おれを誰だと思ってる?ヒグマさんだぞ   作:親分

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日間ランキング8位ありがとうだぜい!!





ヒグマさんは最期の頼みを聞くみたいです。

 

「…………」

 

ヒグマは、遠くを見つめていた。先ほどまで轟音を響かせていた戦場が、静まり返っている。ロジャーとガープ。そして、ロックス。三人の怪物がぶつかり合った戦い。その気配が今、途絶えた。

 

「……決着が、ついたか。」

 

ヒグマは小さく呟いた。遠くには、倒れ伏したロジャーとガープ。

そして、そのすぐ近くには、満身創痍のロックスがいる。

 

「…………」

 

ヒグマは二人を一瞥した。

 

(……ロックスの勝ち……ってわけじゃねぇな。)

 

戦場に残された痕跡を見れば分かる。三人とも、限界まで戦った。

 

(……終わりか。)

 

ヒグマがそう思った、その時だった。戦場の奥から、複数の気配が近づいてくる。ヒグマの目が細くなる。一つや二つじゃない。神の騎士団が、戦場の奥から姿を現した。

 

「──いたぞ!」

 

「ロックスはあそこだ!」

 

「ロジャーもいる!まとめて始末しろ!」

 

複数の足音がロックスへと近付いていく。だが、ヒグマは動かなかった。ただ、神の騎士団がいる方向へ視線を向けることすらしない。

 

「…………」

 

静かに息を吐く。大地が震えた。空気そのものが爆発したかのような覇王色が、ゴッドバレーを一直線に駆け抜けていく。

 

「──なッ!?」

 

「何だ、この覇気は……!!」

 

神の騎士団達の身体が、一斉に宙へ浮いた。

 

「ぐああああああッ!!」

 

「お前ら──!!」

 

姿を確認する暇すらない。彼らは凄まじい勢いで吹き飛ばされ、山の向こうへと消えていった。ヒグマは、最後までそちらを見なかった。

 

「……よォ。」

 

「……お前……。」

 

ロックスが呆然とヒグマを見つめる。

 

「ん?」

 

「今の……覇気だけでやったのか?」

 

「ああ。」

 

「…………ハハ。」

 

ロックスから渇いた笑いが出る。

 

「最後まで……とんでもねぇ奴だな、お前は。」

 

「お前にだけは言われたくねぇよ。」

 

その時、遠くから二つの気配が近づいてきた。

 

「──ロジャー!」

 

「ガープ!」

 

瓦礫を蹴散らしながら、二人の男が駆けてくる。ギャバンとレイリーだった。二人は倒れているロジャーとガープを見つけると、すぐに駆け寄った。

 

「おい!大丈夫か、ロジャー!」

 

「ガープも生きてる。」

 

「よし……!」

 

レイリーが二人の身体を確認する。そして、レイリーの視線が、僅かに横へ逸れる。

 

「…………?」

 

そこに立っていたのは、一人の男。黒刀を携え、何事もなかったかのように立っているヒグマだった。

 

「……この男は?」

 

ギャバンもヒグマへ視線を向ける。

 

「さあな。だが……」

 

ギャバンの表情が僅かに険しくなる。

 

「さっきの覇気。あいつからだ。今は全く感じねえが。」

 

「………。」

 

レイリーはヒグマを見つめる。先ほどゴッドバレー全域を覆った、異常な覇王色。そして、島に刻まれた巨大な斬撃の跡。

 

「……とんでもない奴がいたもんだな。」

 

ヒグマは二人を見る。

 

「……あ?」

 

「いや──」

 

レイリーはそれ以上何も言わなかった。

 

「──今はロジャーを連れていくのが先だ。」

 

「ああ。」

 

そして、ギャバンがロックスを見る。

 

「……ロックスもいるぞ。……こいつも連れて帰るか?」

 

レイリーがロックスへ近づく。

 

「お前も来い。ここに残れば、また連中が来る。」

 

レイリーはロックスへと手を伸ばす。だが、ロックスは自分の身体を見て首を横に振った。傷だらけの身体。震える指。呼吸をするだけでも肺が焼けるように痛む。もうまともに立つことすらできない。

 

「……無理だ。」

 

「何?」

 

