あかねのたいよう   作:かぜのこ

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第50回:『姫川大輝』

 

 日野ハルトという大黒柱を欠いた稽古場には、冷え冷えとした浮足立った空気が渦巻いていた。

 どこか落ち着かない様子で目線を泳がせるキャストたち。演出助手や裏方のスタッフまでもが、どこか指示待ちの動作でぎこちなく動き回っている。これまで圧倒的なカリスマと演技力、推進力で現場を引っ張ってきたハルトの存在感に気後れしていたキャスト陣も、その不在がもたらした大きすぎる穴に、大小あれど隠しきれない動揺を見せていた。

 病院での検査を終え、劇場へと戻ってきたあかねを見つけるや否や、アクア、かな、そして鳴嶋メルトの三人がすさかず駆け寄ってきた。

「黒川! ハルトの奴、どうだったんだ!?」

 真っ先に声を張り上げたのはメルトだった。眉をひそめ、焦りを隠せない様子で立ちふさがる。

「……あかね、ハルトの状態は? 病院で何か言われたか」

 アクアもまた、底知れぬ静かな瞳の奥に心配の色を滲ませて問いかけてくる。その横で、かなも肘を抱えながら、心配そうにあかねの顔を覗き込んでいた。

「みんな落ち着いて。……ハルトくんは病気なんかじゃなかったよ。ただの重度の過労と、極端な寝不足が重なった立ちくらみなんだって。精密検査でも異常はなかったから、安心して」

「ふぅ……なんだ、ただの知恵熱と寝不足かよ。人騒がせな奴だな……」

 メルトが露骨にホッと胸を撫で下ろし、息を吐き出す。

「そう……良かったわ。あいつがいないと、この現場、本当に締まらないんだから」

 かなも胸に手を当てて小さく息を吐いた。だが、アクアは眉間のシワを深くしたままだ。

「……それで、今日はもう戻ってこないのか」

「うん。今日と明日は完全にドクターストップで、現場に来るのは禁止。金田一監督も『絶対に部屋から出すな』って言ってるから、二日間はしっかり休んでもらうことになってるの」

 あかねの説明に、三人はそれぞれ納得したように頷いた。

(よし……ハルトくんの心配はこれで大丈夫。今は私にできることを、精一杯やらなきゃ)

 あかねは自らの両頬を軽く叩き、意識を切り替えた。

 本日の稽古は、金田一の指揮のもと、ハルト――作中における絶対的な強者『波旬』の不在シーンを中心に進められることとなった。ハルトという巨大な存在がいないこの機会を利用して、金田一は役者たちの芝居の擦り合わせだけでなく、音響のタイミング、プロジェクションマッピングによる空間演出、殺陣における裏方の転換など、特殊効果を含めた細かい細部を重点的に詰めていく算段のようだった。

 あかね演じる『鞘姫』の出演シーンも決して少なくはないが、全体で見れば手待ちとなる時間が長かった。舞台袖の薄暗いパイプ椅子に腰掛けたあかねは、付箋や蛍光ペンのメモ書きでびっしりと埋め尽くされた台本を開き、頭の中で幾度もイメージトレーニングを繰り返していた。

 カツ、カツ、と静かな足音が近づいてくる。

「今、いいか。黒川」

 声をかけてきたのは、劇団ララライの看板役者であり、今作の主演を務める姫川大輝だった。稽古着のまま、腕を組んであかねの傍らに立っている。

「あ、はい! 姫川さん」

「日野のこと、聞いたよ。大事にならなくてよかったな」

「はい! 本当によかったです」

 ぱあっと花が咲くような笑顔を見せるあかね。今頃はハルトの自宅でおとなしく横になっているであろう彼の姿を思い浮かべるだけで、胸の奥から温かいものが込み上げてきて、自然と口元が緩んでしまう。

