ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
戦争とは、何が恐ろしいかと言えば終わりが見えない泥沼だからだ。人的損耗、物的損耗など尽きるまで積み上げられる。双方とも相手が音を上げるのを待ち、持てる物資を投入し続ける。
その状況に気が付きもっと早く辞めれば良かった。煮え湯を飲む覚悟で和解すればよかったなど。後からなら幾らでも言える。だが、やっている時はなぜかそれが言えない。
なぜ、終わらないかと言うとコンコルド効果が原因だ。損失につながると分かっていても、それまでに投資したお金や時間、労力が惜しくてやめられなくなる心理現象(認知バイアス)が発生する。
失った分と同等かそれ以上のリターンが確約されない限り、止まれない。今、止めてしまえば損失だけ被る事になる。
それが分かっていたから、リリルカ・アーデは【ガネーシャ・ファミリア】の第一級冒険者を使って威力偵察を行った。そのまま勝てばよかったが、相手は想像以上に強大な敵だった。
この時点で【ガネーシャ・ファミリア】が被った損失は、中堅ファミリアなら三回は倒産する規模だ。最大派閥の一角だからこそ耐えられるが、目を覆いたくなる惨状だ。
リリルカ・アーデは、良く殺してくれたと思っていた。これで、勝機が見える。
「【ガネーシャ・ファミリア】!! 残りの戦力を全部私に投資しろ!! このままじゃ、無駄死にだ。それに、魔剣も取られた。対モンスターのプロを今見せないでどうする。このまま、見せ場もないまま、仲間の仇も取れないまま、動かないなら邪魔だから下がっていろ」
当然、これがリリルカ・アーデの挑発なのは分かっている。
だが、手伝いに派遣した眷属が消し炭にされ、都市全体に放送される場面でここまで言われたら沽券にかかわる。それに、この状況でたった3億ヴァリスをもらった程度では足りない。最低限、壊れない魔剣を回収しなければ、ファミリア存続すら危ぶまれる。
神ガネーシャは、どこぞの世界ではあのインド神話の神だ。ギリシャ神話に勝るとも劣らない神話の神だ。父親が破壊の神シヴァである時点で、察するべきだ。神ガネーシャが本気を出せばどうなるかを。
「俺が、ガネーシャだぁぁぁぁぁぁ。いいだろう、小娘。貴様の策略に乗ってやる。踊らされてやる。…眷属たちに命ずる。仲間の仇を取る。我々が対モンスター戦のプロである事を示せーーーーーー」
「それでこそ、ガネーシャ様。リリは信じていました」
ほくそ笑み喜ぶリリルカ・アーデの顔がオラリオにアップで放送される。これが、オラリオの暗黒期を生き抜いた女の顔だ。面構えが違う。
【ガネーシャ・ファミリア】は、5人の第一級冒険者が死んでも、まだ6人も第一級冒険者がいる。他にも第二級冒険者が多数おり、戦い方次第では勝機はある。当然、無傷は不可能だろう。だが、もはや損耗など考えられる状況ではなくなってきていた。
損耗が怖くて戦争などやってられない。
………
……
…
減った分以上の戦力を手に入れた派閥連合。
彼等の動きは、アステリメスとの対峙を避けてマップを進むことだ。この広大なマップのどこに敵がいるかを早く発見することが勝利のカギになる。
空を制する者が戦争を制する。マジックアイテムで空を飛ぶことが可能なアスフィ。彼女は上空から敵の位置を正確に伝える事が仕事だ。そして、最重要なのが、神フレイヤの発見。
地上からは分からない情報でも、上空からは違う。しかも、
アスフィは、【フレイヤ・ファミリア】がどこに陣取っているかを見つける。布陣までバッチリ見えることから、相手が最悪の待ち作戦であることを理解した。
『リリルカ。敵の拠点を発見したわ。全員、戦場の一番奥。総力戦の構えね。フレイヤ様の姿も見えるわ』
