記憶喪失だけど元気いっぱいな母性あるTS娘が、記憶を取り戻してめちゃくちゃ挫折して心が折れた状態に戻る話   作:ももはね

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彼女は過去を、
私は現在(いま)を、
愛する人をより愛してる。


ヒソラ編 醜い欲望

 

 

 私──風枝(かぜえだ)日空(ヒソラ)は……きっと、シロの変化を喜んでしまっているのだろう。

 

 とある日の皆の会話を思い出す。あれは、まだ記憶を取り戻す前のこと。

 

 

 『結婚かー、僕もするのかなー?』

 『……そもそも、シロさんって恋愛対象どうなってるんですか?』

 『え、バチバチ女の子をエロい目で見てるけど……そういうことじゃない?』

 『性欲と色恋を同一視するならそうですね。夢がないですけど! ていうかお嬢様が居るのにそういうこと言わないでくださいって何度言えばいいんですか!? ヒソラ様からも言ってやってください!』

 

 それに対し、私は……つい、弱音を見せてしまった

 

 『シロさんは……いつか、当家を出ていくつもりなのですか?』

 『……へ?』

 『お嬢様と一緒に寝て、一緒に任務で遠い場所へ赴き、吸血で体調を崩す。今のような毎日は、結婚したら難しいと思いますが』

 『あー、考えてなかった。盲点だね』

 『っ……し、シロ、いなくなっちゃう、の?』

 『んんっ……いやでも……お嬢様も流石に僕に依存し過ぎ感あるしなぁ……いつか卒業を考えると──』

 

 居なくならないで欲しい。ずっと居て欲しい。今の、穏やかで幸せな日常をずっと続けて欲しい。

 

 わかっている。

 わかっているとも。

 いずれ、お嬢様は成長し私を必要としなくなるだろう。ミアカも年頃になれば結婚し子を成すだろう。二人にはやるべきことがあって、やれることも沢山あって。私だけは、きっと今の立場から大きく変わることはない。

 永遠なんてモノは存在し得ない。

 でも、シロだけは……名前も、過去も、家族も、何一つない全てを失った彼女だけは、ずっと私の手元に居てくれると……信じたかったのだ。

 

 だから、嫌だった。

 

 シロが結婚するだなんて考えたくもない。ずっと、ずっとずっと、私の鳥籠の中で大人しく幸せで居て欲しい。そうすれば、お嬢様もずっと居てくれる。ミアカも、何だかんだ立場があるし今ほどとはいかなくとも完全な別離にはならない。

 

 『んー、でも、見守り様にもらった魔法具があれば、僕の血を栄養満点のままで保存できるらしいし……頼み込んで量産してもらう?』

 『いや、その血液の生産元が結局シロさん一人なんだし入れ物だけ増やしても意味ないんじゃ……それに、最古の魔法少女様に対して気軽に頼めやしませんよ』

 『そう言われるとそうなんだけどさ。でもねぇ、ヒソラさんも良い加減お嬢様は少しくらい僕離れした方が──』

 

 やめて。やめてやめてやめて。私の平穏を壊さないで。

 

 『……いえ、もう少し後でも問題はないかと』

 

 

 だから、だからだから、嬉しかった。

 

 

「あはは、追い出されでもしない限り、僕がここを出ることはないんじゃないかな。やりたいこととかないし」

 

 

 いつの間にか、自由に飛べるはずの白鳥は広くも狭苦しい鳥籠に自ら閉じ込められてくれていた。

 過去も未来もない。現在(いま)からの変化を望まない。そんな停滞に自ら羽を降ろしたのだ。

 

 

「でもまさか、田中さんが結婚するなんてなー。あんな仕事一筋ですって感じだったのに」

 

 

 わかっている。

 わかっているのだ。

 人が自らの可能性を閉ざすこと、それを喜ぶなんていけないことだ。真に私がシロの幸せを望むのなら、彼女の可能性と未来を信じ背中を押してやらねばならない。

 そんなこと、わかっているのだ。

 でも、堪らなく嬉しかった。

 

 これでもう、白鳥(シロ)が勝手に逃げ出すことはない。

 

