ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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71:遠征9

 ボンドルド達が”穢れた精霊”と戦っている最中、【ロキ・ファミリア】の主力も遊んでいたわけではない。彼等は、下の階層に落とされ、60階層と61階層の狭間で『千蒼(タリア)の氷園』と呼ばれる場所に行き着いた。ここは、【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】でもこの階層の謎が解き明かせなかった場所であり、極寒でいるだけで精神を汚染する空間だ。

 

 そこで、彼等は散り散りになった仲間を集めていた。視界不良の中、リヴェリアの魔力を頼りに精神汚染を回避していた。彼等が真っ先に救いたいのは、回復役のアミッドだ。彼女の戦闘力という面では決して高くはないため、深層のモンスター相手では死んでしまう。

 

 彼等がすぐに上の階層に戻れなかったのは、それなりの事情が存在しているためだ。だが、その間に既に”穢れた精霊”が処理されているなど思いもしないだろう。

 

 そんな恐ろしい極寒の場所……ボンドルド達は当然素通りする。そんな中間階層など、百害あって一利なしだ。そのまま次の階層に進もうとしたのだが、極寒環境に耐えられる装備がなく、来た道を引き返すことにしていた。

 

 そもそも、オッタルがタンクトップ一枚でこんな場所に来るのが悪い。他にも、【フレイヤ・ファミリア】の者達も同様だ。アマゾネスよりマシだが、深層に来る服装ではない。当然……アマゾネスは、ここでは真っ先に凍死する存在だ。

 

「冬山の強行軍は、死ぬだけです……帰りましょう。ココの環境が分かっただけで、十分な成果です。いいですか、遠征は帰るまでが遠征です。気を抜かないようにしてください。57階層で昼食をとって50階層の安全階層(セーフティポイント)で一泊したのちに地上に帰還します」

 

「パパ。60.5階層?なのかな。そこに落ちてる人達はどうするの?」

 

 ボンドルドは少し考えた。

 

 【ロキ・ファミリア】の面子を考える。彼等は、今回の遠征で良いところがなかった。ここで彼等にまで手を差し伸べるのは、違うのではないか。恥の上塗りにも等しい。オラリオの住民からの応援、ギルドからの無尽蔵の支援、それがあって”何の成果も得られませんでした”では、ファミリアの存亡に関わる。

 

「ファミリアの面子のため、彼等には自力で何とかしてもらいましょう。”穢れた精霊”がいない今、彼等が持ち帰れる成果は【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】が打ち立てた到達階層を超えるか並ぶ事だけです」

 

「そうなんだ、大人って大変よね。アリーゼお姉ちゃんたちも合流するだろうし、大丈夫か。ねぇ、パパ、私ね。次来るときはもっと深くまで潜れるように、いっぱい強くなるね」

 

 次来る時がいつになるかは不明だが、この場にいる全員ができるだろうと思っていた。オッタルを筆頭にプルシュカやニーナがお願いすれば多分一緒に来てくれるし、神フレイヤも特に止めないだろう。

 

「オッタルさん、【フレイヤ・ファミリア】の方々もそれでよろしいですか?一応、進まれるというのでしたら、ここで別行動になりますが」

 

「俺は、プルシュカに雇われているだけだ。帰るなら帰る」

 

 他の【フレイヤ・ファミリア】のメンバーも早くここから帰りたそうにしている。寒さで死にそうだと。やはり、ここに来るには十分な装備が必要だった。事前情報なしではココが限界だ。

 

 来た道を引き返すボンドルド達。

 

 『千蒼(タリア)の氷園』を彷徨っていた遠征部隊の者が、遠くで紫の光を見たという。それが、ボンドルドの仮面の発光だと気がついたのはヘグニだけだった。

 

 その光の先には、彼の唯一の友達であるプルシュカがいるとヘグニは大声で叫んだ。

 

「プルシュカ~、独りぼっちは寂しいよ。助けて~。プルシュカ、僕をおいていかないでくれ」

 

 ぴくぴくとプルシュカの耳が動く。遠くで名前を呼ぶ声がすると。吹雪で掻き消えそうな声だが、確かに聞こえた。

 

「パパ、なんか名前を呼ぶ声がした。なんか、助けてって」

 

「おやおや、遠征組でしょうか。しかし、助けを請われれば助けましょう。我々は、人の命を何よりも大事にする医療系ファミリアなのですから」

 

