私が生まれて、16回目の春が来た。
大きなバスに揺られ、地元の山じゃ見慣れない海と桜のコントラストを視界に映しながらこれから始まる高校生活に思いを馳せていた。
東京都高度育成高等学校。
都会の海の上に作られた埋立地。そこに日本政府が作り上げた、未来を支える人材を育成する全国屈指の国立の名門校だ。通称は「高育」。
希望する進学、就職先にほぼ100%応える学校で、60万平米を超える敷地内は小さな街になっており、何1つ不自由なく過ごす事のできる。
そんな楽園のような学校に、
高校生になった私、
非常に楽しみだが、一つ不満点がある。
それは3年間の寮生活の上、外部との連絡を一切受け付けないって所だ。この話を母にした時は分かりやすく落ち込んでいたけど、最後には「頑張ってね!」と笑顔で送り出してくれた。
バスを降り、生徒の流れに従って立派な門の前までやってくる。
「うわぁ〜でっかぁ〜ッ」
山の小学校はもちろん、去年まで通ってた町の中学校よりも大きてく立派な門構えに私は圧倒される。
「はっ!いけないいけない」
つい呆けて緩んでいた顔を引き締めるために首を振る。あんまり間抜けな顔をしてたら田舎者って笑われちゃう。私も東京生まれとはいえそれは昔、赤ん坊の頃の話だ。ほとんど田舎者だろう。
ここは都会だ。町の中学校よりも多くの人が集まる。馬鹿にされないように気をつけないと!
「ねぇ──」
「うひゃぁあ!!?」
しまった!突然声をかけられたから驚いて変な声出ちゃった。
しかも、
「わぁ〜お!すっごいジャンプ力!……ってじゃない!!ごめんね急に声かけて!びっくりしちゃったよね?」
そうして、はじめて私に声をかけてきた人の姿を目に映す。
目の前に居たのは……とてつもない美少女だった。まるで春の妖精のような桜色の腰まである長い髪に、空を閉じ込めたような蒼い瞳。そして何より……
「うわぁ〜でっかぁ〜」
大人顔負けのスタイルで何より胸がとんでもなくデカい。都会の人間は何食ったらこんなに成長するだ!?私は校門を見たときと同じ感想を抱きながら、つい自分の頼りないそれと見比べてしまう。
別に、私も無いわけではないけれど、あれと見比べるとどうしても貧弱に感じてしまう。
いいやッ!私はすれんだー?ってやつなんだ!これはこれでちゃんと需要があるんだから負けではないんだ!
……私は何に張り合ってんだ??
「え〜っと……そんなにジロジロ見られると……///」
「へ?」
どうやらそうやって物思いにふけっていると、私は彼女の胸ばかり見て思案する。傍から見たら不審者のような姿を晒していた。
「ごっごめん!!」
「い、いやいや謝らないで!急に声をかけた私が悪いんだし!」
そうして暫くお互い謝り倒してようやく落ち着く。
「ホントにごめんね?校門の前でぼーっとしてたから、具合が悪いのかと思って声かけちゃった。」
そうやって彼女はエヘッとはにかむ。どんな顔してもすっごい美人だ。流石は都会っ子
「私の方そこごめんなさい。私……ちょっと山奥から来た……から、この学校の大きさに圧倒されちゃって……ちょっと立ち尽くしちゃった、だけなんだ。」
少し恥ずかしかったけど、私は自分が田舎者であることを恐る恐る明かす。彼女にもそれなりに恥ずかしい思いをさせてしまったのだから、これでお相子だ。
「あ〜確かに。この学校大きいもんね。私も見入っちゃってておんなじように立ってた子がいたから気になっちゃったんだよね〜。」
「え?あなたも?」
「えっへへ実はそうなんだぁ〜。」
そうやって彼女は、恥ずかしそうに頬をポリポリと指先で描きながら微笑む。
「それにしても山奥かぁ〜どこから来たの?」
「富山……から」
「富山県!すっごい遠くから来たね!」
そう言って彼女はキラキラとした目で詰め寄って来る。そんな姿に私は呆気にとられる。
「それじゃあ、困ったことがあったら何でも聞いて!同じ立ちん坊仲間同士何でも協力するよ!」
「ぷっ……何それ変なの〜ッ」
「え〜変かなぁ〜?」
「うん、変てこすぎッ」
「そんなぁ〜!」
私はつい吹き出してしまう。立ちん坊仲間って表現が間抜けで変な表現だっただけじゃなくて、田舎者だからって馬鹿にされると変に怯えてた自分の滑稽さに二重に笑いが込み上げたからだ。
この人はそんな人じゃない。そう分かるとさっきまでの緊張がウソのように、自然と会話ができるようになった。
そうやって雑談を重ねていく内に、私と彼女は打ち解けていった。そうしていけば、自然と私達は友達になる最初の儀式とも言える自己紹介で、お互いの名前を教えし合った。
