ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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63:遠征

 全て、ギルド長ロイマンが描いたシナリオ通りに進んでいた。白兎(ベル・クラネル)を災禍の顕主として正しく認識し評価している。ギルドに多大なダメージを与える存在ではあるが、使い方次第ではある程度コントロールすることもできる。

 

 学区の生徒としてダンジョンでの実習に参加することを事前に知っていた。白兎(ベル・クラネル)がダンジョンに潜って何事もなかったことの方が少ない。それこそ、こういうイベントごとにおいて問題が発生しなかったことは皆無だ。

 

 ロイマンの予想通り、学区の生徒が幾人も死んだ。だが、事前に予見していたロイマンは、すぐに実働部隊を動かして学生の救出および遺体回収を行う。これにより、学区側への印象を改善させる。

 

 そして、学区側に交渉を持ち掛ける。

 

 昨今のイザコザでギルドと学区の立場は対等だった。だが、生徒の命を天秤に持ち出された時点でギルド側が優勢となる。しかも、ダンジョンで発生した偶発的な出来事であり、ギルド側には一切の非はない。

 

 むしろ、他の冒険者にも被害が出たのだから、あの白兎(ベル・クラネル)をダンジョンに学生と一緒に引き入れたことに対して責任追及すらしたいとギルドは思っていた。だが、ギルド側もそこまで鬼ではなかった。その点については譲歩していた。

 

「生徒の蘇生と引き換えに、学区が貯蔵するオリハルコンをギルドに譲渡。並びに、学区の生徒達をギルド主導の立坑(シャフト)計画への動員。勿論、給金は支払います。どうですか、バルドル様」

 

「【フレイヤ・ファミリア】にも蘇生魔法持ちがいると聞いています。無理な要求を通そうとするならば、そちらを頼るまでです。勿論、ギルド側の迅速な行動のおかげで被害も最小限だったのは認めましょう。まるで、予見していたかのような行動でした」

 

 予見ではない。経験と実績からの統計的な判断だ。ギルド長ロイマンは、世間では『ギルドの豚』などと言われているが、いまだに権力の座に居座っている。それが有能の証拠だ。だが、その椅子も危ぶまれていた。

 

 だからこそ、誰にも覆せない実績が今必要となっていた。

 

 それが、ダンジョンに縦穴を掘り下層、深層へ直接行けるエレベーターを作る事だ。実現すれば、間違いなく革命的な偉業である。三大ミッションが進展する可能性もある。死ぬまで、ギルド長の座は変わることが無くなるほどに。

 

「戦争遊戯(ウォーゲーム)では、【フレイヤ・ファミリア】にはペナルティを課した。『魅了』事件の事もあり、お咎めなしとはできなかったからな。オラリオのファミリアでもない、学区の生徒に対して蘇生魔法を使うのはギルドの利益を損なう敵対行動だ」

 

「……学区が保有するオリハルコンの6割で」

 

 【フレイヤ・ファミリア】のオラリオでの立場もある。神フレイヤと同郷である女神イズンが学区にいる。彼女経由で頼み込めば、決して不可能ではない。それでは、【フレイヤ・ファミリア】がギルドによってペナルティを負うことになる。

 

 学区の実習結果であり、全く関係ないファミリアに迷惑をかけるのは好ましいことではなかった。

 

「蘇生魔法は、順番待ち……精神力(マインド)の関係から日に何度も使えないことや成功率の問題からも、いつになるでしょうかね。ですが、ねじ込める。蘇生魔法を使えるフェルズは、ウラノス様の懐刀。ギルドとは切っても切れない縁です」

 

「6割。蘇生魔法の優先権をもらえれば、有事の際に『ナイト・オブ・ナイト』のレオンを一時的にギルドの指揮下に貸し出します」

 

 生徒のためであれば、『ナイト・オブ・ナイト』も納得するだろう。

 

 これが神バルドルがギリギリ許容できるラインだった。フリングホルニはどのみち整備中で、動けない。だからこそ、ギルドが強気に出てきたのは分かっていた。これ以上の要求ならば、神バルドルは多少の損失は覚悟で神フレイヤに取引を持ちかけただろう。

 

「取引成立ですな。今後も良い関係でいたいものです」

 

「えぇ、此方もそう思います。ロイマンさん」

 

 ギルドは、この度の不幸な学生を救うため、戦争遊戯(ウォーゲーム)で蘇生待ちとなっているファミリアに横入りするが文句を言うなと、頬をヴァリスで殴る。それなりの出費だが、手に入るオリハルコンを考えればゴミみたいな金額だ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 【ロキ・ファミリア】は、遠征準備を進めていた。以前に討伐し損ねた”穢れた精霊”との因縁を解消しようというものだ。だが、過去の戦いから、確実性を増すためには【ロキ・ファミリア】だけでは戦力が足りないと判断される。

