Good Luck, Mr. Magician 作:evejanjan
十二月になると、ホグワーツは少しずつ雪に埋まり始めた。
朝起きるたびに窓の外の白い部分が増え、湖は鉛色になり、城へ戻ってくる生徒たちは濡れた靴で廊下に細い跡を残した。大広間にはいつの間にか大きな樅の木が何本も運び込まれ、上級生が飾りつけを手伝うたび、金色の泡や小さな光が枝の間から飛び出した。天井近くには宿り木が下がり、その真下だけ人の流れが妙に悪くなっていた。
休暇に入る数日前から、城の中は荷造りの音で落ち着かなくなった。ドラコは家へ帰れば学校よりずっとまともな食事が出ると何度も言い、クラッブとゴイルは持ち帰る菓子と列車で食べる菓子を分けるだけで半日使った。
「君は帰らないの?」
談話室で鞄を閉じながら、ドラコが聞いた。
「ええ。今年は残ります」
「クリスマスに?」
「城が静かになるなら、一度見ておきたいので」
ドラコは、クリスマスに学校へ残る理由としてはかなり変だと思ったらしい。それでも自分の家にある飾りの方が大広間のものより立派だという話を始め、途中から去年は親戚の子供が飾りを一つ壊して母親に叱られた話になった。そこまで話したところで、ドラコ自身は悪くなかったという説明がやけに長くなり、遙一は本を閉じるまで聞いていた。
休暇初日の朝、スリザリンの談話室は本当に静かになった。
いつもなら暖炉の前に誰かの鞄が置かれ、ソファの取り合いが起き、遠くの机ではチェスの駒が文句を言っている。ところが今は、湖の水を通して差し込む緑がかった光と、薪が崩れる小さな音の方がよく聞こえた。残った生徒はまばらで、広くなったソファを一人で使っても誰にも睨まれない。
夜になると、窓硝子には湖の暗さより談話室の中の方がはっきり映った。暖炉の火と椅子、それから本を読む生徒の姿が、黒い水の向こう側にもう一つあるように見える。もっとも、覗き込んでも映るのは今そこにあるものだけだったので、遙一はすぐに興味をなくした。
午前中は図書館で過ごした。普段より席は選び放題で、マダム・ピンスまで少し退屈そうに見えたが、本の扱いだけは休暇になっても厳しかった。
昼過ぎに寮へ戻ると、家から荷物が届いていた。
厚手の手袋、新しい羊皮紙、保存のきく菓子、それから何冊かの本。家で使っていたものを適当に詰めたのか、箱の底には見覚えのある小さな木箱まで入っていた。
遙一はそれを取り出して蓋を開け、ぜんまいを巻いた。細い金属音のあとに、短い旋律が流れ始める。
もっと幼い頃、動作の時間を揃えるために使っていた音楽箱だった。同じ旋律を一定の長さだけ繰り返すので、手元を見ずに間隔を測るには時計より便利だった。カードを切る時間や、物を袖へ隠すまでの手順をこれに合わせたこともある。今では箱の角に細かな傷が増え、ぜんまいも以前より少し固かった。
向かいの椅子で本を読んでいた上級生が顔を上げた。
「それ、ずっと同じ曲?」
「そうですよ」
「五回目くらいから嫌にならない?」
「昔はもっと聞いていました」
上級生はしばらく遙一と音楽箱を見比べたあと、理解するのを諦めたように本へ戻った。
遙一も箱を机の端へ置き、届いた本を一冊開いた。旋律は昔とほとんど変わっていなかった。
クリスマス当日の朝、大広間は休暇前よりさらに派手になっていた。
普段なら四つの寮に分かれて座るところを、残った生徒と教師は一つの長いテーブルへ集められた。クラッカーを引けば中から帽子や小さな玩具が飛び出し、誰かの紙帽子がやけに大きく膨らんだと思えば、隣では別の生徒の耳から煙が出ていた。
遙一の向かいにはグリフィンドールの二年生が座り、その隣ではロン・ウィーズリーが、もらったばかりらしい派手なセーターについてハリーに何か説明していた。ロン自身も似たようなセーターを着ていたので、文句を言うにしては少し説得力がなかった。
ハリーも学校へ残っていた。
食事の途中で一度目が合うと、ハリーは笑って手を上げた。遙一も軽く返したが、その後はそれぞれ別の話へ戻った。休暇中は寮の垣根が少し低くなるらしく、普段なら同じテーブルにつかない生徒同士が食事をし、午後には雪の積もった中庭で誰のものとも分からない雪玉が飛び交っていた。
遙一は二発ほど避け、三発目は肩に当たった。振り返った時には犯人らしい生徒が七人いたので、追うのはやめた。
冬休みの間、遙一は魔法の練習にもかなり時間を使った。
