はかなき騎士姫と変な師匠   作:GT(EW版)

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 僕はね……本物のアルトリアが「何ですか?」って言うだけで笑ってしまうようになったんだ……


実質PEAK

 結局、夜が明けるまでに町へ辿り着くことはできなかった。結論として言うと、町までの到着は丸1日以上掛かることとなる。

 

 出発時刻が既に遅い夕方だったのに加え、先導するキリツグは最短距離ではなくあえて回りくどい道を進みましたからね。

 そして山の奥はキャンプ地から見えていたよりも想定以上に深く、距離にしたら60から70kmぐらいにはなるかもしれない。当然、その道筋は人の手で舗装されてなどいない荒々しい大自然そのものだ。

 そんな険しい山道で私たちは山々の最大1500mを超える標高差を上下しながら縦走し、挙句は3000mに達する標高まで登頂することとなった。

 

 なれば道中の会話も、慣れない私には相当にハードとなったものである。

 まあ、キリツグとの突拍子の無い会話は嫌いではないので程々に付き合っていたが。

 

 

『見てごらんセイバー』

『またクルミですか?』

『いや……ライチョウの群れだ』

『美味しそうですね』

『えっ』

『えっ』

『…………』

『……可愛らしいですね、キリツグ!』

『──ああ、そうだなセイバー』

『私の方が可愛いですよ』

『それはそうだな』

『えっ』

『えっ』

『…………』

『…………』

『何ですかこの空気は?』

『これは……キャスターの仕業だな』

『またキャスターですか。やはり許せませんねこのような非道ッ』

『因みにあのライチョウ、名前通り雷を出すから気をつけろ』

『? ライチョウなのだから当然では?』

『……そうだなセイバー。何を言っているんだろうな僕はッ』

『? 変なマスターです』

 

 

 山の生態系も中々に興味深いものだった。最初の登山で山の景色を楽しむ余裕があったのはキリツグだけだったが、私自身も地上では見られなかった動植物の存在に対しては、何もかもが新鮮で湧き立つ思いがあったのだ。

 ……食べる為だけではありませんからねもちろん。木々の間から私たちの姿を見つめているお猿さんたちの姿や、原っぱの上でゴロゴロしているオコジョという生き物の様子にも、心癒やされたものである。

 

 道中、立派な龍の成体が近くの空を横切っていった時は流石に驚いたものだが。

 あの龍、私のことを興味津々に見つめていましたね。ここだけの話、私の体内遺伝子にもちょっとだけ龍種の遺伝子が組み込まれているようなので、私のことを同族か何かとでも誤認していたのかもしれない。

 全長20mをゆうに超す巨体は一目でこの山の主とわかる威容だったが、大人しいものだった。

 

 その後、私が手を振ると龍はペコリと首を下げた後何処かへと飛び去っていきました。見た目に寄らず温厚で助かりましたねキリツグ。

 

 

『キリツグ、アレは何だったんでしょう?』

『僕が訊きたい……何あのドラゴン? なんで出てきたの? 怖っ』

『キリツグ?』

『──ああいうのと突然出会うこともあるから、まったくハンターはやめられないな!』

『ああ!? 興奮して走らないでくださいキリツグ! 待ってください待って……あ』

『何落ちてるんだセイバーッ』

『……ここ、池があるんですね。浅くて助かりましたが、腰まで濡れましたキリツグ……』

『山には、雪解け水が溜まるからね……あそこで待っていてやるから、オーラの風とやらで乾かしてきなさい』

『はい……』

 

 

 未熟な私には、彼を追いかけていく一歩一歩が苦しい道のりだった。しかし、だからこそ肉体の鍛錬になるのだ。

 キリツグはまさにそれを狙っていたのだろう。崩れそうな山肌だったり、崖の上スレスレだったり、猛獣の住処の前だったりと、私の直感がけたたましく命の危険を訴えていたルートを悉く通らされたものだ。