 

 一流の鍛冶師の存在だ。不壊属性の武器は当然として、他にも道中の武器の破損などを修理・補充できる必要がある。

 

 そして、ヒーラーの存在だ。ロキ・ファミリアにもヒーラーは存在する。だが、それでは不十分だった。

 

「武器は、【ヘファイストス・ファミリア】の所やな。椿は、いち早く蘇生されたらしいからいけるやろう。ヒーラーにアミッドかいな……あそこは、足元見られるで」

 

「でも、今回の遠征には絶対に必要さ。僕が直接頼みに行く」

 

 フィンは、今回の遠征には本気だった。

 

 何時も本気だが、今回は他ファミリアを巻き込んでも達成したという意気込みがある。ギルドからの情報や物資支援もあり、かつてない規模での遠征が可能だ。

 

 実質、これで遠征が成功しなければ、誰も60階層より下には行けないだろうというのが彼の本音だ。それほどまでに”穢れた精霊”は強い。

 

「都市最高の鍛冶師、都市最高のヒーラー・・・贅沢な構成やな。他に欲しいのは誰や?特別にウチも交渉につきおうたるで。今回の遠征は、何が何でも成功させたいからな」

 

「本当かい、ロキ。じゃあ、都市最高のテイマー(メルーナ)、都市最強の冒険者(オッタル)、都市最高の蘇生魔法(ヘイズ)、都市最大の精神力(ヘディン)を頼んだ。無理なら【アストレア・ファミリア】のオラリオ支部メンバー全員でも構わない」

 

 全員、【フレイヤ・ファミリア】だ。ロキが頭を下げた所で絶対に貸し出してもらえないであろうメンバーたち。完全にドリームチームを用意しろと言われたが、神にも無理な事はあった。

 

「……全員は無理でも一部ならいけるな、それ。『リヴァリアママ』なら多分いけるで」

 

 会議の場にいたリヴァリアに注目が集まる。確かに、できそうな話だった。エルフの王族信仰を逆手に取ればいい。【ロキ・ファミリア】への助力ではなく、エルフの王族であるリヴァリアの護衛という体裁で雇えばいい。

 

 こうして、【ロキ・ファミリア】の遠征部隊が集められる。ギルドは、戦争遊戯で仲裁役を買ってくれた【ロキ・ファミリア】に口出ししにくい立場であるため、彼らが他ファミリアから人員を調達しようが、ほぼ全リソースを投入して60階層を目指そうが何も言えない。

 

 【ロキ・ファミリア】のオールスターに加え、各ファミリアにいる高レベルのエルフ達を王族護衛として雇い入れ始めた。

 

こうして、【フレイヤ・ファミリア】からは、先日Lv.7(レベルセブン)に踏み込んだヘグニとLv.5(レベルファイブ)となり幹部となったメルーナに加え、幾名かのエルフの強靭な勇士(エインヘリヤル)が抜擢される。最低Lv.3(レベルスリー)であり、戦場では十分役に立つと判断された。

 

【アストレア・ファミリア】からは、リュー・リオン単身での参加となる。他のメンバーは、エルフの王族とかどうでもいいし、【ロキ・ファミリア】に恩義があるわけでもないので見送る。

 

【ヘファイストス・ファミリア】からは、都市最高の鍛冶師である椿・コルブランドが単身参加。事前の武器準備から現地での修理までなんでも請け負う戦える鍛冶師として非常に期待されていた。

 

【ディアンケヒト・ファミリア】からは、アミッド・テアサナーレが参戦。命を助けるためならば、尊厳など踏みにじる。尊厳破壊魔法の体現者にして、都市最高のヒーラーが参加する。命が助かればいいってもんじゃないと言われるほどの性能を誇る。死んでいなければ、大体治せる恐ろしいヒーラーだ。効率を求めるあまり、レベルアップしたことで回復力が向上した。その結果、対象者の新陳代謝を高めることから穴という穴から不要なものがあふれ出るようになる。糞尿もその一つだ。

 

………

……

…

 

 これほどまでの人材を集める事が出来たのは、【ロキ・ファミリア】だからこそだ。だが、ロキの躍進はまだ止まらない。ギルドのロイマンが、学区との密約でナイト・オブ・ナイトへの指揮権を手に入れていると耳にしていた。

 

「じゃあ、ロイマン。約束守ろうか。遠征中だけでいいんや」

 

