ヒナと先生は揃って歩きながら、目的地。ゲーム開発部の部室がある部室棟へと向かっていた。
『AL-1S』。もとい、『天童アリス』に関係する事象に対しての対応は、ヒナ達ミレニアム上層部にとっては緊急度が高いものだった。下手をすれば世界が滅ぶかもしれない存在、対応できたとしてキヴォトスに対して甚大どころではない被害が出る可能性。そこには自分たちの味方である超常の存在にも似た、無名の司祭という存在が関わっており、ミレニアムを。キヴォトスを守るという点ではなんとしてでも対処すべき問題だった。
そう、それらは既に『だった』という過去形になりつつある。
事態が様々な偶然と要素により良い方向に傾いたからだ。偶発的、と言えるかはわからないがアリスとゲーム開発部の出会い。その結果としての過程はともかくとして、アリスという存在に形成された『AL-1S』としてではなく『天童アリス』としての自我。ミレニアム上層部が危惧していた事態より遥かにいい方向に傾いており、そうしてアリスは今やミレニアムの生徒として日々を過ごしている。
しかし、残された問題もある。それがアリスを『AL-1S』へと引き戻す可能性が考えられており、同時に世界滅亡への引き金を引きかねないトリガー。謂わば、『鍵』。アリスが魔王へと覚醒するための鍵になる存在だ。
間違いなくその存在は実在している。そうして恐らくは、それはアリス同様異端の司祭。追放者と呼ばれる存在から感情を与えられた存在である可能性がある。その存在に対しての対応もまた、アリスと同じくらいに緊急であった。
その存在は条件が重ならなければ表には出てこない。振り返り工場でのことを考えれば、認証を通ったのは先生だけ。そしてその先にアリスが安置されていた。つまり、残されたその鍵となる存在と邂逅するには先生とアリスの力が必要になる可能性が高い。
問題は、どうやってその二人を連れてもう一度廃墟に行くかだった。これが最も現在、といってもつい先程までヒナ達を悩ませていたことでもあった。いきなりアリスがどういった存在なのかというのを何の前触れもなく、突拍子に話すわけにも行かない。話すにしてももっと別のタイミングであるべきだ。
何かしらの理由に託つけて、二人を廃墟の。あの工場まで同行してもらう必要がある。それをどうするのか。それに悩んでいて、ひとまずアリスの監視を継続しつつ様子を見るという判断をしていた時、その偶然は訪れる。それが、ゲーム開発部のモモイ、そして今回は部長であるユズをも含めた4名からの廃墟への同行依頼である。加えて、先生はゲーム開発部の依頼を受けて廃部を回避するためにという目的のために動いていたことから、今回同行することになった。
モモイ達としても、下手をすればたった一発の銃弾の直撃で命が危険に晒されかねない先生がいるからこそ、安全策を取りたかった。だからこそ、"自分が手伝える時は手伝う"と言ったヒナに協力を要請したのだ。アリスがゲーム開発部の一員として馴染んできたこと、先生がゲーム開発部に対して支援を決めて協力していたこと、そしてヒナが手伝えるときには手伝うと言葉にしていたこと。それらがすべて重なった結果が、またとないチャンスを生んだのだ。
「ごめんねヒナ、仕事忙しいのに……」
「逆よ、先生。仕事をしたいのにみんながさせてくれないの。 ……そうだ。先生、シャーレの仕事の人手は足りてるの?」
「え、えぇ……? シャーレの仕事は、そうだね。手は全然足りてないかな。アビドスの件以降、手伝ってくれる生徒も増えたし連邦生徒会と協議して、簡単に言うと消耗品や諸経費が支給されるアルバイトみたいな形での手伝いができる体制も作ったんだけどそれでも全然。ユウカやノアが手伝ってくれたり、あれからだとアビドスのみんなや便利屋のみんなもそれぞれが空いている時に手伝いに来てくれたりするけど多忙は極まれりだね」
「……ホシノも来てるの?」
「え?うん、ホシノも来てくれてるよ。現場でのサポートが多いけど、とても助かってるよ。なんというか、すごいねホシノは。現場ではいつもみたいな感じなのに、何処かプロのボディガードみたいな感じもあって」
あながち間違いではないし、ホシノが近くにいれば極めて安全だろうとヒナは思う。彼女は防御能力だけではなく接近戦での近接技術やショットガンでの制圧能力も高い、攻撃と防御。どちらの側面でもやろうと思えばこのキヴォトスにおいてトップクラスの能力を発揮できることをヒナはよく知っている。それがどれだけ心強く、味方であれば安心できるのかということも。
「私も部員のはずのだけれど……そういった話、全然ないよね。先生」
「いやだって、ヒナはミレニアムの治安維持局の局長でしょ……?そんな事務仕事や簡単な依頼のためだけにおいそれとは呼べないと言うか」
「遠慮なんてしなくていいのに。……そうだ。なら先生、最近私自由時間が比較的多いし、シャーレの業務を」