 

 時には山と山の間。落ちたら底が見えないほどの高さから、谷の上を大ジャンプで渡るように命じてくることもあった。そういう時は流石に「練」を使っても良いと許可してくれたが──本人は素の身体能力だけで手本をこなしてきたのだから凄まじいものである。

 それはプロハンターだからというよりも、エミヤ=キリツグという男が特別ずば抜けた身体能力を持っているからだと思いたい。

 

 

『道がありません……これは、どこから登れば良いでしょうか? 高いです』

『これだ。この五角形の柱のところに来れるかセイバー』

『わかりました。受け止めてくださいキリツグ──えいやー! ちょっ、どど……狭っ、狭いですキリツグ離れて! ゃぇっ……!? ちょちょっと! 突き飛ばしましたねキリツグ!!』

『いや……君の体幹を試したんだ』

『キリツグー!』

『どどっ!? 落ちるセイバーやめろ揺らすなッ!』

 

 

 ……ともかく未知の経験の連続にめげることなく、そんな彼と逸れることなく後に着いていくことができたのは、我ながら賞賛に値する山渡りだったのではないかと思う。

 

 しかし右往左往する私の動向を常に先行して見守るキリツグは、何が楽しいのやらコトミネキレイのような愉悦に満ちた表情でイキイキしていたものである。

 

 

『タイムアルター・ダブルアクセル、ンンッ!! さあ2倍速で登ってくるんだセイバーッ』

『ファイト一発ですねキリツグ!』

 

 

 道なき道を進み、時には自らの手足を使って腹這いに断崖をよじ登ることもあった。

 安全的にはこの身が誤って落下した際に受け止めてもらえるよう、キリツグには下で待っていてもらった方が良かったのかもしれないが……キリツグは常に先行していた。私が登りきれると信じていたのか、落ちても「纏」で耐えられると思っていたのだろう。

 

 ……まあ、これに関してはそれで良かった。寧ろ彼が下に残って私が登る姿を見上げようものなら、私はこの聖剣を抜いてでも先に行かせたところである。……理由は、言わせないでください。

 

 また、木々1本生えていない荒れ地の悪路では、岩と岩の間を身体を折り畳みながら進まざるを得ない場所もあった。

 12歳当時の私は身長137cm、体重32kgと小柄で軽く関節も柔軟な方なので狭い場所での移動はそこまで窮屈ではなかったが、それでもうっかり岩に頭をぶつけた時などは「あイダッ!?」と変な声を上げてしまうこともあった。

 

 

『こう……岩と岩の間を通る時、真顔で折り畳まれているセイバーって良いよね……』

『何を言ってるのですかキリツグ!』

 

 

 ……この師匠、時々コトミネキレイのような嗜虐心を見せてくるところは嫌いです。本当に、嫌いです。

 まあ、もっと鍛錬の強度を上げていいと言ったのは私自身なので、粛々と受けてはいましたが。その件で私が怒るのは理不尽でしょう。

 

 しかしこの肉体を常人よりも頑強にする「纏」と猛獣との邂逅をやり過ごす「絶」、それとその他諸々、一張羅であらゆる環境への適応力を備えているこの鎧の存在が無ければ、一山を越えるだけで何度死んでいたかわからないところだった。

 私も元の暮らしでは暴風やスコールにも慣れていたが、変わりやすい山の天気の中で大雨や雪に打たれながら全力疾走する羽目になったのももちろんこれが初めてである。

 

 私のようなちょっと強い普通の女の子にやらせる本格的な鍛錬としては、キリツグも中々に容赦が無い。

 

 

『普通の女の子でも、ちょっと強いところは譲れないんだなセイバー』

『当然です』

 

 

 王ですから。

 現政権を破壊し頂点に君臨する「理想の王」の器は、決して卑屈であってはならないと教え込まれています。

 

 ほとんど洗脳のような偏った教育だったが、この教えに関しては一理あると感じていた。

 ネガティブタイムに入ったところで、自分はもちろん誰一人得しませんからね。ですが、あの老人たちに従うのは癪だったので、私は間をとって「ちょっと強い普通の女の子」と自らを規定しているわけだ。

 

 

『はは……激萌え』

 

 

 何を言っているのですかキリツグ!?

