ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
功を焦った【ロキ・ファミリア】。【アストレア・ファミリア】の戦力を丸々吸収できたのは良かったが、そこまでやるのであればオッタル達の到着を待つべきだった。彼の主神であるフレイヤが目の前にいるのだから、彼の無事など察せられるはずだ。
あるいは、神アスクレピオスにボンドルド達の居場所や戦況を確認することもできただろう。だが、神ロキはそれを行わなかった。今ある最高の戦力――それだけで”穢れた精霊”を十分に倒せると思い上がっていたのだ。これまでの戦況から考えても、敵側に策の一つや二つはあると予想できたはずだった。
結果として、遠征部隊は完全に分断されてしまっていた。階層ごと崩落させられ、主力とそれ以外に引き裂かれる。”穢れた精霊”の超長文詠唱から身を守るために取った行動が裏目に出てしまったのだ。おかげで【ロキ・ファミリア】の
”穢れた精霊”は、遠征部隊をまとめて相手にする気などさらさらない。総合火力で真っ向勝負すれば負けることを理解しており、分断しての各個撃破を狙っていたのだ。主力部隊が合流するまでに時間を稼ぐため、大量の罠まで仕掛けられている。”穢れた精霊”の目的であるアイズもゆっくり料理すればいい。あれだけの戦力を同時に相手にするより、徐々に他を削りアイズを手に入れる方が確実であった。
ギリギリのところで崩落を免れた【ロキ・ファミリア】の遠征残存部隊。彼らは過酷な選択を迫られていた。崩落の底へ落ちた主力が戻るのをここで待つか、それとも一時撤退するか。撤退するにしてもどこまで下がるべきか。地上まで戻り、救援を要請するのか。しかし、現状この場にいる者たち以上の戦力を集めることなど可能なのか――。
この遠征において、フィン・ディムナは自身に万が一があった場合、全軍の指揮を『
「て、撤退する! 俺たちの手に負えるモンスターじゃない! オラリオに救援要請を出すため、50階層まで撤退だ!!」
ラウルの一声により、状況の混乱に呑まれかけていた者たちも戦略的撤退へ意思を固める。今優先すべきは、無謀に留まることではない。【ロキ・ファミリア】の主力部隊ならば簡単に死にはしないはずだ。彼らの生存を信じ、救出に必要な戦力をかき集めてくると心に誓う。
60階層から撤退し、59階層へと足を進めていた最中のことだった。
彼らの目の前から、歩を進めてくる一団があった。【アスクレピオス・ファミリア】と、オラリオ最強の冒険者オッタルの遠征部隊である。
「おや、おや、おや、おや、おや。何の騒ぎかと思えば貴方たちでしたか。しばらく見ないうちに、随分と満身創痍になられましたね。お急ぎのようでお帰りのようですから、お気をつけてお帰りください。道中のモンスターは一通り処理しておきましたが、完璧ではありませんので」
「ニーナちゃんとプルシュカは大活躍したんだから! パパ、ちゃんと記録してくれた? 後でアスクレピオス様やフレイヤ様に見せて自慢するんだから!」
一団はそのまま60階層へと足を踏み入れていく。目の前に広がる惨状を目にしても何一つ動じない彼らの様子に、ラウルは慄然とした。撤退していく自分たちを一瞥することすらなく通り過ぎていくボンドルドたち。
その時、オッタルが足を止め、【フレイヤ・ファミリア】の残存兵力へ低く命じた。
「負け犬に用はない。……だが、フレイヤ様のために力を貸せ。メルーナ・スレア、
「すごいでしょ! オッタルさんはプルシュカとニーナちゃんが育てたんだから。もう立派な団長さんよ……
深層においてこれほど頼もしい男はいない。
生き残っていた【フレイヤ・ファミリア】の団員たちは感無量に打ち震えた。あのオッタルが、自分たちの力を必要だと言ってくれたのだ。ここで奮起しない冒険者などいるはずもない。
オッタルは、メルーナ・スレアの防具が
だからこそ彼女を自身の背中にしっかりと縛り付け、”折れない魔剣”を奪い取るとメインウェポンとして構える。かつて
「オッタルさんを主軸に”穢れた精霊”を処理しましょう。この前出会ったデミスピリットの4〜5倍程度の強さでしょうか。勝てない相手ではありません。プルシュカはアラカブキを用いた遠距離狙撃を。倒しきることはできずとも、足止めとダメージの蓄積には十分でしょう」