「私の名前は
「わかった。私は伊賀 雪。私もゆきで良いよ帆波ちゃん」
「ありがとうゆきちゃん!」
私は表面上はクールにしてるが、内心ではガッツポーズを決めていた。これで都会で初めての友達ができたからだ。私に
「ゆきちゃん。これから一緒に行かない?同じクラスかは分からないけど、校舎までは一緒に行こうよ!」
「あ〜……」
帆波ちゃんの申し出は素直に嬉しい。けれど……
「ごめんね帆波ちゃん。実は私、小学校からの友達と一緒に行く約束してて、校門で待たなきゃいけないんだ。」
だからホントにごめん!と私は顔の前で手を合わせて必死に頭を下げた。そんな私に帆波ちゃんはあわあわとしながら「頭を上げて!」と続ける。
「約束してたんだったら仕方ないよ〜。でもそっかぁ〜残念。」
そう言って帆波ちゃんは本当に残念そうにしながら分かりやすくうなだれている。その姿にまた申し訳なくなってもう一度「ホントにごめん!」と頭を下げる。
すると帆波ちゃんはその人の良さそうな顔をいたずらっ子のようなニシシッって感じの笑みに変えて、私の耳に顔を寄せて内緒話風に聞いてくる。
「その人ってひょっとしてゆきちゃんの彼氏とか?」
「はぁ///!?」
帆波ちゃんの突然の発言に私は慌てて否定する。
「何言ってんの帆波ちゃん!草ちゃんとはそういうんじゃなくて!普通に友達!友達だから!!」
「ふぅ〜んそうなんだぁ〜♪」
「な、何よ〜その顔!」
「ぶぅぇ〜つにぃ〜♪」
帆波ちゃんはいたずらっ子の顔のままニマニマと私の顔を見て来る。
私は妙に熱い顔の熱を誤魔化すために、「この〜!」と帆波ちゃんを追い回すと、「きゃ〜!こわい〜!」と笑顔の帆波ちゃんが楽しそうな悲鳴を上げる。
そうしてしばらく2人で戯れたあと、「邪魔しちゃ悪いし」と未だ誤解した帆波ちゃんがいらん気遣いを回す。
「また学校の何処かで会おうね〜!バイバイ雪ちゃ〜ん!」
「うん!バイバイ帆波ちゃん!」
そうやってお互い手を振り、しばしの別れを告げる。
この後、意外にも早くの再会を果たすことは私たちはまだ知らない。
❅ ❅ ❅
「草ちゃん。まだかなぁ〜」
どういう訳か、私と草ちゃんはバスの時間が別々で草ちゃんよりも時間が早かった私は、校門の前で待ちぼうけを食らっている。
それにしても、と私は登校してくる生徒たちや自分の服装に目をやる。この学校の制服は他ではあまり見られない真っ赤なブレザーで派手だなぁ〜。私は“
そこだけは本当に
そうしていると、本日四台目の生徒を乗せたバスが到着する。
私が乗ってたのが2台目って聞いてたから、さっき1台来て草ちゃんがいなかったからスルーして、その後に来たバスだからこれで四台目だ。
にしても、さっき3台目に当たるバスから降りてきた生徒たちはとても特徴的だったな。
何というか……全体的に治安が悪い感じというか、その多くが不良の集まりって感じだった。目つきが悪かったり、男なのに長髪だったり、ブレザーのボタンを閉めてなかったり、中には大人しそうな娘もいたけど、私が一番目を引いたのはサングラスをかけた巨漢の黒人だった。その人を見た瞬間私の中の
ま、そんな話は置いといて……
そんな四台目のバスから降りてきた人混みの中から、私の
「あ、来た!」
門前の階段を駆け下り、私は草ちゃんの元へと走っていく。
「草ちゃ───
その時、
ぼーっとした顔の男子生徒とすれ違った時だった。
私の遺伝子が、
「ッ!?」
「ん?」
私は、その生徒の方へ瞬間的に視線を向け、その場に立ち尽くしてしまう。
私に気付いたその生徒は不思議そうに私を見てくる。
「えっと……どうしたんだ?」
怖いっ………
どこを見ても普通の、男子って感じだ。
顔は整ってる方だが、ぼーっとした目や寝癖なのか後ろを無造作にはねさせた茶髪の感じで、やや冴えない感じの……
なのに……
なぜだか、あの夜の“弟”……最後の姉弟喧嘩で私を血まみれにさせた
この恐怖は、私の中にある生存本能を燻った。
(まずいッ)
私は胸を押さえてしゃがみ込む。私の中から溢れそうな本能が、私を
そして唱える。
昔、意味が無いと思い知ったのに、それに縋らずにはいられなかったおまじないを……
「お、お土産3つタコ3つ、お土産3つタコ3つ、お土産3つタコ3つ」
「お、おい?大丈夫か?」
急にしゃがみ込んでブツブツ言い出した私にその男子は気遣わしげな声を掛けてくる。
やめて!
