ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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64:遠征2

 【ロキ・ファミリア】による遠征。お声が掛かった僅かなファミリアは、それだけで格上の証だった。探索系ファミリア第四位に位置する【ヘスティア・ファミリア】に声が掛からなかったのは、妥当な判断といえた。

 

 実績から考えて、白兎(ベル・クラネル)を連れていけば想定外の事態が発生する。現状だって想定外は発生するだろうが、それに拍車をかけるのが彼の幸運だ。本来なら、【ヘスティア・ファミリア】が「なんでうちに声を掛けないんだ」と言いそうだが……今は、派閥体験(インターン)で体験入団しているニイナ・チュールの対応に追われていた。

 

 ニイナ・チュール……学区にて第三小隊のリーダーを務める少女だ。そして、白兎(ベル・クラネル)が面倒を見ていた小隊でもある。勉学に勤しむ姿や親しみやすさに加え、命を救われる経験もしたことで、吊り橋効果も手伝って彼女はすっかり心を奪われてしまっていた。

 

 彼女の姉であるエイナ・チュールは、妹が【ヘスティア・ファミリア】に派閥体験(インターン)すると聞き、全力で止めた。それも本気の本気だ。妹の大事な命が掛かっているのだから、ここで止めなければ姉の名が廃る。

 

 恋は盲目。まさにその通りだ。

 

 だが、姉が意固地に説得すればするほど、ニイナ・チュールの決意は固くなっていく。姉として止められないならば、せめてギルド職員として可能な限り陰からサポートし、妹の命を繋ぐしかないと覚悟を決めるのだった。

 

 妹を助けるためなら、悪魔にだって魂を売るつもりだ。

 

………

……

…

 

 オラリオの街は、【ロキ・ファミリア】の出陣に伴い見送る者達で溢れていた。先日の戦争遊戯(ウォーゲーム)の派閥連合とは違い、深層攻略に向けて新たな記録に挑戦するための遠征。この素晴らしい日を祝うかのような蒼天が広がっていた。

 

 そんな日、【アスクレピオス・ファミリア】は神ロキから誘いの一つもなかったが、遠征に伴い無人販売所の商品補充と深層店舗への商品追加を行わねばならないという使命感に燃える子供たちがいた。

 

 確かに、無人店舗を設置して終わりでは意味がない。定期的に商品を補充し、ラインナップを更新しなければお客様に飽きられてしまう。さらには、深層への遠征に挑む【ロキ・ファミリア】の人達を助けたいという思いから計画されたものだった。

 

 四院長たちも賛成する。当然、副次的な目的も存在していた。【ロキ・ファミリア】の遠征のおこぼれに預かってくっついて行けば、容易には手に入らない深層の情報や攻略法がタダで手に入る。新しい発見もあるかもしれないし、何より“穢れた精霊”の末路をこの目で観測したいというのが一番の理由だった。

 

 大荷物を携えた【アスクレピオス・ファミリア】。無人店舗への補給物資を持ち、“不屈の花園”からダンジョン下層の迷宮の花園(アンダーガーデン)を目指す。初めてここに入場したアリーゼたちは、「これは全冒険者に隠しておいていい物なのか」と本気で悩んでいた。だが、ギルドの昨今の状況を知っているからこそ、公表すればどうなるかなど容易に想像がついた。

 

 つまり、彼女たちの正義は、ココには何もないと言う事で決着する。

 

「私達さ、リオンに『頑張ってきてね』って応援してきたばかりなんだよね」

 

「おやおや、仲間思いで素晴らしいじゃありませんか。大丈夫ですよ、すぐに再会できます。一度、別れた仲間と再会するのは貴方達の専売特許みたいなものでしょう。5年前に死亡した時や、戦争遊戯(ウォーゲーム)で死んだ時といい……あんまり死ぬ死ぬ詐欺をしていると、リュー・リオンさんに刺されますよ」

 

 ボンドルドたちは、“不屈の花園”から人工迷宮クノッソスに抜ける。そこから18階層まで下り、さらにそこからは新設した下層直通の裏道を下り続けた。その道中には、趣向が凝らされた石像や壁画が並んでいる。

 

 国内外の歴史や神話を元にしたものが多く、模造品だと分かっていても見事な出来栄えだった。

 

 そして、わずか2時間足らずで迷宮の花園(アンダーガーデン)まで到着する裏道。画期的というレベルを超えていた。

 

「では、アリーゼさん達は無人販売店への商品補充と清掃をお願いします。我々は掃除と雑誌の入れ替えをしてきますね。プルシュカ達は、これから来る団体さんに出来立ての食事の準備を。彼らの足なら、昼頃にはここを通るでしょう」

 

 ダンジョンの遠征で安全に休憩するなら、安全階層(セーフティポイント)が理想的だ。いくら第一級冒険者が大勢いようとも、それは変わらない。

 