「……黒川は、本当に日野のことが大好きなんだな。あいつの話題になると、いつも声が1オクターブ上がるみたいだ」

「えっ……!? や、そんな、私……っ!」

 予想外の指摘に、あかねの顔が一気に耳まで真っ赤に染まる。両手で頬を押さえる彼女を見て、姫川はふっと口元を緩めた。

「いや、すまん。揶揄するつもりはなかったんだ。あまりにもストレートで、微笑ましくてな」

 静かに笑みを漏らした姫川だったが、すぐにその表情から柔らかさが消え、少し探るような重い気配へと変わった。一度言葉を切り、周囲を警戒するようにやや声を潜める。

 その視線は、遠くで散漫な動きを見せている他のキャスト陣や、不安そうに打合せをするスタッフたちへと向けられていた。

「……それで、本題なんだが」

「はい?」

「今の現場の空気、どう思う」

 直球の問いかけに、あかねは少し息を呑み、慎重に言葉を選んで答えた。

「えっと……あまり、よくないと思います」

「そうだな。ただでさえ日野に対して萎縮していた連中が、あいつが離脱したことで余計に動揺してる。自分たちがどれだけ日野に手厚くフォローされてきたか、いなくなったことで今さら自覚したんだろうな」

 眉間に深い皺を寄せ、どこか自棄気味に、それでいて己や周囲を責めるような口ぶりの姫川。

 あかねはハッとして姫川の横顔を見つめた。

(……姫川さんは、私とは違う視点で見ているんだ)

 自分自身の演技の追求で手一杯になりがちなあかねと違い、姫川はこの舞台の真の『主役』であり、劇団ララライを背負う看板役者だ。全体を見渡し、作品全体のクオリティと一座の空気感を誰よりも気にかけている。その責任感と広い視野は、どこかハルトの立ち振る舞いと重なって見えた。

 そしてその事実は――あかねの胸の奥底に、ちくりとした昏い嫉妬の感情を芽生えさせた。

(ハルトくんと同じ景色を見ている……ハルトくんと同じ高さで、この舞台のことを考えているんだ……)

 自分の幼さに対する悔しさと、姫川への羨望が混ざり合い、あかねの浅葱色の瞳の奥がわずかに濁る。あかねは胸のつっかえを隠すように、淡々と問いかけた。

「……姫川さんは、本番に影響があるかもしれないって考えてるんですか?」

「それはない、と思う。みんなプロだからな。本番になれば腹を括って、無難にはやるだろうさ」

 姫川はそう言うと、視線を天井の照明へと向けた。

「……ただな。ここまでやって来たんだ。俺はこの舞台を、ただの無(・)難(・)な(・)成(・)功(・)で終わらせたくない。この舞台をより良いものにしたいんだ。今のバラバラな気持ちを一つの〝チーム〟にして、劇場に訪れた観客に、俺たちの芝居でこ(・)れ(・)ま(・)で(・)に(・)な(・)い(・)体(・)験(・)をしてもらいたい。……今の俺たちなら、それができるはずなんだ」

 熱を込めて語っていた姫川だったが、ふと我に返ったように皮肉げな苦笑を浮かべた。

「……らしくないよな、俺がこんな熱っぽいこと言うなんて」

「いえ、そんなことないです」

「いや、自分でも思ってるんだ。こんな感情、“姫川大輝”らしくないってな。……どうやら俺も、日野と星野の熱に毒されたらしい」

 姫川が見せたその微笑みは、いつもの影のあるものとは違い、驚くほど爽やかで澄んでいた。

 ハルトやアクアという、常識外れの熱量を持った役者たちとぶつかり合い、認め合ったことで、姫川という役者自身もまた新しく変化しようとしているのだと、あかねは強く感じ取った。

「ありがとな、黒川。話していたら考えがまとまったよ」

「……? どういたしまして……?」

「じゃあ、邪魔したな」

 姫川はそう言い残すと、スッと背を向けて立ち去っていった。残されたあかねは、彼の背中を見送りながら、最後まで首を傾げるばかりだった。

 

 ☆ ★ ☆

 