 あれこれ考えた。どうすれば現在(いま)を永遠にできるのか。

 そんな醜い執着心を握り締めていた幼い私の心は独り苦悩していて、でも、もう鎖で繋がなくとも飛び立たないと気づいて。自分勝手な悩みから、ついに救われたのだ。

 

 

「ええ。私も青天の霹靂でした。魔法少女は妊娠に時間が掛かりますからね。早く穴を埋めて、自由にしてあげなくては。新しい人探しで大変ですよ」

「言うて三十路はとっくに入ってたんでしょ。年齢的にはじゃない?」

「いえ、魔法少女は魔力の影響で寿命が少し長いですから。適齢期も応じて伸びていますし……少し前も、どこぞやの名家で六十歳で出産した方が居るとか」

「もうずっと適齢期じゃないのそれ?」

 

 

 否定も肯定もせず、黙って手元の菓子を摘んだ。

 今日は珍しく、私とシロの二人きりだった。

 いつもシロにへばり付いて居るお嬢様がテレビに影響されてお使いに行って、ミアカはその後をこっそり付いて行った。

 本当は私が行くつもりだったのだが、ミアカから、

 

 『ヒソラ様には、シロさんと少しお話してもらっていいでしょうか。私だけじゃ……駄目なんです』

 

 と、鬼気迫る表情で言われたので流石に断れず、こうして小さな机を二人で挟んでお茶会となっていた。

 ミアカが何故私にそんなことを頼んだのか。その理由はわかっている。

 シロの変化を『良くないモノ』として、なんとかして悩みを解決させて、真昼の太陽みたいな明るさを取り戻させたいのだろう。

 

 

「ヒソラさんも結婚はするの? お嬢様の側仕えみたいになってるけど、それでも風枝家の中では上から二番三番くらいには偉い立場だったよね。周囲から何か言われない?」

 

 

 だが、彼女は大きな勘違いをしている。

 いっそ、致命的とさえ言えるほどに大きな勘違いを。

 

 

「しろ、とは言われていますが、今や親兄弟すら派閥としては敵ですからね。従う理由がありません。それに、したい相手も居ませんし……」

「……?」

 

 

 改めて考えて、やはり思う。

 私は過去のシロももちろん好きだ。一緒に居ると楽しかったし、明るくなれたし、元気になれた。自分を真人間だと思えた。それを、演じられた。 

 でも、それは……例えるのなら、月の表側のような話だ。

 どれだけ陽光に照らされていようと、裏には暗い闇が広がっている。それと同じように、シロに照らされていた私には、仄暗い欲望を秘めた本音があった。

 

 

「風枝家は、魔法少女の名家としては最高位の権威ですし、私自身もお嬢様を除けば最強に近しい魔法少女。下手な相手を選べば様々な秩序や安寧を乱しかねませんので」

 

 

 ミアカは善人だ。

 だから、私のような醜い悪人の欲望なんて想像もできないだろう。

 シロには鳥籠の中にいて欲しい。飛び立つのなら、いっそのこと翼を手折らせて欲しい。

 そうすれば、その柔肉を求めてお嬢様とミアカもずっと居てくれるから。

 

 

「立場的にってことかー。あはは、偉いってのも大変だー」

 

 

 だから、私にはシロの悩みを解決させる気なんて一切ないのだ。

 

 

「まあ────」

 

 

 そう言えば、中部の南辺りに女同士で子を作れるようになる魔法があるのだったか。

 私は忙しいし、立場上穴を開けることなんてできやしない。だから、私がシロを妻として私の子を────

 

「────いえ」

「……?」

 

 

 待て。待て待て待て。

 私は、今、何を……何を考えていた?

 

 別のことに意識を割き過ぎて、あまりにも迂闊になっていた口元を抑えながら密かに視線をシロへ向ける。

 

 駄目だ。悪いことだ。それは。

 シロを孕ませてしまえば自由に逃げられないとか。自分の物にしてしまえるとか。

 

 ああ、そうだ。シロをお嬢様と共有すれば、もっとずっと一緒に居られる──だから、やめろ、私。これはいけない考えだ。

 

 あっ、お嬢様とシロの子供って絶対可愛い……じゃない。

 

 

「あ、そう言えば百合園キングダムだっけ」

「……っ」

「女同士でも子供ができるようになるって魔法具あるんだってね。名家の人でも女同士で結婚する人っているの?」

 

