Fate/OverBORDER 三門聖杯大戦   作:宇津木 沙坂

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木虎藍①

 休日なので、木虎は街に繰り出した。

 傍には、霊体化したアーチャー。

 幸いにも、演奏の音は自分以外には聞こえない。

 鬱陶しくはあるが、もう慣れの方が強い。

 

「…………辛いもの、食べようかしら」

『辛いものが好きなのかい?』

 

 少し、おどろおどろしい演奏が始まった。

 アーチャーは辛いものが苦手なのだろうか。

 木虎は、ある店を訪れた。

 『泰山』。元々は、冬木にルーツを持つ老舗中華料理店らしい。

 

「冬木のお店が、なんの因果か三門に出店しているなんてね」

「およ、木虎じゃん」

「あら、空閑くん」

「こんにちわ。キトラさん」

「こんにちわ。キャスター」

 

 お互いに、目的のお店は一緒のようだった。

 ならば、まぁ。

 

「………ご一緒しても?」

「おれはいいぞ」

 

 しかし、木虎の前だと、猫を被ったままになるが。キャスターはどうなのだらう。

 

「わたしも構いません」

 

 別に問題ないらしい。

 まぁ、こっちの状態も、割と素なのだろう。

 そうして、四人で中華料理を食べることにした。

 と言っても、アーチャーは霊体化中だが。

 

「アーチャーは食べないのか?」

「霊体化解かせたら、この店中に演奏が響くのよ?

 流石に迷惑でしょ」

「演奏を止めることはできないのでしょうか?」

『ボクが演奏を止めるのは、死ぬ時か妻が死んだ時だけさ』

「だって」

 

 大変だなぁ。

 空閑は呑気にそんなことを思った。

 さて、何を頼もうかなぁっと。

 ふと、あるメニューに目が止まった。

 

「激辛麻婆豆腐………」

 

 一体、どれほど辛いのだろうか。

 頼もうとしたところ。

 

「ユウマくん。それは頼んではいけません」

「…………何が見えたんだ?」

「わたしがユウマくんを背負って玉狛支部に帰る未来です。わたしの筋力はEなんですよ?潰れちゃいます」

「それは大変だ」

 

 辛さのあまり倒れるほどとは。

 それは、食べない方がいいだろうな。

 

「────いいわね。私、激辛麻婆豆腐にするわ」

 

 今の会話を聞いていなかったのだろうか。

 聞いていた頼んだとしたら正気なのだろうか。

 辛いものが好きらしいが幾ら何でも。

 

「その、キトラさんは、平然としている未来しか見えません」

「………強いのか?辛いやつ」

 

 自分は辛さのあまり倒れるらしいのに。

 人によって耐性の違いはあるだろうが、これほどに違うとは。

 

「まぁ、好きよ。辛いものは」

 

 辛いものが好き、と言っていいレベルなのか?

 これ普通に食べられるのは中々ヤバくないか?

 

「うーん。どれにしましょう」

 

 キャスターとは、街の市民達の未来を見るついでに、よく食べ歩きもしている。

 現代日本の食文化にハマったらしい。

 個人的にはデザート系列が好きなのだとか。一番好きなのは鯛焼きらしい。

 となると。

 

「杏仁豆腐、美味しそうですね。これにします。ユウマくんは?」

「うーん。シンプルにラーメンにしよっかな。醤油にする」

「分かりました。店員さーん!」

 

 こう言う時、キャスターは積極的に注文を取ってくれる。

 うーん。面倒見が良いのは修もそうなのだが、キャスターのそれは、また別ベクトルなんだよな。

 修が手助けする感じなら、キャスターは世話する感じというか。

 割と、ダメになりそうなんだよな。キャスターの面倒見の良さは。

 

「杏仁豆腐が一つと、醤油ラーメンが一つ、あと、激辛麻婆豆腐が一つでお願いします」

「はいよー!」

 

 さて、激辛麻婆豆腐が、どれほどのものか。

 見せてもらおうか。

 

 それは、赤だった。

 兎にも角にも赤だった。炎のような、血のような、そんな感じの色だった。

 なんというか、潜在的な恐怖を感じさせる色合いである。

 空閑とキャスターとアーチャーは、少し引いていた。

 キャスターの瞳が輝く。

 調理過程、解析。食材、解析。

 

「………………アポロンも、そんなことに加護を使うとは思わなかっただろうな」

「まぁ、どう使おうがわたしの勝手ですし」

 

 うーむ。これは凄い。

 

「────一般的な麻婆豆腐の凡そ二十倍の唐辛子ですね。山椒も五倍は効いています。

 これ、本当に食べられるのですか?」

「自分の宝具を疑うの?」

 

