転生したらカミソリ女騎士の部下になりました   作:ダレ狐

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不毛の大地
おっさん、草むらからストーカーに会う


神聖法皇国家ルベリオス付近の草原

 

ここに戻ってくるのは約半年ぶりだ。

 

クリスマス会が終わった後に遠征が始まり、その後は緊急調査としてジュラの大森林へ向かった。

 

そして――ヒナタの恩人でもあるシズさんに出会った。

 

「半年どころか、一年以上も離れてた気分だな」

 

オートバジンで駆け抜けながら、ルベリオス前の草原へと移動する。

 

懐かしさに少し思いを馳せていたが――。

 

「……あと少しなのに、面倒な予感がするな」

 

先ほどの街から、妙に視線を感じていた。

 

そのため草原へ移動し、何者かが付いてきているのかを確認した。

 

後方の街からは、もう視線を感じない。

 

だが――前方から、英雄覇気の気配を感じるようになっていた。

 

英雄覇気。

 

一定以上の強者が身に纏う、バトル漫画でいうところの「オーラ」のようなものだ。

 

この先にあるのはルベリオスしかない。

 

つまり、身内である神殿騎士団の関係者なのは確定だ。

 

しかし、こんな馬鹿みたいな圧を出してくる奴には心当たりがない。

 

「勘弁してくれよ……。ヒナタに色々と報告することがあるんだぞ」

 

ここは草原で、身を隠せる場所はない。

 

英雄覇気を出したのは、俺の位置を探知するため。

 

そして、その気配は確実にこちらへ近づいてきている。

 

「見つけたぞ! ケイゴ・タダノ!」

 

草むらから、むさ苦しいおっさんが馬に乗って現れた。

 

「……あぁー、めんどくさい」

 

どう見ても、同じ神殿騎士団でも聖騎士団では見たことのない男だ。

 

となると、噂に聞く三武仙の一人で――。

 

「確か……睾丸のグリコ!!」

 

「巨岩のグレゴリーだ! 『グ』しか合ってねぇーぞ!」

 

「『ガン』も合ってるぞ?」

 

「揚げ足を取るな! まったく、噂通りの腑抜けた野郎だ!」

 

「三武仙の一人が、なんでストーカーみたいな待ち伏せしてるんだよ?」

 

「誰がストーカーだ! 俺は貴様の実力を見るために待ち伏せしていたんだ!」

 

怖っ!

 

こいつ、自分で言ってること分かってるのか?

 

ゴツい見た目に反して、粘着質なタイプかよ……。

 

めんどくさいわぁ。

 

「意味が分からないんだが? それなら訓練所でいいだろ? 何が楽しくて、おっさん二人で草原で仲良くピクニックなんだよ」

 

「誰が貴様とピクニックするか! てめぇと俺たちが一緒に次の任務へ行く話が出たんだ! 三武仙全員とお前、それに騎士団から二人も付けて行うってな」

 

「えぇ〜。その戦力なら、俺いらなくない?」

 

「俺一人で十分だ。なのに、あの騎士団長め……」

 

「なら、本人に言ってこいよ。ここで俺に八つ当たりするために待ち伏せするなんて、精神的に病んでるぞ? ハーブティーでも飲んで落ち着けよ」

 

「勝手に話を進めるな! 本題はここからだ。この任務は、お前の実力を見るために三武仙が同行するのが目的だ。聖騎士団の二人は、俺たちの見張りだ」

 

いや、待てよ。

 

そもそも、なんで俺の実力を見ることになったのか、その経緯が全然説明されてないんだが……。

 

というか、ヒナタの奴、思念伝達や手紙とかで連絡できただろうが。

 

人には報連相を厳しく求めるくせに、自分には甘くねぇーか?

 

「はぁ〜……。つまり、その任務が始まる前に、わざわざ俺の実力を見るというより、再起不能にするか、騎士団を辞めさせるために『ここ』に来たってことかよ……。訓練所なら止められる可能性があるから」

 

「そうだ。少なくとも殺しはしないさ。もっとも、実力がなければ死ぬほど苦しい目には遭うがな」

 

グレゴリーは馬から降りると、背中にマウントしていた斧槍を構えた。

 

俺もオートバジンを魔法陣へと戻す。

 

この辺りからルベリオスまでは、馬なら一時間。

 

聖騎士団以上の実力者なら、十分もあれば来られる距離だ。

 

先ほどの英雄覇気で、グレゴリーがここにいることは把握しているはず。

 

なら、それまで避け続ければ俺の勝ちだな。

 

「悪いが、俺にメリットがないから逃げさせてもらう!?」

 

俺が言い終わるより早く、グレゴリーが頭上へと跳び上がり、斧槍を振り下ろしてきた。

 

咄嗟に横へ飛び込み、斧槍の軌道から逃れる。

 

ドゴォォォォン!

