最低ランク《鎮静》の俺、その正体は催眠能力者 ――勇者のヒロインを静かに奪う   作:催眠スキ

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閑話 素直な人形

 質問すれば。

 

 澪は答える。

 

 怒ることも。

 

 拒むこともなく。

 

 命令すれば。

 

 素直に。

 

 ◇

 

 放課後。

 

 澪と話した日の夕方。

 

 俺は、東屋で端末を見ていた。

 

 雨は降っていない。

 

 空はまだ明るいけど、校舎の影は少しずつ長くなっていた。

 

 澪は先に寮へ戻っている。

 

 一人で帰りたいと言ったから、俺は追わなかった。

 

 澪が教室へ残ったまま、俺だけが先に出た。

 

 それから時間を空けて、ここへ来た。

 

 端末を操作する。

 

 澪との画面を開く。

 

 短い文章を打った。

 

 『東屋に来て』

 

 送信する。

 

 少しして、既読がついた。

 

 ◇

 

 十分ほど待つ。

 

 木々の間に、澪の姿が見えた。

 

 制服のまま。

 

 長い黒髪を揺らし、東屋へ続く道を歩いてくる。

 

 歩く速さは、いつもと変わらない。

 

 ただ。

 

 その顔には、何も浮かんでいなかった。

 

 俺を見つけても。

 

 足を速めない。

 

 立ち止まりもしない。

 

 一定の速さで東屋へ入り、俺の前まで来る。

 

 そこで止まった。

 

 両脚をそろえる。

 

 背筋を伸ばす。

 

 両腕を身体の横へ下ろす。

 

 そして、その位置で動かなくなった。

 

 正面を向いた顔は無表情だった。

 

 瞬きはする。

 

 呼吸もしている。

 

 それ以外は。

 

 置かれた人形のように動かなかった。

 

 今日かけた暗示は。

 

 透本人から届いたメッセージを澪自身が開いたとき、従順な操り人形になる。

 

「澪」

 

 返事はない。

 

 呼びかけだけでは答えない。

 

 質問には答え、命令には従う。

 

「名前は?」

 

 澪の唇が動く。

 

「九条澪です」

 

 いつもの澪の声。

 

 でも。

 

 言い方は違った。

 

 平らで。

 

 簡潔で。

 

 俺に対して敬語で答えている。

 

「ここはどこ?」

 

「学園の東屋です」

 

「どうして来たの?」

 

「透に呼ばれたからです」

 

 答え終わると、唇が閉じる。

 

 表情は一度も変わらない。

 

 数時間前。

 

 澪は同じ俺を見て、声を上げた。

 

 最低だと言った。

 

 触らないでと言った。

 

 一人で帰ると言った。

 

 今は。

 

 俺の思い通りの素直な人形になった。

 

 ◇

 

「今日の下着の色は?」

 

「白です」

 

「下着を見せてよ」

 

「承知しました」

 

 澪の両手が動く。

 

 ブラウスのボタンを上から順に外していく。

 

 襟元が開き、白い肌が露わになる。

 

 さらに下まで外すと、豊かな胸を包む白いブラジャーが現れた。

 

 澪はブラウスを左右へ開き、その状態で一度止まる。

 

 次に、両手でスカートの裾を掴む。

 

 ゆっくりと腰の位置までたくし上げる。

 

 白い太腿が露わになり、同じ白いショーツが現れた。

 

 澪はその姿勢のまま、動かなくなる。

 

「しゃがんで」

 

「承知しました」

 

 澪がゆっくりと膝を曲げていく。

 

 たくし上げたスカートを持ったまま、腰を落とす。

 

 両脚を肩幅に開き、太ももが内側でわずかに震えながら、低い位置で止まる。

 

 白いショーツが、開いた脚の間でピンと張り、丸いお尻の形を下から押し上げるように浮かび上がっている。

 

 背筋は伸ばしたまま、無表情で俺を見上げている。

 

「足を大きく開いて」

 

「承知しました」

 

 澪が両脚を、さらに外側へ押し開く。

 

 太腿が大きく分かれ、白いショーツの中央が正面からはっきりと見える位置まで開いた。

 

 真っ白で柔らかそうな内ももが、夕日に照らされている。

 

「舌を出して」

 

「承知しました」

 

 澪の唇が開く。

 

 舌が、思い切り前へ伸びる。

 

 ピンク色の舌先が、唇の外まで長く出された。

 

 すぐに、透明なよだれが舌の中央から糸を引いて落ち始める。

 

