Good Luck, Mr. Magician 作:evejanjan
十一月の空は、箒で飛ぶにはあまり親切そうではなかった。
朝から冷たい風が城の壁をなぞり、前の晩に降った雨が芝生のくぼみにまだ残っていた。それでも昼食が終わる頃には、生徒たちは寒さなど忘れたように競技場へ向かい始めた。赤と金、緑と銀のマフラーが階段から校庭へ流れ、普段なら廊下を走っただけで上級生に睨まれる一年生まで、この日ばかりは誰も歩こうとしなかった。
遙一もスリザリンの生徒たちに混じって観客席へ向かった。
クィディッチそのものには、まだそれほど思い入れがない。飛行授業で箒の面白さは分かったが、自分で飛ぶより、空中で十四人が別々の役割を持ち、その全員へ観客が好き勝手に期待や悪口を投げつける仕組みの方が興味深かった。
試合が始まる前から、観客の目は忙しい。選手が箒を抱えて現れれば一斉にそちらを向き、大きな旗が振られれば何十人かが横を見る。向こうの観客席から野次が飛べば、試合とは関係のない生徒まで身を乗り出した。数百人が一つの競技を見るために集まっているのに、全員が同じものを見ている時間は驚くほど短い。
「ポッター、落ちなきゃいいけどね」
少し前で、ドラコがわざわざグリフィンドール側にも届きそうな声を出した。ハリー本人に聞こえる高さではなかったので、要するに自分が言いたかっただけらしい。クラッブとゴイルが笑い、近くにいた上級生が「落ちる前にスニッチを見つけられればな」と付け足した。
「落ちると思います?」
遙一が聞くと、ドラコは意外そうに振り返った。
「思わないの?」
「飛ぶのは上手かったですよ」
「一回見ただけだろ」
「十分でした」
ドラコは気に入らない顔をした。何か言い返そうとしたところで、選手たちが競技場へ姿を現し、観客席全体が大きく揺れたので、結局その話はそこで終わった。
両チームが空へ上がると、遙一はしばらく試合を追うだけで精一杯になった。
地上で説明を聞いた時には単純そうに思えたが、実際にはそうでもない。クアッフルを持った選手を追って二人が急降下したと思えば、そのすぐ横をブラッジャーが飛び抜け、打ち返された球から逃げた別の選手が味方とぶつかりかける。ゴールが決まるたびに実況席から声が響き、片方の観客席が立ち上がると、もう片方から同じくらい大きな野次が返った。
スリザリンが得点した時、ドラコは両手を叩いて立ち上がった。次にグリフィンドールが取り返すと、座るのが少し早かった。
競技場全体がそんな調子だった。
遙一は次第に、試合だけでなく観客席まで見るようになった。歓声が上がれば視線の群れが動き、誰かが転びそうになれば近くの十人ほどだけが試合から目を離す。教師席も例外ではなく、競技を見る者、隣と話す者、時々生徒の方を気にする者がいた。
その中で、ハリーは妙に目についた。
他の選手のようにクアッフルを追いかけるわけではなく、高い位置を行き来しながら、ときおり急に向きを変える。飛行授業で見た時と同じで、箒を操っているというより、身体の方が先に飛び方を知っているようだった。
しばらくして、その箒が不自然に跳ねた。
最初は風かと思った。十一月の風は十分に強かったし、遠くから見れば箒が一度傾いたくらいでは珍しくもない。
ところが、二度目は違った。
箒が大きく横へ振れ、ハリーの身体が投げ出されかけた。すぐに立て直したものの、今度は柄の方が上下へ暴れ始める。
観客席の声が変わった。
さっきまでの歓声ではない。
「何やってるんだ?」
ドラコが立ち上がった。
グリフィンドール側ではロンも立っていた。隣にいたハーマイオニーは双眼鏡を目から外し、空ではなく別の場所を探し始めている。
遙一もハリーから視線を外した。
箒がおかしいのなら、見るべきなのは箒だけではない。
観客の大半は空を見上げていた。選手も教師も、激しく揺れるハリーへ注意を奪われている。その中で、スネイプはほとんど姿勢を変えず、ハリーを見つめたまま口だけを一定の調子で動かしていた。
呪文を唱えているように見える。
ただし、教師席にはスネイプ一人しかいないわけではない。前にも横にも何人かの教師が座っており、その全員の手元や口元まで同時に見ることはできなかった。
