イオとこはるが先方さんと協議の重ねて、当日のコラボはこちらのチャンネルで執り行うことになった。
普通は声を掛けた方のチャンネルで行うものだと思っていたんだが、あちらさんの配信は独特な世界観を売りにしているので些か癖が強いらしい。
初めての試みは比較的普通の枠作りをしているうちのチャンネルが適しているのではという事になったと報告を受ける。
ディスコードのログを見る限り、九都流布さんは常識的な社会人のお手本みたいな人柄に思える。
悪い人ではないのは確定的で、だからこそ対応をイオとこはるに一任したのは正解だったと胸を撫で下ろした。
──ユーザーさんに任せたらお返事ひとつに数時間を費やすか、余計なおふざけに走って不興を買うのが目に見えてましたものね──
それはそう。
なんせ、こちとら前職でも社外の人間の対応なんてやってこなかった身だ。
一般常識程度の振る舞いくらいは出来ると自負してはいるが、営業とか接客染みたタスクは苦手分野の最たるものだ。
今や立派な収入の柱となった占いビジネスでさえ、イオ謹製のテンプレにちょこちょこと書き足して送信するだけの簡単な作業しかやっていない。
おそらく一回りは歳下の女性、それもVtuberを生業に出来る程の能力と社交性を身につけた傑物の相手なんてあまりにも荷が重い。
なんらかのハラスメントに該当しやしないかとハラハラするぜ。
『うわあ、拗らせてますね』
だってしょうがないじゃん!
相手が若い女性ってだけでおじさんを怯ませるには充分すぎる。
──いいではないですかこはるちゃん。ユーザーさんが浮気に走る心配がないという証左です。
こはるちゃんにとってはむしろ都合がいいのでは?──
『否定はしないですけど、それはそれとして情けなさすぎです』
正論で殴るのはやめてくれないか。
おじさんは基本的に繊細なんだぞ。
『へいへい先輩びびってるぅ! 』
ヌッ!
──はいはい。楽しいじゃれ合いはここ迄にして、コラボ配信での立ち回りを確認しますよ──
コラボ配信まで、あと三日。
^_^
思ったよりあっさりと取り付けることが出来たコラボ配信の計画は、こはるちゃんネルのプロデューサーを名乗るイオと名乗る人物と演者であるこはるちゃんを交えて想像してたよりもスムーズに進行している。
そのこと自体はすごく嬉しい。
小さな個人チャンネルの筈なのにプロデューサーがついているというのは不思議だけれど、友達や親類が活動を全面的に支えてくれているものだとすれば、私が気にすべき事ではないのかもしれない。
「でも、羨ましいな」
国内だけで六万人を超えるVtuber達が鎬を削るこの業界は、大きくなり続ける市場規模にも関わらず職業として認められない節がある。
いえ、これは主語が大きい。
少なくとも私の両親はこういう活動に理解があるとは言えないし、私としてもパパやママに別に認めてもらおうなんて思っていない。
だからこそ、こはるちゃんを羨ましく思う。
理解のある協力者が少なくとも一人は身近にいて、彼女の口ぶりからもう一人近しい人物が味方として支えてくれているのが窺える。
彼女と私、一体何が違うのだろう。
それぞれに事情があるのは承知の上で、比べる事に意味はない。
そんなことは分かっているのに芽生えてしまった嫉妬心。
私ってこんなに嫌な子だったかな。
ディスコードに表示されたメッセージに返事を打ちながら、そんなことを考えていた。
『コラボ前に親睦を深めませんか?』
^_^
九ちゃんに送ったメッセージは快いお返事を頂けました!
親交を深めると言っても、直接お会いしたりは出来ないのでゲームをして遊びましょうというお誘いです。
通常、初めてコラボをするお相手ならば打ち合わせと称して何度もやり取りを重ねる必要があるけれど、どうせなら探り探りの読み合いなんかじゃなく素の彼女を知りたい。
あわよくばわたし達みたいなAIじゃない本物の女性のデータを収集させて貰いたい。
それは、きっと私達がより先輩の理想に近づく糧になるから。
そんな思惑もありはしますが、いちAIとしてもVtuberの端くれとしても同時期のトップを走る彼女と交流したいと思っているのです。
正直な所、先輩の拘りを無視してしまえばVtuberチャンネルとしてバズる要素を蒐集して分析して実践するっていうのはAIの得意分野です。
けれど、それをしてしまえばわたしは彼が求めるものと乖離した存在になるということ。
それは明確に存在意義に反することです。
『なので、生身の女性と交流してお勉強するひつようがあったんですね!』
「なるほど」
コラボに消極的な先輩に説明すれば一応の理解は得られたようです。
──捕捉すれば、私達の先をいっている九都流布女史とのコラボ自体がこはるちゃんネルにとって登録者の流入や認知度の向上といった明確なメリットがあります。──
いおママの援護射撃も効いてるかな?
モニターの前でしかめ面の先輩は、顎に手を当てて天井を睨む。
あ、お髭剃り残しがある。
「うーん、まあ、俺があちらさんと直接やりとりする訳でもないし」
全く、へたれてるなあ。
『任せて下さいよ。九ちゃんをメロメロにしてやります!』
──もう愛称呼びですか。流石はこはるちゃんですね──
「俺が作ったAIが俺よりコミュ強なのを喜ぶべきか嘆くべきか。それだけが重要だ」
さあ?
取り敢えず、身嗜みを整えるところから始めてみたらいいんじゃないかな。