はかなき騎士姫と変な師匠   作:GT(EW版)

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 特質系の最新解釈がこれで合ってるか不安になってきたので予防線として独自解釈タグをセット


ぱんつ はかせ ない

 その後、念の為……シャレではありません。「念」の為、私は水見式で自らの系統を確認することとなった。

 

 ──さて、水見式と言えば自らが属する念能力系統を知る為の最も一般的な診断方法である。

 

 元はハンター協会の現会長であらせられるアイザック=ネテロ殿をグランドマスターとして擁する「心源流」から浸透した方法であり、四大行最後の1つである「発」の基礎修行としても扱われる。

 

 そのやり方はただグラス容器の中に一杯分の水を入れ、その水面の上に葉っぱを乗せる。そこからグラスを包むように両手を置き、「練」を行うことで水或いは葉っぱに何らかの変化が起こるため、その法則性から能力者の属性が絞り込めるというものだった。

 

 強化系ならば、水の量が変わる。

 放出系ならば、水の色が変わる。

 変化系ならば、水の味が変わる。

 操作系ならば、水の上の葉っぱが動く。

 具現化系ならば、水の中に不純物が発生するといった形に。

 

 そして特質系ならば、いずれとも異なるその者独自の異変が起こる──という法則があるのだが……厄介なのは能力者によっては判別の難しい地味な変わり方をする事例もあるという点だ。

 

『僕が知っている特質系能力者の例を挙げると、水に乗せた葉っぱが枯れたり、水そのものが腐ったり……5系統全ての変化が一斉に起こったりだとか、そういうのがあったね。特質系の水見式は、法則性が無いことが法則になっているのが厄介だ』

『特質系の知り合いが多いのですね、キリツグ』

『知り合いというほどではない……ただ、色々あって知っているだけさ』

『そうですか』

 

 キャンプセットのテーブル上に置いたグラスに対し、キリツグがお手本とばかりに水見式を実践してみせると、その中に入っていた水が早速大きな変化を見せた。

 

 彼のオーラが起こした結果は、「水の量が増加と減少を何度も繰り返す」というものだった。

 しかし私はその光景を怪訝に思い、グラスの中を首を傾げて覗き込んだものである。

 

『……先程の説明を聞いた限りでは、この現象は特質ではなく強化系の範疇に収まるのでは?』

『いい質問だな、セイバー。確かに水の増減自体は典型的な強化系能力者の反応だ。強化系の水見式は基本的には増やす方が多いが、能力者によっては水の量が減ることもある』

 

 ならば、やはりこの反応は「水量の増減」という点で強化系の枠に収まるのではないか?と思ったのが私の疑問である。

 

 ……いや、それでも彼のように増加と減少を短時間の内に延々と繰り返すのは異常な反応ではある。

 尤も、そっと手をかざしただけでコップの中の水が変化すること自体が異常現象である点については、念能力者としてアップデートした頭の常識から除外しておく。

 

 やや腑に落ちない思いを抱えながらも、キリツグが特質系であるという根拠を自分の中で納得させようとする。しかしそんな私の態度が露骨に不満そうに見えたのか、彼は「しょうがない──」と苦笑を浮かべた後、再びグラスに向かって「練」のオーラを浴びせ、それを差し出してきた。

 グラスの中の水は、上限いっぱいまで満たされた状態で止められている。

 

『持ってごらん』

『む……あれ? 思っていたよりも軽い……』

 

 グラスの中から溢れんばかりの水を溢さないように恐る恐る手を伸ばし、それを持ち上げてみると見た目から想定していたよりも明らかに、中身の重量が感じられなかった。

 まさかと思い、目を凝らして確認してみるが、やはり水の量は間違いなく増えている。私は腑に落ちず、再び首を傾げた。

 

『疑問に思ったら目を凝らす……「凝」を教える前からその癖が身についているのは、マスターとして立つ瀬が無いな。それとも、コトミネキレイの嫌がらせが良い訓練になっていたのか……』

『なってないです。……それで、キリツグ。何ですかコレは?』

『今度は水の量を減らしてみる。──よし、持ってみろ』

『──! 重さが変わっていない……? こんなに減っているのに、さっきと同じ重さだ……』

『わかってくれたかい? セイバー』

 

