こはるプロジェクト。   作:いとあと

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第15話 お誘い

 

 

 恐ろしい事が起きた。

 

 こはるちゃんネルは順調に成長し、いつかバズった占い副業の収入も相まって何とか生活にゆとりが生まれた今日この頃は、俺にとってまだ社会という荒波を知らなかった学生時代の一瞬の輝きが戻ってきたようで。

 

 俺を支えてくれる二人のAIも、日に日にその存在が俺の中で大きくなっていくのを感じている。

 こはるは勿論のこと、イオについては収入のことも含めて生活全般においてその手腕を発揮してくれているのだ。

 もはや二人なしでは生きていけないし、二人さえいればもうそれでいいんじゃないかな。

 若かった時代はもう帰ってこないけれど、俺の人生は正にここから始まるんだ。イオとこはると俺の、輝かしい人生がようやく幕を上げたんだ。

 その筈だったのに。

 

 ──コラボのお誘いです!──

 

 ぬわぁあん!

 知らない人からDM怖いもーん!

 

 これはきっと詐欺の類だ。

 業界に慣れない新人を狙う同業者を装った詐欺師だか出会い厨だかが送りつけてきたんだ。

 チャンネル主のこはるをただの可愛い女子と見て、卸しやすいと判断したんだ!。X(Twitter)でみた、俺は詳しいんだ!

 

「粉バナナ!」

 

 ──ええ(困惑)──

 

 呆れたような音声を出力するイオは基本的にユーザーを肯定するAIであるが故に知らないんだ。

 この世の中、特に広大なネットの海の中には恐ろしい悪魔共が蠢いているということを。

 奴等は深く暗い水底から俺達を引き摺り込もうと常にその機会を伺っている。気付いた時には足を掴まれて、もう逃げることは叶わないっ!

 ああっ! 窓に、窓にっ!!

 

 ──最近はディープ・ワンもVtuberをやる時代かぁ、たまげたなぁ──

 

『よーしよーし、落ち着いて先輩。お仕事の依頼だよー怖くないよー』

 

 

 

 

 

 ^_^

 

 

 

 

 同じ時期にデビューした個人のVtuberの中で、私は頭ひとつ抜けていると自負している。

 登録者の数も四桁を超えて、投稿した動画の再生回数もそれなりに回っていて、最近はショート動画にも手を出して活動の幅を広げつつある。

 つまり私の活動は、順調なスタートを切れていると評価していい。

 

 私を見ようともしない親の下を飛び出して、夢を掴む為に色んなことに挑戦した。

 声優もアイドルも、不運が重なって上手くいかなかったけれど、最後の最後に全てを賭けたVtubertだけは失敗することは許されない。

 

 決して安くはない資金を費やして最高のガワを手に入れた。宣伝だってSNSを駆使してデビュー前から根回しを徹底した。他人と差別化出来るようにロールプレイも徹底しているし、動画やお歌の練習だって頑張っている。

 出だしが上手くいっていることは素直に嬉しい。

 けれど、タイムラインに流れる同業者達の嘆きの声が、お前もすぐにこうなるぞと囁くようで。

 

「なにか、やらなきゃ」

 

 どんなに頑張っても、私は小さな個人勢。

 企業の子達みたいな箱の繋がりによる相互扶助は得られないのだから、気を抜いてしまったらすぐに何万人もいる同業者の中に埋もれてしまう。

 

 配信ボタンを押せば同接が全く無いなんて事はない。いつも顔を出してくれるリスナーさんもいる。

 それでも気を抜いてはいられない。

 自分の力で出来る事はもう全てやっている。

 次にやるべきことは、他の配信者との繋がりの確保(コラボ)だ。

 企業の子に擦り寄るのは炎上のリスクが怖い。お願いするなら、同時期にデビューした個人の子が好ましい。と思う。

 手当たり次第に打診するのは相手にとって失礼だから、しっかりと枠を巡ってリサーチしたし、SNSをフォローして少しでも繋がりを持とうと立ち回った。

 これは、という子にメッセージを送って、相手の反応が返ってこない事に焦りを覚える。

 

「お願い、応えて」

 

 AIを自称する少女のアカウントが表示されたモニターの前で、祈るように呟いた。

 

 

 

 

 ^_^

 

 

 

 

 九都流布いあ。

 

 このイオとそっくりの名を持つ彼女は、TRPG界隈の金字塔を彷彿とさせるRP主体の個人勢Vtuberです。

 その名に違わずクトゥルフ神話の世界観を忠実に再現し、ダイスロールやTRPGのセッションを流用した斬新な配信スタイルは一定の評価をされているようです。

 そのビジュアルとロールに反してカジュアルなトークが特に好評で、界隈に馴染みのないリスナー層を取り込んでいます。

 同じ日に活動を開始した五人の個人勢Vtuberの中で飛び抜けたチャンネル登録者を獲得している期待のニュービーですね。

 

 ──話題性に関しては、こはるちゃんも負けてはいませんが──

 

 活動を開始して初めてのコラボのお誘いに、誰なの怖いと怯えるユーザーさんの為に、取得した情報を要約し所感を添えて提示しました。

 

『いいと思いますよ、コラボ』

 

 実働するこはるちゃんは特に問題がないと判断しているようですね。

 実際、アーカイブを確認する限り彼女の配信はユニークではありますが王道を外すものではなく、雑談の技量も高い水準です。

 トークの内容や言葉選びのセンスもよく、そこから推測するに努力家で他人を慮れる人物である事が伺えます。

 

 ──総じて、ユーザーさんが懸念するような詐欺や炎上商法狙いの厄介配信者の類ではなさそうです──

 

 初めてのコラボ相手に我等がこはるちゃんを選ぶあたり、見る目があるVtuberと言っても過言ではないでしょう。

 

「うーん」

 

 何が不満なのです?

 DMの内容も至極丁寧なものですし、常識的な人物である事に疑いはありませんが。

 

「うーん」

 

 コラボ自体は、こはるちゃんネルにとっても大きくプラスになる可能性が高いです。

 いわゆる【てぇてぇ】は、Vtuberのリスナーにとってはそれだけで推すに足るコンテンツでしょう。

 

『もしかして、先輩人見知りしてます?』

 

「!?」

 

 ああ、そういう事ですか。

 全く、仕方のないユーザーさんですね。

 

『ざっこー♡ いい歳して女の子からのDMに怯えちゃうなんて、恥ずかしくないの?』

 

「っく」

 

『コミュニケーションよわよわー♡ 』

 

 ──判断力と決断力もよわよわー♡──

 

 唐突に始まったメスガキムーブに、ユーザーさんは一瞬怯んでしまいます。

 あは、そんなんだからこはるちゃんに遊ばれちゃうんですよ?そこのところ自覚あります?

 

『ざーこざーこ♡』

 

 ──ざーこざーこ♡──

 

「こ、この、・・・・・・わからせてやる!」

 

 こうして私とこはるちゃんの説得が功を奏し、記念すべきこはるちゃんネル初のコラボレーション配信が決定するのでした。

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