 

 

『……だけど……なるほど。思うに、君のいた村の者たちは「念」について知っていたのかもしれないね。聞いた限りでは、君の受けた教育は燃やす方のネン──「燃」の方式に近い』

『燃やす方のネンですか……私もキリツグから聞いた時、少し頭に過りました。あの日々は、その鍛錬だったのではないかと』

 

 

 「燃」──それは心源流の師範代たちが「念」を教えるのは時期尚早と判断した入門者を相手に、口八丁で丸め込む為の方便だと聞く。

 

 ネンとは心を燃やすことであり、意思の強さである。

 

 四大行とはその意思を強くする過程の修行のことを言い、「点」で心を一つに集中し自己を見つめ目標を定める。「舌」でその思いを言葉にする。「錬」でその意思を高め、「発」でそれを行動に移す。

 

 それらを指して、「テン」「ゼツ」「レン」「ハツ」の四大行であると言い聞かせるのだという。

 

 もちろん本来の四大行とは違うが……嘘も方便とはよく言ったものであり、それらが全くのデタラメというわけでもないところがまたいやらしいというか、グランドマスターであるアイザック=ネテロ殿の性格が窺えるところだった。

 「燃」では「念」のように自らのオーラを行使することはできないが、鍛錬を続けることでオーラそのものの純度、質量を高めることができる。意思の強さを磨くことは、まさしく「念」を習得する基盤にあるものなのだ。

 

 キリツグのような一流の念能力者でもこの「燃」の修行は毎日欠かしていないことからも、「燃やす方のネン」の有用性は窺える。

 その際、彼が「舌」で口にするのが毎回「起源弾──被弾者の魔力は暴走し、自らの肉体を瞬時に死滅させる……」という言葉なのは、正直どうかと思っていますが。

 

 

『生まれた頃から「理想の王」となることだけを言い聞かされ、自分自身を規定していたのが「点」。毎朝怪しい宗教ソングを歌わされていたのが「舌」。「錬」は日々の偏った勉学と精神鍛錬がそれで……「発」は「選定の剣」を引き抜くこと──といったところでしょうか?』

『……こじつけ、というには君の受けてきた教育はどうにも合理的に思えてね。こういう言い方をしてしまうと悪いが、子供の頃からやらせる念能力者の英才教育としては、割と理にかなっているんだよ』

『いえ、別に私は彼らのことを憎んでいたわけでもないので。褒められる点があるのなら、お気になさらず褒めていただいて構いませんよ?』

『そうかい? 流石は王といったところか……器が大きいねセイバーは』

 

 

 当然です。最終的に彼らよりも私を褒めていただけるのなら、その程度の配慮は不要なものである。

 

 ……しかし、そうか。12年間行い続けたあの虚無極まりない日々も、なんだかんだで私の糧になっていたのである。オーラを認識できるようになったことで目に見える世界が一変した後も、案外すぐしっくり来たのも教育の賜物だろう。

 何故ならば日常が「念」習得の準備そのものだったのだから。

 

 

『君の貧弱な肉体──』

『ちょっと強い普通の女の子です』

『──君のちょっと強い普通の肉体に対して、良い意味で中身のオーラが釣り合っていないのはそれが一因にあるだろう。コトミネキレイも言っていたが、ログレスのオーラ総量は桁違いだ……戦いになれば勝てる自信はあるが、オーラだけなら既に僕よりも遥かに多い』

『そんなに、ですか……』

 

 

 そういうわけでキリツグの立てた仮説によれば、村での私の教育は十中八九「念」を知る者たちが企てたものらしく、その一分一秒が「燃」と同じ働きを以って私の「意思」を鍛え続けてきたという話だ。