 カチャ、カチャと、心地よい食器の音がダイニングに響く。

「――って、ことがあったの」

「ふぅん、姫川さんがね……」

 稽古を終えたあかねは、当然のような顔をしてハルトの自宅兼スタジオへと帰ってきていた。

 テーブルの上には、ハルトがリハビリがてら作ったという野菜いっぱいのビーフカレーライスや、彩り豊かな副菜が並んでいる。スパイスの刺激的な香りが、空腹の胃袋を大いに刺激した。

 なお、あかねが実家に持ち帰っていた私物は、今日の稽古帰りに実家に立ち寄ってすべて回収され、当たり前の権利かのようにここへと再び持ち込まれていた。彼女の中で「ハルトの看病」を名目とした同居生活を完全再開する意思は、揺るぎないものとなっていた。

「ハルトくん、姫川さんが何考えてるかわかる?」

 たっぷり煮込んでほろほろの牛肉を一口頬張り、幸せそうに頬を緩ませながらあかねが尋ねる。

 ハルトは葉物野菜のおひたしを箸でつまみながら、天井を仰ぐようにして少し考えを巡らせた。

「さぁな。ただ……姫川さんの気持ちは俺も同じだよ。座組の皆が持ってる力、一人ひとりの才能を掛け合わせれば、完成した芝居はもっと何倍も輝くはずだってさ」

 ハルトは箸を置き、彼らしい独特の熱を込めて持論を展開し始める。

「芝居なんてのはさ、一人じゃ絶対に成立しないんだよ。仮に俺が100人いたとしてそれで舞台を作るのと、俺一人とその他の99人で舞台を作ったとするだろ? 絶対に、俺とは違う人間が100人集まったほうが、遥かに面白いものを創れる」

「そうかな? 私にはハルトくんがいっぱい居たら、それだけでとんでもなくすごいことができそうに思えるけど」

「そりゃ俺を買いかぶりすぎだって、あかね。人間はさ、一人ひとり違うから素晴らしいんだよ。自分にないものを持ってる奴と力を合わせて、足りない所を補い合う。そうすれば1+1が10にも20にもなる――シナジー、相乗効果ってやつだな」

「……あのときの、ハルトくんたちみたいな?」

 あかねの脳裏に、稽古場でハルト、アクア、姫川の三人が火花を散らし、互いの演技を高め合っていたあの凄絶な光景が蘇った。

 その瞬間、あかねの浅葱色の瞳の奥に、昏くドロリとした黒い星がまたたき、光を失っていく。

(あの輪の中に……私はいなかった。ハルトくんの隣で、一緒に高め合っていたのはアクアくんと姫川さんで……)

 じっとりと濁った瞳でハルトを見つめるあかね。

 普通の人間であれば気圧されて背筋を凍らせるような、彼女の特有の危険な〝ヤンデレ〟オーラ。だが、あかねにベタ惚れしているハルトにとっては、それすらも愛おしくてたまらない恋人の可愛い仕草に過ぎなかった。

「おいおい、嫉妬かよ。嬉しいね」

「っ……! べ、別に嫉妬なんか……!」

「お前や有馬だって、あの芝居の成立には絶対に不可欠だったろ。俺たち三人のぶつかり合いを受け止めて、舞台の枠組みとして繋ぎ止めてたのはお前たちの確かな演技力だ。あれだって、俺たちがお前たちを役者として心からリスペクトした結果生まれた、最高の相乗効果だと俺は思ってるけどな」

 まっすぐに自分を見つめて言い切るハルトの言葉に、あかねの胸の奥の黒い渦が、瞬く間にスーッと消え去っていく。

「そっか……うん、ありがとね、ハルトくん」

 途端にご機嫌を取り戻したあかねは、嬉しそうに微笑みながら再び箸を進めた。

 二人はそれから、今日の稽古の細かい出来事や他愛のない世間話を交わしながら、和やかに夕食を終えた。

 食器の後片付けを終えた後、あかねは不意に思い出したように手を腰に当て、ハルトをじろりと見詰めた。

「ところでハルトくん。今日、ちゃんとお家では大人しくしてた?」

「……ッ」

 あかねの鋭い視線に、ハルトは内心で(やっべぇ……)と冷や汗を流した。

「お夕飯を作ってくれてたってことは、お買い物には行ったんだよね?」

「あー……いや! 食材の買い出しは病院からの帰り道に済ませたんだよ! で、帰ってきてからは……まあ、ちょっと動画の編集したり、配信用のサムネを作り溜めしたり、新曲のアイデアを出したり……あとは、適当に掃除機かけたり水周りの掃除とか、いろいろしてたかなーって……」