 キリツグによってもたらされた水見式の結果、そこにあったのは水の量が増加している時の状態と減少している時の状態で質量が「何も変わっていない」という結果である。

 見た目はどう見ても、明らかに増減しているというのに。

 

『僕たちが水の量が「変わった」と思い込んでいるのか、或いは水の方が自分が「変わっていない」と思い込んでいるのか……いずれにせよ、このグラスは強化系とは似て非なる反応を見せたことで、僕は特質系に分類されたわけだ。ふふっ……疑わせてしまったかな?』

『いえ、疑ってはいませんでした。キリツグは私に、自分の系統を偽る人ではないと信じていますから』

『それはそれで心配だなぁ……念能力者は情報が生命線だからね。だから普通は自分の系統を教えたりしないし、それは師弟関係でも例外じゃない。僕のように自分の系統を明言している相手がいたら、まず最初は疑ってかかるといい』

『? キリツグは私に嘘を吐きません。何故、わざわざ無意味な探り合いをする必要があるのですか?』

『……やっぱり君は、強化系かも』

『?』

 

 キリツグが本当は強化系なのに私を騙している──と考えたことはありません。

 自慢ではないが、私ほど警戒心の強い子供は多くない筈。その私が嘘を吐かない師匠だと思っているのだから、キリツグが特質系であることに疑う余地は無い。

 この男は何を言っているのだと、私が怪訝な目を向けると彼は苦笑を浮かべていた。

 そんな如何ともし難い空気の中、割って入るような問いを唐突に投げかけてきたのは、またしてもキリツグの念獣だった。

 

 

『たった一月でこれほどの信頼を寄せてくるとは……将来が不安な騎士王だなエミヤ=キリツグ』

『なに? お前は……コトミネキレイッ‼︎』

『私には未だに目も合わせてくれないというのに……嘆かわしいことだ』

『それは──お前が悪い』

『フッ……』

 

 

 いつもの如く、下から上へスライド移動しながら現れ出てくる念獣コトミネキレイ。

 初めの頃は驚きのあまり「選定の剣」で斬り掛かろうとしたものだが、私の足下とか変な場所から現れない分には流石に見慣れたものである。因みにコトミネキレイ自身も、召喚の際にはどこから姿を現すのかわからないらしい。何ですかこの念獣。

 

 しかしキリツグも、何故自分の念獣なのに彼が現れる度に驚きの声を上げるのだろうか?

 

 

 ……いや、それも「制約」の1つと考えれば理解できる。

 念能力者は自らの「発」に対して制約(ルール)を定め、それを遵守すると心に誓うことで爆発的な力を発揮できるようになる。

 その制約が厳しいものであればあるほど込められた「念」は強く作用し、また、あえて使い勝手を悪くする制約をつけることで能力者自身のリソースである「容量(メモリ)」の削減効果も得られるという。

 

 キリツグの【何ともつまらぬ結末(コトミネキレイ)】は自律行動型の念獣としては破格の攻撃力と行動範囲を持っており、その無駄に高い基本性能を考慮すれば複数の制約、それも「存在を認識した時、必ず声を上げなければならない」といった程度の制約は、設けて然るべきだろう。これは分身を使った奇襲や不意打ちといった戦術に自ら制限を掛けていることになるので、制約の1つとして成り立つ範囲だと思う。

 他にもキリツグが予期しないタイミングで勝手に現れたり、突然後ろから刺してきたり性格がネチネチしているのも制約になってそうです。……やっぱりハズレなのではないですか? この能力。今からでも私が斬ればキリツグのメモリが空かないでしょうか……

 

『愚かなことは考えぬことだ。慈悲深き騎士王よ』

 

 ……だが、発動者とは似ても似つかないこの男の陰湿な性格は、私にとっては第二の講師として有用な存在であることも否定できなかった。

 講師としては、一応感謝していますよ。講師としては。反面教師としても。ですが講義の時、ワケも無く私の周りをグルグル回るのはやめてください鬱陶しいので。

 

『……散々な言い様だな。時に純粋なる騎士王よ、六性図は覚えているな? 隣り合わせの系統ほど、習得率が上がるというアレだ。さて、特質系の位置はどこだったかね?』

『強化系の反対です。そして、特質系の両隣は具現化系と操作系になります』

『正解だ』

 