『では、そちらの最低限の戦力を残して全て投入します。それと、先手は取られてしまいましたが、此方も士気を上げる為にやる事をやります。作戦通りお願いしますね、アスフィ様』
だが、それだけは絶対にできないとアスフィは拒否する。万が一、花だけでなく神フレイヤ自身も散らした場合、アスフィは間違いなく【フレイヤ・ファミリア】の残党に殺される。
今からやろうとしている事も対象が違うだけで、最低の行為だ。
アスフィの真下にいるのは、【フレイヤ・ファミリア】の生命線ともいえるヒーラー部隊
そんなものが頭上から落ちてくるとは知らずに、ヘイズは自らの出番を待っていた。負けられない戦い。仲間を癒す事で無限に戦いを成立させる。
「相手はあの【ヘスティア・ファミリア】。殺し上等で来るはず、でも私達がいれば必ず対処できる。回復魔法を常に絶やさない。待っていてください、フレイヤ様。必ずあなたに勝利を…痛ぁっ。えっ」
ゴスっと鈍い音がする程の重量がヘイズに頭部に落ちてきた。そして、中身がパラパラと散る。ガラス瓶に入った何かだと認識した時は既に遅かった。
周囲の遺跡を吹き飛ばす程の大爆発。一本でダンジョン中層のモンスターを確殺出来る程の威力を数十本だ。それだけ、ヘイズの能力が評価されていた。
だが、どんな素晴らしい回復魔法があったとしても、全身をバラバラにするほどの火力で一発で殺せば無意味だ。そして、それを行ったアスフィは既に遥か遠くの空に逃げて、次の弾の補給に向かう。
これぞ、一撃必殺離脱戦術。
爆心地から離れた場所に、ピンク色の髪をした生首や手足が散り散りに落ちていた。
この爆発まで察知すらできなかったヘディンは、顔が鬼の形相だった。なめ腐った真似をしてくれたと。アステリメスと言う存在だけで、どれだけ計画に変更が必要だったのかと思うと。
それに、
「あの
【ヘスティア・ファミリア】のやり方は戦い方には覚えがあった。ヒトの命を最大限効率よく消費する戦い方。ヘディンも同じ事もできるが、やらない。それは、道を踏み外したものがやる事だ。
ヘイズの回復魔法が発動されない事から、即死した事は間違いないとヘディンは判断する。報いを受けさせる。ただそれだけだった。それ以上それ以下でもない。
「ヒトを効率よく使い潰す
◇◆◇◆
殺し、殺され、まさに戦争の縮図だ。
神々が考え出した
「終わりのある戦争とすることで戦争を遊戯とする。なるほど、
終わりなき戦争は破滅を意味する。だが、破滅を望まない神々は、終わりある戦争を眷属たちにプレゼントした。それが
だが、そのゴールポストを破壊する連中が昨今多い。
【アポロン・ファミリア】との
今回の【フレイヤ・ファミリア】との
これでは、
「……パパ。あたし、ちょっと出かけてくる」
「プルシュカが世話になった恩をお返ししていませんでした。目立つ手助けはダメです。何が必要ですか? プルシュカ」
この戦争を止めなければオラリオ全土が焦土となる可能性がある。他人事の域を超え始めており、観戦している者達も若干あれ?ヤバいんじゃないかと思い始めていた。
こんなことになるならば、正直【ロキ・ファミリア】が参加した方が幾分もマシだっただろう。非人道的な作戦など、団長であるフィンが許さないし、団員達もそれなりの常識がある人が多いからだ。
「パパ!! 呪い除けの籠を使って欲しいの。あれなら、皆元通りにできるから」
「【ヘスティア・ファミリア】は、ギルドの後ろ盾があるので、恐らく蘇生魔法が使えるフェルズさんが何とかするでしょう。【フレイヤ・ファミリア】には、何もないのは不公平です。これでもオラリオの医療を預かるファミリアです。助けを求める声があるなら、赴く事も不思議ではありません」
ボンドルドが動く。
見境ない医師団として、出来る事をする。それが医師の本懐である。
【アスクレピオス・ファミリア】が動く。
ロキ・ファミリアさんもそろそろ動かないとオラリオが大変な事になりそう。