 食べられるのだろうなぁ。

 怖い。少しだけ。

 

「いただきます」

 

 背筋を伸ばして、丁寧に。

 やはり、育ちがいいんだろうなぁ、と、同じく育ちがいいキャスターはそんなことを思って、空閑の割り箸を割って渡した。

 空閑は、思った。

 

(…………もしかしたら、キャスターにダメ人間にされるかもしれん)

「…………キャスター。補助は、もうちょっと控えめでもいいぞ?」

「…………ユウマくんが、そう望むなら」

 

 木虎はレンゲを血の池地獄のような麻婆豆腐に差し込んで、一口。

 成程。これは凄まじい。口の中が燃え上がるように熱い。二十倍近い唐辛子は伊達ではない。

 例えるならば、竈門だ。口の中に竈門がある。今なら吐息で炭を作れそうだ。

 しかし、辛さの奥に確かに旨味がある。実に上手いし、実に美味い。これがプロの味という奴だろう。

 やはり素晴らしい。

 黙々と、木虎はレンゲを上下する。

 

 遊真とキャスターは感心していた。これ食えるのか、と。

 アーチャーは、引いていた。これ食えるのか、と。

 

「あら、あなた達は食べないの?麺伸びるわよ」

「そうだな。いただきます」

「いただきます」

 

 三人とも、食べながら話したりするような人ではないので、黙々と箸が進んでいく。

 アーチャーは、食事の場に相応しい、落ち着いた音色を奏でていた。

 

「ふぅ。ごちそうさまでした」

 

 最も量が少ないキャスターが、一番最初に食べ切って。

 次に木虎、最後に空閑である。

 

「…………そういえば、アーチャーもキャスターも、ギリシャの英雄なんだよな?」

「そうですね。時代は、絶妙にズレていますが」

『ボクはアキレウスのお父さんと同世代くらいだからね』

 

 アキレウスの父ペレウスは、アルゴー号の乗組員の一人であり、オルフェウスと同世代の英雄である。

 …………というか、割とあっさりこのアーチャー、兄の仇で最大の敵の名前を出してきたな。

 いやまぁ、アレに関しては兄もまぁまぁやらかしていたので文句は無いが。

 小アイアスやアガメムノンよりはマシだし。

 

「ふーむ、世界史、というか神話か、そのあたりも最近勉強しているんだが、アルゴー号の英雄達って実際どんな奴らだったんだ?」

『イアソンは自信家の割としょうもない小物だったよ』

「…………イアソンそんななのか」

『ま、いざという時はやる男だけどね』

 

 だからこそ、英雄達は、イアソンを船長と認めていたのだから。

 

「ヘラクレスは?」

『義理堅くて生真面目で正直な人だね。うーん。マスター達の知り合いだと、忍田さんとか近いかも』

「ふぅん。割と納得かな」

 

 武人肌の英雄、ということだろう。

 

「それで、アタランテは?」

「そこは私も気になるわ。正直、アタランテを呼びたかったところはあるし」

『子供好きの狩人って感じ。特に一桁歳ぐらいの子供を大切にしてたね』

 

 逸話的に、そういう側面もあったのだろう。

 

 アルゴー船の英雄達かぁ。一度会ってみたいかも。

 

「………むぅ。ユウマくんは、トロイアの英雄達には、そんなに興味がないのですか?」

「いや、ないわけじゃないんだけど、大丈夫なのかなって」

「もう割り切ってますよ」

「そっか。うん。じゃあさ、ヘクトールってどんな感じ?」

 

 ヘクトールお兄様かぁ。

 

「わりと普通の人でしたね」

 

 単純な能力的には、間違いなく大英雄と呼ばれる類の英雄だ。九偉人の一角だし。

 しかし、その人格そのものは、わりと普通だった。

 

「へぇ。じゃあ、パリスはどんな感じなの?」

「うーん。良く言えば純粋、悪く言えば馬鹿って感じの人です。まぁ、人に嫌われるような人でも無かったですがね」

 

 あと有名ところだと。

 

「ペンテシレイアとか、どういう英雄だったのかしら?」

「生真面目な人でしたよ。生真面目で、姉のような人でした」

 

 アマゾネスの女王が一人、ペンテシレイア。

 夕陽が差し込みながらも、木虎達は、途中まで一緒に帰りながら、家に入ろうとしたところで、薄らと違和感を抱く。

 そう。家は、まだ遠いような───。

 

「そのドアから手を離して‼︎」

 

 咄嗟に飛び退いた。

 ………、これは。

 道を塞ぐように、大きな屋敷が、そこにあった。

 

「結界魔術の一種。恐らくは、キャスターのサーヴァントです!」

 

 いつの間にか、白のキャスターの、術中にハマってしまっていた。

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