Good Luck, Mr. Magician 作:evejanjan
罰則の日、ドラコは夕食のあいだから機嫌が悪かった。
「夜の森だぞ。しかも、ハグリッドとだ」
スープの皿を前にして、もう何度目か分からない同じ文句を言う。
「夜中に出歩いた罰としては、夜に出歩くんですね」
「そういう問題じゃない」
ドラコは匙を置き、禁じられた森には狼人間がいるとか、もっと悪いものもいるとか、父親が知ったら学校へ正式に抗議するはずだとか話し始めた。近くの上級生が「だったら今夜は静かな寮になりそうだな」と言ったので、途中からそちらとの言い争いになった。
遙一は口を挟まなかった。罰則を受けるのはハリー、ハーマイオニー、ネビル、それにドラコで、自分には関係がない。三階の犬や賢者の石と結びつける理由も、その時点では一つもなかった。
翌朝、大広間へ入ってきたドラコは、昨日より口数が少なかった。もっと正確に言えば、自分から話し始めるまでは少なかった。
「森でユニコーンが死んでた」
席につくなりそう言ったので、クラッブが口へ運びかけていたソーセージを止めた。
「ユニコーン?」
「何かに襲われてたんだ。血がずっと地面に落ちてて、それを追った」
昨日まで罰則そのものを嫌がっていたわりに、今朝のドラコは森の様子を妙に詳しく話した。暗い木々の間を進んだこと、葉や草に銀色の血がついていたこと、その跡の先で倒れたユニコーンを見つけたこと。ただし、誰がどこで走ったのかという話になると急に曖昧になった。
「それで?」
近くの一年生が尋ねると、ドラコは少し声を落とした。
「何かいた。黒いフードみたいなのを被って、ユニコーンのそばに屈んでた」
「何してたんだ?」
ドラコは一瞬だけパンへ目を落とした。
「血を飲んでた」
テーブルの何人かが顔をしかめた。
「で、どうしたの?」
「ハグリッドを呼びに行った」
ずいぶん滑らかな言い方だった。
遙一は紅茶へミルクを落としながらドラコを見た。ローブの袖には乾いた泥が残っている。いつもなら朝食前に気づいていそうな汚れだった。
「その何かは、人間でした?」
「知らないよ。フードを被ってたんだから」
「立っていました?」
「最初は屈んでた。途中で――」
そこまで言って、ドラコは口を閉じた。
「途中で?」
「動いたんだよ」
それ以上は話したくないらしい。遙一も追わなかった。
少なくとも、ドラコが見た何かはユニコーンの血を飲んでいた。それが人間なのか、人間に似た別の何かなのかまでは分からない。
ハリーたちと話せたのは、その日の昼休みだった。
中庭では何人かの生徒が芝生に座って宿題を広げていた。少し前まで雪が積もっていた場所とは思えないほど日差しは明るかったが、ハリーはあまり眠っていない顔をしていた。ロンとハーマイオニーも一緒で、ハーマイオニーは膝に本を開いていたものの、遙一が近づくと同じ頁から目を動かさなくなった。
「マルフォイから聞いた?」
ハリーの方から尋ねた。
「一部は。ユニコーンが死んでいたことと、何かがその血を飲んでいたことまでです」
「マルフォイ、何て言ってた?」
「ハグリッドを呼びに行ったそうですよ」
ロンが吹き出した。
「呼びに行った!」
「ロン」
ハーマイオニーがたしなめたが、自分も少しだけ口元を押さえている。ハリーは疲れたように笑った。
「走って逃げたんだ。ファングも一緒に」
「ポッター!」
少し離れたところからドラコの声が飛んできた。どうやら聞こえていたらしい。ロンがさらに笑ったので、ドラコは顔を赤くし、何か言い返しながらその場を離れていった。
騒ぎが収まると、ハリーは昨夜の続きを話した。
森には銀色の血が点々と残り、その先でユニコーンが倒れていたこと。黒いフードを被った何かが、地面を這うような姿勢でその血を飲んでいたこと。それが顔を上げ、ハリーの方へ近づいてきたこと。そして、フィレンツェというケンタウルスが現れたこと。
「ユニコーンの血を飲めば、生き延びられるって言ってた」
ハリーは声を落とした。
「でも、その代わりにひどい生き方をすることになる。それでも飲むってことは、死にかけてて、何としても生きたい奴だって」
ロンから笑いが消えていた。ハーマイオニーも本を閉じる。
「それでフィレンツェは、賢者の石のことを知ってたみたいなの」
