チートも加護も無いんですが。~貧乏貴族の跡継ぎに生まれ変わったのでなんとかします~   作:コロトック

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第3話 裏山の薬草

 

 「で、その薬草って売ってるの? 今まで」

 

 「売ってないですね。村の人が体調悪い時に、自分で摘んで煎じて飲むくらいです」

 

 「え、じゃあお金になってないってこと?」

 

 「そうです」

 

 もったいない。前世の記憶が正しければ、薬草って結構いろんな用途があったはずだ。傷薬、解熱、下手すりゃ魔法薬の素材にもなる。

 

 「よし、見に行こう」

 

 「今からですか?」

 

 「善は急げって言うでしょ」

 

 「言いますけど、坊ちゃんが急いでるところ初めて見ました」

 

 また始まった、リタのそれ。

 

 「褒めてる?」

 

 「……」

 

 ◇

 

 裏山は思ったより近かった。屋敷から歩いて十五分程度。案内してくれたのは、村の少年フィン。リタの又従兄弟らしい。

 

 「このへんに生えてるのが、みんな『ネムリグサ』って呼んでる薬草っす」

 

 地面に群生している、細長い葉の植物。前世の知識と照らし合わせてみる。

 

 「これ、匂い嗅いでいい?」

 

 「え、いいっすけど」

 

 摘んで匂いを嗅ぐと、少しミントに似た清涼感のある香り。葉の裏が銀色っぽい。

 

 「フィン、これ食べたらどうなる?」

 

 「眠くなるっすよ。だから『ネムリグサ』」

 

 「煎じたら?」

 

 「同じく眠くなる。あと、熱がある時に飲むと楽になるって、婆ちゃんが言ってました」

 

 なるほど。解熱と鎮静効果。前世でいう睡眠導入剤とか鎮痛剤に近い成分がありそうだ。

 

 「これ、この山にどれくらいある?」

 

 「そこら中に生えてるっすよ。誰も採らないんで」

 

 「なんで誰も採らないの? お金になりそうなのに」

 

 フィンが不思議そうな顔をした。

 

 「なるって、誰が買うんです? 村の人はタダで採れるから買わないし」

 

 「村の外の人が買うかもしれないでしょ」

 

 「村の外まで運ぶ手段が無いっす。行商人も滅多に来ないし」

 

 なるほど、そういうことか。需要はあっても、流通が無い。前世でいうところの「ラストワンマイル問題」ってやつだ。

 

 「リタ、街まで行商人使わずに荷物運ぶ方法って、他に無いの?」

 

 「街道沿いなら、月一で来る巡回商人がいますけど。あとは、教会の馬車が定期的に街と行き来してます」

 

 「教会?」

 

 「治療院への薬の受け渡しとかで、月に何度か」

 

 これだ。教会経由なら、薬草を「治療用の物資」として運んでもらえる可能性がある。しかも治療院なら、薬草の需要そのものがある。

 

 「よし、方針決まった」

 

 「もう決めたんですか。早くないです?」

 

 「早いのが悪いこと?」

 

 「さあ、どっちでしょうね」

 

 三度目。数えてるわけじゃないけど、そろそろ数えたくなってきた。

 

 「フィン、この薬草、村の人にお願いして採ってもらうことってできる?」

 

 「そりゃできるっすけど、タダ働きさせるつもりっすか?」

 

 「まさか。ちゃんと買い取る。あと、採る量に応じて報酬出す」

 

 「マジっすか」

 

 フィンの目の色が変わった。当然だ、貧乏領地の村人にとって、現金収入は貴重なはず。

 

 「ただし条件がある。全部採り尽くさないこと。来年も再来年も採れるように、根っこは残す」

 

 「え、なんでです? 全部採った方が早くないっすか」

 

 「一回で全部採ったら、来年から無くなるでしょ。それだと一年で終わり。でも毎年少しずつ採れば、ずっと稼げる」

 

 フィンとリタが顔を見合わせる。

 

 「……坊ちゃん、それ、村の年寄りが知恵として言いそうなことですね」

 

 「知恵っていうか、常識っていうか」

 

 「常識で片付けるには、うちの領地、今まで誰もやってこなかったことですけどね」

 

 地味に痛い指摘。でも今更止まらない。

 

 「とにかく、まずは教会に話をつける。薬草を治療院に卸せないか、それと運搬を手伝ってもらえないか」

 

 「私が話に行きましょうか? 教会の司祭様、私の顔は覚えてるので」

 

 「頼めるならお願いしたい。俺だと『男爵家の坊ちゃんが急に何言い出すんだ』って警戒されそうだし」

 

 「今まさに、その心配通りのこと言ってますよ」

 

 「うっ」

 

 言い返せない。

 

 フィンが薬草を一束抱えて、興奮気味に言った。

 

 「じゃあ俺、村のみんなに声かけてくるっす! 明日から採り始めるんで、いっすよね!」

 

 「うん、頼んだ」

 

 フィンが山を駆け下りていく後ろ姿を見送りながら、リタがぽつりと呟いた。

 

 「本当に、稼げると思ってるんですか」

 

 「分からない。でも、やらないよりはマシだと思う」

 

 「その言い方、前より少しだけ、頼りがいがある気がします」

 

 「それ、褒めてる?」

 

 リタは今度は答えず、ただ小さく笑って山を下り始めた。

 俺はその背中を追いかけながら、風に揺れるネムリグサの群生を、もう一度だけ振り返った。

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