Good Luck, Mr. Magician 作:evejanjan
春が近づくにつれて、ホグワーツの雪は少しずつ減っていった。
もっとも、城の中までおとなしくなったわけではない。芝生が白い雪の下から顔を出すと、生徒たちは冬のあいだ忘れていた用事を一斉に思い出したらしく、箒を抱えて外へ走る者や、図書館から本を何冊も運ぶ者や、どういうわけか朝から泥だらけの靴で階段を駆け上がってくる者が増えた。
その頃、ドラコは妙な話を拾ってきた。
「ハグリッドの小屋、最近ずっとカーテンが閉まってるんだ」
夕食の席でそう言いながら、ドラコはパンをちぎった。
「前を通った時、煙も変だった。普通の暖炉の煙じゃない」
「見に行ったんですか?」
「通っただけだよ」
返事が少し早かった。クラッブが「でも昨日も――」と言いかけたところで、テーブルの下から何か蹴られたらしく、妙な顔をして黙った。
遙一はそれ以上聞かなかったが、数日もすると、ハリーたち三人にも変化が出た。授業の合間に顔を寄せて話すことが増え、ロンは左手を時々かばい、ハーマイオニーは以前より頻繁に時計を気にしている。ハリーがハグリッドの小屋へ向かう道を何度か使っているのも見えた。理由までは分からない。ただ、ドラコまで同じ場所を気にしているのなら、学校のどこかに新しい秘密が一つ増えたらしかった。
遙一自身は、別の秘密を追っていた。
三階の立入禁止区域へ続く廊下では、以前に張った細い糸がほとんど役に立たなかった。猫が通り、夜歩きの生徒が踏み、ピーブズが面白がって触れば、それだけで記録は台無しになる。そこで今度は、誰かが通ったかどうかではなく、どちらから来て、どちらへ抜けたのかまで残るように仕掛けを変えた。
目立たない窓枠には薄く粉を置き、壁際には高さを変えて二本の糸を渡した。扉は閉まり切る直前の角度を覚えておき、近くの棚では一冊だけ本をほんの少しずらす。床の埃も、掃除の手が届きにくい場所なら立派な記録になる。
どれも魔法ではなかった。魔法で探されても反応せず、誰かが仕掛けに気づいて壊したなら、それもまた一つの情報になる。もっとも、ピーブズに見つかれば話は別で、その点だけはどれだけ工夫しても改善しそうになかった。
設置を終えても、遙一は三階そのものへ踏み込まなかった。前に分かったのは、夜のホグワーツが静かな場所ではないということだ。ならば、誰も通らない廊下を期待するより、騒がしい廊下から使える跡だけを拾う方がいい。
数日後の夜、城ではいくつかのことが同時に起きた。
遙一がそれを知ったのは翌朝だった。普段より少し早く談話室を出て、三階へつながる通路に置いた印を順に確かめていくと、最初の糸は上側だけが外れ、床の埃には二人分らしい足跡が近い間隔で残っていた。少し先では窓枠の粉が一方向へ削れ、別の通路に置いた蝋には、遅れて通ったらしい靴の縁が一つだけついている。さらに離れた場所では、別方向から来た誰かが、何度か立ち止まりながら進んだ跡まで残っていた。
前とは違う。猫の毛も、三方向へ伸びる泥靴の跡も、向きを変えられた鎧もない。ありがたいことに、ピーブズの落書きもなかった。少なくとも今回は、何が起きたかをある程度読める。
二人が先に同じ経路を通り、その少し後を一人が追っている。さらに別の一人が違う方向から入り、途中で何度か進路を変えていた。遙一はしゃがんだまま床に残った跡を眺め、指先で埃の途切れた位置を確かめた。
一つの行動として考えるなら、先に進んだ二人が実行役、遅れて追った一人が監視か追跡。別方向から不規則に動いた一人は、周囲の様子を確かめる役か、注意を散らすための別働かもしれない。
賢者の石を狙っている者が一人だけとは限らず、スネイプであれ、クィレルであれ、まだ名前の出ていない誰かであれ、他人を使えるなら複数で動くこと自体は不自然ではなかった。
遙一は立ち上がり、膝についた埃を払った。仕掛けにはそれ以上触れない。同じ方法を何度も使えば、今度はこちらが読まれる。
そのまま大広間へ向かうと、朝食はいつもより騒がしく、原因はグリフィンドールのテーブルにあった。ハリー、ハーマイオニー、ネビルの周囲だけ空気が妙に重く、近くの生徒たちは露骨に顔をしかめている。少し離れたところでは昨夜の減点について上級生たちが話していたが、席を一つ移るごとに話の中身が少しずつ変わっていた。ドラコも機嫌が悪かった。
