チートも加護も無いんですが。~貧乏貴族の跡継ぎに生まれ変わったのでなんとかします~   作:コロトック

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第2話 税吏、来る

 「これが今年の帳簿です」

 

 リタがドサッと机に置いた帳面は、思ったより分厚かった。

 

 「……重っ。これ全部数字?」

 

 「全部数字です」

 

 「うちの領地、こんなに複雑な経理してたっけ」

 

 「複雑なんじゃなくて、赤字の言い訳が多いだけです」

 

 容赦ない一言。でも否定できない。パラパラめくると、案の定「不作」「不作」「不作」の三連発が目に飛び込んでくる。

 

 「三年連続不作って、うちの畑呪われてない?」

 

 「呪われてはいません。ただ、種の選び方と輪作の順番が、ずっと同じなだけです」

 

 「え、それ問題じゃん」

 

 「問題だと、坊ちゃんも今初めて気づいたんですね」

 

 地味に刺さる。でも今はそれどころじゃない。

 

 「輪作って、同じ場所に同じ作物を作り続けると土が痩せるってやつだよね。順番変えるだけで収穫変わるはず」

 

 「詳しいんですね」

 

 「まあ、色々本で読んだから」

 

 前世で読んだ農業系の知識が、まさかこんな所で役に立つとは思わなかった。転生あるあるってやつか。

 

 コンコン、と扉が鳴った。

 

 「坊ちゃん。税吏様がいらっしゃいました」

 

 執事の声。来た。本番だ。

 

 「よし。リタ、帳簿持ってきて」

 

 「はい……あの、大丈夫ですか? 今日の坊ちゃん、いつもと様子が違いますけど」

 

 「違うって、悪い意味で?」

 

 「良い意味かどうかは、これからの交渉次第ですね」

 

 どっちとも取れる返事。褒めてるのか、それとも品定めしてるのか。リタはいつもこうだ。

 

 ◇

 

 応接間に入ってきたのは、痩せ型で神経質そうな中年男。手には分厚い書類の束を抱えている。

 

 「男爵代理、ノア様ですね。今年度の納税額についてご説明に上がりました」

 

 「どうも。座ってください」

 

 「……失礼ですが、いつもと雰囲気が」

 

 「気のせいです。それより、納税額の件、詳しく聞かせてもらえますか」

 

 税吏が怪訝そうな顔をしつつ、書類を広げる。

 

 「昨年度未納分と合わせまして、金貨にして四十枚。期限までにご準備を」

 

 「四十枚……」

 

 思わず声が出た。リタの方をちらっと見ると、無言でこくりと頷かれた。本当らしい。

 

 「今すぐには無理です。分割にしてもらうことは?」

 

 「規則で分割は認められておりません」

 

 「じゃあ、代わりに何か納める方法は? 現物とか」

 

 「現物納入も可能ですが、査定額次第では追加費用が発生します」

 

 「その査定、誰がやるんですか」

 

 「私が」

 

 あ、これは駆け引きの余地があるやつだ。

 

 「なるほど。ちなみにあなたの査定基準って、何かに明記されてます? 王国の公定規則とか」

 

 税吏の眉がぴくりと動いた。

 

 「……規則はございますが、細部は担当官の裁量です」

 

 「じゃあ聞き方変えます。裁量って、私が納得できる説明があれば、多少融通効くってことですよね?」

 

 「それは、その」

 

 「昨年の査定書、見せてもらってもいいですか。今年と比較したいので」

 

 税吏の表情が明らかに固まった。

 

 「い、今すぐには準備が」

 

 「じゃあ後日で構いません。次回の訪問までに用意しておいてください。あ、あと、うちの畑の作付け予定も見直してますので、来年度の収穫見込みが変わる可能性がある旨、記録に残しておいてもらえますか」

 

 「は、はあ」

 

 完全に押されている。前世の記憶にあった「役所仕事は前例と書類に弱い」という知識、どうやらこの世界でも通用するらしい。

 

 税吏はしどろもどろになりながら、結局その日は「後日改めて正式な査定を行う」ということで帰っていった。

 

 ◇

 

 「……坊ちゃん」

 

 扉が閉まった瞬間、リタがぽつりと言った。

 

 「なに」

 

 「今の、どこで覚えたんですか」

 

 「さあ。前世の知識、かな」

 

 「前世?」

 

 「あ、いや、なんでもない。本で読んだって意味」

 

 誤魔化した。まだ前世の話をリタにする気にはなれない。

 

 「まあいいです。それより、四十枚は結局払わなきゃいけないんですよね」

 

 「うん。でも即金じゃなくていい流れは作った。あとは、その間に稼ぐ方法を考える」

 

 「稼ぐって、具体的には」

 

 「輪作で収穫増やすのが本命だけど、それだと時間がかかりすぎる。だからもう一個、別の手も考えてる」

 

 「別の手?」

 

 俺はニヤリと笑ってみせた。前世の記憶にある、この手の話で使い古された展開。でも使い古されてるってことは、それだけ効果があるってことだ。

 

 「うちの領地、何か特産品って無かったっけ」

 

 「特産品……強いて言えば、裏山で採れる薬草くらいですけど」

 

 「その薬草、詳しく聞かせて」

 

 リタが少し驚いた顔をした後、また例の、どっちとも取れる笑みを浮かべる。

 

 「坊ちゃんがそんなに目を輝かせるの、初めて見ました」

 

 「悪い意味?」

 

 「さあ」

 

 今日二度目のはぐらかし。でもさっきよりは、ほんの少しだけ楽しそうに見えた。

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