最低ランク《鎮静》の俺、その正体は催眠能力者 ――勇者のヒロインを静かに奪う   作:催眠スキ

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第十二話 天城蓮の違和感

 最近。

 

 九条と相良がよく話している。

 

 最初に気づいたのが。

 

 いつだったかは。

 

 よく覚えていない。

 

 席替えのあと。

 

 気づけば。

 

 それが普通になっていた。

 

 俺は。

 

 いいことだと思っている。

 

 たぶん。

 

 それでいいはずだ。

 

 ◇

 

「おはよう」

 

 教室に入る。

 

「おはよう、蓮」

 

 九条が先に来ていた。

 

「早いな」

 

「学級委員の仕事があったの」

 

「ああ」

 

 机の上に。

 

 何枚かの書類。

 

 来月の校外実習のものらしい。

 

「大変だな」

 

「そうでもないわ」

 

「手伝おうか?」

 

「大丈夫。もう終わるから」

 

「そっか」

 

 九条は。

 

 昔からこうだ。

 

 人のことは手伝うのに。

 

 自分のことになると。

 

 大丈夫。

 

 その一言で済ませる。

 

「無理するなよ」

 

「分かってるわよ」

 

 九条が笑う。

 

 その顔を見て。

 

 少し安心する。

 

「昨日の雨、大丈夫だった?」

 

「え?」

 

「すごかっただろ」

 

「ああ」

 

 九条が。

 

 一瞬。

 

 何かを思い出したような顔をした。

 

「大丈夫だったわ」

 

「濡れなかった?」

 

「少しだけ」

 

「風邪ひくなよ」

 

「蓮まで同じこと言うのね」

 

「同じ?」

 

「あ」

 

 九条が止まる。

 

「誰かにも言われた?」

 

「……別に」

 

「そう?」

 

「そうよ」

 

 少し。

 

 顔が赤い気がする。

 

 でも。

 

 朝だからかもしれない。

 

「ならいいけど」

 

 俺は自分の席へ向かう。

 

 その途中。

 

 教室の扉が開いた。

 

「おはよう」

 

 相良。

 

 眠そうな顔。

 

「おはよう、相良」

 

「おはよう」

 

 相良が。

 

 九条の隣へ向かう。

 

「九条」

 

「何?」

 

「昨日の冊子」

 

「読んだ?」

 

「半分」

 

「全部読みなさいよ!」

 

「長かった」

 

「十ページもないでしょう!」

 

「字が多い」

 

「説明書なんだから当たり前でしょ!」

 

「要約して」

 

「嫌よ!」

 

 朝から。

 

 いつものやり取り。

 

 俺は。

 

 少し笑った。

 

 本当に。

 

 仲良くなった。

 

 ◇

 

 一限目。

 

 能力史。

 

 黒瀬先生が。

 

 昔の能力犯罪について説明していた。

 

「記録上、能力犯罪の大半は、能力そのものが問題なのではない」

 

 黒瀬先生が。

 

 黒板へ文字を書く。

 

「使う人間の問題だ」

 

 単純な言葉。

 

 でも。

 

 教室は静かだった。

 

「強力な能力だから危険とは限らない。逆に、一見無害な能力でも、使い方次第で重大な結果を招く」

 

 黒瀬先生が。

 

 教室を見渡す。

 

「だから能力者は、自分の能力を正しく申告し、適切に管理する必要がある」

 

 俺は。

 

 ノートを取る。

 

 隣では。

 

 朱音が。

 

 眠そうにしている。

 

「火神」

 

「起きてます!」

 

「まだ何も言ってない」

 

「予防です!」

 

「寝るなよ」

 

「はい!」

 

 教室から笑い。

 

 俺も。

 

 少し笑った。

 

 そのとき。

 

 斜め後ろから。

 

 小さな声が聞こえた。

 

「相良」

 

「ん」

 

「起きて」

 

「起きてる」

 

「目閉じてるでしょう」

 

「考え事」

 

「寝る人の言い訳よ」

 

「九条、厳しい」

 

「普通」

 

「少しくらい」

 

「駄目」

 

「はい」

 

 相良が。

 

 素直に顔を上げる。

 

「……」

 

 九条が。

 

 小さく笑った。

 

 俺は。

 

 それを見ていた。

 

 別に。

 

 変なことじゃない。

 

 少し前まで。

 

 九条は相良のことを。

 

 かなり嫌っていた。

 

 やる気がない。

 

 だらしない。

 

 能力にも真面目に向き合わない。

 

 そんなことを。

 

 よく言っていた。

 

 でも。

 

 話してみたら。

 

 意外と悪い奴じゃなかった。

 

 それだけだろう。

 

 俺だって。

 

 相良は悪い奴じゃないと思っている。

 

 訓練で組んだときも。

 