「どうして僕まで罰を受けるんだ」
朝食が始まってから、もう三度目だった。
「夜中に出歩いていたからでは?」
「僕はあいつらが規則を破ってるって知らせようとしたんだ」
「夜中に?」
ドラコは一度黙った。
「事情が違うだろ」
どう違うのか説明する前に、近くのスリザリン生が笑ったので、ドラコは今度はそちらへ文句を言い始めた。
遙一は紅茶を飲みながら、聞こえてくる話を拾った。
確からしいところだけ繋ぐと、ハリーとハーマイオニーは夜中に城の上階へ行き、ドラコは二人を追い、ネビルは別の理由で寮を抜け出したらしい。ただし、その「別の理由」は話している生徒によって違っていて、決闘を止めに行ったことになったり、迷子になったことになったり、いつの間にか一人で夜の城を探検していたことになったりしていた。
昼までには、ハリーたちが何をしていたのかについて少なくとも六つの説ができていた。どれも自信満々に語られていたので、真実が六つあるのでなければ、かなりの数が間違っていることになる。
図書館へ向かう途中、遙一はロンと会った。左手にはまだ包帯が巻かれている。
「その手、ハグリッドの小屋と関係があります?」
ロンは足を止め、しばらく遙一の顔を見てから周囲を見回した。
「……誰から聞いたんだよ」
「誰からも。ドラコが小屋を気にしていて、あなたは手を怪我している。ハリーたちは何度もあちらへ行っていましたから」
「だからって、そこまで繋げるか普通?」
「違いました?」
「そこが腹立つんだよ」
ロンは顔をしかめたが、結局、小声で話し始めた。
ハグリッドが手に入れた竜の卵からノルウェー・リッジバックが孵り、育て続けるわけにもいかなくなったこと。ロンはその竜に噛まれて医務室へ行き、ハリーとハーマイオニーが夜中に竜を城の上まで運んだこと。ドラコはそれを知って二人を捕まえようとし、ネビルはそのことを二人に知らせるため、城の中を探し回っていたこと。
話を聞くうちに、朝見た足取りが一つずつ人間の名前に変わっていった。先に進んだ二人がハリーとハーマイオニーで、遅れて追った一人がドラコ。別方向から何度も立ち止まりながら動いていたのがネビルだった。順番も方向も、朝に見た跡ときれいに一致している。
遙一が少し黙ったので、ロンが眉を寄せた。
「どうした?」
「少し、勘違いをしていました」
「何を?」
「こちらの話です」
ロンは怪訝そうな顔をしたが、授業に遅れることの方が気になったらしく、そのまま廊下を走っていった。
放課後、遙一はもう一度三階近くの廊下を歩いた。朝には残っていた足跡のほとんどが消え、窓枠の粉も誰かの袖で払われている。それでも、見た順番まで消えたわけではない。
観測そのものは間違っていなかった。二人が先に進み、一人が追い、もう一人が別方向から動いた。方向も順番もほぼ正しい。間違っていたのは、その四人を最初から一つの目的で結んだことだった。
同じ夜、同じ城を歩いていた。それだけで、一つの出来事に属していると決めてしまった。実際には、竜を運ぶ者がいて、それを捕まえようとする者がいて、その危険を友人へ知らせようと探し回る者がいた。それぞれ別の理由で動いた結果が、廊下に残った跡の上では、一つの計画のように見えただけだった。
遙一は窓枠に残った粉を指で拭った。前に同じような仕掛けを使った時は、余計な足跡が多すぎて何も読めなかった。今回はほとんど全部読めた。それでも読み違えたのだから、問題は情報の量ではない。
情報が正しくても、最初に置いた前提を誤れば、正しい証拠までその前提に従って並んで見える。覚えておく価値はあった。
夕食の頃になっても、グリフィンドールの空気はまだ悪かった。ハリーたちは自分たちのテーブルで小さくなっており、朝よりも多くの視線を向けられている。遙一が何か言ったところで、減った点数が戻るわけでも、噂が消えるわけでもない。
少し離れたところでは、ドラコがまた、自分まで罰を受けたことに文句を言っていた。遙一はそちらにも口を挟まなかった。
同じ夜に歩いていたからといって、同じ理由で慰める必要もなかった。