 

グレゴリーの攻撃が地面を直撃する。

 

その一撃は周囲の草原を吹き飛ばし、クレーターを作るほどの破壊力だった。

 

「ちっ、図体の割に速い」

 

「手加減したとはいえ、俺の一撃を避けるとは……。神殿騎士団の中でも、そうはいないぞ」

 

「なら、実力ありってことで終わらないのか?」

 

「抜かせ。一撃避けただけで終わるわけないだろ?」

 

グレゴリーは斧槍を構え直す。

 

「さあ、どこまで逃げられるか見せてみろ!」

 

「……やっぱり、めんどくせぇ奴だな」

 

俺は構えを低くし、グレゴリーの動きを見据えた。

 

「オラァ!!」

 

「くっ!」

 

今度は斧槍を突き出してきた。

 

俺は咄嗟に手足へ『烈火』を纏わせる。

 

炎を一気に噴射し、その推進力で身体を上空へと跳ね上げた。

 

「逃がすかよ!!」

 

グレゴリーは即座に斧槍の穂先を上空へ向け、突き出してくる。

 

「くっ!」

 

咄嗟に十手で槍の刃先を受け止め、串刺しになるのを避けた。

 

だが――。

 

「がっ!」

 

斧の刃が横腹を掠め、服が裂ける。

 

その傷口から、わずかに血が滲んだ。

 

「そのまま、草原で寝てろ!!」

 

「嫌じゃ!」

 

グレゴリーは斧槍をそのまま俺ごと地面へ叩き付けようと、勢いよく振り下ろした。

 

「くっ!」

 

俺は十手に烈火の炎を込める。

 

炎を一気に噴射し、斧槍から離脱する。

 

そのまま空中で体勢を整え、何とか地面へ受け身を取って着地した。

 

けれど、俺が体勢を整えるより早く、グレゴリーは地面に叩き付けた勢いを利用して体当たりを仕掛け、間合いを詰めてきた。

 

「まだ、終わってねぇーぞ!」

 

「ちっ!」

 

俺はスライディングするようにグレゴリーの足元へ飛び込み、身体を丸めた。

 

背中には大盾がマウントされている。

 

そのため、グレゴリーの体当たりを大盾で受けても、大したダメージにはならない。

 

「てめぇ、ダンゴムシか!?」

 

咄嗟に間合いを詰められたグレゴリーは、俺の足元にぶつかってバランスを崩し、そのまま前方へ転がっていった。

 

俺はその隙に体勢を整え、十手に烈火を込めて赤く熱した状態にする。

 

「あぁ? 何だそれは? そんな鉄の棒切れで、俺の武器に対抗できると思ってるのか?」

 

「心配するな。ここからは逃げずに、全部弾いてやるよ」

 

「へっ、すでに泥まみれのお前に何ができるって?」

 

「いいから来いよ……。だからヒナタに勝てねぇーんだよ」

 

「上等だ! 串刺しにしてやる!!」

 

猪突猛進の猪みたいに、真っ直ぐ俺の腹を目掛けて突き刺しに来るグレゴリー。

 

だが、突き刺す寸前――俺が先に動いた。

 

斧槍の刃へ十手を叩き込み、突進の勢いを殺して動きを止める。

 

「バカな……俺の突進が、こんな腑抜け野郎に?」

 

「俺の国の武術、合気道は、相手が攻撃する前に対処するのが基本なんだよ。さっきまでの攻防で、お前の攻撃の間合いはだいたい掴んだ」

 

「なるほどな……。だが、この程度で俺を止められると思うな!!」

 

グレゴリーは咆哮しながら、止められた斧槍をそのまま馬鹿力で押し込んでくる。

 

そのまま十メートルほど押し切られた。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

「なんて馬鹿力だ……。なら、そのまま焼かれろ!!」

 

