ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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72:竜の谷

 ボンドルド達は、通常ルートで地上に帰還する。裏口もあるが、【フレイヤ・ファミリア】に教える事もない。久しぶりの日差しに地上に戻ってきたと実感していた。だが、彼等に休む暇などはない。

 

 地上では、【ロキ・ファミリア】遠征部隊の救出に向けて、オラリオ全てのファミリアに力を総動員しようとギルドが圧力をかけていた。だが、戦争遊戯の一件、一部ファミリアを露骨に優遇する腐敗した体制、蘇生魔法の使い手であるフェルズがギルドに居た事を内密にしており、【ヘスティア・ファミリア】に貸し出している件など上げればきりがないほど、ギルドは嫌われていた。

 

 三大クエストがギルドとしても達成すべき目標であり、その為に動いているのはわかる。だが、それはギルドの都合であり、巻き込まれるファミリアにとっては百害あって一利なしだ。

 

 いまだに戦争遊戯での死亡者の蘇生が終わってなく、何処のファミリアも戦力拠出を渋る。一部のファミリアでは、同じく蘇生魔法持ちのヘイズを頼ろうと思ったが、その彼女が【ロキ・ファミリア】遠征部隊を救出に参加するとなれば、どうなるだろうか。更には、フェルズまで参加する事が公開された。

 

 つまり、オラリオで二人しかいない蘇生魔法持ちを二人とも深層に送り込むという、気でも狂ったのかという恐ろしい作戦だ。この二人の命の価値は、国家財産レベルだ。もし、彼等が死んだら仲間は誰が生き返らず……そう、誰も生き返らない。

 

 これにより、彼女たちを生きて地上に帰したいのならば、死力を尽くせという恐ろしい状況を作り上げた。

 

 この計画を考えたのは、【ヘスティア・ファミリア】の新規団員でありエルフのリリカル・マジカル(リリルカ・アーデ)という者だ。この効率的に人を使う血も涙もない方法にヘディンも少し迷ったが、時間が惜しく採用される。冷静な判断ができ指揮官適正が高いと判断され、彼女は地上での作戦参謀に任命された。

 

………

……

…

 

 この疑似立坑(シャフト)作戦に、【アスクレピオス・ファミリア】にも全員で作戦に参加するようにとギルドからお達しがあった。先日、ファミリアの眷属が深層から無事に帰ってきたばかりだというのに、ギルドはお構いなしだった。

 

 しかし、神アスクレピオスは、これを明確に拒絶する。無い袖は振れないと理由もしっかりと添えて、返事をした。だが、そうなると一部作戦変更も必要となる。よって、神ロキ自らが、【アスクレピオス・ファミリア】に依頼をしに来た。

 

 先日、深層から帰ってきたばかりで悪いが・・・とは、流石に神ロキも思っている。だが、今は助けがいるんだと。しかし、現実は無常だった。

 

「はぁ? 院長達は、オラリオにはおらんってどういうことや。この間、帰ってきたばかりやろ。なんで、いーへんのや。どこ行っとるんや。いつ帰ってくるんや」

 

「場所は、私も聞いていない。だが、全部持ち出したからな……当分は、帰らないだろう。子供達にも世界を見せたいと言っていたから、やることやったら、世界一周でもしてくるんじゃないか」

 

 深層の大遠征で記録を打ち立てのだから、バカンスも分かる。だが、何も今じゃなくていいだろうと。このクソ大変な時期に欲しい戦力がいないのは本当にきつい。

 

「じゃあ”賢者の石”だけでも貸してーや」

 

「ない。全部持っていったと言っただろう。今ここには、エリクサー一本もない」

 

 人の気配すらない【アスクレピオス・ファミリア】のホームをみて、神ロキも真実であると分かった。

 

「眼晶(オクルス)での、連絡は?」

 

「無理だ。受信用の眼晶(オクルス)も全てもっていった」

 

 連絡も付かない。つまり、本当にない袖は振れないという事だった。

 

 気持ちを切り替えた神ロキは、作戦本部となるバベルに戻る事にする。今回ばかりは、ウラノスの力も借りる必要があった。

 