 周りをよく見ていた。

 

 本人は。

 

 適当にやっているように見えるけど。

 

 意外と。

 

 色々考えているのかもしれない。

 

 九条が。

 

 それに気づいただけ。

 

 きっと。

 

 そういうことだ。

 

 ◇

 

 昼休み。

 

「食堂行くか?」

 

 俺が聞く。

 

「行く!」

 

 朱音。

 

「私も」

 

 九条。

 

 俺は。

 

 相良を見る。

 

「相良は?」

 

「購買」

 

「また?」

 

「近いから」

 

「一緒に来ればいいのに」

 

「混む」

 

「食堂嫌いなのか?」

 

「嫌いじゃない」

 

「じゃあ来いよ」

 

「面倒」

 

「相良らしいな」

 

 笑う。

 

「じゃあ三人で行くか」

 

「うん」

 

 教室を出ようとする。

 

 そのとき。

 

「九条」

 

 相良が呼んだ。

 

「何?」

 

「今日」

 

「何よ」

 

 相良が。

 

 一瞬。

 

 朱音と俺を見る。

 

 それから。

 

「いや、いい」

 

「何?」

 

「あとで」

 

「……分かった」

 

 九条が答えた。

 

 それだけ。

 

 俺たちは。

 

 食堂へ向かう。

 

 廊下を歩く。

 

「何だったんだろうな」

 

 何気なく言った。

 

「相良のこと?」

 

 朱音。

 

「うん」

 

「知らね」

 

「澪は?」

 

「私も知らないわよ」

 

 九条が。

 

 少しだけ。

 

 目を逸らした。

 

「そう?」

 

「そうよ」

 

「ふーん」

 

 朱音が。

 

 九条を見る。

 

「何?」

 

「いや?」

 

「その顔やめて」

 

「あたし何も言ってねえじゃん」

 

「顔が言ってるのよ」

 

「何て?」

 

「知らない!」

 

 二人が。

 

 また言い合う。

 

 俺は。

 

 笑いながら。

 

 歩いた。

 

 ◇

 

 食堂。

 

 いつもの四人用テーブル。

 

 今日は三人。

 

 朱音が唐揚げ。

 

 俺が日替わり。

 

 九条は。

 

 魚の定食。

 

「澪、それ足りる?」

 

「朱音基準で考えないで」

 

「午後腹減らね?」

 

「減らないわよ」

 

「蓮は?」

 

「俺は足りる」

 

「なんでみんな少食なんだよ」

 

「朱音が多いんだろ」

 

「そんなことない!」

 

 話しながら。

 

 食べる。

 

 いつもの感じ。

 

 昔から。

 

 よく三人で食べた。

 

 俺と。

 

 朱音と。

 

 九条。

 

 何も。

 

 変わっていない。

 

 はずなのに。

 

「……」

 

 九条が。

 

 時々。

 

 食堂の出口を見る。

 

「九条?」

 

「何?」

 

「どうした?」

 

「何が?」

 

「さっきから向こう見てるから」

 

「見てないわよ」

 

「そう?」

 

「そう」

 

 朱音が。

 

 口いっぱいに唐揚げを入れながら。

 

 笑った。

 

「さっきの相良じゃね?」

 

「何が?」

 

「何か言いかけてたじゃん」

 

「だから知らないって言ってるでしょう」

 

「戻ったら聞けばいいじゃん」

 

「……そうね」

 

 九条が。

 

 少し赤くなる。

 

 俺は。

 

 それを見て。

 

 また笑った。

 

「仲良くなったな」

 

 言う。

 

「え?」

 

 九条が。

 

 俺を見る。

 

「相良と」

 

「……そう?」

 

「前はあんなに怒ってたのに」

 

「それは……」

 

 九条が。

 

 少し考える。

 

「話してみたら」

 

「うん」

 

「思ってたほど悪い人じゃなかっただけ」

 

「そっか」

 

「何?」

 

「いや」

 

 よかった。

 

 素直に。

 

 そう思った。

 

 相良は。

 

 クラスで。

 

 あまり誰かと深く関わらない。

 

 朱音には絡まれているけど。

 

 自分から輪に入るタイプじゃない。

 

 九条とも。

 

 ずっと相性が悪そうだった。

 

 だから。

 

 二人が普通に話せるようになったなら。

 

 いいことだ。

 

「蓮」

 

「ん?」

 

「何笑ってるの?」

 

「別に」

 

「変なの」

 

「九条に言われた」

 

「何よ、それ」

 

 九条が。

 

 少し笑う。

 

 やっぱり。

 

 何も。

 

 問題ない。

 

 ◇

 

 午後。

 

 合同演習の班分けが。

 

 掲示された。

 

「お」

 

 朱音が。

 

 掲示板へ駆け寄る。

 