授業で習った呪文を繰り返すだけなら、入学した頃より失敗は明らかに減っていた。物を浮かせる高さも、動かす距離も、以前より狙ったところへ収まる。そこで、授業ではまだ扱っていないことを少しだけ試したくなった。
空いている教室で杖を机へ向け、口を閉じたまま灯りをつけようとしたが、何も起きなかった。二度目には杖先で白い火花が一度だけ弾け、三度目はまた沈黙し、四度目になってようやく弱い光が一瞬だけ灯って消えた。
理屈を知っているだけでは足りないらしい。発声を省けば、普段は言葉へ任せていた部分まで自分で揃えなければならない。杖の動き、意図、魔力の流れ。そのどれか一つでもずれると、結果は簡単に消える。
何度か試したところで、遙一は素直に声を出した。
「ルーモス」
杖先は今度こそ迷わず明るくなり、それを見て遙一は少し笑った。できないことが残っている方が、練習には都合がよかった。
冬休みの終わりが近づくにつれて、城はまた騒がしくなった。
列車で帰っていた生徒たちが戻り、廊下には大きな荷物が増え、談話室では休暇中に何をしていたかという話が何度も繰り返された。ドラコは家の食事について十分ほど話したあと、学校の朝食にも普通に手を伸ばしていた。
ハリーは休暇前より少し寝不足に見えた。
何かあったのかと尋ねるほどではない。授業中に眠るわけでもなく、食事も普通に取っている。ただ、時々考え事をしている時間が増えたように見えたので、遙一はそのままにしておいた。
数日後、図書館で本を読んでいると、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が珍しく揃って早足でやってきた。ハーマイオニーは一冊の大きな本を抱えており、椅子へ座る前から話したそうな顔をしている。
「見つけたわ」
声が大きくなり、すぐにマダム・ピンスの視線が飛んできた。ハーマイオニーは一度だけ咳払いをしてから、声を落とした。
「ニコラス・フラメルよ」
遙一は本から顔を上げた。
「フラメル?」
「知ってるのか?」
ロンが聞いた。
「名前は。錬金術師でしょう」
三人の顔が一斉に変わった。
「それを先に言ってくれればよかったのに」
「ニコラス・フラメルを探しているとは、聞いていませんでしたから」
ロンは何か言い返そうとしたが、ハーマイオニーが本を開いたので、結局そちらへ向き直った。
三人が見つけた記述によれば、ニコラス・フラメルは賢者の石を作った人物だった。賢者の石は金属を金へ変え、不老の霊薬を生み出すことのできる錬金術の産物で、フラメル自身も非常に長く生きているらしい。
「ダンブルドアの蛙チョコのカードに名前があったんだ」
ハリーが言った。
そこでようやく、探していた人物と以前に見た名前が繋がったのだという。ハーマイオニーは休暇前から借りていた本に記述があったことを少し悔しそうに説明し、ロンは「つまり、ずっと部屋に答えがあったってことだ」と言って、またマダム・ピンスに睨まれた。
「それで、たぶんあの犬が守ってるのが賢者の石なんだ」
ハリーが声を潜めた。
遙一は開かれた本へ目を落とした。三階の立入禁止区域には、仕掛け扉の上に三頭犬がいる。ハロウィーンの夜にはスネイプがそこへ向かい、そのスネイプはクィディッチの試合でもハリーを見ながら何かを唱えていた。クィレルにも、同じ試合で気になる一致が一つ残っている。そこへ今度は、賢者の石という中身が加わった。
石を欲しがる理由ならいくらでもある。金を作れるというだけでも十分だが、不老の霊薬はそれ以上に分かりやすかった。
「やっぱりスネイプだと思う?」
ハリーが聞いた。
「欲しがる理由は増えましたね」
「それって、そういう意味?」
「誰かが欲しがっているなら、です」
ロンが小さく唸った。
「またそこからか」
遙一は否定しなかった。
誰が石を狙っているのかは、まだ分からない。けれど、もし目的が金ではなく生命なら、思い当たる名前は一つあった。
十年前、肉体を失ったヴォルデモート。
その名前と三階の石を結ぶには、まだ空白が多すぎた。生きている証拠も、学校にいる証拠も、誰かが彼のために動いている証拠もない。
珍しい未知が二つあるだけで一本の糸を結べば、それは推理ではなく物語になる。
遙一はページから目を上げた。
「面白くはなってきましたね」
ロンが嫌そうな顔をした。
「君がそう言う時、あんまり安心できないんだけど」
ハリーが笑い、ハーマイオニーはまだ本の文章を指で追っていた。
図書館の窓の外では、雪がまた降り始めていた。窓硝子には四人の姿がぼんやり映り、その向こう側を白いものが静かに落ちていった。