 神ウラノスは、神ロキに”穢れた精霊”が既に討伐されている事を伝えようと思って、神殿で待っていたが、なかなか来ず機会を失っていた。

 

 だが、この計画が立案され、【ヘスティア・ファミリア】が参加する事になった瞬間、ダンジョン内部で新たにダンジョンが生み出したデミ・スピリットもどきや深層60階層で消滅したはずの”穢れた精霊”と酷似した新種のモンスターがダンジョンから産み落とされる。本家より弱体化しているが、それでも階層主レベルのモンスターがいきなり産まれたのには、神ウラノスも困惑するばかりだった。

 

 その日の正午……ダンジョン入り口前に集められた深層まで1日で走り抜ける決死隊が動き出す。この日に備えて、ダンジョンでは肉壁という名の冒険者が彼等の移動経路を確保する。

 

 

◆◇◆◇

 

 オッタルは、ボンドルド達と地上に帰った日、主神であるフレイヤに成果の報告をする為、自室で報告書を作成していた。新階層到達やモンスターの見た目、攻撃方法などを纏めた資料だ。

 

 そして、神フレイヤにそのことを報告しようと向かったところ。

 

「オッタル。帰ってきたばかりで悪いんだけど、また深層まで行ってくれる?ロキがどうしても助けて欲しいっていうから」

 

「承知しました。すぐに、準備します。フレイヤ様、それと報告書を…」

 

「全てが終わったら読ませてもらうわ。団長業も板についてきたわね。いい傾向よ」

 

 オッタルは、【ロキ・ファミリア】の遠征部隊に救助が必要かと言われれば不要だと答える。”穢れた精霊”もいないのだから、60階層で回復してから、60.5階層に仲間を探しに行けばいい。当然、死者も出るだろうが、死体を持ち帰れば蘇生魔法だってある。

 

 自分たちはなぜ向かうのだろうかと思っていた。だが、敬愛すべき神フレイヤの言葉は絶対だ。彼女が海が赤いと言えば、赤になる。

 

 オッタルは、ヘグニやメルーナが【ロキ・ファミリア】での遠征の詳細を報告しているだろう思っていた。なんせ、参加した当事者なのだから。オッタルが報告する義務があるのは、フィンに頼まれたバロールの掃除とプルシュカに雇われた遠征の付き添いだ。

 

 メルーナは、神フレイヤから良く帰ってきたわねとお褒めの言葉を貰う程だ。当然、同行していた強靭な勇士(エインヘリヤル)もだ。報告書を出そうと思ったが、オッタルが団長として成長したとプルシュカから聞いていたので、何もしないでいた。これで仕事が減ったと思い、読書にふけっている。

 

 ヘグニは、今回の遠征で良い所が一つもなく、未だひっそりと隠れていた。プルシュカが神フレイヤに弁明してくれるのを待っていた。そのおかげで、未だにフレイヤは彼の帰還をしらない。他の遠征組の誰かが、きっと報告しているだろうと思っていた。

 

 この異常なまでの空振り……全ては誰かの”幸運”が作用している。

 

 そして、ヘディンが計画した疑似立坑(シャフト)が実行される。この計画は、オラリオの全軍をダンジョンに送り込む。まず、第一弾として深層60階層に決死隊となる主戦力を送り届ける事を第一にしている。その間、一切の戦闘を行わないように、肉壁となる冒険者が最短通路を確保するという物だ。

 

 既に、道中の安全確保のため、先遣部隊は派遣されている。

 

 この決死隊の構成メンバーは、オラリオのファミリアの等級から上位を選んだ都合上、【フレイヤ・ファミリア】の幹部、【ヘスティア・ファミリア】の『白い悪魔』とも揶揄されるベル・クラネルと切り札のレベル・ブースト持ちである春姫、エルフの王族にも比肩する貴重な魔法やスキル持ちニイナ・チュール。

 

 最後に、ベル・クラネルのストーカーとも言われる男。あの4院長全ての治療を受け、英雄の卵になった『影追う者(シャドウ・ストーカー)』アーロン・グラディウスも選ばれた。彼もLv.5にランクアップを果たしており、ヘディンに目を付けられていた。

 

