最低ランク《鎮静》の俺、その正体は催眠能力者 ――勇者のヒロインを静かに奪う 作:催眠スキ
最近。
九条と相良がよく話している。
最初に気づいたのが。
いつだったかは。
よく覚えていない。
席替えのあと。
気づけば。
それが普通になっていた。
俺は。
いいことだと思っている。
たぶん。
それでいいはずだ。
◇
「おはよう」
教室に入る。
「おはよう、蓮」
九条が先に来ていた。
「早いな」
「学級委員の仕事があったの」
「ああ」
机の上に。
何枚かの書類。
来月の校外実習のものらしい。
「大変だな」
「そうでもないわ」
「手伝おうか?」
「大丈夫。もう終わるから」
「そっか」
九条は。
昔からこうだ。
人のことは手伝うのに。
自分のことになると。
大丈夫。
その一言で済ませる。
「無理するなよ」
「分かってるわよ」
九条が笑う。
その顔を見て。
少し安心する。
「昨日の雨、大丈夫だった?」
「え?」
「すごかっただろ」
「ああ」
九条が。
一瞬。
何かを思い出したような顔をした。
「大丈夫だったわ」
「濡れなかった?」
「少しだけ」
「風邪ひくなよ」
「蓮まで同じこと言うのね」
「同じ?」
「あ」
九条が止まる。
「誰かにも言われた?」
「……別に」
「そう?」
「そうよ」
少し。
顔が赤い気がする。
でも。
朝だからかもしれない。
「ならいいけど」
俺は自分の席へ向かう。
その途中。
教室の扉が開いた。
「おはよう」
相良。
眠そうな顔。
「おはよう、相良」
「おはよう」
相良が。
九条の隣へ向かう。
「九条」
「何?」
「昨日の冊子」
「読んだ?」
「半分」
「全部読みなさいよ!」
「長かった」
「十ページもないでしょう!」
「字が多い」
「説明書なんだから当たり前でしょ!」
「要約して」
「嫌よ!」
朝から。
いつものやり取り。
俺は。
少し笑った。
本当に。
仲良くなった。
◇
一限目。
能力史。
黒瀬先生が。
昔の能力犯罪について説明していた。
「記録上、能力犯罪の大半は、能力そのものが問題なのではない」
黒瀬先生が。
黒板へ文字を書く。
「使う人間の問題だ」
単純な言葉。
でも。
教室は静かだった。
「強力な能力だから危険とは限らない。逆に、一見無害な能力でも、使い方次第で重大な結果を招く」
黒瀬先生が。
教室を見渡す。
「だから能力者は、自分の能力を正しく申告し、適切に管理する必要がある」
俺は。
ノートを取る。
隣では。
朱音が。
眠そうにしている。
「火神」
「起きてます!」
「まだ何も言ってない」
「予防です!」
「寝るなよ」
「はい!」
教室から笑い。
俺も。
少し笑った。
そのとき。
斜め後ろから。
小さな声が聞こえた。
「相良」
「ん」
「起きて」
「起きてる」
「目閉じてるでしょう」
「考え事」
「寝る人の言い訳よ」
「九条、厳しい」
「普通」
「少しくらい」
「駄目」
「はい」
相良が。
素直に顔を上げる。
「……」
九条が。
小さく笑った。
俺は。
それを見ていた。
別に。
変なことじゃない。
少し前まで。
九条は相良のことを。
かなり嫌っていた。
やる気がない。
だらしない。
能力にも真面目に向き合わない。
そんなことを。
よく言っていた。
でも。
話してみたら。
意外と悪い奴じゃなかった。
それだけだろう。
俺だって。
相良は悪い奴じゃないと思っている。
訓練で組んだときも。
周りをよく見ていた。
本人は。
適当にやっているように見えるけど。
意外と。
色々考えているのかもしれない。
九条が。
それに気づいただけ。
きっと。
そういうことだ。
◇
昼休み。
「食堂行くか?」
俺が聞く。
「行く!」
朱音。
「私も」
九条。
俺は。
相良を見る。
「相良は?」
「購買」
「また?」
「近いから」
「一緒に来ればいいのに」
「混む」
「食堂嫌いなのか?」
「嫌いじゃない」
「じゃあ来いよ」
「面倒」
「相良らしいな」
笑う。
「じゃあ三人で行くか」
「うん」
教室を出ようとする。
そのとき。
「九条」
相良が呼んだ。
「何?」
「今日」
「何よ」
相良が。
一瞬。
朱音と俺を見る。
それから。
「いや、いい」
「何?」
「あとで」
「……分かった」
九条が答えた。
それだけ。
俺たちは。
食堂へ向かう。
廊下を歩く。
「何だったんだろうな」
何気なく言った。
「相良のこと?」
朱音。
「うん」
「知らね」
「澪は?」
「私も知らないわよ」
九条が。
少しだけ。
目を逸らした。
「そう?」
「そうよ」
「ふーん」
朱音が。
九条を見る。
「何?」
「いや?」
「その顔やめて」
「あたし何も言ってねえじゃん」
「顔が言ってるのよ」
「何て?」
「知らない!」
二人が。
また言い合う。
俺は。
笑いながら。
歩いた。
◇
食堂。
いつもの四人用テーブル。
今日は三人。
朱音が唐揚げ。
俺が日替わり。
九条は。
魚の定食。
「澪、それ足りる?」
「朱音基準で考えないで」
「午後腹減らね?」