「どこでそれを!! バルドル様かぁ………くっそ、くそ」

 

 オッタルと『都市最強』の戦力ではないが、『ナイト・オブ・ナイト』のレオンが使えるのなら十分すぎる。指揮系統にも組み込める抜群の戦力だ。独断専行もしないし、求められた仕事をこなしてくれる体現者だろう。

 

 眼晶(オクルス)、オリハルコン、エリクサーという物資に加え、人的資源である『ナイト・オブ・ナイト』まで【ロキ・ファミリア】は躊躇なく、ギルドから支援を受ける。

 

 レオンの竜の谷に白兎(ベル・クラネル)を連れて向かうという予定は、遠征が終わってからになるが大した問題ではない。

 

 

◆◇◆◇

 

 この超大規模の遠征の話は、ファミリアを跨ぐこともあり瞬く間にオラリオ中に広がった。そんな中、アリーゼがボンドルドの執務室の扉を力強く開けた。

 

 今後の計画に必要な物資やスケジュールなどを考えるボンドルドは、少し顔をあげただけだった。

 

「おやおや、はしたないですよ。年頃の女性が、そんな風に扉を開けるものではありません。今日は、どういったご用件で?」

 

「待っても来ないからこっちから来てやったわ!! どうして、戦争遊戯(ウォーゲーム)で死んだ後に蘇生してくれなかったのよ。ヘイズさんが蘇生してくれなかったら私達死んでたのよ」

 

 何を言い出すかと思えば、そんなことかとボンドルドは少しため息をついた。そもそも、前提が間違っているのだと。

 

「本来、命とは複数ありません。蘇生魔法と言うのは例外中の例外です。多用すべきではない物だと私は考えます。二度目の人生をあんな下らない自殺に使われたのですから、覚悟がおありだと思っていました」

 

「ぐっ……そ、それはそうだけど。でも、一度は助けたんだから最後まで面倒を見るのが筋でしょう。それなのに、待てど顔も見せに来ないんだから」

 

 

 アリーゼとしては、学区やダンジョンに行っていると噂程度は知っていた。だが、【アストレア・ファミリア】のオラリオ支部…という名の【フレイヤ・ファミリア】のホームにボンドルドが近寄ることは無かった。

 

「全く子供ですか。そういえば、どのようなご用件でしたか?まだ、お話を聞いておりませんでしたね」

 

「恩を返しに来たのよ!! アストレア様にも会えて、仲間と今過ごせているのは少なくともボンドルドのおかげよ。それなのに恩も返す前に、さようならなんて、許さないから」

 

 新手の恩返し方法に、時代は変わったとボンドルドは思うばかりだ。

 

「もう、深層での指導は十分です。貴方達の知見は全て、吸収させてもらいました。ですから、貴方達はもう自由です。好きに生きて構いません。我々は、我々の好きなように生きます」

 

「分かっていたけど、手強いわね。これでも結構引く手あまたなんだけど……わかったわ。【アスクレピオス・ファミリア】の活動を手伝ってあげるわ。リオンは頭が固いけど私達はそうじゃない。全員Lv.5(レベルファイブ)以上よ。足手纏いにはならないわ。悪事には加担しないからね」

 

「我々が悪事に手を染めているなど、心外です。それに皆さんというのは……」

 

 扉の先からひょっこり顔を出す元居候組の【アストレア・ファミリア】。正義感が強い潔癖淫乱ポンコツエルフだけがここに居ない。遠征参加組として、事前ミーティングに招待されていた。

 

 彼女たちの中では、既に正義は過去のものになったのだろうか。自身の本拠地に帰った神アストレアが今の彼女たちを見たらどう思うだろうか。多分、好きに生きなさいとか言うだろう。あの神は淑女の皮を被った武闘派だ。

 

 ボンドルドは、彼女たちにいくつかの質問をして真偽を確かめる。口が堅く死んでも割らないのなら、幾らかは使い道がある戦力だ。呼んでいないのにも来る高レベルの戦力と引き換え、勧誘しても来ない学区の生徒達。プルシュカがあれだけアピールしたのに、未だに派閥体験(インターン)に来る学生は誰もいない。

 

 お世話になっていた第七班の者達ですら、誰も来ない始末だ。

 

 アリーゼ達の仕事は、まずプルシュカのご機嫌取りからだった。派閥体験(インターン)の学生と一緒にやる予定だった深層店舗への商品補充に駆り出されるアリーゼ達であった。

 




ロキ・ファミリア・・・遠征を確実なものにする為、リソースを大量投入する。逐次戦力投入とかせず、壁を火力で破壊する模様。
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