ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
49階層で階層主バロールが不在であることを確認した遠征部隊は、オッタルがついにやり遂げたことを理解した。そして、その足で50階層の
遠征で三度目の訪問であり、もう慣れ始めてきた遠征部隊。だが、掲げられた横断幕には「ようこそ地下闘技場へ」と書かれていた。今までにない催し物が彼らを待ち受けていた。
遠征組は、道中で一泊した際に食事や寝床の不自由を感じており、
「随分と遅かったわね。待ちくたびれて、もう来ないかと思ったわ。いつもと同じじゃ、つまらないと思ってイベントも用意しておいたわ!!」
「いや、僕たちの遠征にそんなイベントはいらないんだけど……」
勇者フィンの空気を読まない一言でプルシュカの顔が悲しそうになる。頑張って準備して皆の喜ぶ顔が見たかったのに、第一声の正論パンチ。
「酷い。皆が遠征頑張れるようにいっぱい考えたのに……【ロキ・ファミリア】にはアルコールも出してあげないから! 食事も宿もないわ。そこらへんで寝ればいいわ。ヘグニ、あんたは嬉しいわよね。プルシュカの友達なんだから」
「も、もちろんだ。僕は、友達だからね」
まさかヘグニのおかげで、ダンジョン内での衣食住にありつけるようになるとは。【フレイヤ・ファミリア】は大勝利だった。
この返答にプルシュカも大満足だった。
「じゃあ、早速本日のイベントを始めましょう! 何と【フレイヤ・ファミリア】の要望で『ダンジョンで欲しい物は“強敵”』という回答がありました! そこで用意してきたわ。この地下闘技場で『頂天』であるオッタルさんと一騎打ち!! 最初のチャレンジャーは、
「なんで、私がそんなことまで……」
この遠征において、今までほとんど出番がなかったと言えるアミッド。だからといって、こんなイベントで怪我をした者の面倒まで見るのは話が違うという表情だ。
「おやおや、それは残念ですね。アミッドさんには特別な個室風呂までご用意したうえで最高の寝具まで準備しておりました。お食事も我々院長がフルコースをご準備しております。野宿と質素なお食事が良ければ、止めませんが」
「遠征においてモチベーション維持のイベントは必須です。怪我をする人がいるならば癒すのが私の仕事です」
手のひらを返すのは速かった。これでアミッドの源泉も確保できたので、宿泊客にはよりくつろいでいただける。出汁にもなるアミッドの存在は、ボンドルドたちも研究したいと思っている。
出自は謎に包まれているが、絶対にまともな出自ではないことだけは誰の目にも明らかだった。レベルから考えてもあり得ないほどの回復力と規格外の魔法。ある意味、トラブルを起こさない女版
だが、それを本人に伝えたら名誉棄損で訴えられること間違いなし。
「プルシュカちゃん、説明が足りてないよ。えっとね、参加賞でお食事と宿と温泉を提供していまーす。もし、オッタルさんに勝てたら豪華景品も用意しているから頑張ってね。景品は、この”賢者の石”でーす」
ニーナが掲げる賢者の石。
この遠征においても、ギルドに要望したが手に入らなかった超貴重な品だ。【ロキ・ファミリア】のアリシア・フォレストライトは、以前に異端児事件の際にプルシュカたちを手伝ったことで、指輪サイズの”賢者の石”を一つだけ隠し持っている。
どうやらまだ、誰にも言っていない切り札のようだ。
目の色が変わる魔導士たち。だが、魔導士があの『頂天』と閉鎖空間で戦うなど勝機などない。リヴェリアは、フィンとガレスに静かに「出ろ」と告げる。他にも、白羽の矢がレオンにも立つ。オラリオ外で英雄と呼ばれる力をここで見せろと……今まで出番がなかっただろう、と言わんばかりのリヴェリアの圧はすさまじかった。
タイマンに挑むが全員顔面を岩壁に埋められ死体のようにぶら下がっている。
男女公平に叩きのめすオッタルの恐ろしさだ。大丈夫、あの程度で死ぬような者は今回の遠征には参加していない。リヴェリア以外は全員壁に顔面を埋められた。