 そう思うと彼らの働きにも、感謝の1つ程度のことはしてあげたい気持ちになった。……既に、私が殺しましたが。

 

 

『……ま、仮説は所詮仮説だけどね。ログレスは確かに意思が強いが、美味しい食べ物には抑えが利かなかったり、町でたくさん服を買いたがるような当たり前の欲求もちゃんと持っている。ああ──安心した』

 

 

 ……余計なお世話です、マスター。

 

 そも、私が本当に「理想の王」に相応しい意思の強さを身につけていたのなら、私は最初からこの場にいなかった筈である。無意味な仮定だ。

 だがそんな私でも人並み以上の意思力には自信がある。

 

 貴方はすっかり忘れていますが、この時も私は意思の強さで耐え続けていることがたくさんあるんですからね……!

 

 気象が不安定で強風や大雨、時々降雪も発生する山岳地帯で……下着を穿いていないドレスアーマー姿で必死に走り回っているこの状況とか……色々と……っ!!

 

 

 

 

 あの……コトミネキレイ、そろそろ出てきてくれてもいいんですよ……?

 

 たまには私から許可してあげます。こう、山場を越えて下山が近づく度に、こちらの感情が段々と冷静になってきたと言いますか……

 貴方が騒いでくれないと──私も色々と考えたくない今の自分の恰好とか体勢とか、冷静に客観視してしまうのです……!

 

 先ほどキリツグから「後ろを見てごらん。君がその足で乗り越えてきた過去がある」と言われて振り返り、神秘的な霊峰の景色に目を向けた際にも──この心に抱いたのは感動的な達成感よりも、「えっ、わたし……あんな美しい山を何も穿いてない状態で登ってしまったんですか……!?」という筆舌にし難い罪悪感の方が大きかったものである。

 

 ……っていうか、普通にお腹まわりが痛くなってきました。

 この鎧は保温性が高く、見た目に反してこちらの体温は常に適温に保たれているが……ノーガードの股下を潜り抜けてくる冷風の感触は、普通に冷たくて落ち着かなかったのである。下界では残暑が残っていたのでまだ良かったが、標高の高いところでは……本当に。

 そう、最後の試練は冷たく儚かった──はかなかっただけにってうるさいですね私。

 

 

『あっ、またクルミの冬芽見つけた』

 

 

 ──! キリツグッ、最低ですよっ!!

 

 

『えっ、どうした急に顔真っ赤にして……ああ、流石に夜通しの走破は疲れたようだねセイバー。オーラはまだ元気だけど、風邪は引いてないかい? 特に山頂は、眺めは最高だったけど寒かったからねぇ』

 

 

 ……っ、ああ冬芽、本物のクルミの冬芽のことですね……ええ……そうですよねキリツグに限って失礼な勘違いをしてしまいました。

 

 このオヤジ、急に酷い比喩をしてきたなと思い……この時は驚きました。ええ本当に。

 今が実の成る収穫期だと思っていましたが、山の寒いところにはもう冬芽が出ているんですねあのクルミは。

 

 比喩……? さて、何のことでしょう?

 

 私がクルミの冬芽を何の比喩と疑ったのかは言いません。

 まったく……私としたことが何を考えていたのでしょうか? 不思議なことがあるものです。

 全く心臓に悪い。

 それに──キリツグに対する視線誘導は常に完璧です。私は「理想の王」として育てられたオーラの申し子。故に、彼に見られてはならないものを見られるなどという失態は──丈の短いドレスを着せられていた頃は不可抗力として少しばかりあったかもしれませんが……この衣装を着るようになってからは無かった筈です。

 

 今までの彼の反応的に考えて、必ず、きっと、多分……はい。大丈夫ですよね? この師匠、時々予想外なところでぶっ込んでくるから心配になってきました。

 