ボンドルドはタッカーから受け取った”賢者の石”を数個、オッタルへ手渡す。オッタルの魔法やスキルは絶大な補正力を誇る反面、精神力の消費が凄まじい。その受け皿として”賢者の石”を充てることで、初手からフルスロットルで全力を解放させるのだ。
階層そのものへのダメージなど一切考慮しない。仮にジャガーノートが現れようとも知ったことではない。すべてまとめて圧倒的火力で叩き潰す――それが彼らの戦略だった。
オッタルによる、ステータスを極限まで引き上げた物理の猛攻。
プルシュカによる超遠距離からの精密狙撃。
タッカー親子による絶え間ない錬金術の波状攻撃。
フェイスレスの”分解”と”溶解”による”穢れた精霊”の外殻破壊。
涅マユリが投入する対デミスピリット用特攻の神経毒。
そして『神威』とモンスターの力を解放し、神とモンスターとヒトの共生体となったボンドルドが、オッタルとは別方向から襲いかかる。所有する遺物兵装を駆使しながら、その手足からは獰猛な爪で抉り取る。
”穢れた精霊”は魔法特化のモンスターだ。魔法を詠唱する隙すら与えずに殴り続ければいい。下手な防御に回るより、圧倒的な攻撃こそが最大の防御となる――それが今、目の前で証明されつつあった。
『痛い痛い痛い痛い痛い!! アリアがいれば、アリアがいればぁぁぁぁ!!』
「死ぬ死ぬ死ぬ! オッタル、私死んじゃう!」
「黙ってろ」
オッタルが
命の脅威を察知した”穢れた精霊”が、短文詠唱の”サンダー・レイ”を放つ。だがオッタルは即座に背に縛り付けたメルーナ・スレアを盾にし、
ボンドルドは、オッタルが仲間を巧みに使いこなせるようになった様子を見て密かに感銘を受けていた。一人では不可能なことも、二人ならば成し遂げられる。彼はこの苛烈な戦いの中で間違いなく成長を遂げていたのだ。オッタルにばかり格好いいところを持ってかれては、遠くで見守る娘に面目が立たないと、ボンドルドもさらに力を込める。
「この爪…浅い所なら通りますね。君の身体は丈夫が過ぎますが急所すらヒトに似ていて大変助かります。安心してください。デミ・スピリットの研究は、既に終わっています。用済みです」
ズブリと爪どころか腕ごと”穢れた精霊”の臍から突き刺し、内部を蹂躙する。ボンドルドはその瞬間、体内に潜む魔石の正確な位置を把握した。魔石を打ち砕く前に触手で引き剥がされはしたものの、目的は達した。
ボンドルドがプルシュカに合図を送る。
「パパーーー!! 残弾5発、撃ち切るからね~!」
一発目の弾丸が”穢れた精霊”に着弾し、巨体がよろめく。
二発目の弾丸が着弾し、腹部へ深刻な亀裂が入る。
三発目の弾丸は、危険を察知した”穢れた精霊”が片腕を犠牲にして弾き飛ばした。
”穢れた精霊”とてモンスターだ。魔石を打ち抜く攻撃の存在を認識すれば、本能的に防御へ回る。
オッタルにも魔石の位置が伝わり、一撃必殺の構えを取る。プルシュカの狙撃が失敗した場合に備え、完膚なきまでに消し去る気概だ。
「プルシュカが残弾数を間違えるはずはありません。残弾は最初から3発しかなかったんですよ……ですが、おかげでこちらへの警戒が薄れました」
ボンドルドの腕に備え付けられた遺物。肘を突き出して遺物があった場所を狙う。遺物に光が収束し、ルールすら上書きするボンドルドの切り札が初めて使われる。
その光は、”穢れた精霊”の身体に穴をあけて魔石を貫通する。開けられた穴を塞ごうにも上書されたルールがそれを阻止する。魔石も二度と元には戻らない。消失する”穢れた精霊”は、悲痛の叫びをあげる。
『アリア、アリア、あなたがいれば……私は、戻りたかった』
塵となる”穢れた精霊”は、ドロップアイテムを落として消えていった。
ボンドルド達が手を挙げるとオッタルも応える。一人一人ハイタッチでこの成果を味わう。ドロップアイテムは、気持ち悪いほどニコニコした院長達によって、早々に回収される。
そして、そのまま、ボンドルド達は61階層へ向かう通路に向かう。ボンドルドとプルシュカが持つ”星の羅針盤”だけが頼りだった。メルーナ・スレアと
ある意味【アストレア・ファミリア】との戦力交換。それに、"穢れた精霊"の討伐は無事に終わり、団長がいる遠征部隊に団員が付いて行くだけだ。神ロキもこれには文句は言えない。
魅惑対策?
処女神(|)の加護があるから問題ありません。
きっと、地上でロキが直ぐに救助部隊を送り込むため動いている可能性が。