オッタルがダメージを負ってから戦おうと思った愚か者たちも皆同じ末路だ。アミッドによる回復はオッタルも対象に含まれる。完璧な状態のオッタルと1対1で戦うことになる。
これは、見るだけでお金が取れる試合だった。
善戦したのが
冒険者同士殴り合って、同じ釜の飯を食うことで親密になれる。しかも、共通の敵であったオッタルにボロ負けした者同士だ。愚痴などいろいろあって、ファミリアの垣根を越えて友情がわずかに芽生える。
夕食の場で明かされる、オッタルの
それを聞いたフィンは、再度確認する。
「オッタル。この遠征に参加する気はないかい」
「断る。既にバロール討伐の依頼は終えた。それに――」
「ちょっと!! オッタルさんはプルシュカたちの仕事を請け負っているからダメ。フレイヤ様にも許可を貰ったんだから。こんなところで油を売ってないで、ウェイターさんが足りないんだからじゃんじゃん料理を運ぶのよ」
だが、このイベントで間違いなく遠征部隊は打ち解けていた。【フレイヤ・ファミリア】の
美味しい食事も終え、各々寝る前にお風呂に入る直前。大事なお知らせがプルシュカから告げられる。
「みんな、今日の温泉は特別だよ。美容にも効果抜群なんだから、アミッドさんに感謝してよ」
オラリオでは、アミッドが温泉の出汁に使われていたことは有名な噂だ。その効能は間違いなくある。元々温泉なんて誰かが入った後の湯に浸かることは当たり前だ。よって、最初にアミッドが入った後であっても気にすることでもない。
本日の湯は、アミッドの湯。
心優しい遠征部隊の人たちは「ありがとう、アミッド」と声を掛けて続々と温泉に浸かりに行く。皆が温泉に入っている間に、プルシュカはまだ決めていなかった部屋割りを考える。仲が良い者同士、同じファミリア同士など色々と配慮しなければならない。
ラウル・ノールとアナキティ・オータムを同室にするなど、ファインプレーを見せるプルシュカ。しかも離れの部屋であり、隣は空き部屋という配慮も完璧だ。できる女は違うというところを見せつける。
クレームがきたら部屋交換も考えていたプルシュカだが、彼女の下に苦情が来ることはなかった。
翌朝の早朝、まだ遠征部隊が誰も起きていない時間帯に温泉で身体を洗う男女がいた。そんな二人組に朝食を配るプルシュカは、彼らに一言言う。
「昨晩は、お楽しみでしたね」
バレていないと思っている本人たちだが、プルシュカたちが作った宿の防音設備は並程度だ。
朝食会場では、なぜかラウルの背中に平手打ち(祝福と嫉妬)をする男たちがたくさんおり、彼は甘んじてそれを受け止めた。
◆◇◆◇◆◇
『頂天』チャレンジを見せられた神々。
「フレイヤのところの眷族たちって、脳みそまで筋肉でできとるんか。ダンジョンで友達とか強敵とかを注文するとおかしいやろうが」
「それに関しては何も言えないわね。でも、そのオッタルに一人で壊滅させられる遠征部隊ってなんなのよ。もうちょっと、頑張ってほしいものね」
ここ数日、仲良しファミリアの遠足を見せられている気分となった神々やフレイヤたち。彼らが楽々と通過している深層だが、普通のファミリアならここまで来ることすら命懸けだ。だというのに、この緊張感のなさである。
【ロキ・ファミリア】の因縁の相手である”汚れた精霊”がオッタルの前座に思えてくるほど、『頂天』の強さは圧倒的だった。だが、ここでロキが疑問を投げかける。
「なぁ、フレイヤ。オッタルが
「
嘘は言っていない、フレイヤ。
別の仕事……それがウェイターだとでも言いたいのだろうかと詰め寄るが、フレイヤが口を割ることはない。
この仲裁役をしないといけないヘファイストスは大変だ。
「落ち着きなよ二人とも。今は遠征成功が一番なんだから、ここからが本番。私達には見守ることしかできないけど、子供たちが無事に帰ってくることを見守ろう。やっとここから椿の活躍も見れるのね。ここまでいいところがなかったけど、本番はここからよ」
過去の苦い経験から不壊属性武器が必須となる事は分かっていた。その数を揃えるだけでも一苦労であり、ギルドから無尽蔵の支援が無ければ【ロキ・ファミリア】の財政も辛かっただろう。