軽い下ネタがあります。
真夜中の3時、俺は学校にいた。
旧校舎の3階の奥の女子トイレの前でふぅと息を吐く。
俺はこれからこの女子トイレに入るわけだが別に変態じゃない。
入らなきゃいけないのだから仕方ない。
なぜこうなったかといえば、最近クラスで学校の怪談が流行っているからだ。
怪談といえば当然“トイレの花子さん”である。
夜中の3時に旧校舎3階奥の女子トイレの奥から2番目の個室の前で3回ノックして「花子さん遊びましょ」と言うとトイレの中に引き摺り込まれて死ぬという話だ。
クラスでは誰々があの怪談を試しただのどうだっただの勇気があるだの話が絶えないがトイレの花子さんを試したという話はさっぱり聞かない。
みんなビビっているのだろう。
死んだらどうやってこの話を伝えるのかはわからんが伝わっているので仕方ない。
まぁ死なないのだろう。
というわけで俺が試しに来たわけだ。
クラスの会話に入ったことはないし話を振られたこともないが俺が試してはいけないわけではない。
別にいいだろ。
俺はゆっくりと女子トイレの中に入っていく。
廊下も暗かったが女子トイレの中はさらに暗い。
大きな窓から月明かりが入ってくる廊下と違って女子トイレは窓が小さい。
電気をつければいいのだが、警備員に見つかったりとかしたらめんどくさい。
そもそもよくここまで見つからなかったものだ。
とにかく奥から2番目の個室の前に立ちゆっくりと手を近づける。
コンコンコン─
なかなかいい音だ。
俺がこんなにノックが上手かったなんて。
いや、扉の材質か?
古い校舎のはずなのにこんなにしっかりした状態で残っているなんて日々の清掃の賜物だろうか?
この学校の生徒の1人として誇らしい。
もちろん俺は男だから女子トイレの清掃とは無関係なのだが誇らしいものは誇らしい。
いやいや今はそんなことはどうでもいい。
俺はこの美しい音色が気に入った。
コンコンコンコンコンコン─
何度聞いてもいい。
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン─
楽しくなってきた。
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン─
俺は夢中でノックし続ける。
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン─
手が痛くなってきたからこの辺にしておこう。
俺は扉に向かって声をかける。
花子さんあっそびましょー
返事がない。
手順を間違ったか?いやそんなはずはない。
もう一度声をかけるか迷っていると─
「………テ…」
ん?何か聞こえた気がする。
「ド……テ…」
やはり聞こえる。
俺は扉に耳を近づける。
「ドウシテ?」
どうして?と来た。
遊びましょと言ってどうして?と来た。
さすがの俺でもこれは傷つく。
普通遊びましょって言われてどうして?って返すか?
どうしてもこうしても遊びたいから言ってるに決まってるだろう。
夜中の3時に旧校舎の女子トイレで遊びましょと言うなんて遊びたいから以外にあるわけがあるわ怪談を試しに来たんだわ俺。
ならどうして?に対する回答は「そう言う決まりだから」になるわけだ。
よし攻略。噂にもなってない新パターン攻略。エンディングが見えてきたんじゃないか?
「ドウシテ…シッテルノ…?」
???????????????
どうして知ってるの?
何を?呼び方を?そりゃ学校中に広まってるからだろう。
「……………!…ソンナ」
狼狽したような声がした後静寂が訪れる。
俺は何か間違えたのだろうか?
最初からやり直すべきか考えているとキィっと音を立てて扉がゆっくり開いた。
扉の向こうにいたのは顔を赤く染め鋭い目つきで俺を睨む花子さんだった。
どうやら俺は花子さんを怒らせたらしい。
ならばこれから俺はトイレに引き摺り込まれて死ぬのか。
己の運命を悟り短い生涯に思いを馳せる俺。
「………4545回…」
ん?
「4545回ノックして遊びましょって言うのは“溜まってるから抜いて欲しい”って合図…」
4545回。確かに夢中でノックしてたがまさかそんなにノックしてたなんて。
深夜の学校で一心不乱に扉をノックし続ける男。
側から見たら俺が1番怖い怪談だ。
いやそれよりも溜まってるから抜いて欲しいって合図?
溜まってるから抜いて欲しいって下の世話のことだよな。
そのために花子さんを呼ぶってことはつまりそういうことだよな。
花子さんをよく見ればこれは怒っているのではない。
恥ずかしがっている。
どうして知っているの?というのはそういうことか。
いや、知らなかった。こんな話学校の噂にもなっていない。4545回ノックしたのは完全に偶然だ。
花子さんは少しホッとしたような表情をした。
しかし顔は相変わらず赤いままだ。
「…呼ばれたからには………しなくちゃ」
必死に絞り出すように呟いて花子さんは自らのスカートの裾を持つ。
そしてゆっくりと─
俺は慌てて扉を閉める。
正直美味しいシチュエーションだが、幽霊といえども花子さんは女の子だ。
嫌がる女の子にそんなことはさせられない。
コンコンコンコンコンコン─
俺はすぐさま何度か扉を叩く。
相変わらずいい音だ。
花子さん、あそびましょ
ゆっくりと扉が開く。
扉の向こうから現れた金髪モヒカン特攻服の花子さんが言う。
「4649回は夜の街道を単車でパラリラ」
104回もノックしたのか。