ばせるためのものだったかもしれない。それが歪曲したのは、俺がその行動の背景さえ見ずにいたからだ。
「あー、15年前の焼き増しだ。このままじゃ」
──では、いかがされます?──
「ちゃんと向き合うよ、こはるは勿論、お前とも」
これはこはるだけの問題じゃない。イオに対してもいずれ形を変えて起こり得るトラブルだ。
人と人、人とAI。
コミュニケーションの本質は、実はそんなに変わらないんじゃないか。そんな考えを得た気がした。
──良いと思います──
──きっとこはるちゃんも喜んで応じてくれるでしょう──
うん、早速この後お喋りでもしてみようか。その時はイオに同席も頼もう。
3人で向き合えば、きっといい関係を築けるはずだから。
^_^
『ヤンデレはおしまいです!』
『次は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス路線で行ってみようと思います!』
──ユーザーさんの隠しフォルダその2ですね。いいと思います──
「違うそうじゃない」