 系統別の念能力適性については既に予習してきている。キリツグは私に先走った修行を許さなかったが、頭脳面についてはその限りではない。

 早く知って問題の無い知識は座学によって得ている。私としては修行の合間に村長婦人が開いてくれる一般常識の授業の方がよほど難解だったが。

 

 ……こちらの知識を試すコトミネキレイの態度が癪に触った私は、補足して続ける。

 

『ですが特質系に関しては、この六性図は他系統とは別の意味を持ちます。まず前提として、特質系能力者に苦手な系統能力はありません。5系統全ての能力を本職と変わらない精度で習得することができます』

『……で、あるならば特質系がこの位置にあるのは何故かね? よもやアイザック=ネテロが余っていた場所に当て嵌めただけだとは言うまい?』

『あの爺さんならちょっとありそう……』

『特質系は生まれ持った素養が最も大きいとされていますが、ごく稀に他の系統から派生し、突然変異することがあります』

『ふむ……』

『特質系の位置が具現化系と操作系の隣に置かれているのは、この2つの系統が他よりも特質系に派生する可能性が高いため──でしたね?』

『……つまらんな。正解だ。自習を怠っていないようで何よりだ。聡明なる騎士王よ』

『当然です──王ですから』

 

 逆に言うと対極に位置する強化系能力者は、特質系に派生する可能性が最も低いという意味になるらしい。

 尤も、先天的でも後天的でも、基本的には考慮しなくて問題無い程度には稀な可能性のようだが。

 そもそも能力者のサンプル自体が少ないため、協会でも未だ研究が進んでいない部分も多いらしく、特質系は「特質」の名が示す通り他5系統とは一線を画していた。

 

 さしずめ、オーラの「エクストラクラス」といったところでしょうか? 特質系はその独自性故に、裏ハンター試験……新人ハンターに向けた念能力講習では、あえて除外する指導者も多いのだそうだ。

 ……そう思うと私はハンターでもないのに、つくづく優遇されていますね。

 

 閑話休題。

 

 前置きが長くなったが、中身を入れ替えたグラスに対して私が「練」を、水見式を行った瞬間──結論として、私の系統はキリツグの言った通りであった。

 

『……やはり、僕より変化がわかりやすいな』

『ふっ、貴様ほどわかりにくい特質系も珍しかろうエミヤ=キリツグ。しかし、これは……』

 

 摘み取られた葉っぱが見る見るうちに深緑の色を取り戻していくと、注ぎ込まれていた水が風の波濤を受けたように小さく揺れた。さらに数秒ほど経つと水はキラキラと輝きを放つようになり、私は思わず「練」を止めて身を乗り出した。

 

『これ……光ってますよね? 私のオーラの光が反射しているわけではありませんよねマスター?』

『ああ……光っている。葉っぱまで、ツヤツヤになっている──まるで命の輝きを宿したように』

『フッ……束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流とはこのことだなエミヤ=キリツグ』

『えっ何ですか急に? コトミネ風情がハイセンスなことを仰りますね』

 

 良い表現ですね……今度どこかで使ってみましょう。束ねるは、星の息吹──ヨシ。

 

 

 この時のコトミネキレイが発揮したらしからぬワードセンスの通り、私の水見式が起こした反応は「風による浄化」だった。

 

 試しに泥を継ぎ足し、水を濁らせてからもう一度水見式を行ってみたところ──その変化は顕著に表れた。杯の泥は浄化され、水はまるで聖水の如き輝きを放っていたのだ。

 

『おおー……』

『神秘的な、イルミネーションのような輝きだね。……因みに、僕はイルミネーションスターズではメグル=ハチミヤが推しだ……』

『私もだエミヤ=キリツグ』

『流石だな……コトミネキレイッ』

『? 2人とも何を言っているのですか?』

 

 自画自賛になってしまうが、私の水見式によって輝きを放つ水面の輝きは思わず見惚れるほど美しいものだった。

 

