怪談語 作:おしまい。
おや、いかがしましたか。今宵は、まだ始まったばかり。楽しい時間は、まだ続きますよ。
まだするのかと言った感じですね。
ええ、ええ。しますとも。なんせ、記念すべき4日目で、4回目のお話ですので。4。つまり、死。
ふふっ。不吉な数字ですね。
しかし、4という数字は、不吉なだけではないのですよ? たとえば、東西南北。それから、春夏秋冬。全部、4つでしょう?
ですので、4という数字は、世界や秩序の安定を示す、とても力のある数字である、とも言われているのです。
ですがやはり、わたしが4という数字で一番はじめに連想するものは、やはり「死」でしょうね。
ふふっ。いままでのお話が、台無しですね。
そうですね。他に、4という数字で連想するとしたら、四谷怪談。でしょうか。
ええ、ええ。いえ。少しばかり違いますね。
それは、お岩さんではなく、お菊さんですね。強い恨みを持つ女性のお話ということで、しばしば混同して覚えている方がいらっしゃいますね。
そうですね。では、せっかくですので、お菊さん。そして、皿屋敷に縁深い、井戸にまつわるお話をしましょうか。
では。
これは、ある少年のお話。
ある日、少年がお友達たち⋯⋯そうですね、Aさん、Bさん、Cさんとしておきましょうか。
そのAさんたちと、いつものごとく林に入って遊んでいると、急にAさんが居なくなってしまったそうです。
もしかしたら迷子かな? と、来た道を戻りながら探していると、五分もしない内に、Aさんの横顔を見つけました。
何してるの? 早く行こうぜ。少年は、Aさんにそう言いました。
「こんな所に、井戸なんて、あったっけ?」
そう言ったAさんが指差した所には、確かに今まではなかったはずの井戸があったのです。
それは、井戸蓋が被せてあり、井戸屋形からは桶がぶら下がり、蓋の上に置いてありました。
「な? なかっただろ?」
少年はAさんの言葉に、少し恐怖を覚えましたが、恐怖はすぐに興味に変わり、蓋を開けてみることとしました。
井戸は、直径1mくらいあり、底が辛うじて見えたそうです。そんなに深くはなかったのでしょう。
そうやって覗いていると、Cさんが言いました。「懐中電灯もあるし、誰か降りてみない?」
彼らは皆Cさんの提案に賛成をし、彼らの中で一番小柄であった、少年が降りることになりました。
少年が桶の縄にぶら下がって降りていくと、意外と井戸が深いことに気が付きます。
上から三人が覗いているのは見えますが、すごく小さく感じたそうです。
そして間もなくして、井戸の底に到達しました。
底は、落ち葉が貯まっていて、何故かどれも乾燥しておらず、真新しかったそうです。
「なにかあるー?」
Bさんの声が聞こえます。
少年は手渡された懐中電灯の光で辺りを照らしましたが、大したものはなにも見つかりませんでした。
んー、なにもないよ
少年がそう答えようと上を見上げた瞬間。只でさえ暗かった井戸の中が、真っ暗になりました。
寸秒。少年は、何が起こったのか理解できませんでしたが、すぐに蓋を閉められたことに気が付きました。
ふざけんな! 開けろ!
少年は声を張り上げて怒鳴りますが、一向に開く気配がありません。加えて、運悪く唯一の光源の懐中電灯の光が明滅し始めたそうです。
そんな状況に絶望していると、上。井戸の外から、こんな声が聞こえました。
「いかん! 蓋が開かなくなった!」
「直に大人を呼んで来るから、待っててくれ!」
早くしてくれ! 少年がそう叫ぶと、
「わかった!」
という返事とともに、三人が走り去っていく音が聞こえました。そして遂に、懐中電灯の光が消えて真っ暗になりました。
どうすることもできない状況で、真っ暗な狭い空間に閉じ込められた。少年は、発狂しそうになりながらも、助けが来る。それだけを支えに、なんとか正気を保ちました。
十五分経ちました。助けは来ません。
三十分経ちました。助けは来ません。
一時間経ちました。助けは来ません。
一日経ちました。助けは来ません。
一週間経ちました。助けは来ません。
一ヶ月経ちました。助けは来ません。
ええ。はい。おしまいです。
さあ? 彼はいったい、どうなってしまったのでしょうね。存外、どうにもなっていないのかも知れないですね?
ところで。井戸とは、古くから、あの世への入り口。生と死の境界として、語られることがありますが……はてさて、彼が迷い込んだのは、いったい何処だったのでしょうか? 謎が深まりますね。
さて、それでは、今夜もお付き合いいただき、ありがとうございました。