先生と二人きりで夜の街に消えたのを目撃された男子生徒の話 作:真夜中のミッドナイト
シャーレの部室……無数に置かれた書類の山の隔てたガラスの向こうは、既にビルの明かりも消えていくほどの深夜帯。空調の唸る音と、俺と先生が書類に筆を走らせるかすかな音だけが部屋に満ちている。
つー訳でこんばんは。俺の名前は『
男子生徒の時点でキヴォトスでは異端児?そうかもしれない……何故かキヴォトスには俺以外の男となるとロボか獣人位しか居なかった。
だが!今は違う!!キヴォトスを総括する連邦生徒会長が居なくなった後に現れた俺の隣で、やつれた顔で書類作業をしている先生!この人が来てから俺はキヴォトスでも話せる同性であり同士を見つけることができた!!
「先生ぇ、そっちの調子はどうよ……あと何枚で終わりそう?」
“えっ?何かなコウジ……『あとマイマイ食べたい?』エスカルゴの事?サイゼでも行こうか?”
「言ってねぇよそんな事。」
あぁ駄目だこの人、過労と眠気で頭がおかしくなってやがる。まぁ、連邦生徒会長がいなくなった後のしわ寄せが一気にこの人に来たようなもんだからな。
ほかの連邦生徒会の面々も手助けしてるが、この人普段から仕事漬けだもんなぁ。目の下の隈も、心なしか昨日より濃くなってる気がする。
……あれ、考えてみたら俺、先生と知り合ってからこの人がまともに休んでる所見たことねぇぞ。
“いや、でも本当に助かってるよコウジには。”
「んえっ?」
“こんな時間まで書類整理に付き合わせられるのはコウジしか居ないから……”
「それは俺が都合の良いお手伝いとして見られてるって判断していいか?」
“えっ!?いやっ違うよ!?あのっそのっごめん……なんて説明したら……”
先生があたふたしている様はいつ見ても飽きない……勿論俺も先生がそういう意味合いであんな言い方をしたんじゃないのは分かってる。ただからかってみただけだ。
“はぁ……キヴォトスの子達はみんな年頃の女の子じゃない?”
「お陰で俺みたいなイレギュラーは肩身が狭いよ。」
“ははっ、私も同じ気持ちだよ。それで、年頃の女の子を深夜まで大の大人の男に付き合わせる訳には行かないからね。”
「おっ、先生も《男》だから変な気を起こすかもってか?」
俺がまたそうからかうと先生は軽く俺の頭を小突いてため息をつく。
“失礼だよコウジ……まぁでも、そう感じる女の子も多いだろうからね。男の子のコウジは比較的気兼ね無くお願いできるってのはあるかな。”
「そのせいで俺はこんな時間まで書類整理を手伝わされてるって訳か……」
“ごめんね?嫌だったら今からでも帰っても……”
「まぁ、同性の友人のよしみだ。今から俺だけ帰るなんて野暮な真似はしないさ。」
正直に言えば滅茶苦茶帰りたいけどそうすると先生の仕事量がえげつないことになるからな。とは言っても流石に同性の友人ってのは先生相手に馴れ馴れしすぎたか。
“同性の友人……ふふっ。そうだね。生徒にそんな事言われるのはこそばゆいけど嬉しい限りだよ。”
あっセーフっぽい、良かったぁ。実際先生はトリニティで男って理由だけで虐められてた俺を救ってくれた恩師だからな。できることがあるなら出来るだけ手助けしたいのが人情だ。
「たださすがにこの量はメンタルが削げる……気分転換しないか先生。」
“気分転換かぁ……ぱっと思いつかないなぁ……”
「積みプラでも崩しますか?」
“プラモデルかぁ……作りたいけど作る気力がないよぉ……”
うーん……俺も先生も男の子だし積みプラの守護者だから提案してみたんだが駄目か……ただこのままだと確実にコンディションに影響しそうなんだよなぁ。
つか既に低下してるし先生の集中力、さっきから明らかに書類の同じ行を三回は読み返してるし。
「特撮かアニメなんか見ます?仮〇ライダーかウルト〇マンとか。」
“私はガン〇ムがいいなぁ……でも今から見始めるにはハードル高いかも。”
特撮も駄目か。改めて説明すると、俺と先生の趣味は似通っている。ロボット大好き、特撮大好き、男の子の好きなもの大抵大好きな最高の友達だ。
だからこそ我ながらここまで懐いた面もある。なんたって生まれて17年、共通の話題で盛り上がれたことなんてないからな。女所帯だったし、俺完全に腫れ物扱いされてたし。
「それがだめならもう外に飯でも食べに行きません?」
“今から?やってるお店あるかな?”