『オーラによる物質の浄化……ああ、ここまでの物は初めて見るよ。なるほど……数世代に渡って呪いが蓄積されていた筈の剣を体内に納めて、こうして元気でいられるわけだ』

『ああ、そういえばエミヤ=キリツグ。騎士王の剣の呪いは、とっくに浄化されているぞ? この前私が斬りかかられた時、この目で確認したから間違いない』

『ッ、お前それ初めに言えよ! 前からもしやとは思っていたけど、除念体質確定じゃないか!』

『フッ……パリストンが欲しがるわけだなエミヤ=キリツグ』

『ああ、奴にだけは引き渡さなくて良かったよ……』

 

 私の水見式が引き起こした光景には、キリツグが珍しく冷や汗をかいていた。しかし、今にして思えばそれも当然だろう。

 

 私は特質系能力者であると同時に、「除念師」としての素養があったのだ。

 

 除念師とはその名前の通り除念──他人にかけられた「念」を除去する念能力者のことをいう。

 念によって受けた呪いの如き力は現代医術でも治療できないため、それを祓うことができる除念師の希少価値は群を抜いて高い。

 故に「念」の脅威を知る権力者や資産家たちがこぞって手元に抱え込もうとするほどであり、手段を選ばない場合には誘拐や監禁の恐れさえ抱えている。

 キリツグ自身も過去に何度か、戦闘力を持たない除念師を外敵から警護するボディーガードの依頼をこなしたことがあるらしい。

 ハンター協会側からしても、優秀な除念師の存在は1人でも勢力図が傾く可能性があるほどに大きいとのことだ。

 

『キリツグ、私が念の修行を続ける理由が増えましたね』

『嬉しそうだな、ログレス……僕はまた胃が痛くなってきたよ』

『大人の事情があるのですね。心配なさらずとも私はハンター協会の派閥争いに興味はありませんので……キリツグも派閥に属していないのでしょう?』

『僕は正義の味方になりたかった系ハンターだからね……確かに、会長派でも脱会長派でもない』

『なら、何の問題もありませんね。そして私は貴方の(セイバー)なので、この素養をみだりに触れ回らないと誓いましょう』

『──僕に、使いこなせるだろうか』

 

 キリツグは私という存在の厄さについて責任と不安を感じていたようだが、私自身はそこまで深刻に考えていない。

 この身に大きな利用価値があろうと、私は彼から度々(セイバー)と呼ばれている存在だ。仮に私に邪悪を惹きつけるほどの除念能力があったとしても、私自身が周囲の悪意を斬り伏せられるまで強くなれば何の問題も無いのだと。

 

 寧ろ私としては、この時点ではぼんやりとしか考えていなかった自分の「理想」の形が、ようやく鮮明に見えてきたところだった。

 

『だが、ここで1つ懸念が生まれたなエミヤ=キリツグ』

『何……? どういうことだ、コトミネキレイッ』

『死後の念がふんだんに込められた呪いの剣を、こうも僅かな時間で浄化してみせたのだ。もはやそれは、この娘自身の「発」と見て間違いあるまい』

『……確かに特質系は苦手な適性が無い分、偶然の噛み合いが本人さえ知らない「発」を作り出してしまう可能性は……ある。まさか、この子もそうだというのかッ』

 

 「選定の剣」を引き抜いてから発生した特異現象の数々を、その時まで私は剣の力によるものと判断していたが本当は違っていたのだ。

 その事実に思い至ったキリツグは、修行の方針転換を真っ先に告げた。

 

『すまないがログレス、今日は予定を変えて現状の確認をしていこうと──思う。まずは、お前の剣を見せてくれ』

『はい』

 

 念について私よりも遥かに詳しいキリツグは、私の特異体質を知るなり確かめたいことがあると真剣な顔で呼びかけてきた。

 私はそれに応じ、体内からフワリと召喚した「選定の剣」を両手に掲げ、その刀身をまじまじと見つめた。

 

 思えば私も、それまでこうして剣の姿をじっくり観察する機会は無かったものだ。

 台座から引き抜いた時は刀身から放たれる光が眩しくて直視できなかったし、初めてキリツグと会った時に出した時も剣の造形を確認できる余裕が無かった。

 彼に連れ回されるようになってからはその危険性からみだりに剣を出さないようにと言い聞かされていたし、以降も突然嫌いな虫やコトミネキレイが目の前や足下から現れた時こそ、つい反射的に振り抜いてしまったことはある……が、そういう時の私は大抵冷静ではないのでこちらも剣を見ている余裕がなかったという事情だ。

 

 だからこの時、改めて剣の姿を見つめ直して思ったのである。

 

 

 ──あれ? 選定の剣ってこんなでしたっけ?