 それから数時間後、【ロキ・ファミリア】の深層遠征部隊が迷宮の花園(アンダーガーデン)に到達する。

 

 【ロキ・ファミリア】の遠征部隊を歓迎する横断幕と、キンキンに冷えた各種ソーマ酒が用意されており、これから深層に向かう者たちを誘惑していた。

 

「いらっしゃいませ!! 今日は特別サービスで、遠征に向かう【ロキ・ファミリア】の方は全員無料サービスしちゃうんだから。なんと、今日はプルシュカ達のほかに可愛い店員さんも雇ってるわよ」

 

 アリーゼたちが【豊穣の女主人】の制服に着替えて給仕を担当する。四院長やその子供たちは料理担当だ。遠征部隊の面々は一瞬ここがどこなのか分からなくなった。だが、現実は変わらない。ここは下層・28階層だ。

 

 先ほどからソースの香ばしい匂いや肉の焼ける香りなどが胃袋を刺激しており、このまま素通りすれば遠征の士気に関わる重要な問題だった。それに、ガレスがアルコールを摂取せずに通り過ぎることを許さない構えを見せていた。

 

「分かった、僕の負けだよ。全員、昼休憩にする。各自十分に英気を養え。そして、彼女たちの好意に感謝するように」

 

 荷を下ろした遠征部隊が各々テーブルにつき、食事を注文する。この様子は、眼晶(オクルス)を経由して地上で観測している神々の下にも届いていた。

 

「あ、アリーゼ!? どうしてあなた達までここにいるのですか! それに、どうやって私より早くここに到着したのです。地上で別れましたよね!?」

 

「リオン、世の中には知らない方がいいこともあるのよ。まぁ、細かいことはいいじゃない。どうする? 私としては、この【ソーマ・コンティ】が一番のおすすめよ。絶対に普段じゃ飲めないお値段だから!」

 

 ココがダンジョン内とは思えない程、遠征部隊の緊張はほぐれた。

 

 ちなみに、居候時には各種ソーマが普通に夕食でも提供されていたことから舌が越えすぎており、【アストレア・ファミリア】のエンゲル係数は異常値を示している。

 

 

◇◆◇◆

 

 【ロキ・ファミリア】の本拠は、現在ほぼ全リソースを遠征につぎ込んでいたため、主力部隊は誰一人残っていなかった。それに、協力してもらった神々に対して眼晶(オクルス)からの映像や音声を独り占めすることは、後々問題になる。

 

 だから、ギルドの一室で遠征の様子を皆で見る事になっていた。

 

 その部屋には、神ロキ、神フレイヤ、神ヘファイストスが揃っていた。神ディアンケヒトは「こんな女ばかりいる部屋にいられるか」と欠席していた。

 

「なぁ、ウチの目には下層で宴会が開かれているように見えるんやが。それに、遠征の協力拒否した【アストレア・ファミリア】の第一級冒険者が給仕をしとるとか、どういうことや。なんでそんな勿体ない使い方するねん。フレイヤの差し金か? お前さんのところで世話になっている連中やろ」

 

「知らないわよ。彼女たちは私のファミリアじゃなくて、アストレアの眷族よ。それにしても下層の安全階層(セーフティポイント)って初めて見たけれど、なんで私の像まであるのかしら」

 

 それは、【フレイヤ・ファミリア】の誰かさんが要望したことが原因だった。ほかにも読書スペースや礼拝スペースまである。今朝発売されたばかりの雑誌まで取り揃えられており、食べ物を片手にメルーナが読書に興じていた。

 

「へぇ、鍛冶ができる場所も備えているなんて分かってるじゃない。武器をここで修理できるなら鍛冶師の需要も上がるわね。椿ならここで……って、あの子【大吟醸・ソーマ】を一気飲みしているじゃない! 羨ましいわね」

 

 この遠征が過酷なものになるのは間違いなかった。だから、各々思い残しがないようにしっかりと食事する。

 

「わけわからんが、ええ子たちやな。遠征が終わったら、ちょっと勧誘でも……」

 

「ダメよ。プルシュカもニーナも私が既に声を掛けているんだから、許さないわ。それこそ戦争も辞さないからね。戦争遊戯(ウォーゲーム)じゃなくて、本当の戦争よ」

 

 声のトーンから、フレイヤが本気であることがその場にいる者たちには伝わった。

 

 仕方なく映像に視線を戻すが美味しい食事に最高の酒……映像だけでは生殺しもいいところだ。だが、そんな神々へのサプライズもしっかりと用意されていた。

 

 眼晶(オクルス)を通して、プルシュカが神々に声を掛けた。

 

『見えてるかな? 神様ってお酒が大好きって聞いたから、みんなの分も用意してあるわ。アスクレピオス様に出前をお願いしたから、そろそろ届く頃のはずよ。ニーナちゃん手作りの市販していないストロング・ソーマ・ゼロもあるのよ!!』