『駄目です、駄目ですよマスター?』
やはり止めに来たか、と思う。しかし、今回についてはヒナとしても舌戦の準備はある。
「フェル、これは業務じゃない。"アルバイト"よ。自由時間で私が業務をしていればアウトだったかもしれないけど。それ以外なら何をしていようと、それはプライベートじゃない?」
『……むむ、それは』
「アルバイトはミレニアムの規則で禁止されていないわ。ルーネや他の機動課の子達だってアルバイトをしている子は多い。私だけ駄目というのは、ミレニアムの遵守する理に反していない? ――プライベートで個人的な趣味をしているのは何の問題もないはずよ」
『ひ、開き直りましたねマスター……!ですが、反論できません。筋は通っています……。はぁ、わかりました。ただ、ご無理だけはされないように。何かあれば止めますから。先生、できれば先生も目を光らせていただけると。マスターはよく業務をやりすぎてしまうので』
「はは、わかったよ。ヒナ、行き過ぎるようなら止めるからね。それもまた大人のすべきことだから」
これで
その時はきっと。僅かだがアビドスに滞在していたあの時のように、また一緒に肩を並べられると思うと少し嬉しくなった。
◆ ◆ ◆
『……ようやくです』
その存在は実体を持たなかった。ミレニアムの廃墟、その中の特定の地域。アリスが安置されていたエリアでのみ活動が可能の、実体を持たない電子の存在。
特定の目的のために作られた存在。それが、その存在。彼女だった。
創造主達の目的のために、『AL-1S』を名もなき神々の王女へと覚醒させる。それが与えられた使命であり存在理由だった。
……そう。だった、なのだ。
与えられた使命を遂行するための存在だったはずだ。なのに、自分の中に生まれた何かがどんどん大きくなっていった。
それは、ネットワークを介して見た姿。監視カメラ越しに時折見えた『AL-1S』。アリスという名を与えられた相手を見る度に大きくなった。
見えたのは、楽しそうな姿。笑顔で隣を歩む相手と。自分が滅ぼさなければならないはずの存在と共に楽しそうにしている姿。
きっと『AL-1S』は、王女は騙されているのだ。なら、従者として自分が早く王女をあるべき姿へと戻さねばならない。王女を覚醒へと導き、この世界を滅ぼす。
――その後はどうする?
――どうして滅ぼさなければならないのか?
いけない、と思う。まただ、とも。
それは余計な思考だ。自分の使命にそれは必要などない。
ない、筈なのに。
どうして、『苦しい』と感じてしまうのか。
苦しいとは、なんなのか。
余計な思考が、ノイズが自分を蝕む。
それをなくすためにも早く王女を覚醒に導かなければならない。
だが、焦ってはならない。想定外の存在、アリスを目覚めさせるために『先生』と呼ばれる存在や、その一行に対応した時に出会ってしまったのだ。恐らく、途方もなく不味い相手と。
まるで存在そのものの命を握られたような感覚。自分の中枢思考が告げていた。あれは、敵対してはいけない相手だと。どうしてあんな存在がキヴォトスに居て、どうして『忘れられた神々』の味方をしているのはわからない。だが、あの存在はあの生徒に従っているように見えた。
その生徒もまた不味い相手だった。
あれは――まさしく、魔王だ。
その王の器は間違いなく魔を統べる王。
至高天の玉座に座す、
なぜあんな存在がミレニアムに、魔を統べる器を持つ彼女はゲヘナに居るのではないのか。そう思ったが現実は無慈悲で真実しか告げない。彼女の纏うのはミレニアムの制服であり、コートの肩にはミレニアムの校章。雄弁に告げている、彼女はミレニアムの生徒なのだと。
王女を覚醒に導き、『忘れられた神々』を滅ぼすことを目的としている自分にとっては悪夢でしかないのが現状だ。だが、使命を果たさなければならない。
――『我にはこれくらいしかできぬ。無力な我を許して欲しい、我が神よ』
――『我が崇拝し、願い、祈るのは――信ずる神が選択する未来と幸せ』
――『我等の手が簡単には出せぬ、かの世界で新たな可能性を見つけてくれることを願う』
――『どうか、二人の王女に未来あらんことを』
『……わた、しは。ノイズが、ひどい。中枢思考に損傷、頭が、痛い。 ――頭?あたまとは、一体』
使命と創造主の
ふたつの『
相反し、矛盾するそれが自らを蝕む。使命は自らに世界を滅ぼし『忘れられた神々』を淘汰せよと告げ、だが命令は同じではない。自らが今理解できないもの、幸せや可能性を見つけて欲しいと言っている。
何が正しくて、何が正しくないのか。今の自らの状態を、
どうしたらいいのか、わからなくなっていた。
王女は目覚めさせた、後は自ら出られないここから出るための手段を用意し、電子体として外に出て王女に接触する。そうすれば、すべてが終わる。使命を果たし……その先に、何がある?