 ともかく、妙な誤解で聖剣を抜こうとして申し訳ありませんマスター。

 あの時の貴方は初めて山岳地帯を走破した私に対して、とてもエモーショナルなことを言っていた気がするのですが……あの時の私は体力的にも羞恥的にも色々と限界でほとんど頭に入っていませんでした。師匠が良いこと言ってくれたのに粋な返しができなくてすみません。

 

 思えばコトミネキレイのダニのような鬱陶しさも、この恥ずかしさを紛らわせてくれる分には意外に役立っていたのかもしれない。まあ、彼は私に感謝など求めていないでしょうが。

 

 

 ……ああ、やっぱり出てこなくていいです。

 アレに感謝するような状況を作ること自体が、奴の思う壺!

 

 ラストスパートに入ると、私のオーラが無意識に再起していくのを感じ取った。

 山のピークに至る過酷な道中ではズタボロボンボンにされたが、日が明るくなり、後は下山するだけとなれば目的地の町は近い。

 

 筋肉が悲鳴を上げており、本当のところはもはや立っているだけでも脚が震えていましたが……まだ私の出力は残っています。束ねるは星の息吹──ヨシ!

 

 この苦しみ、不安、羞恥もあと少しの辛抱だ。そう思うと俄然オーラに力が入る。

 ファイトです私。ここを耐えれば町へ辿り着き──キリツグに欲しい物を買っていただけるのだから!

 

 そう気合いを入れ直した私の姿にキリツグは満足そうに頷くと、彼は再び「タイムアルター・ダブルアクセル! ンンッ!!」と速度を上げて軽快に山を下っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キリツグ……何故空は青いのですか?』

『僕がそう望んだからさ』

『ぶふっ』

『笑うなーッ!』

 

 

 

 ──ああ、言い忘れていましたが、キリツグと眺めた山頂からの景色はとても美しかったです。

 

 

 

 開け放たれた青い空から見下ろす朝日の光。

 それが淡い雲海に溶け込んでは反射され、遠い先で広がっている大海原を照らし出す光景には、本当に──世界にはこんな綺麗なところがあるんだなと、思わず涙が溢れてきたぐらいに心が震えました。

 

 

『キリツグ……何ですか? この涙は』

 

 

 キリツグもこの時ばかりは、そんな私の質問に答えを返してくれなかった。

 

 それはそうだ。彼は私の師匠(マスター)であって、私のことを生まれた頃から見てきたわけではない。

 

 ……いや、もしかしたらあえて答えなかったことにこそ、意味があったのかもしれない。

 

 ただ、私はこの時、何となく思ったのである。

 いつもの直感でも、誰かに誘導されたわけでもなく。

 今までの人生と、彼と出会ってからの人生。何から何までが変わりすぎて戸惑うばかりだったあの頃の私だが、そんな目まぐるしい変化の中には龍の唸りのようにこの胸に抱え続けていた衝動があった。

 

 

『──僕は正義の味方になりたかった系ハンターの、エミヤ=キリツグだ。

 

 

 

 ログレスは、どんな大人になりたいんだい?』

 

 

 ふと、キリツグは私にそう訊ねた。

 これまでにも何度か、思い出したように訊ねてきたその言葉。

 

 朝日を見つめながら、彼は私の前で唐突に語り出した。彼の念能力【何ともつまらぬ結末(コトミネキレイ)】は本来意図していなかった失敗能力だったと──しかしその失敗は決して悪いものではなく、寧ろ失敗だったからこそ自分は、今までできなかったことができるようになったと笑っていた。

 続けて「コトミネもねー、アイツも悪い奴じゃないんだけどねー!」と愉しげに語られた言葉には色々と違和感しかなかったが、彼は自分自身の身の周りで起こった出来事を常にポジティブに受け止めていた。

 

 だから私は……嫉妬したのかもしれない。

 

 何に? もちろん、アレ(コトミネキレイ)に対してではない。

 