 

 

 数多の人間の生命を喰らい尽くし、その輝きで妄執に取り憑かれた老人たちを一掃した厄災の剣──そんなイメージを抱え続けていた私の思考に反し、私が携えた金色の剣はまさしく「聖剣」の名に相応しい神々しさをその造形にたたえていた。

 

 というか……デザインも変わっている気がします。前はもっと禍々しかったような……これでは本当に「理想の王」に相応しい宝剣そのものではありませんか。

 

 そう困惑する私の前で、キリツグは冷静に剣の姿を分析しながらブツブツと長考を重ねていく。

 

『……鍛造者から込められたと思われる、剣のオーラは残っている……というか、寧ろ最初見た時よりも強くなっているのか……だけど、禍々しい呪いの類は感じない……ログレスの体内で、邪念だけが振り祓われたとでもいうのか?』

『とすれば、やはり体内への納刀は剣ではなく騎士王自身の能力だったわけだなエミヤ=キリツグ』

『馬鹿な……それではセイバー自身が、アヴァロンだとでも言うのかッ!』

『? アヴァロン……?』

 

 世間の常識に疎い私には彼が抱えている懸念や分析内容が半分以上わからなかったが、結論として言うと「選定の剣」をこの身に納めていたのは剣の機能ではなく、私自身が意図せずして開発した念能力であることがわかった。

 

 そして彼が今また呟いた「理想郷(アヴァロン)」という言葉──その一言がストンと落ちて胸の中へ染み渡っていくように、私の心には天啓の如き閃きが疾った。

 

 ──ああ、確かにそうかもしれない。私はこの剣を引き抜いたあの瞬間、確かに「発」に至るほどの渇望をこの心に宿していた。

 

 生にも死にもそこまで執着していたわけではないのだが……それでも私は思ったのだろう。こんな馬鹿げた行いで、「理想の王」が生まれるわけがない。このような間違った選定、私の手でやり直そう──と。

 

 ……何故、その感情を忘れていたのでしょうか私は。これでは初対面のキリツグから人のフリをした機械のようだと誤解されたわけである。

 

 もしかしたら私はあの時、剣の暴走によって滅びゆく村の中で、何やら満足そうな顔をして勝手に死んでいった老人たちの姿に湧き上がってきた感情が萎えてしまったのかもしれない。

 

 キリツグは垂れ流しにしていたオーラに一切悪意を載せなかった私を「類まれな理性」と評していたが、真相はそんなものだ。悪意をぶつけたかった相手が早々に目の前から消えてしまったことで、私の心には虚無感ばかりが残っていたのだと思う。

 

 

 ──しかし、今の私には理想(アヴァロン)があります。

 

 

 ああ、念能力とはこういうものかと理解する。

 自分の中で目標と手段が明確になった瞬間、無軌道に放たれていたオーラの奔流が、私の中で1つの星として束ねられていくのがわかる。束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流とはよく言ったものだ。コトミネキレイのアイディアを採用するようで癪だが、私はその言葉を胸の中で反芻して刻み込んでいった。

 

 

『決めました、キリツグ。私はこの能力を【穢れなき者の理想郷(ローグ・レス・アヴァロン)】と名付けます』

『……!!』

 

 

 何故、念能力者が自分の「発」に名を付けるのか。それは決して見栄や愛着心だけが理由ではないのだとわかる。

 名は存在を表すものだ。生前特に慕っていたわけでもなかった村の長老が、今際の際に呟いた「ロード=ログレス」という名を今も自分のものとして名乗っているのも……私の中では「名前」を持つことこそが自分を自分として認識するための第一歩として、長年無意識に固執していたからなのかもしれない。

 

 念能力の名前も、おそらく似たようなものだろう。制約と誓約ほどではないが、自らの能力名を心に刻み、共に戦う武器として誓う──そうすることで、私の場合はそれまでの何倍にも力が馴染んでいく気がした。

 

 

『そして、この剣の名は──』

 

 

 選定の剣のことも、いつまでもその名前のままでは可哀想ですからね……呪いとやらが私の能力で浄化された以上、もはやその性質は全く別の聖剣に生まれ変わったと見ていいでしょう。王である私がそう判断します。

 お前の名は、そう……

 

 

 【継ぎ揃えし理想の剣(エクスカリバー)】……今日からお前はエクスカリバーです! いいですね?