「蓮、第二班!」

 

「俺も?」

 

「澪も!」

 

「本当?」

 

 九条が。

 

 少し後ろから覗く。

 

「本当ね」

 

「よっしゃ!」

 

 朱音が喜ぶ。

 

 俺も。

 

 名前を探す。

 

 第二班。

 

 天城蓮。

 

 火神朱音。

 

 九条澪。

 

 その下。

 

 相良透。

 

「相良も一緒か」

 

 言う。

 

「……え?」

 

 九条が。

 

 掲示を見る。

 

 それから。

 

「本当だ」

 

 小さく。

 

 笑った。

 

「相良ー!」

 

 朱音が。

 

 教室の後ろへ叫ぶ。

 

「何」

 

「お前第二班!」

 

「知ってる」

 

「反応薄っ!」

 

「この前書いたし」

 

「澪と同じじゃん」

 

「九条基準で書いたから」

 

「は?」

 

 朱音が。

 

 止まる。

 

 俺も。

 

 少し驚いた。

 

 九条の反応は。

 

 もっと分かりやすかった。

 

「相良!」

 

「何?」

 

「それ言わないで!」

 

「なんで」

 

「なんでも!」

 

 耳まで。

 

 赤い。

 

「九条が第二って言うから第二にしただけだろ」

 

「そうだけど!」

 

「何が駄目なの」

 

「言い方!」

 

「難しいな」

 

 朱音が。

 

 九条を見る。

 

「澪」

 

「何よ」

 

「相良に希望合わせられたん?」

 

「違う!」

 

「今本人が言ったじゃん」

 

「知ってる人がいた方が楽って言うから!」

 

「あー」

 

 朱音が。

 

 にやにやする。

 

「なるほどねえ」

 

「何がよ!」

 

「別に?」

 

「最近その返事ばっかり!」

 

 相良が。

 

 小さく笑う。

 

 九条も。

 

 怒りながら。

 

 どこか。

 

 楽しそうだった。

 

「……」

 

 俺は。

 

 また。

 

 見ていた。

 

 何だろう。

 

 これ。

 

 嫌な感じではない。

 

 本当に。

 

 嫌じゃない。

 

 相良が。

 

 九条と仲良くなる。

 

 それ自体は。

 

 何も問題ない。

 

 なのに。

 

 少しだけ。

 

 胸の奥に。

 

 引っかかる。

 

 ◇

 

 放課後。

 

 俺は。

 

 朱音と訓練場へ向かう。

 

「澪はほんとに来ねえの?」

 

「委員会だって言ってただろ」

 

「終わったら来るかも」

 

「無理に呼ぶなよ」

 

「分かってるって」

 

「本当か?」

 

「たぶん!」

 

「信用できないな」

 

「澪と同じこと言うなよ!」

 

 校舎を出る。

 

 途中。

 

 振り返る。

 

 二階。

 

 2-Aの教室。

 

 窓際に。

 

 九条が見えた。

 

 書類を持っている。

 

 学級委員の仕事。

 

 その近くに。

 

 相良。

 

「……」

 

 何で相良が。

 

 そう思って。

 

 すぐに思い直す。

 

 あいつは。

 

 提出物とか。

 

 何か抜けていることが多い。

 

 九条に捕まったんだろう。

 

「蓮?」

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「いや」

 

 前を向く。

 

「何でもない」

 

 歩き出す。

 

 それなのに。

 

 少しして。

 

 もう一度。

 

 振り返った。

 

 遠くて。

 

 声は聞こえない。

 

 九条が。

 

 何か言っている。

 

 相良が。

 

 何か返す。

 

 そして。

 

 九条が笑った。

 

「……」

 

 俺は。

 

 足を止める。

 

「蓮?」

 

 朱音が。

 

 また振り返る。

 

「本当にどうした?」

 

「いや」

 

 何だろう。

 

 九条が。

 

 笑っているだけだ。

 

 俺だって。

 

 何度も見た。

 

 昔から。

 

 一緒に訓練して。

 

 話して。

 

 笑って。

 

 珍しいものじゃない。

 

 でも。

 

 相良に向けるその顔を。

 

 少し前まで。

 

 俺は知らなかった。

 

 それだけ。

 

 たった。

 

 それだけなのに。

 

「……変だな」

 

「何が?」

 

「何でもない」

 

「今日それ多くね?」

 

「そうかも」

 

 俺は。

 

 笑った。

 

 多分。

 

 少し驚いているだけだ。

 

 九条と相良が。

 

 思っていた以上に仲良くなっていたから。

 

 それだけ。

 

 別に。

 

 悪いことじゃない。

 

 むしろ。

 

 いいことだ。

 

 だから。

 

 この引っかかりも。

 

 すぐ。

 

 なくなる。

 

 そう思っていた。

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