ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
子供を持つ親として、頑張る姿を応援するのは当然だ。
学区の到来に向けたプルシュカ達の計画は、想像を絶する重労働となる。これは【アスクレピオス・ファミリア】全体の協力が不可欠なため、大人たちがしっかりと計画を策定した。いつものごとく事後報告で始められたが、神アスクレピオスは慣れた対応だった。
いつもの事、いつもの事と。
プルシュカ達は、一流の冒険者から聞いた商品の準備担当だ。そして、
ボンドルド達に雇われている
「まずは、リヴァリアさんの要望ね。ダンジョンで最高の寝具か~。やっぱり、羽毛布団よね。フィアさんをちょっと呼んでくるわ。
こうして、第一の商品……
「じゃあ、私の方は、お酒を沢山作るね。お酒は二十歳になってからって、お父さんが言っていたけど、作る分にはいいって」
こうして、第二の商品…お酒の量産が開始される。冒険者というのは、アルコールが好きな人が多いため、ニーナなりの配慮が加わった。そして、新商品の名は…ストロング・ソーマ・ゼロ。アルコール度数9%を誇り、気が付けば立ち上がることすら困難になる。意識がゼロになることから、まさに酒飲みのための酒だ。
『プルシュカ、ニーナ。本当に、これでおしり拭いて大丈夫なの?ウィーネでもちょっとひりひりするよ』
この商品開発のために呼び出されたウィーネ。高レベル冒険者のための頑固な尻汚れも一発で消し去るダイヤモンドサンドペーパー。洗って使える冒険者の必需品だ。これで、もう草木がない階層でも綺麗さっぱりできる。その性能を確認するため、防御力特化のウィーネが販売前にテストを行う。そのあとに洗浄して、袋詰め。ウィーネの印のおしり拭きができあがった。
『なんで私まで。ウィーネ、私は太陽の下で過ごせると聞いてきたのですよ。それなのに、こんなものを作らされるなんて……。まぁ、美味しいものと綺麗な服などを用意してくれるのならば止む無しです』
地上で太陽を見ようとウィーネに釣られてやってきたラーニェ。
子供達の商品づくりが順調であるならば、大人たちもその実力を見る時だった。
全員が同じ気持ちだった。そもそも、ダンジョンに通う不便さ。これを解消したい。ボンドルドが皆の気持ちを代弁する。
「やはり、そろそろ開通させるべきでしょう。ギルドの気分次第で入場禁止にされるダンジョン。それは、我々が望む物ではありません。なにより、子供達がファミリアのために頑張る姿。応援するのは大人の務めです」
無人販売所への定期的な商品補充や集金箱の回収のためにも、ダンジョンへの裏口を早急に開通させる必要があった。
まず、その為に、【アスクレピオス・ファミリア】の地下にある”不屈の花園”と人工迷宮クノッソスを直接繋ぐ事から始まる。ダンジョンに繋がる人工迷宮があるのだから、これを活用しないのはナンセンスだった。
しかも、人工迷宮には大量の希少金属が使われており、地下深くにトンネルを掘るには丁度よい材料が既にある。
地中において正確に目標を目指して掘り抜くのは難しい。だが、誰もそんなことは気にしていない。なぜなら…。
ボンドルドが遺物”星の羅針盤”を用いて最短距離で人工迷宮クノッソスへの道を示す。
ショウ・タッカーが錬金術で補強しながら掘り抜く。
涅マユリが酸素や明かりを生み出す魔道具を適切な間隔で設置する。
フェイスレスが、地盤や厚み、水脈を読み取る施工管理を担当する。
こうすることで、難なく人工迷宮クノッソスまでくり抜いた。元々、地表まで伸びていた人工迷宮だ。同じオラリオ内にあるのなら、時間などかからない。
だが、人工迷宮クノッソスに入れる鍵は地上に複数出回っている。いつ誰と出くわすか分からない。事実、ギルドもここで色々と何かをやろうと画策していることが分かっていた。
だからこそギルドは、こんな便利な通路をまだ一般開放していない。
完全に内部構造が把握されていないのならば、組み替える事で【アスクレピオス・ファミリア】の専用通路を作ることだってできる。
「本当に申し訳ありません。錬金術の汎用性は素晴らしい。人が年単位でかかる仕事も一瞬で完成させるのですから。これで安全に誰にも知られずに18階層まで進めます」
「適材適所です。汎用性はありますが、ボンドルドさんみたいに特化ではありませんよ。身体能力などが良い例ですってば」
院長達は、進み続けて人工迷宮クノッソスの18階層まで辿り着いた。問題は、ここからだった。次の
ダンジョンの外側は、地盤からの絶大な圧力を受ける。それに耐えうる素材を用いて直通路を施工するのが最も現実的だった。幸いなことに人工迷宮クノッソスには無駄に扉が多く、オリハルコンが多用されている。これを錬金術によって加工し、通路を支える資材として再利用することが検討された。