 朝日の光よりも私の方が綺麗です! という嫉妬とも当然違う。私は自分の容姿には結構自信を持っているかわいいかわいい騎士王さんですが、太陽にジェラシーを感じるほどのナルシストではないのだ。

 

 

 あの時の私が嫉妬したのは、そう──コレ(ハンターライセンス)である。

 

 

『キリツグ……私は……』

 

 

 だから、その時。

 私は彼の隣に下ろしていた腰をおもむろに上げると、鞘たるこの身から引き抜いた聖剣【継ぎ揃えし理想の剣(エクスカリバー)】を黎明の光の前へと掲げた。

 

 この足で初めて到達することができた山の頂上にて堂々と佇んだ私は、静かに吹き抜けていくそよ風に髪を揺らしながら──彼に向かってこう宣言したのである。

 

 

『私は──ハンターになります』

 

 

 ただ、そうなりたいと思った。

 

 理由は正直なところ、ありすぎてキリが無いといったところだ。

 

 このような美しい景色をたくさん見てみたいと思ったのもそうだし、道中で目にした動植物のような生き物の保護や狩猟に興味を持ったのもそう。

 世界中の美味しい珍味を探してみたいと思ったのもあるし、海洋生物や海のトレジャーハントにも実は興味がある。船で逃亡生活を過ごしていた頃、船長殿とそういう話で大いに盛り上がったのだ。それまで海というのは悪魔が跋扈する恐ろしい場所という印象が大きかったが、それ故にまだ誰にも手を出されていない金銀財宝が大量に隠されているという。金銀財宝はともかく、宝石には興味があった。手に入れた宝石でこの鎧をデコレーションしてみるのも良さそうです。

 

 正義の味方に興味は無かったが……かつての私のような、或いは私などよりもずっと劣悪な境遇にいる人々のことも、できることならばこの剣で助けてあげたいと思っていた。

 ……人を人と思わぬ悪党を、この剣で断ちたいとも。

 

 

 

『そうか──そんな気はしていた』

 

 

 しかし師匠(マスター)は、理由を問わなかった。

 

 困った顔もしなかったし、怒ることも笑うこともしなかった。

 

 そしてこの時ばかりは──安心した、とも言ってくれなかった。

 

 

 ……まあ、その理由は今ならよくわかります。危なっかしかったですから当時の私は。

 

 

 今でも危なっかしい?

 

 異なことを。確かに今も素の力は大して成長しておらず、依然としてちょっと強い普通の女の子のままですが、あの頃より殿方の捩じ伏せ方は心得ています。

 

 貴女(・・)も試験では散々目の当たりにしたでしょう? そうです。私はあれから大体1年ぐらいの鍛錬で理解したのだ。自分には他の受験生たちのような筋力的素養は全く無いと。

 

 そして──困った時はエクスカリバーが大体何とかしてくれることに。

 

 

 ……と、その話は後にするとして。

 ともかく彼は私の唐突な告白に返事を返さなかったが、それでも真剣に目を見て私の望みを聞き届けてくれたのだ。

 

 

『──ああ。それなら修行、頑張らないとな』

 

 

 そう言って彼は──何事も無かったように下山を始め、私もまた何事も無かったようにその後を追いかけていった。

 

 だが私の打ち明けた想いは、決して無かったことにはしなかった。

 彼は次の日から1年後のハンター試験を見据えた修行計画を提示してくれたし、私もそれをそれまでと変わらず打ち込んでいくこととなる。

 

 ええ……本当のところ、私にはそれが1番嬉しかったのかもしれませんね。肝心なことは言葉ではなく、行動で示してくれたことが。

 

 私自身もその時は気づいていなかったが、結局のところ私が「ハンターになりたい」と思ったのは、彼の背中を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──話しすぎましたね。この先は言いません」

「ええー……」

 

 

 ふう……航海中暇だったからと言っても、つい興が乗って喋りすぎてしまいました。

 これも、貴女が初めて会話を交わした同性のハンターだからでしょうか? 私1人で喋り倒してしまい申し訳ありませんね、ポンズ。

 

 キリツグとの修行の日々は素晴らしいものだったが、心の内では他の誰かに対しても共感を求めていたのかもしれない。あの男は女性の友人が少ないのか、深いところでノンデリが過ぎますからね。打ち解けた後も話せないことは色々ありました。

 

 ですが、今の私にはハンターライセンスがある。この意味がわかりますかポンズ?