烈火の炎を灯した十手から火炎が放出され、武器を通してグレゴリーを焼こうとする。

 

「ふん!」

 

だが、グレゴリーは斧槍を一旦横薙ぎに払い、俺との間合いを離した。

 

無理やり押し出された体勢からの横払い。

 

俺が踏ん張って耐えている隙に、グレゴリーは斧槍を振りかぶり、勢いよく振り下ろした。

 

「貰った!!!」

 

「俺がな!」

 

だが、振り下ろされた斧槍の刃先は――。

 

振り下ろした瞬間、根元から折れ、そのまま後方へ飛んでいった。

 

「バカな……何故折れた!?」

 

「その斧槍の先端を見てみろよ」

 

グレゴリーは自身の武器を見る。

 

斧槍の先端は超高温で熱せられ、赤く染まり、溶け始めていた。

 

「原理はシンプルだ。俺の烈火は、炎の操作を自在にできる。さっきの突進の時に、十手から熱を移動させたんだよ」

 

「熱を移動だと?」

 

「その熱を斧槍の付け根部分に集中させれば、お前の怪力で振り下ろした瞬間に――」

 

俺はニヤリと笑う。

 

「『ポッキリ』折れるんだよ」

 

「ケイさーん!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

フリッツとリティスを皮切りに、聖騎士団と、見たことのない二人――おそらく残りの三武仙――が集まってきた。

 

そして――。

 

「これは、もうケリはついたようね」

 

十大聖人のトップであるヒナタ団長まで姿を現した。

 

「皆さん勢ぞろいで、俺に会えなくて寂しかったのかな?」

 

「そこのグレゴリーが突然、英雄覇気を出したから様子を見に来たのよ」

 

「でしょうね……。んで、どうするんだ、グレゴリー? ここで終わりでいいか?」

 

「ふざけるな! 俺は奴に攻撃も受けてねぇー! 奴に対しても、まともに一撃も与えてねぇー! このまま終われるか!」

 

グレゴリーは折れた斧槍をその場に叩き付け、拳を前に突き出した。

 

「なんでまだやる気なんだよ? 上司の目の前で言うか、普通?」

 

「舐めた態度という点では、貴方も大して変わらないわ」

 

「酷くない? 半年ぶりに会う部下に言うかな? 普通」

 

「半年ぶりに見るなら、なおさら今の実力を見せなさい。リティスがいるから、大抵の怪我なら治るわ」

 

おっと、このカミソリ女騎士はアレか?

 

昭和のヤンキー世界から来たのか?

 

もはや騎士団が氣志團に見えてきたぜ〜。

 

アフー。

 

「へっ、話が分かるじゃねぇーか! 俺が軟弱な聖騎士団に負けるかよ!」

 

「ほぉ〜。軟弱だと? こうなったら、やってやれケイゴ!」

 

「そうだな。お前の実力を見てみたい」

 

「おい、アルノー、バッカス? お前らは止める側だろ?」

 

「いいから、本気のお前の強さを見せてやれ!」

 

「そうだよ! ケイさんは、やる時はやる男なんだから!」

 

「大丈夫です。私がいるので、怪我の心配はしないでください!」

 

「ギャルド、フリッツ? 空気読んで醤油一気飲みして黙ってろ!」

 

俺はリティスを見る。

 

「リティスちゃん、今の俺の姿見てよ。ボロボロよ?」

 

「諦めなさい、ケイゴ……。騎士団にいる以上、強さを見せる必要があるのです」

 

「何、良いこと風に逃げてるんだよ、副団長? あんた、こいつら止めるのが面倒なだけだろうが!!」

 

何だよ、どいつもこいつも、変にやる気あるんだよ!?

 

旅の疲れと、さっきまでの戦いで俺の魔力もほぼ尽きかけてるんだけどな……。

 

やる気出ねぇ〜。

 

「ふん、雑魚の傷の舐め合いか? こんなしょぼくれたおっさんに必死になって擁護するのは理解できねぇーぜ」

 

グレゴリーの言葉を聞きながら、俺はタバコに火を付ける。

 

「ふぅ〜……。団長、とりあえず一撃当てたら終わりでいいですよね?」

 

「ええ」

 

「何だ? 団長が来て、アピールするためにやる気が出たのかよ?」

 

「いや、ここで中途半端にゴネても終わりそうにないからな」

 

