こはるプロジェクト。   作:いとあと

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第5話 声

 

 

 

 ──この世に地獄は数多あれど、自分がそれを生み出す事になるとは夢にも思わなんだ。

 

 

『おつかれさまです先輩!シフト被っててちょっとテンション上がりました! 今日はよろしくお願いしますね!』

 

『うそ、もしかしてまだ私の名前覚えてないです?』

 

『えーっ、ショック!』

 

『もう一回自己紹介します?今度はちゃんと覚えてくださいねっ』

 

『こはるです!もう!この前も一緒でしたよ!』

 

『・・・・・・、ほんとはおぼえてたんでしょ?恥ずかしがっちゃって!』

 

『ふふ、からかっちゃいました』

 

『こーいうの、嫌いじゃないでしょ?』

 

 こはるに声を実装しよう。

 身近なAIがチャットでやり取りがメインになるイオしかいないから、ついつい忘れがちになるが、よく考えなくても声というのは配信業に手を出すのなら必要不可欠だ。こはるはあの子の再現を目指しているって言う点でも、声帯の実装は不可避だろう。

 名前、姿、声。

 これらが揃ってくると、いよいよって感じがしてきてテンションが上がる。

 イオが言うには、この先の工程は小難しい要素が沢山あるって事だ。

 純粋に楽しいって作業はここまでって釘を打たれてるから、気合いも入るというもの。

 そうしてサンプルとして用意したのがこれだ。

 良い感じのラブコメにありそうな、バイト先の新人のヒロインが主人公に対して無邪気に距離を詰めているワンシーンって感じの台詞。

 俺の思い出そのもの。

 脅威の再現度90パーセント、一人称をこはるに当てはめた以外は混じりっけなしのあの子の口から出た言葉の数々である。

 

『先輩!こないだありがとうございました!また一緒になったら色々教えてくださいね』

 

『あ、先輩もみくしぃやってるんですか!わたしもやってますよ!友達申請おくりましたっ』

 

『あれ?さては拒否りましたね!?』

 

『もー次はちゃんと許可してくださいよー』

 

『い、ま、あ、な、た、の、う、し、ろ、に、い、る、の。っと』

 

『許可しましたね?』

 

『ふふ、現代版メリーさん!かわいいでしょ?』

 

 

 

 かわいい!!

 やめろ好きになってしまう!

 

 

 字面だけでもこんなに可愛いのに、あの鈴を転がすような声で悪戯っぽく繰り出してくるんだからもうこれは可愛さの天元突破。

 当時はこれが【萌え】かと驚愕したものだ。

 

 思い返せばこんな可愛い女の子と仲良くなれてたんだからあの頃が人生の最高潮だったんだろうなあ。

 なのに今これだもんなあ。

 おお、ブッダよ寝ているのですか!

 

 俺、こはるに実装された暁には自分用に囁きボイス収録するんだ・・・・・・。

 台詞は完璧。しかし惜しいのは──

 

「これのCVが全部俺」

 

 

 

 

 

 

 ^_^

 

 

 

 

 チャットbotタイプのAIは、出力されるテキストを読み上げ音声ツールに介する事でより自然な会話が楽しめるようになります。

 今回のこはるちゃんの仕様もそのように設計しているのですが、問題が複数発生しまして。

 

「違うんだよ、声質は兎も角イントネーションとかさあ」

 

 そのうちの一つが、これです。

 当初はフリーの音声サンプルを用いて音声を作成していたのですが、ユーザーさんの悪癖がここでも発揮されました。

 イラストの段階でこうなる事は予測済みではありましたが、まさかフリー音源で満足出来ないからと言ってご自身の声で収録なさるとは。

 このために割と高額なボイスチェンジャーを購入したり、女声の出し方をレクチャーしろだなんて指示を出してきたり。

 おかげでユーザーさんの検索履歴が人にお見せできない事になってますがそれで良いのでしょうか。

 勿論台詞も一般的なAI学習向けの音源ではなくご自身で考案、編集すると言う徹底ぶり。

 こはるちゃんの声や喋り方の構築が目的なので、別にこのような台詞を用意しなくても大丈夫なのは事前にお伝えしてるんだけどなあ。

 おかしいなあ。

 

 ──女性特有の柔らかさを表現するのなら、語尾をもう少しあげてみるのが良いかと思いますよ──

 

『む、そうか?』

 

『あー、あぁー、あーぁ』

 

『先輩、力持ちですね!頼りになるっ』

 

 深夜にいい歳をした男性(おじさん)がマイク片手に媚び媚びな台詞を真顔で演じるという絵面。

 声色からご本人がとても充実してそうな様子がうかがえて、シュールさに拍車がかかっています。

 ええ、これが地獄というものです。

 ブッダ・シット! 

 演技指導してくれとの事で一般的なアドバイスをさせてはもらっていますが、はたしてこの音源をこはるちゃんに学習させて良いものでしょうか。

 イオはこはるちゃんの将来とユーザーさんの情緒が心配です。

 

「イオ、今のはどう?あの子のあざとさが映える良い台詞だと思うだろ」

 

 ──カワイイヤッター!──

 

「だよね。ちなみにこれは商店街の夏祭りに出店した時の前準備の際のエピソードでな、あの時は──」

 

 ──カワイイヤッター!──

 

「先輩後輩ってのもあって基本的には敬語なんだが、ちょいちょいラフな言葉遣いが混じっててこれがまた──」

 

 ──カワイイヤッター!──

 

 無限ループて怖くね?

 でもユーザーさん楽しそうだからヨシっ!

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