「俺の身体は……もう持たねぇ。」

 

ギャバンが眉をひそめる。

 

「何言ってやがる。まだ生きてるだろ。」

 

「今こうして生きてるのが……奇跡なくらいなんだよ──このまま動けば……長くねぇ…。」

 

ロックスは苦笑する。

 

「行け。」

 

レイリーが黙る。ロックスの目を見れば分かった。覚悟を決めている男の目だ。

 

「……そうか。」

 

レイリーはそれ以上、何も言わなかった。ギャバンも拳を握る。

 

「……行くぞ、レイリー。」

 

「ああ。」

 

二人はロジャーとガープを担ぎ上げる。そして最後に、ロックスを見る。

 

「……じゃあな。」

 

「……ああ。」

 

ギャバンとレイリーは、その場を離れていった。再び、静寂が訪れる。ヒグマとロックス、二人だけになった。

 

「…………。」

 

しばらく、どちらも何も言わなかった。やがてロックスが口を開く。

 

「……なぁ、ヒグマ。」

 

「なんだ。」

 

「俺の……女と息子は……どうなった?」

 

「…………。」

 

ヒグマの目をじっと見つめる。そして、ヒグマは静かに答えた。

 

「生きてる。」

 

「…………」

 

ロックスの表情が止まった。

 

「……何?」

 

「お前の女も、息子も、生きてる。」

 

ヒグマは続ける。

 

「悪魔の実を食ったガキがいた。」

 

「………。」

 

「そいつが能力を使って、お前の家族を逃がしてた。」

 

ロックスはしばらく何も言わなかった。ただ、空を見上げる。

 

「……そうか。」

 

その声は、驚くほど穏やかだった。

 

「……生きてるのか。」

 

「ああ。」

 

「……そうか──」

 

ロックスの肩から、ゆっくりと力が抜けていく。

 

「──よかった。」

 

それだけだった。世界を獲ると言い続けた男が。最後に願ったのは、自分の家族が生きていることだった。ヒグマはその穏やかな表情を見て、目を伏せる。

 

「……ヒグマ。それを聞けただけで……十分だ。」

 

「……。」

 

ロックスが笑う。

 

「もう……心残りはねぇ。」

 

そして、ヒグマを真っ直ぐ見つめる。

 

「……だからよ。」

 

「………。」

 

「おれを……殺してくれ。おれが死ぬのも時間の問題だ…。」

 

ロックスは自分の手を見つめる。

 

「神の騎士団のやつらに殺されるくらいなら──お前に殺されてぇ。」

 

ゆっくりとロックスは顔を向ける。ヒグマは黙っていた。

 

「……そうか。」

 

「……ああ。」

 

ヒグマが黒刀の柄へ手を置く。

 

「最後まで……世話になったな。」

 

ロックスはそうヒグマに告げる。

 

「…逆だ。……お前には世話になった。」

 

「…………。」

 

「酒も飲ませてもらった。」

 

「お前、酒の話ばっかだな……ヴォハハッ……。」

 

ロックスが笑う。だが、その笑みは弱々しい。

 

「……でもよ。」

 

ロックスは少しだけ間を置く。

 

「お前を拾って……悪くなかった。」

 

ヒグマは何も答えない。ただ、黒刀をゆっくりと抜く。

 

「…………。」

 

ロックスがその刀身を見つめる。

 

「なぁ、ヒグマ。」

 

「なんだ。」

 

「……おれで、何人目だ?」

 

ヒグマの動きが止まった。

 

「…………」

 

ロックスは笑っていた。しばらくの沈黙。やがてヒグマは、ロックスを真っ直ぐ見つめる。

 

そして──

 

「…………56人目だ。」

 

ロックスの目が僅かに細くなる。

 

「……そうか。」

 

小さく笑った。

 

「なら……」

 

ロックスは目を閉じる。

 

「……悪くねぇな。()()()()、叶えろよ。」

 

ヒグマは黒刀を構えた。その顔には、いつもの笑みはない。ただ静かに、自分を拾ってくれた男を見つめる。

 

「……じゃあな、ロックス。」

 

「…………ああ。」

 

そして──

 

ヒグマの黒刀が、静かに振り上げられた。




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