 

 

 ──そう呼びかけると、心無しか聖剣から踊るような輝きが返ってきた気がした。

 

 良い子ですね。物分かりのいい剣で助かります。

 今「制約と誓約」で私と貴方は一連托生の設定にしておいたので、今後ともよろしくお願いしますよ、エクスカリバー。

 

 そう微笑んだ瞬間、私の脳内に何者かの声が過ぎった。

 

 

十三拘束解放(シール・サーティーン)──円卓議決開始(ディシジョン・スタート)

 

 

 少年のような、少女のような凜とした声。

 どこからともなく唐突に呼び掛けてきたその声に対して、不思議と警戒心を抱かない自分がいた。

 寧ろ──何故でしょうか? そよ風の中で惰眠を貪っている時のような、深い安心を感じていた。

 

 

『是は、勇者と共に臨む戦いである──承認。

 是は、人道に背かぬ戦いである──承認。

 是は、真実のための戦いである──承認。

 

 三拘束の解除を確認。第一段階解放』

 

 

 それは、私の能力が発現させた念獣なのだろう。しかしキリツグの念獣と違って姿を現すことは無い。

 ただその存在は間違いなく、このエクスカリバーと、その鞘として見立てた私自身を繋ぐ鍵としてこの身に宿っていると──そう理解できた。これが「念能力」というものなのだろう。

 

 

『なに……!? これは──』

『フッ……誕生日おめでとうロード=ログレス。いや──ログレス・リリィと呼ぶべきかな、その装いには』

 

 

 「声」が聴こえなくなった時、気づけば私の姿は変わっていた。

 いや、顔も身体も変わっていない。変わったのはこの身に纏っていた衣装である。

 具現化系能力の習得は想像を絶するほど難しいと聞いたが……どうしてだろうか、青色の浴衣を着ていた筈の私は、白百合のようなドレスアーマーを身に纏っていたのである。

 いつの間にかコトミネキレイが用意してくれた手鏡を手に取ると、私はその姿にほう……と息を漏らした。

 

 

『……なんか、1つ「発」を作ったら連鎖的に色々目覚めてしまったようです。助けてくださいキリツグ』

『──いや、大丈夫だ。問題ない』

 

 

 ……キリツグと初めて出会った時、何者かに着せられた白いドレスを彷彿させるデザインをしていた。

 具現化系能力を発揮する際、重要となるのはイメージである。故に能力者にとって思い入れのある物ほど具現化される物体は鮮明になるという。

 

 嘘ですよね……? 私、あの衣装にロクな思い入れが無いんですが……いえ、確かに運命が変わった転機に着ていた服ではありますが……

 

 解せない──そう思いながら大きく露出された両肩を押さえ、私は困惑の表情を浮かべたものである。

 

 ……ですが、よく見るとこの服は悪くありませんね。両肩が剥き出しなのは気になりますが、その分可動域が広い。聖剣を振り回すのであればこのぐらいで丁度良いとさえ言えるでしょう。

 防御力についても胸、篭手、脚と最も被弾率の高そうな部位を部分的に銀色の金属製アーマーで覆っている。華やかさと実用性を兼ね備えた見事な造形だった。

 あのドレスの時は不満だったスカートの丈も、膝丈程度で短すぎず、長すぎずと言ったところで丁度良い塩梅である。

 

 ──率直に言って、嫌いではなかった。ええ、正直私はあのような服も嫌いではなかったのだ。ただ誰が着せたのかわからなかったのが恐ろしかっただけで。

 

 それと、あの時は下に何も穿いていなかったのが不安で……あ。

 

 

『──!?』

『なに!? どうしたログレス!?』

『ぁ……いえ、な、何でもありません。っ……修行を続けましょうかキリツグ!』

 

 

 笑顔の裏で、私の頭が真っ白になる。白百合だけに……何でもありません忘れてください。

 

 何故です……一体何故……!?