俺は背中にマウントしている大盾を取り出し、左手で十手を構えた。

 

「素手のところ悪いが、俺は武器を使わせてもらうぜ」

 

「好きにしな。お前程度の奴なら、どんな手を使っても俺の『巨岩』と言われた肉体にダメージを負わせることは不可能だ!」

 

「どんな手でも?」

 

「あぁ〜、好きにしな! へなちょこの攻撃にやられる俺じゃねぇーぜ!」

 

「言質は取ったぜ……。そういえば、お前は俺を騎士団から除隊させるつもりとか言ってたよな?」

 

ここに来て、俺はある面白いアイデアを思いついた。

 

「あぁ? それがどうした?」

 

「どちらが先に一撃を与えるかで勝敗を決める。つまり、勝者の言うことを聞くっていうのはどうだ?」

 

「ちょっ! ケイさん!?」

 

「いいのか? 俺が勝てば、騎士団を除隊だぜ?」

 

「良いぜ。その代わり、俺が勝ったら次の任務の期間中は『睾丸のグリコ』と名乗れよ」

 

「なぁ!? 貴様、俺を愚弄する気か?」

 

「何だよ。こっちはお前の独断で要らぬ怪我までしてるんだぜ? 俺は職のクビが掛かるのに、お前だけ何もなしはないだろ?」

 

「なら、俺も同じように――」

 

「お前がクビになることなんて興味ねぇんだよ」

 

「貴様……」

 

「貴方が始めたことでしょう? それぐらいの気概もなく、勝手に団員に手を出したのよ? 除隊されないだけ有難いじゃない」

 

「さすが、団長〜。話が分かる」

 

「それとも、勝てる自信がないのかしら? ご自慢の武器も壊されて、不安なのも分かるけどね」

 

「クソがぁぁぁぁ!」

 

ヒナタの言葉をトドメに、グレゴリーはキレて叫び出した。

 

「上等だ! なら、こっちは全力でお前を叩き潰す!」

 

ドン!

 

「なぁ!?」

 

グレゴリーがヒナタに視線を向けた隙に、俺は大盾を烈火の炎で大砲の弾のように弾き飛ばした。

 

「試験じゃねぇーんだ。敵に隙を見せるなよ」

 

「舐めるな!」

 

グレゴリーは拳にオーラを集中させ、俺の大盾を吹き飛ばした。

 

だが、その背後には――。

 

烈火で作り出された特大のファイヤーボールが、眼前へ迫っていた。

 

「こんなもん!」

 

グレゴリーは両手で受け止め、ファイヤーボールの進行を止める。

 

「俺に効くかぁぁぁぁ!!」

 

両手で挟み込むようにして、ファイヤーボールを破壊したグレゴリー。

 

俺の攻撃は終わったと思っていた。

 

だが――。

 

ボコーーーーン!?

 

「あう!?」

 

グレゴリーの股間――前立腺……もとい、その急所へ石が強烈に直撃した。

 

「これは……」

 

「てめぇが俺を突進で押しのけた時、足場から掘り返された地面に転がってた石だよ」

 

「なるほど。大盾で不意を突いて、その裏で特大ファイヤーボールを投げた。視界を奪われた隙に、石でグレゴリーの局部を狙ったようね」

 

「団長、解説ありがとうございます」

 

「てめぇ……最初から……」

 

股間にクリティカルヒットを受け、膝から崩れ落ちるグレゴリー。

 

悶絶しながら、そのまま気絶した。

 

「四十肩は堪えるな〜。柔軟体操すれば良かった」

 

俺は石を投げる時に全力投球したせいで、肩に痛みが走り出した。

 

「ケイさーん!」

 

「やったな、ケイゴ!」

 

戦闘が終了すると、フリッツとギャルドが駆け寄ってきて、俺を激励してくれた。

 

リティスちゃんも俺を心配して駆けつけてくれた。

 

「やめろ! ダメージあるんだ!! リティスちゃん、頼める?」

 

「分かりました。見せてください!」

 

正直、こいつとの勝負にも、そこまで執着はなかった。

 

だが……グレゴリーが皆をバカにした時の、あいつらの顔を見たら――。

 

おっさんも、意地を通さないとなって思ってしまったよ。

 

改めて思う。

 

この世界の……俺の帰る場所なんだよな、ここは。

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