 よだれは顎を伝い、首筋をゆっくりと下り、開いたブラウスの隙間から胸元へ垂れていく。

 

 白いブラジャーの上に、小さな水滴が染みて広がった。

 

 澪は舌を出したまま、よだれを垂らし続けている。

 

 表情は何一つ変わらない。

 

「後ろを向いて、お尻を突き出して」

 

「ひょうひ、ひまひら」

 

「喋るときは舌を仕舞っていいからね」

 

「…承知しました」

 

 澪がしゃがんだまま、ゆっくりとその場で向きを変える。

 

 背中を俺に向け、腰をさらに後ろへ送る。

 

 大きく開いた脚のまま、お尻がはっきりと突き出された。

 

 白い下着の生地が、尻の丸みを両側から強く押し広げている。

 

 表情は何一つ変わらない。

 

「好きな人は?」

 

「相良透です」

 

 声の高さも、顔も変わらなかった。

 

 ブラウスをはだけ、スカートをたくし上げ、しゃがんでお尻を突き出し、舌を出したまま。

 

 澪は自分の意思で、俺を好きだと言った。

 

 今は同じ場所で。

 

 人形のようにその姿勢を保ち、質問されたから答えている。

 

 どちらの言葉も嘘ではない。

 

「舌を戻して、こっちを向いて、立って」

 

「承知しました」

 

 澪がゆっくりと立ち上がる。

 

 舌を戻し、よだれの跡を残したままこちらを向き、立つ。下着は見せたまま。

 

「今日、寮へ戻って最初にしたことは?」

 

「鞄を机の横へ置き、制服の上着を脱ぎました」

 

「その上着は?」

 

「脱いだままです」

 

「どうして?」

 

「早く東屋へ行くためです」

 

「部屋を出るとき、何か考えた?」

 

「何も考えていません」

 

「ここへ来る途中は?」

 

「何も考えていません」

 

「今は?」

 

「質問に正直に答えて、下着を見せています」

 

「変だと思わない?」

 

「思いません」

 

「どうして?」

 

「透に従うのは、当然だからです」

 

 迷いのない声だった。

 

 澪は自分が人形だとは思っていない。

 

 命令に従っているとも。

 

 記憶を作れなくなっているとも思わない。

 

 ただ。

 

 俺の前へ立ち。

 

 聞かれたことへ答えるのが当然になっている。

 

 ◇

 

「端末を開いて、俺から届いたメッセージを削除して」

 

「承知しました」

 

 スカートをたくし上げていた左腕だけが動く。右腕はたくし上げたまま。

 

 澪はスカートのポケットから出した端末を操作し、『東屋に来て』というメッセージを自分の画面から削除した。

 

「澪」

 

 返事はない。

 

「スカートを下ろして」

 

「承知しました」

 

 たくし上げていたスカートが、元の位置へ戻る。

 

「ブラウスのボタンを閉めて」

 

「承知しました」

 

 澪がゆっくりとボタンを留め直す。

 

「俺の言う事を聞いてから寮へ戻って」

 

「承知しました」

 

「自分の部屋へ入ったら、扉を閉めて、端末を机の上へ置く」

 

「承知しました」

 

「それが終わったら、外へ出たことを忘れる」

 

「忘れます」

 

「俺の質問も、自分が答えたことも、全部残らない」

 

「残りません」

 

「帰ってからは、ずっと自分の部屋で過ごしていたと思う」

 

「自分の部屋で過ごしていたと思います」

 

「もう行っていいよ」

 

「承知しました」

 

 澪が向きを変える。

 

 決められた速さで、東屋を出ていく。

 

 一度も振り返らない。

 

 長い黒髪が、歩くたびに揺れる。

 

 その姿が木々の向こうへ消えるまで、俺は見ていた。

 

 ◇

 

 澪が俺へ怒ったことは、本物だった。

 

 今は答えないと決めたことも。

 

 俺を好きなことも。

 

 人形のように立ち、質問へ答えたことも。あの痴態も。

 

 全部。

 

 同じ澪の中にある。

 

 ただ。

 

 澪が覚えているのは。

 

 そのうち。

 

 自分で選んだことだけだった。

 

 俺に呼ばれ。

 

 東屋まで歩き。

 

 自分の下着の色も。

 

 ブラジャーを見せたことも。

 

 スカートをたくし上げたことも。

 

 しゃがんでお尻を突き出したことも。

 

 舌を出してよだれを垂らしたことも。

 

 敬語で答えた時間は。

 

 部屋へ戻れば。

 

 最初から。

 

 存在しなかったことになる。

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