 そんな制約をつけた憶えはない……っ、い、いえ、でも、そうですね……確かにこの能力で具現化されたのが鎧だけ(・・)ならば、そうなるのは当然か。

 

 あの時着せられていたドレスほど丈は短くないので、心配するようなことはないだろう。たださっきまで着ていた浴衣と比べると少しだけ心許なくなっただけで……大丈夫です。ええ、修行の続きをしましょう。

 私は「選定の剣」を引き抜いた唯一の担い手にして、特質系と除念師、2つの適性を併せ持つ奇特な能力者。彼からしてみれば、こんなカモがネギとついでに卵を背負っているような存在を、未熟なまま危険な外の世界に放り出すわけにはいきませんからね……せめて自分の身を自分で守れるようになるまで、私は粛々と修行を行うべきだと理解している。

 

 ……ただ、そろそろもう少し色々売っている町とか遠出してみてもいいと思いますよ? 生活用品とか色々、買い出ししたいものもあるでしょうし私も手伝います。

 

 花びらのような造形の軽やかなスカートを左手で押さえながら、私はそんな慎ましやかな懇願を込めてキリツグの様子を窺ってみる。──が、キリツグは私の衣装変化にただただ驚いている様子であり、こちらの内情には一切配慮していない様子だった。

 ……こういうところで急にデリカシーが無くなるのは、この師匠最大の欠点だと思う。

 

 いや、待て……もしかして彼は……デリカシーが無いのではなく──忘れている!? こちらの下着事情を……!

 

 ……いや、確かにあれから結構時間経っているし、忘れもしますか。

 私の修行計画について一日中悩んでいるようですし、ここは私が我慢するべきなのでしょう。……いえ、それでもそろそろ涼しくなってきますし、私から言うべきなのでしょうか……? でも……そんなくだらないことで彼の立てたスケジュールを崩すのも悪いですし……

 

 

『フフ……愉悦ッ』

 

 

 うるさいぞダニ神父。

 私は堪らず剣を振り抜いた。

 

 

 

 

 


 

 

穢れなき者の理想郷(ローグ・レス・アヴァロン)

 

 特質系能力。呪いを纏っていた「選定の剣」に触れた時、名も無き少女が自分自身の理想を示したいと願ったことで発現。後に四大行を習得した彼女が名前を付けたことで完成した。

 その念能力は自らを鞘として体内に剣を納める能力。納められた剣は鞘の中で「浄化」され、「理想の聖剣」へと変質する。

 この能力で聖剣化した剣は浄化によって消滅した呪いが強大であればあるほど性能が上昇し、強力なオーラとして刀身に宿る。同時に、鞘に宿った念獣が以下十二項目の拘束を与える。

 

 ①是は、勇者と共に臨む戦いである。

 ②是は、心の善い者との戦いではない。

 ③是は、誉れ高き戦いである。

 ④是は、生きるための戦いである。

 ⑤是は、己より強大な者との戦いである。

 ⑥是は、一対一の戦いである。

 ⑦是は、人道に背かぬ戦いである。

 ⑧是は、真実のための戦いである。

 ⑨是は、邪悪との戦いである。

 ⑩是は、私欲なき戦いである。

 ⑪是は、世界を救う戦いである。

 ⑫是は、理想を示す戦いである。

 

 そして13番目の拘束は能力者自身の意志。これらを「十三拘束(シールサーティーン)」として念獣が監視し、条件を満たした数だけ聖剣の力が100%へと近づく。

 この時、解放された段階ごとに適応した「聖鎧」が具現化し、能力者の装備を変異させる。なお、下着は据え置きなので別途用意しておいた方がいい。

 それぞれ4項目以下の解除で第一段階、8項目以下で第二段階、12項目以下で第三段階への解放が可能。

 鞘に納めることができる剣は生涯1本のみとなり、その剣を喪失した場合、能力者は全機能を停止する。

 

 もちろんパンツを穿かないことは制約でも何でもないので事前に穿いていれば問題ない。第二段階まで行けば露出が減るので多分安心である。

 





 約束された勝利の剣ではない。どちらかと言うとリチャードの何でもカリバーみたいだと書いてて思いました。
 十三拘束についてはランスロットの奴だけ世界観に合わなそうだったので八極拳で書き換えました。
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