近づかないで!
あなたが近づいてくると……ッ
抑えられなくなる……ッ!!
ビキッと
だめッ!やっぱりおまじない効かない!抑えられない!
助けて!誰か!!
父さん……!
母さん!!
「雪!!」
その時、私の傍に駆け寄る人物が居た。
大きな手で私の肩を抱き、あれから大分低くなった声で私の名前を呼ぶ。
「草、ちゃん?」
「あぁ俺だ、大丈夫か?雪」
私の幼なじみ、親友、藤井草平……草ちゃんが来てくれた。
たったソレだけで、私の生存本能は落ち着き、変化してた身体は元に戻っていた。
その次の瞬間、草ちゃんは目の前の男子に詰め寄る。
「お前ッ……こいつになんかしたのかッ?」
「ちょ、ちょっと待て!誤解だ!!」
まずいッ草ちゃんがキレ気味に目の前の男子の胸倉を掴み始めた。誤解してる草ちゃんに私も慌てて制止させる。
「待って草ちゃん!私が
「……」
まぁ、原因はこの人なのは間違いないのだが、それを
個人的な原因を隠し伝えた私の言葉を聞くと、草ちゃんは少し逡巡したあと、その男子から手を離す。
「……悪かったな。変に勘ぐって……」
「え?あぁ、いや。気にしなくていい。」
草ちゃんはそうぶっきらぼうに謝ると、その男子は呆気にとられたように襟を正した。
そして草ちゃんは私の手をパシッと取ると、そのまま私の手を引いて足早に校門へと向かう。
「本当に大丈夫か?雪」
「へ?あぁ、う、うん。平気」
「……そ」
そう短く言うと、彼は静かに前を向く。すると、昔私が傷つけた右耳の痛々しい傷が目に入る。
また、あんな事が起こらなくて良かった。
もう少し遅かったら、私は……どうしていたんだろう。
でも、草ちゃんのお陰で、また誰かを傷つけなくて良かった。
あんな事は、草ちゃんで最後にしないと……
草ちゃんで最後……
草ちゃんだけ……
私の……
『その人ってひょっとしてゆきちゃんの彼氏とか?』
ッ///!!?
「ん?どうした?」
「なっ何でもない!」
「?」
全く、帆波ちゃんが変なこと言うから。意識しちゃうじゃん!!別に草ちゃんはそんなんじゃないんだから!!
そう心の中で自問自答していると、自然と未だに繋がれてる手に目がいってまた顔が熱くなる。
「ちょ、いつまでつないでんの!?」
「ん?あぁ……悪い」
私が慌ててばっと手を離す。それに草ちゃんも相変わらずぶっきらぼうに応える。
今一度、草ちゃんの顔を見る。
小学校のときは同じくらいの背丈だったのに、今じゃすっかり抜かされて大きくなって。その事実も相まってなんかムカついた私は草ちゃんの腹に一発拳を打ち込んだ。
「いって!何すんだよ!」
「べっつに〜」
そう言って草ちゃんにあっかんべ~と舌を出す。
本当にムカつく。いつの間にか高くなった上からの視線とか、なんか私だけ意識してるみたいなこの現状とか、色々とムカつく。
はぁ〜ッと私はため息一つ。なんだか馬鹿らしく思えば、変に熱くなってた顔の熱も冷めてきた。
「ほら!早く行くよ草ちゃん!」
「はぁ?、おい殴ったの謝れよ雪ぃ〜!」
「し〜らなぁ〜い」
「んだとぉ〜ッ!」
そうしていつも見たく言い争いながら、校門を潜る。
これから初めての高校生活が始まるんだからモヤモヤな気持ちをいつまでも抱えててもしょうがない。
この青空のように晴れやかに、母のように笑顔で
私、“おおかみこども雪”の高校生活初めの一歩を……ようやく踏み出したのです。
この時、私は気づきませんでした。
あまり見ないようにしてた草ちゃんの顔が……
少しだけ、赤くなっていたことを……。
雪ちゃんの苗字は、映画内では設定されてなかったけど、
狼男さんの、運転免許証の苗字を頑張って見たら「伊賀」と読めるらしく、花さんの苗字が分からんので、「伊賀」になりました。
影響されやすい自分が憎い!
おおかみこどもの雨と雪を久々に見て書きたくなった。
久々の執筆のリハビリみたいなもん。
続くかはわからん