 そして、遠征にこそ参加できないが魔剣製造マシーンと化したヴェルフ……彼は、オッタル専用の”折れない魔剣”を作る事になり、深層の階層主のドロップアイテムである”ウダイオスの黒剣”と”バロールの魔眼”を使った決戦兵器を用意した。ある意味、彼が今回の遠征におけるMVPともいえる働きだ。

 

 これなら勝てるという戦力が揃い、神ロキも安心する。だが、彼女は、ベル・クラネルの存在だけは気に食わなかった。確かに、戦力としては数えられる。持っているスキルも異常だ。他【ヘスティア・ファミリア】も、メンバーもオンリー・ワンの魔法を持つ者達ばかりだ。

 

 もう引けない。だから、神ロキも腹をくくった。

 

 神ロキの判断の決定打になったのは、決戦兵器を持ったLv8オッタルがスキルと魔法により限界まで自身を高めた後、レベル・ブーストで疑似的Lv9にする。これに勝てる化け物は誰も居ない。存在してはならないという、ステイタスを強化して最高の武器で殴れば敵は死ぬ作戦だ。

 

 そして、決行されるオラリオ全軍による【ロキ・ファミリア】の遠征部隊の救出作戦が。

 

「なぁ、フレイヤ。今、あそこにヘグニっぽい奴がいたような……」

 

「ヘグニなら貴方の仲間と一緒に、落ちていったじゃない。見間違いでしょ」

 

 ヘディンが選んだ決死隊には、当然ヘグニもいる。Lv7を遊ばせておくなどあり得ない。まさか、ヘグニが帰還の報告をしていないなど、ヘディンの目をもってしても分からなかった。今回の遠征で一人だけ帰ってきたLv7として負い目があるのだと、ヘディンなりの配慮で、決死隊の中でも目立たない配慮がされている。

 

………

……

…

 そんなオラリオの状況の最中、ボンドルド達は”不屈の花園”にいた戦力や物資を動員してオラリオを抜け出していた。集団行動は目立つので年甲斐もなく横穴を開けての大脱出。その穴からは、そうそうたるメンバーがそろっていた。各院長の個人戦力たちも参加させられている。

 

 ボンドルドが率いる祈手(アンブラハンズ)達。ボンドルドの記憶を継承し、スキルや魔法がコピーされている言わば次代のボンドルド達だ。全てボンドルドであり、全てが彼に成り代われる存在である。

 

 ショウ・タッカーが率いるホムンクルス達。”賢者の石”を核として、人為的に製造された人間であり各々が特殊な能力を持つ不老不死の存在。死ぬ度に、”賢者の石”が消耗するが、殺し切るのは骨を折る

 

 フェイスレスが率いる真夜中のサーカス。フェイスレスが心血を注いで作り上げた4体の自動人形。まるで生きているかのような言動に加え、固有の能力を有しており戦闘面では第一級冒険者に引けを取らない。更に、世界に笑顔を振りまく”ゾナハ病”の感染源としての役割もあり、その気になればいつでも世界パンデミックを起こせる。

 

 そんな大人数を連れている連中が多い中、少数なのが涅マユリだ。彼は、群れるのが嫌いであり彼の知性についていける者にしか興味はない。精々、彼の娘の涅ネムがある意味、唯一の個人戦力ともいえるだろう。

 

 この集団には他にも混ざっている者達がいる。

 

 ボンドルド達が雇っているフィアを筆頭にした異端児(ゼノス)と人造異端児(ゼノス)達だ。彼等もこの作戦に同行している。契約解除に伴い退職金と一緒に、地上の好きな場所に行ってもよいし、ダンジョンに戻ってもいいと言われたが、地上を選んだ。安定した生活基盤を提供してくれる【アスクレピオス・ファミリア】を選んだともいえる。

 

 彼等の目的地がようやく見えてきた。

 

「パパ~。あれが、『竜の谷』ね」

 

「えぇ、では彼等が地上に戻ってくる前に始めましょう。トラブルの原因たる彼がいなければ、万事うまくいくはずです。我々は、この準備に長い年月をかけてきましたから」

 

 そこは、三大クエストの最後の一体である黒竜が封印されている場であり、世界を悩ます訪竜問題の根源でもあった。

 

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