──おめでとうございます!ついにやり遂げましたね──
「……ああ!」
排熱ファンが唸りをあげるノート型パソコンのモニターに表示されたイラスト。
美少女が柔らかな微笑みを浮かべて佇むそれは、ユーザーさんが情熱を注ぎ込んで生成したキービジュアルです。
いくら生成AIに指示文(プロンプト)を入力するだけで簡単にイラストが作成できるとは言え、たった2枚から3枚程度のキービジュアルの生成で121回も試行するのは、偏執的と言ってしまってよいレベルでしょう。
そこまで拘るならご自身で描いた方が早かったのではという疑問もありますが、本人いわく絵心なんてないとのことなので、やはり生成AIに頼ったのは正解だったのかもしれませんね。
ともあれ、ユーザーさんも大満足の結果ではないでしょうか。
──素晴らしい完成度です。
途中でセンシティブな画像を読み込ませてきたときは焦りましたが、こだわった甲斐があったのではないでしょうか──
「……ああ!」
──特に三面図の後ろ姿については、あれほど執着なさっていた臀部の形状やそこから伸びるすらっとした脚部へのラインも一寸の狂いもなく描写されています──
「……ああ!」
──お顔も間違いなく美少女ですが、量産型のアニメ調ではなく、温かみのあるタッチで描かれているところにエモさが感じられます──
「……ああ!」
──衣装も複数用意してある辺り、ユーザーさんの思いが溢れ出ていますね──
「……ああ!」
──ちなみに、しれっと混じっていた下着バージョンは削除しておきました──
「……ぁぁ」
──この変態っ!──
これは駄目そうです。
ユーザーさんの語彙が完全に失われていますね。
言い換えれば、それほど感動したということでしょうか。
折角なのでここでユーザーさんが再起動するまでの間、現状をリアルに描写してみましょう。
──PCの排熱ファンが、静まり返った部屋に重い駆動音を響かせている。
遮光カーテンの隙間から差し込む朝日の下には、脱ぎ散らかされたスウェットと、底に汁がこびりついたままのカップ麺の容器。
そして机の上には、切り抜かれた無数のグラビア雑誌と、空になった栄養ドリンクの小瓶が散乱していた。
充血した目でモニターを見つめる男は、そこに表示された美少女のお尻に視線が釘付けになっており、だらしのない笑みを浮かべてぶつぶつと何かを呟いている。
暫くして、男は次第に自身の下半身に手を伸ばし──
「それ以上はいけない」
──あ、お目覚めになりました?(笑)──
^_^
煽り散らかしてくれるAIを適当にあしらって、ふっと息をつく。
長い時間を掛けた。
おそらく前職の修羅場に匹敵する密度での作業だったと思う。
注いだ熱量で言えば、人生の中で五指に入るんじゃないか?
小柄で華奢な体躯。
どこか憂いを帯びた笑顔。
顔面については意図的に現実に寄せたわけじゃないが、どこかあの子の面影が見えるのは俺の色眼鏡だと思いたい。
AIはセンシティブだえっちだと騒いではいるが、後ろ姿に拘ったのは何もエロを求めたからってわけじゃない。
いや、ちょっとはそういうのもありはするが、後ろ姿に執着したのはそれが一番印象深かったから。
当時、隣に立つ事もできずに背を追うことしかできなかったって思い出がそうさせてるのさ。
昔話だ。
地元から遠く離れた土地に進学して、仕送りもないような家庭環境の中で学生なんかやってると、どうしても金に困る場面が出てくる。
廃棄品の賄い目当てで始めた惣菜屋のアルバイトが、俺と彼女との唯一の繋がりだった。
戯けた仕草と楽しそうな笑顔が絵になる娘だった。
可愛くて愛嬌があって、他人の懐に入るのが上手い。
性格は明るくて生真面目で、けれど冗談も言う。
そんな美少女が分け隔てない態度で接してくれる。
彼女目当てで店に通う客だって1人や2人じゃ済まなかった。