 情けない声をあげながら、Lv.7(レベルセブン)の身体能力で駆け寄るオラリオの最上位冒険者。その姿は、ボンドルド達と同行していた【フレイヤ・ファミリア】の者達にも目撃され、記録にも残される。その映像を、後でフレイヤが見ることになった時、彼の立場はどうなるだろうか。

 

………

……

 

 60階層に戻り59階層まで戻ってきたところ。そこには、まだ遠征部隊の残存部隊が陣を形成して主力の帰りを待っていた。”穢れた精霊”が討伐された今なら、戦力的には余裕があり、待てると判断したのだ。

 

 ボンドルド達は、彼等の横を素通りしようとする。道幅はそれなりにあるので、相手が不快に思わない距離を適切に保つ。だが、緊急時の遠征部隊の指揮権を持つラウルがボンドルドに近寄ってきた。

 

「団長達を見かけませんでしたか」

 

「下は極寒の地でした。我々も彼等を探す余裕がなく申し訳ありません。ですが、彼等はオラリオどころか世界でも最精鋭です。きっと、無事でしょう。我々は、地上に戻ります。無理をするものではありません」

「プルシュカは、”大人のプライド”や”ファミリアの立場”とかよくわからないけど、頑張ってね~。この先も階層は本当にすごーーく寒いから防寒必須なんだから。あと、ヘグニは偶然見つけたから、連れて帰るわ。ほら、安心しなさいって。私達は、友達なんだから、ちゃんとフレイヤ様にも一緒に弁明してあげるから」

 

 ボンドルドに肩車され、元気に手を振るプルシュカ。残存部隊の者達は、神妙な気持ちで彼等を見送った。その中でも【アストレア・ファミリア】……特に、アリーゼは、もごもごと何か言いたげであったが、その声がボンドルド達に届くことはない。彼女は、自ら志願して深層まで来た仲間を見捨てて、リュー・リオンを優先したのだ。

 

 確かに、助けに行かなければ彼女は死んでいた。だが、ボンドルド達の命は危険になってもいいのかということだ。結果的に死んでいない、その事実はある。

 

 色々と知り過ぎている彼女たちの処遇は、院長達としても思うところがある。だが、敵でも味方でもないなら、相手になどしない。明確な敵対行動をしたならば、院長達は容赦しないだろう。例えば、深層までの裏口などもその一つだ。彼女たちの口から漏れた場合には、有無を言わさず開戦の狼煙となる。

 

 【フレイヤ・ファミリア】の者達は、階層を登る際にオッタルの実力と正しい運用方法を理解する。オッタルは強力だ。仲間と下手に連携させるより、彼のポテンシャルを最大限活かす運用がよいのだと。

 

◇◆◇◆

 

 神ロキは、眼晶(オクルス)の通信が遮断されたことで遠征部隊が非常に危険な状態にあると理解した。だが、【ロキ・ファミリア】には、救援部隊を構築するだけの余剰戦力などどこにもない。今回の遠征に、全力投入していたからだ。

 

 だが、戦力がないなら引っ張ってくればいい。

 

 その戦力を持つファミリアの主神が、彼女の目の前にいる。

 

「フレイヤ。頼む。フィンたちを助けるために、おまえんところのファミリアの力をかしてくれ。あそこまで行けるファミリアは、他におらん」

 

「ヘグニ達は死んでないわ。そっちは、どうなの?少し落ち着きなさい」

 

 神ロキは、少し気が動転していた。”穢れた精霊”がずる賢く強いことは、眷族たちが戦う姿を見ていて分かった。恐らく、落とされた階層でも酷い罠があるだろうことも。故に、今は無事であっても手を打つ必要がある。

 

 ”穢れた精霊”の目的がアイズ・ヴァレンシュタインであり、彼女が手に落ちてしまえば手が付けられなくなる可能性が高い。

 

「いまんところ、全員無事や。最後の映像では、ラウル達が無事だったから地上に戻ってくるやろう。救援部隊の準備は今から、始めな間に合わん」

 

「正直、気が乗らない。ロキ、貴方は色々隠し事しているわよね。”穢れた精霊”が何を狙っているかとか、それを話さず戦力だけ出せは、都合がよすぎるんじゃない。既に、今回の遠征でそれなりの戦力を出しているはずよね」

 