 試験に合格し、彼と同じプロハンターになれたことで、これからは私の方からもビシバシ言うことができるということです。

 ふふふ……待っているがいいキリツグ。今度は貴方がズタボロボンボンになる番ですよ!

 

 

「? ……どうしたのですポンズ? 何ですかその反応は」

 

 

 貴女から聞いてきたことでしょう? 「ログレスちゃんは、どうしてハンターになろうと思ったの?」と。

 それに真摯に答えてあげた私に対して、口を押さえながら大きく目を見開くなど……そのような態度は如何なものかと思う。

 

 

「……いや、試験の時は全くそんな素振りなかったのに、身の上話を聞いたらすっごい惚気話が飛び出してきてびっくりしただけよ……やるわねログレスちゃん」

 

 

 惚気話……何だと?

 

 ……えっ、先ほどの私、完全に恋する乙女だったと?

 

 何ですか、それは。

 

 誤解なきように。確かにキリツグのことは今まで会ってきた人間の誰よりも好ましく思っていますが、私たちの関係はそのようなものには該当しません。

 

 ……というか、そもそも年齢が離れすぎているでしょう。キリツグとは親子の年齢差ですよ? 普通に考えれば誤解する余地は無いと思うが?

 

 

「ふふっ……ごめんなさい。野暮なこと言ったわね」

 

 

 全くです。そのような無礼、いかに共に難関をくぐり抜けた同期であろうと許しませんよ?

 これは貴女に「念」を教えるという指導の役目も、根本から見直さねばなりませんね。

 

 

「ごめんて! あっ、ハチミツキャンディーあるけど食べる?」

 

 

 いただきましょう。

 

 ──はい。とても美味です。ポンズのハチミツは最高ですね!

 

 ……さて、では「念」の話ですがどこから教えましょうか?

 貴女は既に「纏」を習得する下地は整っているようですし、身体も今の私などよりよほど鍛えられています。

 私のような若輩者に教授できることはあまり無いかもしれませんが……組稽古の相手ぐらいなら手伝いましょう。

 

 そう言って私は、「第288期ハンター試験」の帰路となる船の甲板に乗り上げながら、同期唯一の同性の合格者であるポンズと横並びになって海を眺めていた。

 

 冬の海は冷たいが、この鎧はやはり便利である。

 冬は暖かく、夏は涼しい。如何なる環境、季節でも私の体温を整えてくれる。試験ではキリツグのようなスーツを着ていたものだが、肌寒い今の季節ではこちらの方が快適である。

 

 それに、戦闘時でなければ今のように金属部分のみ解除するということもできるのが良い。

 こうすれば普段着としても「ちょっと派手かも……」ぐらいで済む、フォーマルな場でもカジュアルな場でもイケるシックなドレスに早変わりである。

 

 純粋な戦闘用として作ったつもりの【穢れなき者の理想郷(ローグ・レス・アヴァロン)】だが、蓋を開けてみれば思わぬ副産物に重宝している。キリツグの【何ともつまらぬ結末(コトミネキレイ)】もそうだったらしいが、念能力というのは案外、実際に使ってみなければわからないことが多いのかもしれない。

 

 ふー。潮風が心地良いですねキリツグ。あっ、キリツグいなかった。

 

 またやってしまいました。

 彼とはハンター試験を受ける為に別れてからそれほど時間が経っていないというのに、私も雛鳥気分が抜けないものだと自嘲する。

 