「むっ! ハルトくん!!」

 あかねはぷくーっと両頬を限界まで膨らませ、おこった表情を作った。

「病み上がりなんだから、大人しく横になって安静にしてなきゃダメでしょ! なんでそんなにバタバタ動き回ってるの!?」

「無茶言うなよあかねー! 俺みたいな性分の人間が、一日中家でじっとしてベッドで寝てろなんて言われたら、退屈すぎて逆に病気になって死んじまうって!」

「むーっ!!」

 なおも頬を膨らませて抗議するあかねに、ハルトはやれやれと肩をすくめておどけてみせるのだった。

 

 食後、昨晩とは違って時間に余裕があったため、二人は一階の奥にある音楽スタジオ内のソファスペースでリラックスタイムを過ごすことにした。

 この家はリビング・ダイニングが配信部屋を兼ねているため、防音設備が完璧で上質なインテリアが整えられたこのスタジオのソファセットこそが、二人にとっての本当の意味でのプライベートなリビングルームとなっていた。

 微かにアロマの香りが漂う室内。暖色系のスポットライトが照らす大きな革張りソファに、二人は深く腰掛けた。あかねは吸い寄せられるようにハルトの体に密着し、その広い胸板に甘えるように頭を擦りつけた。

「ハルトくん、なにする?」

 ハルトの服の裾をキュッと指先でつまみながら、あかねが上目遣いで尋ねる。

「うーん、そうだな……『東京ブレイド』の劇場版のでも観るか。二時間弱くらいだし、復習も兼ねてちょうどいいだろ」

「二時間? 二時間も映画観てたら、お風呂に入る時間がなくなっちゃわない?」

「あー……じゃあ、一緒に入ればよくね?」

 ハルトがサラリと口にした提案に、あかねの体がピクッと強張った。あかねはハルトの胸元から顔を上げ、じーっと彼の顔を覗き込む。

「……ハルトくん。さては、エッチなことする気でしょ」

「しねーよ! 仮にも俺は自宅待機中の身だぞ。……っていうか、むしろあかねの方がシたいんじゃないのか?」

「……っ! し、知らないっ!!」

 思いっきり図星を突かれたように、あかねは真っ赤になった顔をプイッと背けた。ハルトはその反応に「はいはい」と苦笑しながら、彼女の肩を優しく抱き寄せるのだった。

 

 ☆ ★ ☆

 

 翌日。劇場内の役者陣の控室。

 稽古着に着替えたあかねは、パイプ椅子に腰掛けて静かに台本を開いていた。室内には、相変わらずアクアに甲高い声で絡んでいるかなや、あかねと同じように真剣な表情で台本を読み込んでいるメルトの姿がある。

 現場全体の空気は、昨日よりは幾分マシになったものの、依然としてどこか大黒柱を失った不安感が漂っていた。

 そこへ、重い扉を開けて姫川大輝が入ってきた。

 姫川は部屋の中央まで歩み出ると、ゆっくりと周囲を見渡した。

「みんな、ちょっと聞いてくれるか」

 その声の低さと重みに、室内の空気が一瞬でピンと張り詰める。

 姫川は控室にいる役者たち一人ひとりと、まっすぐに視線を合わせていく。その眼差しは、普段のどこか天然でマイペースな姫川大輝のそれではない。作中で圧倒的な存在感と威厳を放つ『ブレイド』そのものの鋭さと、揺るぎない決意に満ちていた。

「みんなも知っての通り、今、日野が現場を離れている。あいつはこの舞台が成功するために、ギリギリまで身を削ってまで尽くしてくれた。……それなのに、みんなはそんな腑抜けた面で、戻ってきたあいつを迎える気か? それでいいのか?」