空で箒が跳ねた。
ハリーの片手が離れる。
悲鳴が上がった。
今度はドラコも何も言わなかった。
遙一は教師席を見続けた。スネイプの口はまだ動いている。少し離れた場所にはクィレルが座っていた。ハロウィーンの夜のように慌てた様子はなく、むしろほとんど動いていない。ただ、その視線だけが試合全体を追わず、妙に長く同じ場所へ留まっていた。
その先にはハリーがいた。
グリフィンドール側でハーマイオニーが急に動いた。人を押し分けながら教師席の方へ進み、途中で誰かにつまずく。紫色のターバンが大きく揺れ、クィレルが椅子の横へよろめいた。
その瞬間、ハリーを追っていた視線が切れた。
箒の暴れ方が、少し弱くなった。
完全には止まらない。
数秒後、別の騒ぎが起きた。黒いローブの裾から火が上がり、近くの教師たちが立ち上がる。スネイプも姿勢を崩し、煙と人影に隠れて口元が見えなくなった。
そこで箒が落ち着いた。
遙一は空と教師席を交互に見た。
クィレルの視線が切れた直後、箒の異常は弱まった。そのあとスネイプの集中が乱れると、箒は完全に安定した。スネイプが何かを唱えていたのは事実で、クィレルが長くハリーだけを見ていたことも、その視線が途切れた直後に変化があったことも事実だった。
それ以上は、まだ事実ではない。
そして試合は、そんなこととは関係なく続いていた。
ハリーはもう箒を立て直している。少し前まで片手でぶら下がりかけていたとは思えないほどあっさり競技へ戻り、高い位置から何かを探すように首を巡らせていた。
やがて身体が前へ倒れた。
箒が加速する。
もう一人のシーカーも同じ方向へ動き、二人の前を金色の小さな光が逃げた。
ハリーは急に高度を落とした。追いつくというより、スニッチがそこへ来るのを最初から知っていたような動きだった。地面へ突っ込む寸前に箒を持ち上げ、手を伸ばし、そのまま芝生へ滑り込む。
観客席の何人かが立ち上がった。
ハリーは咳き込んでいた。
何かを飲み込んだようにも見えた。
次の瞬間、彼は口元へ手をやり、小さな金色の球を掲げた。
競技場がひっくり返った。
グリフィンドール側から上がった歓声は、さっきハリーが落ちかけた時の悲鳴よりずっと大きかった。赤と金の旗が何本も振られ、隣の生徒が立ち上がったせいで後ろの生徒が何も見えなくなり、その後ろから文句が飛んだ。
「口で取ったのか?」
ドラコが信じられないものを見る顔で言った。
「そう見えましたね」
「手じゃなくて?」
「口でした」
「……それ、ありなの?」
近くにいた上級生が、少し考えてから「ありらしい」と答えた。ドラコはルールの方が間違っていると言いたそうな顔をしたが、審判がグリフィンドールの勝利を告げてしまったので、抗議する相手もいなかった。
試合が終わると、生徒たちは競技場から城へ向かって一斉に流れ始めた。さっきまでハリーが落ちるかもしれないと騒いでいたはずなのに、今では誰もがスニッチを口で取った話ばかりしている。少し離れたところでは、それを「飲み込んでから吐き出した」と説明している生徒までいて、噂はもう仕事を始めていた。
遙一は人の流れから外れ、教師席を振り返った。
スネイプの姿はすでになく、クィレルも見当たらない。
その代わり、少し先でハーマイオニーがロンに早口で何かを説明していた。風に切られて全部は聞こえなかったが、スネイプの名前だけは何度か耳に入り、ロンはその度に勢いよく頷いている。
三人の中では、かなり答えが固まりつつあるらしい。
遙一には、まだそこまでの材料はなかった。スネイプを外す理由もなく、クィレルを疑うには材料が足りない。ただ、ハロウィーンの夜にはなかった小さな一致が、一つ増えた。
城へ戻る途中、前の方を歩いていたハリーが友人たちに何か言われ、笑いながら振り返った。
飛行授業の時にも見たものだった。危険が迫った時、ハリーは考えてから正しい動きを選ぶのではなく、必要になる少し前にはもう身体をそこへ置いている。自分とは違う種類の正確さだった。
遙一に気づいたハリーが、少し離れたところから片手を上げた。
遙一も同じように手を上げた。
その間を、生徒たちが何人も通り過ぎていった。