「減らないわよ」
「蓮は?」
「俺は足りる」
「なんでみんな少食なんだよ」
「朱音が多いんだろ」
「そんなことない!」
話しながら。
食べる。
いつもの感じ。
昔から。
よく三人で食べた。
俺と。
朱音と。
九条。
何も。
変わっていない。
はずなのに。
「……」
九条が。
時々。
食堂の出口を見る。
「九条?」
「何?」
「どうした?」
「何が?」
「さっきから向こう見てるから」
「見てないわよ」
「そう?」
「そう」
朱音が。
口いっぱいに唐揚げを入れながら。
笑った。
「さっきの相良じゃね?」
「何が?」
「何か言いかけてたじゃん」
「だから知らないって言ってるでしょう」
「戻ったら聞けばいいじゃん」
「……そうね」
九条が。
少し赤くなる。
俺は。
それを見て。
また笑った。
「仲良くなったな」
言う。
「え?」
九条が。
俺を見る。
「相良と」
「……そう?」
「前はあんなに怒ってたのに」
「それは……」
九条が。
少し考える。
「話してみたら」
「うん」
「思ってたほど悪い人じゃなかっただけ」
「そっか」
「何?」
「いや」
よかった。
素直に。
そう思った。
相良は。
クラスで。
あまり誰かと深く関わらない。
朱音には絡まれているけど。
自分から輪に入るタイプじゃない。
九条とも。
ずっと相性が悪そうだった。
だから。
二人が普通に話せるようになったなら。
いいことだ。
「蓮」
「ん?」
「何笑ってるの?」
「別に」
「変なの」
「九条に言われた」
「何よ、それ」
九条が。
少し笑う。
やっぱり。
何も。
問題ない。
◇
午後。
合同演習の班分けが。
掲示された。
「お」
朱音が。
掲示板へ駆け寄る。
「蓮、第二班!」
「俺も?」
「澪も!」
「本当?」
九条が。
少し後ろから覗く。
「本当ね」
「よっしゃ!」
朱音が喜ぶ。
俺も。
名前を探す。
第二班。
天城蓮。
火神朱音。
九条澪。
その下。
相良透。
「相良も一緒か」
言う。
「……え?」
九条が。
掲示を見る。
それから。
「本当だ」
小さく。
笑った。
「相良ー!」
朱音が。
教室の後ろへ叫ぶ。
「何」
「お前第二班!」
「知ってる」
「反応薄っ!」
「この前書いたし」
「澪と同じじゃん」
「九条基準で書いたから」
「は?」
朱音が。
止まる。
俺も。
少し驚いた。
九条の反応は。
もっと分かりやすかった。
「相良!」
「何?」
「それ言わないで!」
「なんで」
「なんでも!」
耳まで。
赤い。
「九条が第二って言うから第二にしただけだろ」
「そうだけど!」
「何が駄目なの」
「言い方!」
「難しいな」
朱音が。
九条を見る。
「澪」
「何よ」
「相良に希望合わせられたん?」
「違う!」
「今本人が言ったじゃん」
「知ってる人がいた方が楽って言うから!」
「あー」
朱音が。
にやにやする。
「なるほどねえ」
「何がよ!」
「別に?」
「最近その返事ばっかり!」
相良が。
小さく笑う。
九条も。
怒りながら。
どこか。
楽しそうだった。
「……」
俺は。
また。
見ていた。
何だろう。
これ。
嫌な感じではない。
本当に。
嫌じゃない。
相良が。
九条と仲良くなる。
それ自体は。
何も問題ない。
なのに。
少しだけ。
胸の奥に。
引っかかる。
◇
放課後。
俺は。
朱音と訓練場へ向かう。
「澪はほんとに来ねえの?」
「委員会だって言ってただろ」
「終わったら来るかも」
「無理に呼ぶなよ」
「分かってるって」
「本当か?」
「たぶん!」
「信用できないな」
「澪と同じこと言うなよ!」
校舎を出る。
途中。
振り返る。
二階。
2-Aの教室。
窓際に。
九条が見えた。
書類を持っている。
学級委員の仕事。
その近くに。
相良。
「……」
何で相良が。
そう思って。
すぐに思い直す。
あいつは。
提出物とか。
何か抜けていることが多い。
九条に捕まったんだろう。
「蓮?」
「ん?」
「どうした?」
「いや」
前を向く。
「何でもない」
歩き出す。
それなのに。
少しして。
もう一度。
振り返った。
遠くて。
声は聞こえない。
九条が。
何か言っている。
相良が。
何か返す。
そして。
九条が笑った。
「……」
俺は。
足を止める。
「蓮?」
朱音が。
また振り返る。
「本当にどうした?」
「いや」
何だろう。
九条が。
笑っているだけだ。
俺だって。
何度も見た。
昔から。
一緒に訓練して。
話して。
笑って。
珍しいものじゃない。
でも。
相良に向けるその顔を。
少し前まで。
俺は知らなかった。
それだけ。
たった。
それだけなのに。
「……変だな」
「何が?」
「何でもない」
「今日それ多くね?」
「そうかも」
俺は。
笑った。
多分。
少し驚いているだけだ。
九条と相良が。
思っていた以上に仲良くなっていたから。
それだけ。
別に。
悪いことじゃない。
むしろ。
いいことだ。
だから。
この引っかかりも。
すぐ。
なくなる。
そう思っていた。