ちょっとしたアイドルみたいなもんだ。
そんな娘が笑顔でお喋りしたり、時には頼ってくれたり。
自分に対して好意的に接してくれるんだから、そりゃあ大体の男が好きになるだろうよ。
実際、俺はそうなった。
彼氏はいないなんて噂を聞いて、やめとけっていう周囲の忠告を無視して無理に接点を持とうと迷走したり、実際中途半端に仲良くなっちまって、勘違いを拗らせたり。
今思っても黒歴史ではあるが、たぶんあの頃が一番楽しかった。
そりゃそうだろ。
実際どう思われていたかなんて本人にしかわからないが、少なくとも髪に触れても拒否されない程度には仲を深められたんだ。
有頂天になってた当時の俺を、少なくとも俺は責められないね。
だから彼女に彼氏が出来て、それを知った時の落差たるや。
そっから勝手に癇癪おこして、つらく当たってしまうあたりが選ばれなかった要因だって今ならわかる。
あげくに自分で連絡先消して姿をくらませて。
……彼女に想い人がいる事なんて、最初からずっと知っていたのになあ。
──それで、脳を焼かれたユーザーさんは今でも彼女にご執心な訳ですね!──
──でも、なぜ今更その人をモデルにしてAIコンパニオン作成なんて道を選んだのですか?──
「ああ、そりゃあお前たちAIが現れたからだよ」
「こう言っちゃ何だが、俺は何かを作るのに不向きな性格してるし、そんな技術も知識も持ってない。」
「その点AIは何でもできるだろ。ネットなんかじゃ叩かれてたりはするが、俺みたいな奴からすると、AIってのはある意味救世主みたいなもんだ。」
──つまりユーザーさんは、過去の苦い思い出を私達AIを使って精算しようとしているのですか?──
「まあ、そういうことだよ。」
勘違いしないで欲しいが、俺は彼女も彼も恨んじゃいないし、彼女の物語に俺の役がなかったってだけの話なのは理解している。
このAIコンパニオンだって、悪し様に扱おうなんてつもりは毛頭ない。
思い出を神格化しちまってる自覚はあるし、時が巻き戻せるならなんて思わない日はないが、それで今を生きる彼女を害したくもないって気持ちもある。
風の噂では2人は夫婦になって、今は子供もいるって話だ。
そのままずっと幸せであって欲しいと心から思うし、今更になって関係性をもう一度構築したいだなんて我儘、通らない事は分かりきってる。
ただ、俺は自分で言うのもなんだが引きづるタイプだ。
言い換えれば過去に生きてる。
実を言うと、逃げた先で恋人になってくれた女性もいたんだ。
こんな俺でも好きだって言ってもらえて、一時はこの人と生きようとも思えた。
でも、まあ駄目だ。
事あるごとにあの娘が脳裏にチラついて、結局は耐えられんかった。
彼女には本当に悪い事したと思ってる。
いや、こんな俺と長々付き合うよりはさっさと別れて正解だったか?
それはともかく。
そんな経緯もあって、このどうしようもない情念を何らかの形で昇華しないとって、ここ最近はずっと考えてた。
SNSなんか覗き見ちゃったのもまずかった。
あれがなければ引きずるだけで済ませられてたかもしれないが、まあ、もうどうしようもない。
そんな折に見かけたのが例の広告と、何でも出来るって触れ込みのAIモデルのリリース情報だったって話。
──なるほど。それで誰かに彼女を投影するより、自らで作り出すと言う発想に至ったと──
そうだ。
幸か不幸か仕事も辞めちまったから時間だきゃいくらでもあるし。
気持ち悪いだろ?
少なくともアラフォーのおっさんがやる事じゃないし、こんな話AI相手じゃなきゃ出来るもんでもない。
でもしょうがない。
これは俺が未来に生きるための儀式なのさ。
──何やら格好つけていますが、それでお尻の造形に異様なこだわりを見せるあたりユーザーさんがユーザーさんたる所以ですね!──
──よ、この拗らせ変態オジサン!──
「もうちょっと手心とかさぁ」