 先ほどまでならいざ知らず、今の力関係では【フレイヤ・ファミリア】に軍配が上がる。彼女のファミリアなくして、救出作戦など成功しないのだから。

 

「あのドちびの所のファミリアは頼れん。フレイヤは偶然やというが、ウチにはそうは思えんのや。考えてもみ、たった半年でいくつのファミリアが潰された。この間の戦争遊戯(ウォーゲーム)じゃ、ガネーシャとフレイヤの所や。順当にいけば、つぎはウチってなるやろう。あれを、救援部隊に参加させたら、二重遭難どころか、参加したファミリア全員死ぬで」

 

「…ベルの事は置いておいて。今のロキは、冷静さがないわね。そもそも、こっちの眼晶(オクルス)が駄目でも、同じく深層に遠征に行っている【アスクレピオス・ファミリア】に状況を確認してからでも遅くはないでしょう。あっちは自前の眼晶(オクルス)があるんだから」

 

 神ロキは、確かにその通りだったと冷静さが掛けていたことを認める。

 

………

……

 

 それから久しくして【アスクレピオス・ファミリア】の執務室に殴りこんできた神ロキと神フレイヤは、早々に深層にいるであろうボンドルド達との通信を所望する。今や、深層と連絡できる数少ない手段だ。

 

 神アスクレピオスは、頼まれたのでボンドルド達との通信を行う。神ロキが、どうしても聞きたいことがあるとの事で、彼等も快く了承する。

 

『ボンドルドか。まぁええわ。まず、お前さんたちはどこにおるんや?』

 

『先ほど昼食を終えて、今は53階層です。流石に、我々だけでは無謀でしたので撤退しています。これ以上は、誰かが死んでしまうでしょう。深層の環境を舐めていたわけではありませんが、準備不足でした』

 

 【アストレア・ファミリア】という第一級冒険者がいないボンドルド達には、オッタル以外碌な戦力がいないというのが、神ロキの見解だ。彼等Lv.1(レベルワン)がいるだけでも奇跡に近い。帰るというところに、死地に戻れと誰が言えようか。それも、プルシュカやニーナといった子供がいるのに。

 

 撤退(・・)は、決して恥じる事はない。神ロキは、【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】が打ち立てた記録に届かずに踏み切った事を正しい選択だと内心褒めていた。生きてこそ次につながる。

 

 それゆえに、今から60階層まで進んでくれなど当然、無理な話だ。ボンドルド達の遠征部隊には、誰一人【ロキ・ファミリア】がいない。それなのに、助けに行ってくれだとか恥知らずもいいところだ。オッタルという戦力一人なら、辿り着ける可能性もあるが、そうなればボンドルド達に死ねと言っているのと同義だと。

 

『……そうか、わかった。気を付けて、なるべく早く帰ってきーや。特に、オッタル!! そこにおるんやろう。いいか、頼んだで』

 

『ロキ様。申し訳ありませんが、我々も無理するのは危険ですので、地上に戻るまでは数日かかります。安全階層(セーフティポイント)ではそれぞれ一泊する予定です。五日程度見込んでいただきたい』

 

 まっとうな回答だ。神ロキの脳内では、その日数で救援計画を立てて、物資を用立てるなど色々と組みあがっていた。そして、先頭にはオッタルという主力を据えて、強行軍を行う。

 

『そうか、じゃあ帰りに遠征部隊の者達を見かけたら、安全階層に設置した眼晶(オクルス)でギルドに連絡するように伝えてや。色々とやってもらわなあかん事があるんや』

 

『勿論です。帰り道で会う事があれば、必ずお伝えしましょう』

 

 神フレイヤは、今の会話が何か変だな~と内心思っていた。だが、その違和感が何なのか分からなかった。お互い普通に会話しているはずが、何か肝心な事が抜けている。そんな感じだ。

 

 それから、神ロキはギルドのロイマンに頼み込み……オラリオ総出の疑似立坑(シャフト)が計画される。その計画立案及び総指揮には、ヘグニ同様にLv.7(レベルセブン)に到達したヘディン・セルランドが選出される。

 




ふぅ、遠征編はこれで終了。

次の狙いは決まっています。
師匠ならば、当然弟子も連れて行くでしょうね。

第二第三の"穢れた精霊"が……。

(|)「彼とは、同じ時間に別の場所には出現できません。さぁ、我々も準備に取り掛かりましょう」


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