 

 ちょうどその時、神たちの待機室がノックされ、神アスクレピオスが出前を届けにやってきた。神アスクレピオスの秘蔵の酒たち。院長たちが献上したものの飲み切れずに溜まっていた酒も合わせた出前だった。

 

………

……

…

 

 ダンジョンの様子など、神々は眷属たちから話を聞くばかりでどんな場所かは想像するしかなかった。だが、これを見せられれば……思わず平和な場所だと勘違いしてしまう。

 

 神たちはダンジョンの映像だけでも十分楽しめていた。

 

『なぁ、プルシュカ。これはなんで『リヴェリア様専用の羽毛布団』って書かれているんだ? 確かに床で寝ると翌日少し辛いとは言ったが……』

 

『最高の羽毛布団を用意したから、これがあればどこでも安眠確実よ! 折角だから次の商品開発の参考に感想を知りたいな……あっちでお休みできるスペースもあるから。ねぇ~、お願い。せっかく用意したのに使ってもらえないのは、プルシュカ悲しいな』

 

 ここまで恩を売られては、リヴェリアでも断れない。仕方ないと溜息をつき、少しだけ休憩スペースを借りて横になる。カーテンが閉められており、プライバシーは守られていた。

 

 1分が経過する。

 2分が経過する。

 5分が経過する。

 

 リヴェリアが目を覚ましたのは、それから30分後だった。

 

『この商品はダメだ、プルシュカ。ダンジョンであんなので寝たら死ぬ』

 

『プルシュカの自信作だったのに……分かったわ。エルフの王族のリヴェリアお姉ちゃんが満足できる、ダンジョンで熟睡できるお布団を絶対に開発してみせるから! 覚悟しておいてね』

 

 リヴェリアが寝た後の布団を片付けようとしたところ、プルシュカに駆け寄るエルフの女性たちがいた。全員なぜか顔がボコボコになっており、まるで力で順番を勝ち取ったかのようだった。

 

『レフィーヤお姉ちゃん、どうしたの? 顔が殴られたみたいに真っ赤になっているわよ』

 

『これは……ちょっと仲間との友情を確かめ合った証だから気にしないでいいのよ。今日ほど魔法剣士に転向して良かったと思ったことはないわね。私も少しだけ寝心地を確かめたいな~と思って』

 

『レフィーヤ、5分だからね。5分交代の時間厳守よ!』

 

 素晴らしい友情だなと、神フレイヤが神ロキの事を冷ややかな目で見る。眷属たちの教育はどうなっているんだと。あれが恥ずかしくないのだろうか。

 

『でも、お洗濯前だけだよ? それでもいいなら構わないわ。後で感想を教えてね』

 

『それを洗濯するなんてもったいないわ』

 

 今この画面が主神の目に留まっていることなど知らずに、ダンジョンだからとやりたい放題の眷族にロキは目を覆いたくなった。これが“穢れた精霊”を倒しに向かっている不退転の覚悟を持った精鋭たちの姿だと思うと、急に情けなくなってきた。

 

 これだけのメンバーを揃えたのに一気に不安になる。

 

 眷族たちの恥部を大公開させられたロキの心は折れかかっていた。「もう殺してくれ」と言わんばかりの空気だ。

 

 だが、高みの見物を決め込んでいたフレイヤにも、味方から思わぬ撃墜砲が飛んできた。

 

『ない……ない……ない! どうして僕が希望した商品がないんだよ! この露店は品揃えがなってない!』

 

『ヘグニさん、そんなことないわ。ちゃんとみんなの要望を聞いて商品化したんだから、ない物なんてないはず……たしか、ヘグニさんの希望は……『友達』。……ヘグニさん、手を握って。手を』

 

 プルシュカがヘグニから差し出された手を握る。そして言った。「名前を呼んで」と。友達の第一歩はお互い名前で呼び合うことだと、人付き合いの苦手な彼に伝える。

 

『プルシュカ』

 

『よく言えたわ、ヘグニ!! これで私達は友達だね! もっと自信を持って。Lv.7(レベルセブン)なんだってね、すごいわ! だからそんなに自分を卑下しないで。ヘグニは魔法なんて使わなくても素敵な冒険者なんだから!頑張れ、男の子』

 

 子供からの「無人販売所で欲しい物」のアンケートに『友達』と答え、販売所で「友達が売っていない」と叫び、結果子供店長と友達になったオラリオでも数少ないLv.7(レベルセブン)。みっともないというか恥ずかしいというか、既にそういう次元を超えていた。

 

 表面上は平静を保つフレイヤだったが、その内心では、帰ってきたらヘグニに厳しい試練を言い渡すつもりでいた。「オラリオで友達100人作ってくるまで本拠に入れない」というやつだ。たぶん、二度と帰れなくなるだろう。

 

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