「直接そう言ったわけじゃないけど」とハーマイオニーは続けた。「誰が石を欲しがるのか、ハリーに考えさせたのよ」
「それで?」
遙一が尋ねると、ハリーはほとんど迷わなかった。
「ヴォルデモートだと思う」
「その名を呼ばないでくれ!」
ロンが思わず大きな声を出し、すぐに周囲を見回した。近くで宿題をしていた二年生がこちらを振り返っている。
「悪い。でも、他に思いつかないんだ」
「例のあの人でいいだろ」
「名前は同じだよ」
「そういうことじゃない!」
ハーマイオニーが二人を静かにさせるまで、少しかかった。
遙一はそのやり取りのあいだに、二つの証言を頭の中で並べていた。
ドラコは自分をよく見せるように話している。逃げたことは「ハグリッドを呼びに行った」に変わり、恐怖を感じた瞬間はほとんど抜け落ちていた。一方でハリーも、昨夜見たものへの恐怖や、フィレンツェの言葉に強く影響されている。だから、どちらか一人の解釈をそのまま事実として採用する理由はない。
それでも、二人の証言には同じ部分が残った。倒れたユニコーンと、森に続いていた銀色の血。黒いフードを被った人間ほどの大きさの何かが、その血を飲んでいたこと。そこまでは、ドラコとハリーのどちらの話でも変わらない。
「どう思う?」
ハリーが聞いた。
中庭の端で鐘が鳴り、芝生に座っていた何人かが本を抱えて立ち上がった。遙一はその人波が通り過ぎるのを待ってから答えた。
「前より、ずっと嫌な仮説になりましたね」
「嫌な?」
「クリスマスの頃は、賢者の石を欲しがる理由の一つとして生命を考えただけでした。ヴォルデモートの名前を置くこともできた。ただ、それだけなら他の理由はいくらでも作れます」
名前を聞いたロンがまた顔をしかめたが、今度は口を挟まなかった。
「今は違う?」
「ええ」
フィレンツェの説明が正しいなら、ユニコーンの血を飲んでいたものは、自分の命を繋ぐためにそれを必要としていた。そしてホグワーツには、寿命そのものへ作用する賢者の石が隠されている。
十年前に肉体を失ったヴォルデモートという仮説は、そこで初めて二つの別々の異常を同時に説明できるようになった。
「死んでいない可能性は、かなり上がったと思います」
ロンの表情が固くなる。
「かなりって、どれくらい?」
「数字にはしませんよ」
「こういう時だけしないんだな」
「数字にすると、分かった気になりやすいので」
ハーマイオニーは閉じた本の表紙を指でなぞった。
「じゃあ、学校にいると思う?」
「そこまでは分かりません。生きているとしても、どういう状態なのか。自分で動けるのか、誰かに助けられているのか、どうやってホグワーツの近くまで来たのか。そこはまだ何も分からない」
「でも、石を狙ってるのはスネイプだろ?」
ロンが言った。
ハリーもすぐに頷いた。
「森で見たのがヴォルデモートなら、スネイプが石を盗んで渡そうとしてるんだ」
遙一は少し考えてから答えた。
「スネイプを外す理由はありません」
三人にとって、話はそこで繋がっている。ハロウィーンの怪我、クィディッチでの呪文、森で聞いた会話。その積み重ねからスネイプへ行き着くのは自然だった。
遙一には、それとは別に一つだけ未処理のものが残っている。クィディッチの観客席で、ハリーだけを見続けていたクィレルの視線だ。ただ、それだけだった。
石を狙っている証拠でもなければ、森の何かと結びつける材料もない。今ここで三人へ話せば、事実より先に新しい物語を一つ増やすだけになる。
遙一はそれを口にしなかった。
これまでなら、三階の廊下で誰かが石を狙っているかもしれないという、一つの事件として考えられた。誰が欲しがっているのか、どうやって奪うつもりなのか。その二つを追えばよかった。今は、そこへ十年前の戦争が入り込んできた。
もしヴォルデモートが本当に生きているなら、問題は石を盗もうとしている者の名前だけではない。
十年前に終わったはずのものが、終わっていなかったことになる。
遙一は中庭の向こうへ目をやった。城壁のさらに先には、禁じられた森の木々が黒く続いている。昼の光の下では、昨夜そこで何かがユニコーンの血を飲んでいたとは思えないほど静かだった。
分かったことはまだ少ない。それでも、危険の種類だけは変わっていた。