チートも加護も無いんですが。~貧乏貴族の跡継ぎに生まれ変わったのでなんとかします~   作:コロトック

1 / 3
第一話 目が覚めたら貧乏だった

 「坊ちゃん、いい加減起きてください。今日は税吏が来る日ですよ」

 

 「税吏……ああ、うん。分かった」

 

 目を開けると、見知らぬ天井。定番すぎて逆に笑えてくる。

 いや正確には見知らぬというか、この三年間ずっと見てきた天井なんだけど。前世の記憶が戻ったのは昨日の話だから、俺にとってはまだ「見知らぬ」で合ってる。

 

 「分かってないですよね、その顔」

 

 目の前でジト目を向けてくるのは、俺付きの侍女リタ。同い年くらいに見えるけど、実際は俺より二つ上らしい。

 

 「分かってるって。税吏でしょ。怖い顔したおじさんが来て、うちにお金無いですねーって言って帰る、あれ」

 

 「毎年恒例の儀式みたいに言わないでください……」

 

 リタがため息をつく。

 俺の名前はノア・ハミルトン。貧乏男爵家、ハミルトン家の跡継ぎだ。

 昨日の夜、寝てる間に前世の記憶がドバっと戻ってきた。日本人だった記憶、異世界転生系の小説を読み漁っていた記憶、そして色々。

 

 で、思ったわけですよ。

 

 「よし。俺にもチートがあるはずだ」

 

 「はい?」

 

 「ステータスオープン」

 

 何も起きない。

 

 「……もう一回。ステータスオープン」

 

 やっぱり何も起きない。目の前には相変わらずリタの怪訝な顔があるだけ。

 

 「坊ちゃん、また変な熱でも出ました?」

 

 「いや、待って。鑑定は? 鑑定スキルとか」

 

 「何を鑑定するんですか」

 

 「リタを」

 

 「やめてください」

 

 真顔で拒否された。解せぬ。

 

 俺は布団から起き上がって、もう一度目を閉じる。集中、集中。前世の知識によれば、こういう時は焦らずじっくりイメージするのが大事なはず。

 

 「アイテムボックス」

 

 何も出てこない。

 

 「収納魔法」

 

 やっぱり何も出てこない。

 

 「……剣聖の加護とか」

 

 「坊ちゃん、寝ぼけてるなら二度寝していいですよ」

 

 「寝ぼけてない! 本気だ!」

 

 リタが半目で見てくる。この視線、なんか懐かしい。前世でも似たような目で見られてた気がする。

 

 「あの、坊ちゃん。うちにお金が無いのはご存知ですよね」

 

 「知ってる。今日税吏来るんでしょ」

 

 「そのお金を用意するために、私は昨日徹夜で帳簿を見直してたんですけど」

 

 「お疲れ様」

 

 「労いより先に、何か手伝う気はないんですか」

 

 ぐうの音も出ない。正論すぎる。

 

 「いや、だからその手伝う手段として今、超能力を探ってるんじゃん」

 

 「無いものを探すのはやめて、ある物を数えてください」

 

 辛辣。でも間違ってない。

 

 俺は仕方なく起き上がって、窓の外を見た。ハミルトン男爵領。畑が広がっていて、遠くに小さな村が見える。正直、豊かとは言い難い景色だ。

 

 「なあリタ、この世界にステータスとかスキルとかって、本当に無いの?」

 

 「聞いたことないですね。あるとしたら、それこそ勇者様とか、そういう特別な人だけの話じゃないですか」

 

 「俺、勇者じゃないもんな……」

 

 「男爵家の三男が勇者だったら、それはそれで国が荒れると思います」

 

 「三男じゃなくて跡継ぎな」

 

 「あ、そうでした。上のお二人が家を出られたから、繰り上がりでしたね」

 

 地味に傷つく事実をさらっと言われた。繰り上がり跡継ぎ。かっこよくない。

 

 「じゃあ本当に、チートは無いってこと?」

 

 「無いですね。あるのは、税吏対策の頭痛と、坊ちゃんの寝癖くらいです」

 

 言われて頭に手をやると、たしかに盛大に跳ねていた。

 

 「……分かった。チートが無いなら、無いなりにやるしかないか」

 

 「急に真面目になりましたね」

 

 「元々真面目だし」

 

 「今の会話の、どこにです?」

 

 鋭い。何も言い返せない。

 

 でも、内心では結構本気だった。前世の記憶と知識はある。魔法もこの世界にはちゃんと存在してる。だったら、チートなんて無くても、知識と工夫でどうにかできるはずだ。

 

 「リタ、帳簿見せて」

 

 「え、本当に手伝うんですか」

 

 「言ったじゃん、無いなりにやるって」

 

 リタが少し驚いた顔をしたあと、ふっと表情を緩めた。

 

 「……坊ちゃんがそう言うの、初めて聞きました」

 

 「今までの俺、そんなにダメだった?」

 

 「ダメというか、税吏が来る日は大体、布団に潜って現実逃避してましたね」

 

 「うっ」

 

 身に覚えがありすぎて何も言えない。それ多分、前世の記憶が戻る前の、素のノアの行動だ。

 

 「今日は逃げないんですか?」

 

 「逃げない。ついでに言うと、税吏が帰ったあとの作戦も考えてある」

 

 「作戦、ですか」

 

 リタの声のトーンが、少しだけ変わった気がした。呆れなのか、期待なのか、俺には判断がつかない。

 

 「そう。まずはこの領地、何がどのくらい足りてないのか、ちゃんと数字で把握するところから始めよう」

 

 「……坊ちゃんが数字の話をするの、初めてかもしれません」

 

 「褒めてる?」

 

 「さあ、どっちでしょうね」

 

 リタは答えをはぐらかすように、くすっと笑って部屋を出ていった。

 残された俺は、寝癖を直しもせず、しばらくその後ろ姿を見つめていた。

 

 チートは無い。

 でも、やれることはある。

 

 俺はベッドから完全に起き上がって、税吏との戦いへ向かう準備を始めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。