 

 別に嘘なんて吐いていないのに、まるでそれを見破られたような心地になって、咄嗟に緊張を押し殺す。

 だが、今こんな状態で口を開いてしまえば一体どんなことを口走るか自分でもわからない。平然を装って、時間を稼ぐ為に菓子を一つ摘んだ。

 

 

「……多くはないですが、居たはずです。先ほどの魔法も、使えるのは魔法少女限定というのもありますし、名家の当主は多くが魔法少女ですからね。時期が悪く婚姻相手に恵まれなかった方々が、という話は時折耳にします」

「へー、おもしろー」

「……興味、あるのですか?」

「使いたいって訳じゃないけど、気にはなるじゃんね? 染色体とかどうなってんねーん、みたいな」

 

 

 雪のように白い髪、陶器のような肌。ちょっとだけ小柄だけど、胸は大きい。少し前まではお嬢様を抱っこして移動したり、暇さえあれば走り回っていたけれど、最近は出不精が悪化していて、少しだらしない肉が付いて来たような気がする。

 いや、決して肥満という訳ではないのだ。日々お嬢様から吸血され、貧血の毎日。むしろ、今までが痩せ過ぎていたくらいで。

 

 

「んー、どうかした?」

「……いえ、どうかされましたか?」

「いや、なんかすごい見つめてくるから……ゴミついてる?」

 

 

 そう言いながら、シロは自分の髪や胸元を手で払う。

 可愛い、な。

 これを自分のモノにできれば──ずっと閉じ込めてしまえば──抵抗なんてできないし、しないのでは──。

 

 飛び跳ねるようにお茶を手に取ると一気にそれを飲み干す。

 

「ひ、ヒソラさん……?」

「急用を思い出しました。失礼します」

 

 

 早足で自室に向かうと、自分の布団へ崩れ落ちるように寝転んだ。 

 今日は久方ぶりの休みだ。今から昼寝をしたって誰にも迷惑は掛からない。服は……そのままだから、皺が酷いことになりそうだけど、着替える余裕なんてなかった。今、着替えの為であっても服を脱いだらどうにかしてしまいそうだった。

 妙な熱暴走を起こした頭を冷やす為、目を閉じた。

 

 






 息抜きのはずの今作なのに考えれば考えるほどドツボにハマったので途中だけど出しちゃいました。
 なので、ヒソラ編が次も続きます。


 あと、現状すでにシロへの矢印が割とデカいし、この先のお嬢様編に入ると、お嬢様からシロへの矢印がとんでもないことになりますが、作者はTS娘(男→女)と女のCPは、百合と認めたくない思想の持ち主なのでGLタグは付けません。付けたくありません。
 カクヨムの百合コンテストにTS物が入ってるのも正直気に食わないくらい過激派なのです。



 。 以下作者の独り言 。

 ヒソラって、作中で一番政治とか世界観と関わりの深いキャラなので色々とお話させようとすると固有の言葉が頻出しちゃうんだよね。だから、まるで設定資料集みたいなことになってしまうねんな。
 その辺の引き算が……うごごごごご。

???「パルスのファルシのルシがコクーンでパージ」



 それと追加で、ヒソラのキャラ詳細を深く考えていなかったツケがまわってきた回でした。

 家族の愛を知らない、母性に飢えて居る、可愛い物好き、真面目。
 ミアカと仲が良い、意外とゲームとかやるタイプ(ミアカに教わった)、お嬢様が好き。
 家族から愛されていないことからお嬢様と自分の過去を重ねて居る……など、フワっとは考えてたんだけどね。


 でも、あれ、おかしいな。
 ヒソラはクールビューティなイメージしてたんだけどな……気付いたらメンヘラの変態になっていたぞ。しかもふ○なり志望。
 何がどうなってるんだこれは。


 百合園キングダムは我ながら気に入ってた設定でオリジナルの方でも出したいんだけど出すタイミングがわからない……というか、ギャグにしかならないので、今作で出しときました。これで成仏できます。
 一応補足で、バイブみたいに装着するんじゃなくて遺伝子情報から見合ったモノを生やすタイプなので、お風呂に入っていればちゃんと清潔だよ。

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