 稽古場が一瞬で静まり返り、全員が息をのむ。姫川は少し視線を落とし、低く、しかし腹に響く芯のある声で言葉を続けた。

「……いつまで『日野ハルト』に怖気づいてるんだ。俺たちはプロの役者だろう」

 姫川の言葉が、部屋にいる全員の胸を突く。

「日野の芝居が凄まじいのも、この舞台を実質引っ張ってくれてるのがあいつだってことも、俺が一番よく分かってる。でも……だからって、あいつ一人に全部背負わせっぱなしで平気な顔してられるほど、俺は甘くねぇよ」

 姫川は一度言葉を切り、言葉を噛み締めるように言葉を重ねる。

「あいつが倒れてできたこの空白は、俺たちが不安がるための時間じゃない。明日戻ってくる日野に『俺がいなくても全然大丈夫だったな』って……あいつを安心して呆れさせるくらいの芝居を見せるための時間だ。あいつが命がけで作ったこの舞台、今度は俺たちが支える番だろ」

 言い終えた姫川は、どこか照れくさそうにふうっと息を吐き、いつもの静かな立ち姿に戻った。だが、彼が投じた一石は、確実にその場にいた全員の心に大きな火をつけていた。

 沈黙を破ったのは、鳴嶋メルトだった。

 姫川の言葉を一番真っ直ぐに受け止めたメルトは、拳を強く握りしめ、血を吐くような熱量で真っ先に声をあげた。

「……当たり前だろ! あんな圧倒的な芝居見せられて、いつまでもビビってらんねぇよ! 『キザミ』は俺の役だ! ハルトに『下手くそに戻った』なんて絶対に言わせねぇ!」

「ほんと、あいつに上から目線で心配されるなんて尺に触るわよね!」

 続いてかなが、あきれ顔を装いつつも、その瞳にメラメラと燃え上がるような強い光を宿して不敵に笑う。

「重役の私たちが打たれ弱くてどうすんのよ! さっさと立ち位置につきなさい! ハルトの度肝を抜くくらい完璧な演技、叩き込んでやるんだから!」

 そして最後に、アクアが静かに、しかし冷酷なまでの確信を込めて呟いた。

「……ハルトが戻ってきた時、自分の居場所が脅かされるくらい周りが突き抜けてたら、あいつ、どんな顔をするかな」

その言葉を聞いた瞬間――

「「「(絶対、ニヤリと笑うだろ/笑うわね)」」」

 キャスト陣全員の頭の中で、ハルトが浮かべるであろう不敵で嬉しそうな笑みが完全に一致した。

 重くどんよりと立ち込めていた控室の空気は、あっという間に圧倒的な活気と熱気、そして役者としてのプライドの炎に塗り替えられていった。全員がそれぞれのポジションへと動き出し、声を出して稽古の準備を始める。

 あかねは輪から一歩引いた場所で、その熱狂の光景を、穏やかでありながらも鋭い観察眼の光る眼差しで見守っていた。

(……姫川さんは、やっぱりすごいな。自分を前面に出さず、ハルトくんへの敬意と信頼を芯に置いて、全員の『役者の意地』を引き出してみせた)

 あかねは胸元にそっと手を当て、ハルトの部屋で聞いた彼の言葉を思い出していた。

 ――1+1が10にも20にもなる、相乗効果。

(ハルトくんが作ってくれたこの温かくて厳しい現場は、ハルトくんがいない間もちゃんと生きている。……ハルトくんが戻ってきたとき、一番驚かせてあげるのは私だもの。私も全力で『鞘姫』として、みんなに応えなきゃ!)

 あかねは台本を強く抱きしめると、凛とした表情で立ち上がり、熱気に満ちた稽古場へと足を踏み出していくのだった。

 





そろそろ書き溜めが切れる頃合いです。3章完結後の連載形式はどうしたらいいですか?

  • 書き溜めてから連載再開
  • 週一回の更新で連載を維持
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