「まぁ最悪はコンビニ弁当で……適当に夜風に当たって散歩するのもいいものっすよ。ずっと室内に篭ってると頭も煮詰まるでしょ。」
実際根を詰めすぎだから少しくらい気を抜いたほうがよい。というかどいつもこいつも先生に仕事回しすぎなんだよ!!連邦生徒会長何処行きやがった!?見つけだしたら説教してやる………っぱ無理、女の人怖い……
「それじゃあ早速出かけましょうか。」
“うん、行こうか……確かに少し休みたいかも……”
すると俺と先生は適当な上着を羽織って鍵を持ち、シャーレの部室から抜け出した……辺りは既にネオンの灯りもまばらで、大通りを走る車の音すら間遠になっている。
ひんやりとした夜風が火照った頭を冷ましてくれる。ずっと蛍光灯の下に篭ってたせいか、こんな当たり前の空気の匂いすら新鮮に感じるくらいだ。
“わぁ……夜風って気持ちいいね。こんな時間に外を歩くの、いつぶりだろう。”
「先生、それ真顔で言うのマジで心配になるからやめてくれます?」
“へへ、冗談だよ……半分は。”
「半分は本気じゃねぇか。」
俺がため息をつくと、先生はくすくす笑いながら少し先を歩き出す。心なしか、部室にいた時よりも足取りが軽い気がする。単純に外の空気が合ってるのか、それとも書類から解放された解放感か。多分両方だろうな。
“それで、コウジは何が食べたい気分?”
「んー、こんな時間だとがっつりしたもんより、あっさり系の気分っすね。ラーメンとか。」
“ラーメンかぁ……でも夜遅くに食べると罪悪感がすごくない?”
「先生がそれ言う?いつも書類に埋もれて三食まともに取ってねぇ人が。貴方今日昼も食べてないでしょ?」
“う……それを言われると弱いなぁ……”
図星突かれた先生が目を逸らす。この人、今度から俺が見張っとかないとまずいかもしれん。
しばらく無言で歩いていると、路地の奥にぼんやりと灯りが漏れているのが見えた。小さなラーメン屋、まだ暖簾が出ている。この時間まで営業してるとは運がいい。
「先生、あそこ行きます?」
“お、開いてるんだ。よかった……お腹すいてきたかも。”
「さっき『罪悪感がすごい』とか言ってたの誰だよ。」
“食欲には勝てないんだよ、人間だもの。”
どっかで聞いたようなフレーズを耳にしながら、俺と先生は夜の街中にあるラーメン屋に向かって歩いていく。この行為が後にあんな風評被害を生むなんて、オレには予想打にしていなかった。
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翌日のこと、俺と先生はラーメンを食った後に再び部室へと戻り書類仕事を再開したが、最終的に睡魔に負けて2人で雑魚寝した。
俺はトリニティ学園に在学してて家もそっちにあるんだが、色々あってあんまりトリニティには戻りたくないからこうしてシャーレの部室に寝泊まりできるのはありがたかった。
俺と先生は目が覚めるなり目の前の書類にまた絶望して再び書類整理を始めたのだが……問題はここからだ。妙に外が騒がしい気がする……
はじめは気の所為かと思ったが、その喧騒は次第にエスカレートしていき、次の瞬間にはドアがバタンと勢いよく開いて一人の女性が手に新聞を持って入ってくる。
彼女の名前は七神リン。連邦生徒会の一員だ……俺はとっさにソファの後ろに隠れる。俺は大の女性恐怖症なもんで体の9割を隠してないとろくに女性と対話できないのだ。
……とは言っても、どうやら用があるのは先生の方らしいが。
「せ、先生……少しよろしいですか?」
“あ、リンちゃん、どうしたの?”
「リンちゃんは辞めてください……それよりも!これです。」
リンちゃんがバンっとテーブルの上に叩きつけたのは、俺と先生が夜の街を背景に歩いている写真の写った新聞記事……内容は……『【深夜の密会!?】シャーレの先生とキヴォトス唯一の男子生徒!夜の街に消える!!』と言うふざけた内容の新聞だった。
「“……はっ?”」
俺と先生の声が思わず共鳴する。
「……この事による事実確認の連絡で連邦生徒会はパンク状態、外にも大勢の生徒が集まっています……」
リンちゃんが疲れた顔でそう告げると同時、窓の外からざわめきが一段と大きくなった気がした。カーテンの隙間から覗いてみると、まぁ見事な人だかりだ。
誰だよこんな朝っぱらから記事書いた奴……つかなんで写真撮ってんだよ!?撮るならラーメン屋ののれん潜る瞬間まで撮ってから乗せろ!!!
「“はっ?”」
再び俺と先生の声が木霊する。俺も思わず身を乗り出してしまう始末だ……そしてしばらく間を空けて、事の現実を改めて理解した俺と先生は、腹から声をあげることになる。
「“はぁぁぁぁぁぁぁっ!?”」
思わずリンちゃんが耳を塞ぐほどに、部屋中を貫くほどの声量が俺と先生から飛び出すのであった。
矢倉コウジ:トリニティ2年生(留年中)キヴォトスで唯一の男子生徒であり、そのせいでトリニティで虐めに遭い不登校になり留年した所を先生に助けて貰い先生に懐く。因みに女性恐怖症である。
先生:容姿はアニメ版先生イメージ。いつものように困っている生徒を助けたらいつものように懐かれた。同性なだけあってコウジには色々と気安い所がある。
生徒達多数:朝イチで配られた新聞の内容に阿鼻叫喚中。なお一部では『むしろ捗る』と意味不明の供述があり……