「道幅は縦横4メートルもあれば十分です。そもそもクノッソスは作りに無駄が多すぎます。私の方でオリハルコンの壁がある位置をまとめてきますので、タッカーさんは回収したオリハルコンで道を作ってください」
こうして、大人たちによる大突貫土木工事が開始された。
男とはいくつになっても土遊びが好きな生き物だ。完成予想図を脳内に描きながら作業に没頭する。途中で「休憩ポイントが必要ではないか」「お手洗いも設置しよう」「照明はランプにするか、魔石か、それともクリスタルか」とこだわり始め、収拾がつかなくなりかける。
秘密基地を作る時と同じだ。
大人たちの童心がくすぐられた結果、いつの間にか荷物運搬用という名目のウォータースライダーまで併設される。これによって下る分には非常に楽になったが、登りは階段を自力で登るしかない苦行仕様である。
人工迷宮など不要。裏口を作る程度なら、4人の院長の手にかかればギルドの豚が作るより遥かに迅速で強固なものが出来上がる。
丸一週間――大人たちがほぼ不眠不休で全力を尽くした結果、遂に28階層にある
深層店舗にまでは期間的には無理があったが、28階層からスタートできるのならば補充作業も随分と楽になる。いずれは深層まで裏口を伸ばす事になる。だが、半年はかかる計算だ。物資の面もそうだが、深層は下手に穴を開ければ大惨事を引き起こしかねない。
”不屈の花園”を経由して、人工迷宮クノッソスに不法侵入。それから、人工迷宮クノッソスに不法建築した専用通路を経由して18階層まで移動する。18階層からは、【アスクレピオス・ファミリア】の専用裏口を使って28階層へ。
このルートにより、わずか2時間程度で28階層まで到達可能となった。
学区が到着する頃には、28階層にて「下層一号店」の無人販売所がオープンを迎える手筈となっている。そしてその店舗には、学区の生徒宛てに『
店舗のラインナップは、保存食、替えの下着、生理用品、無駄に背中が開いた服、ストロング・ソーマ・ゼロ、簡易便所、医療キット、折りたたみベッドとハーピーの羽毛布団セット、尻汚れを消し飛ばすダイヤモンドサンドペーパー、無償貸し出しの第三級装備(要返却)、低級ポーションといった充実の内容だった。
そして、意見を聞いたからには無視できないので……女神フレイヤ像とその前で祈りをささげられる専用スペース。そこにはオラリオで発刊された情報誌も揃えられており、静かな空間で読書ができるようにもなっていた。
最後に、緊急連絡用の涅マユリ謹製の
1番が”豊穣の女主人”に繋がり、帰還後の宴会用の席予約ができるチャンネル。
2番がギルド直通の救援依頼チャンネル。
3番が【アスクレピオス・ファミリア】へのお客様窓口チャンネル。
4人の院長と子供たちの汗と労力、そして技術の無駄遣いの結晶がここに集結したのである。
◆◇◆◇
豊穣の女主人。
店員としてシルとリューが復帰し、アーニャも元気になりお店側として何も言う事は無いレベルだった。普段通りのシルとリューに戻った事にミアは感謝しているほどだ。よく、あの状態からここまで戻ったと。
だから、多少変な魔道具をお店に置くくらいは多めに見る事にした。
ダンジョンからお店の予約がされる世の中になるとは、時代は進んだと彼女は感じるばかりだ。だが、これは新しい商機だと考える。幸いにも店員たちはレベルが非常に高い。いっそう、ダンジョンに出前もできるんじゃないかと考え始めた。
お店の味をダンジョンで……ひょっとしなくてもこれはいけるんじゃないかと。
「ちょっと、こっちに来なポンコツエルフ」
「はい、ミア母さん」
両肩をがっちりと捕まれるリュー。なんだか嫌な予感がしていた。
「出前と二号店を出すのどっちか選びな」
「え?」
ミアの思惑を察したシルがすかさず邪魔に入る。こういう抜け目のない事があるから、困るんですと言いたげだった。
「駄目ですよ、ミア母さん。リューは、私のなんですからね。そういうことは、許可をとって貰わないと。居候の人権は、私にあります」
「何言ってんだ。ここじゃ、あたしがルールだよ。私の物は私の物、アンタの物は私の物なんだよ。わかったら、さっさと、料理を運んできなトラブルばっかり起こす娘どもが」
確かに、まだ人は少ない。だが、それはそこに何もないからだ。この無人販売所ができればそれは変わるとミアは考えていた。先行投資として、二号店を作るのも悪くないと考え始めていた。
もうすぐ来る学区の子供達は優秀だ。28階層に到達するのもそう遠くはないだろう。
ダンジョンでミア母さんの料理が食べたいといった本人……その発言を後悔する日はそう遠くないだろう。
学区編、がんばるぞい。
ベル君が学区に入学と。なんで原作でもそうなったんだ。