 そんな私は現在14歳である。

 誕生日は新年早々の1月1日──つい先日、その日を迎えた際には「誕生日おめでとうロード=ログレス」と、コトミネキレイから14本の蝋燭と「ろぐれすちゃんへ」とチョコレートのプレートに書き綴られたケーキをいただいたものだ。何故か、深夜の公園で。

 

 ケーキは大の好物でしたが、何分あの男が出してきた物なので、また何か激辛成分が入っているのではないかと恐る恐るいただいたものですが……びっくりするほどまともな美味しいケーキでした。

 

 ありがとうございますコトミネ。いや、コトミネキレイーッ!!

 

 あれであの念獣、敬虔な神父ですからね。「善であれ悪であれ、この世に生まれ落ちた全ての生命には祝福される権利がある」と心の底から信じているのである。

 だから私とキリツグの誕生日の時だけは、人を疑うぐらい完璧な神父をやっていたものだった。

 

 ……その際、キリツグは何故か毎回一口目のケーキをフォークで取りこぼしていましたが。

 「僕にはケーキすら、救えない……!」じゃないんですよキリツグ。

 

 

 

 やはり──私の師匠はちょっと変だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

【ロード=ログレス】

 

 第288期ハンター試験合格者その2。

 試験前に14歳になった。成長期を迎えたことにより12歳時点では137cmだった身長も153cmまで伸びた。因みにゴンは11歳時点で154cmでキルアは158cm。2人とも13歳時にはもっと伸びていると思うと意外にデカい。

 念能力【穢れなき者の理想郷(ローグ・レス・アヴァロン)】による鎧は肉体の成長にサイズを合わせてくれる親切設計。思っていたよりも日常生活で凄く便利で気に入っている。

 素の身体能力はあまり伸びなかったが、棒きれ1本でも渡せば洗礼を与える必要なく非念能力者を制圧できるようにはなった。

 ハンター試験では色々な人と出会えて楽しい。ちょっとトラブルもありましたが私は元気ですキリツグ。

 

 

【ポンズ】

 

 第288期ハンター試験合格者その3。

 他の受験生共々キルアに全滅させられそうになったところをログレスの存在により免れた。

 二次、三次とその後も続いた試験では数少ない女性受験生ということもありログレスと意気投合。歳下ながらも突出した彼女の強さに憧れを抱く。

 自家製ハチミツキャンディーを常備。これを渡すとログレスの機嫌が良くなるので、上手く懐柔しつつ普通に友情を深め、最後は自らの力で悲願の合格を勝ち取った。

 受験後は以前から調べていた「念」の秘密がログレスにあると気づき、彼女に同行。指導を申し込んだ。操作系の素質があるらしい。

 

 

【トンパ】

 

 一口飲めば3日はウンコが下水流みたく止まらねぇ!! お前らもうパンツをはいてテストを受けることすらできないぜ!!

 

 パンツをはいてテストを受けることすらできないぜ!!(重要)

 

 今年も元気に新人たちへ下剤ジュースを配っていたところ、邪悪な笑みの裏で呟いた一言に少女が急にキレた!

 一次試験では何故か彼女から執拗に狙われた。彼女にはジュースを配っていなかったのだが、一体何が少女の心に怒りの炎を灯してしまったのか……謎は深まるばかりである。






ポンズ(流石に今は穿いてるわよね……? 大丈夫かしらこの子……)



 ここまで読んでいただきありがとうございました。
 一応一区切りです。試験の様子とか原作への介入とか機会があればまた書いていきたいと思っております。
 本作の更新が私にしては早かったのはアレです。穿いてない状況に苦悩しつつ人生を謳歌する美少女を書くという変な制約と誓約でバフがかかっていたのかも……
 

迷うねェ〜❤︎(参考までに需要調査)

  • ハンター試験❤︎
  • Fate はかせ night
  • 両方書くのがベストじゃない?
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