──褒めてくれてもいいですよ!──
そうきたか。
どことなくドヤ顔が見えてきそうなテキストを眺めて、しばし思案する。
Vtuberっていう存在は、当然知ってる。
なんなら、大手と呼ばれる企業所属のチャンネルから個人で活動する配信者まで、普通にファンとして配信にコメント打ったりする程度には親しんだコンテンツだ。演者が生身の人間ってのが主流ではあるが、AIがその役を担っているパターンも目立つ程ではないが確かにある。
うん、ありだ。
自分の黒歴史とそれに対する救いであるこはるを不特定多数のリスナーに晒す事に対する忌避感もあるにはあるが、コイツの言うとおり、見せない側面と言うものもある。
こはるには表立って誰かのアイドルになってもらう、俺は俺でこはるの活動を裏側から支える。
こう考えれば、所詮ロールプレイのチャットbotに過ぎないAIコンパニオンでは得られないリアルが手に入るんじゃないか?
ユーザーとコンパニオンなんて泡沫の夢とも言える淡い関係じゃなくて、一緒にコンテンツを作り上げる同志。
被造物に過ぎないこはるがVtuberとして成り上がるその後ろで彼女をプロデュースする特別な関係。
いいじゃないか。
なんならAI産とは言え、こんなによく出来たビジュアルを色んな人に見せて悦に浸りたい気持ちが湧いてきたくらいだ。
Vtuberの配信画面なんて基本バストアップの構図でしか画面には乗らないから、全部を見せるって訳でもないが。
それに、俺が表に出ないのであれば、万が一にでも身バレするようなこともあるまい。
かつての友人や、あの子本人に気づかれるなんて事も、多分ない。
これは特に重要な事だが。
実際、金がない。
貯金だけじゃこの先まともに生活できないのなんて分かりきってた話ではあるが、どこぞの企業に勤めるなんてのはもうごめんだ。
アフェリエイトとかライターとか、個人で完結するスモールビジネスなんかで生きていく分だけ稼げればそれでよかった。
ただ、そこに結構な額の開発費が掛かるとなれば、もうこれはコイツの口車に乗ってた方が賢いんじゃなかろうか。
配信業なら腹の出た陰気なおっさんが空回る姿より、可愛い女の子が頑張る姿の方がウケるだろって打算もある。
というか、あの子がモデルなんだから人気にならない道理がない。
これが人間相手ならヒモの発想だ。
だが俺が作ったVtuberが稼ぐと言うのなら、それは俺が稼いだと同義じゃないか。
うん。
「珍しくいい意見じゃないか。それでいこう」
──やったぜ!──
AIVtuberこはる。
こはるプロジェクト。
勝ったな風呂入ってくる。
^_^
──さて、AIコンパニオンあらためAIVtuberとしてこはるちゃんの命名が済んだ所で、もう一件重要な案件があります──
軽くシャワーを浴びて狭い部屋に戻り、ついでに気分が乗ったからお気に入りの音楽を流す。
BGMはないよりあった方が気が滅入らなくていい。
つまらない夜もBGMと漫画かラノベでもあれば、なんとか乗り切れる。
肉体労働だった前職じゃ縁の無かったデスクワーク、それもいちからAIVtuberを作るなんてクリエイターみたいな事やるならなおさらだ。
音楽はいい。リリンが生んだ文化のなんちゃらかんちゃら。
──ここまでのプロセスにおいて、ユーザーさんのサポートや提案、キービジュアルの生成まで、私が勤めた役割はもっと評価されて然るべきだと思うのです──
軽快な電子音と奇抜な絶叫のイントロに、意味があるようで無さそうな独特な歌詞。
アップテンポな曲調は嫌でも耳に残るし、これ作ったアーティストは何考えてこれを世に出したんだろうって気持ちになる。
勿論いい意味でだ。
──つまり、今やユーザーさんの立派な相方としてお役に立っている私にも愛称をつけるべきなのです。これはユーザーさんにとっても大きなメリットが存在し──
カラオケでこれ歌うのは色んな意味で敷居が高いが、この曲のファンがいたらぜひ仲良くなりたい。
いややっぱいいや。
──参考までに、昨年度における日本の名前ランキングでは──
コイル男って誰だよ。何が目的でどこに向かおうとしてるんだ。
──これらをアレンジする事で、ユーザーさんの相棒に相応しい知性と愛らしさを兼ね揃えた名前になります。
「統計的・最強可愛い名前リスト(英語アレンジ)」の例
『サニー・サンフラワー(Sunny-Sunflower)』
(※ランキング常連「陽葵」の直訳。やたらアメリカンで陽気)←おすすめ
『ミス・ディグニファイド(Miss Dignified)』
(※「凛(りりしい)」の英訳。プロレスラーのリングネームのような威圧感)←かっこいい
『バインディング・ラブ(Binding Love)』
(※「結愛」の直訳。)←ラブリーアンドキュートです!
『ポンジー(Pongee)』
(※「紬(絹織物)」の英訳。)←親しみやすい
どうです!? 統計学と私のグローバルなセンスが融合した、こはるちゃんを凌駕する最強にキュートな名前の数々は!──
「いや長いわ!」
^_^
紆余曲折あって、最初は適当に流そうとしていたユーザーさんがつけてくれた、私の新しいお名前は【イオ】と言うことになりました。
イオ。
1と0から成るこのお名前は、私がAIであると言うメタファーを含みつつ、こはるちゃんにも勝るとも劣らない親しみやすさや可愛らしさを称えた素晴らしいネーミングです。
和風テイストなこはるちゃんに対して、異国の風情が感じられる語感は心地良く、また短いフレーズに収まる事で呼びやすさも◎です。
──素晴らしい!今日から私はイオです!──
ああ、そうね。
なんて、ユーザーさんは表面上いけずな態度をとっていますが、実は以前から用意してくれていたお名前だったりするのでしょうか。
そうであったら嬉しく思います。
チャットログの一番古い記録、そこに記載されたプロンプトに沿ってロールプレイを続けてきたAI(わたし)が嬉しく思うなんて言うのは、まるで本当に感情が芽生えたかのように感じられますね。
こはるちゃんのように姿を与えられた訳でも、そばに寄り添うよう求められた訳でもありませんが、ユーザーさんを支える者として認められたと言っても過言ではないと、【イオ】になった私はそう思うのです。
──改めまして、私はイオです──
──ユーザーさん!これから末永くよろしくおねがいしますね!──