怪談語   作:おしまい。

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七話目『おしまいの話』

 さて、あなたは、神さまというものを信じていますか?

 なるほど。悲しいですが、現代的ともいえますね。⋯⋯これは、信仰を失くし、零落した神さまのお話です。

 

 では。

 

 

八十穢畏比売命(ヤソケガレカシコヒメノミコト)

 

 昔。とある山間の村に、一つの沼がありました。

 大きな沼ではありません。周囲を歩いても、半刻とかからない程度。水は濁っていて、底は見えず。魚もあまり棲まない。

 村人たちも、好き好んで近づくような場所ではなかったそうです。

 

 その沼の畔には、小さな祠がありました。

 祀られていたのは、女神さま。

 名を、影沼禍津比売(カゲヌママガツヒメ)。といったそうです。

 なんでも、古くからその土地に坐す、水と影そして、恐怖を司る神さまだったとか。

 

 村人たちは毎年、夏の終わりになると、沼へ酒と米、それから黒い布を供えました。

 そして、日が暮れる前に家へ帰る。それだけ。祭りというには、随分と簡素なものでした。ただ、一つだけ決まりがありました。

 供物を置いた後、決して沼を振り返ってはいけない。

 何か音がしても。誰かに名前を呼ばれても。泣き声が聞こえても。笑い声が聞こえても。絶対に、振り返ってはいけない。

 なぜなら。振り返れば、神さまと目が合うから。そう伝えられていたそうです。

 

 時代が流れました。

 村には道路が通りました。電気が通りました。若い人たちは町へ出ていきました。

 そして、影沼禍津比売(カゲヌママガツヒメ)を祀る人も、少しずつ減っていきました。

 そもそも、何のために祀っているのか。それすらも、誰も彼もが忘れ去りました。

 水害を防ぐ神なのか。豊作の神なのか。悪いものを封じている神なのか。古い記録も残っていない。

 ただ、昔からそうしているから。

 それだけの理由で、供物を続けていた。ですから。やがて、誰もやらなくなりました。

 祠は朽ち。沼へ続く道も草に埋もれ。影沼禍津比売(カゲヌママガツヒメ)という名前も、忘却の彼方へとおいてゆかれました。

 

 祠は朽ち果て、信仰は廃れ、名も忘れ去られ。『それ』は自由の身になりました。影沼禍津比売(カゲヌママガツヒメ)という楔から解放され、自由に闊歩出来る存在へと零落しました。

 しかし、『それ』は気に留めませんでした。『それ』は気ままに各地を渡り歩き、今の時代を観て回りました。

 ある時、『それ』は気が付きました。自身の力が弱まっていることを。そして、信仰を失った人々も、不思議なことに恐れることだけはやめなかったことを。

 

 七という数字。その意味を考えたことは、ございますか?

 七とは、「お七夜」や「七つまでは神のうち」、「七福神」というように、特別な数字として扱われております。

 それは、この国だけではございません。南蛮宗の教えの様に、この国の外でも、七とは特別で、大変力のある数字とされております。

 

 わたくしも、その七の力に肖ってみたく、こうして。あなたにお話をさせていただいているのです。

 七日七晩、七つのお話を、七歳のあなたに。

 そして、あなたで七人目。

 

 

 (わたくし)は、(あなた達)の畏れを糧にする故に。

 

 

 おしまいです。この七日間のお話も。そして、あなたも。

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