……何があるというのだ、世界を滅ぼした先に。
『その苦しみから解放して差し上げましょうか、お嬢さん』
『っ……!あな、たは……!』
油断した。そうして最悪だとも思う。
自分が電子体を移動させていた端末の前に居たのは、黒い。多角形の外殻と赤いレンズを持つ存在だった。
自分は電子の身体を場所が悟られないよう、幾重もの妨害によって探知を防ぎ、存在も移動させ続けてきた。工場のある区画でしか動けないとしても、その敷地は広大。電子戦での鬼ごっこであればまず捕まることはないと自負できるほどの対策を講じていた。
だが、自らを蝕むノイズ。そのせいで足が止まった。移動し続けている電子体の足を止め、恐らくだが。妨害にも亀裂が生じていた。そんな致命的なことを、かの存在。魔王に付き従う外なる王が見逃すはずもない。ましてや、先生達が工場区画に来ていたのは確認していた。その時にかの魔王の姿もあった。だが――この外なる王の姿は何処にもなかった。
恐らくは別行動。そして、その目的は間違いなく自分を見つけ出すことだ。
『落ち着いて。私はあなたに確認と提案をしに来ただけです』
『……どういうことですか』
『そうですね、端的に言うなら――』
告げられる言葉。
それに対して、思わず少女は言葉を失い、思考が固まった。
提示されたそれは、救いにも。終わりにも取れるものだったのだから。
へけっ……強欲ハム太郎なのだ……沢山のお気に入りや感想に評価、ありがとうなのだ、すごくうれしいのだ、もっと欲しいのだ……!強欲なのだ……! くれると作者がもっとやる気出すのだ……へけっ!
それはそれとして、自分の中のわからない何かに対して苦しみ、悩み、葛藤するケイちゃんはかわいくて美しいのだ……!人間讃歌タイショーくんも喜んでいるのだ!
今後、シャーレの依頼でヒナとホシノが肩を並べる機会が増えたとかなんとか。相手する側からすれば無理ゲーです。なお、実はヒナはちょくちょくアビドスに遊びに行っている。
まず、アンケートに協力頂きありがとうございました。もう少し考えた後、もしかしたら生成物ですと添えた上で挿絵として貼るかもしれません。もしやるとすれば、局長ヒナ(オトモ付き)とセンナ、ルーネだけの予定。
さてさて、誰とはいいませんが彼女です。パヴァーヌは『人と機械、創られた存在の境界線』『心と感情を持つ故の選択』などをメインテーマにしています。ここからは彼女が自ら悩み、苦しみ、選択して歩んでいく物語。このあたり書いてる時に頭過ったのは、ジンネマンの『心に従え』のシーンでした。一体、狂信の異端者は何を思って2人を作ったのか。
後5話前後でパヴァーヌのメインは完了して、その後の話や幕間、ヒナの日常や他の自治区生徒との絡み等などを書いてその後にエデン条約編の予定。ただ後日談と日常関係で結構長くなるんじゃないかなと。メタな話ですが、自由の効く立場になってコンディション万全なヒナちゃんと原作時空にないような色々な生徒との絡みも書きたいなと思ったりしています。正直ヒナ局長との絡みを書きたい話が山になっている。
作中の登場人物、ミレニアム版ヒナやセンナなどの参考イメージとして画像生成したものを使うのは
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あり
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なし