願えば、きっと叶う。   作:吉野家

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やっとギーツ出せる……


真紅の決着、その先へ

 

「一誠」

 

リアスの声が、遠くから聞こえた。

 

意識を失った一誠の周囲には、上下も左右も分からない暗闇が広がっている。身体の痛みは消えていたが、それは傷が癒えたからではない。そもそも自分の身体を感じ取ることすら出来ないほど、意識が深い場所まで沈んでいるのだと、ぼんやり理解出来た。

 

サイラオーグの拳を受けた瞬間までは覚えている。

 

《Welsh Dragonic Rook》の装甲が砕け、全身へ衝撃が抜けた。

 

そこから先がない。

 

「……負けた、のか?」

 

声に出した途端、暗闇の奥で何かが蠢いた。

 

一つではない。

 

いくつもの気配。

 

怒り、憎しみ、敵意。長い年月の中で積み重ねられてきた感情が、一誠の意識へまとわりつく。

 

過去の赤龍帝たち。

 

彼らの残滓が、この神器の奥深くに残っている。

 

その感情に触れた瞬間、一誠の脳裏へ一つの言葉が浮かんだ。

 

覇龍。

 

全てを喰らわせ、持ち主自身の命さえ燃やして得る力。

 

今なら、そこへ手を伸ばすことも出来るのかもしれない。

 

勝ちたい。

 

サイラオーグに負けたくない。

 

リアスを勝たせたい。

 

そう願うほど、暗闇の中から危険な力が一誠を誘う。

 

だが、一誠は手を伸ばさなかった。

 

「……違うだろ」

 

自分へ言い聞かせるように呟く。

 

勝つためなら何を失ってもいいわけではない。

 

仲間を守りたいと願って、自分自身を壊してしまえば意味がない。

 

それに――。

 

「おい、ドライグ」

 

返事はなかった。

 

そこで一誠は、初めて明確な違和感に気づいた。

 

「……そういや、お前、今日ずっと静かじゃねぇか」

 

《Boost!》の音声は何度も聞いた。

 

神器も問題なく動いていた。

 

だが、試合が始まってからドライグ本人の声を聞いた覚えがない。

 

いつもなら何かしら口を挟んでくる相棒が、サイラオーグほどの強敵を前にして一度も話していない。

 

今さらその事実に気づいた一誠が眉を寄せた時、暗闇のさらに奥から低い声が響いた。

 

『――ようやく届いたか、相棒』

 

一誠は勢いよく顔を上げた。

 

「ドライグ!」

 

『聞こえている。そう大声を出すな』

 

いつもの声だった。

 

それだけで、一誠の肩から妙な力が抜ける。

 

「お前、何してたんだよ! こっちはサイラオーグさんにボコボコにされてたんだぞ!」

 

『それは見ていた』

 

「だったら何か言えよ!」

 

『言えるなら言っていた』

 

一誠が言葉を止める。

 

ドライグの声は普段と変わらないようでいて、どこか疲れているようにも聞こえた。

 

『おまえの中で、少し前から変化が始まっていた』

 

「変化?」

 

『悪魔の駒と俺の力だ。Triainaで複数の性質を引き出し、この試合ではその状態からさらに限界まで力を増幅した。しかも以前と違って、ただ出力を上げるだけではなく、状況に合わせて力の流れを細かく切り替えるようになった』

 

一誠は英寿との手合わせを思い出した。

 

力を上げる。

 

それ自体は悪くない。

 

だが、それしか見えなくなれば、どれだけ強い力も扱い方が単純になる。

 

あの手合わせ以降、一誠は自分なりに戦い方を変えようとしてきた。

 

今日も失敗しながら、何度も力の使い方を切り替えた。

 

『その影響で、おまえの駒と俺の力の噛み合わせが戦闘中にも変わり続けていた。神器の基本機能は動かせたが、俺自身は内側でそれを支えるので手一杯だった』

 

「だから《Boost!》は使えたけど、お前は喋れなかったのか」

 

『そういうことだ』

 

「先に言えよ」

 

『だから声が届かなかったと言っているだろう』

 

一誠は思わず頭を掻いた。

 

確かにその通りだった。

 

するとドライグの声が少し低くなる。

 

『それだけではない』

 

暗闇の奥に漂っていた無数の気配が、再び蠢いた。

 

『こいつらも騒がしかった』

 

過去の赤龍帝たち。

 

彼らが求めているものは、どこまでも強い力だった。

 

敵を倒す力。

 

白龍皇を滅ぼす力。

 

自分自身を燃やしてでも上へ行く、覇の力。

 

一誠はその感情を正面から受け止めた。

 

「俺は、そっちには行かない」

 

暗闇がざわめく。

 

だが一誠は退かなかった。

 

「俺はサイラオーグさんに勝ちたい。リアスを勝たせたい。仲間だって守りたいし、もっと強くなりたい。でも、そのために全部ぶっ壊すような力はいらない」

 

一誠は自分の右手を見る。

 

何もない暗闇の中で、それでもそこにドライグがいることは分かっていた。

 

「俺は俺のまま強くなりたい」

 

『それでいい』

 

即答だった。

 

一誠が顔を上げる。

 

『おまえは過去の赤龍帝ではない』

 

ドライグの声には迷いがなかった。

 

『俺の力を持っているからといって、奴らと同じ道を歩く必要もない。おまえが選ぶ道なら、俺はそこへ付き合う』

 

一誠は笑った。

 

「やっと相棒らしいこと言ったな」

 

『いつも言っているつもりだが?』

 

「そうだったっけ?」

 

『相棒』

 

「冗談だよ」

 

短く笑ったあと、一誠は暗闇の向こうを見る。

 

また声が聞こえた。

 

「一誠」

 

リアス。

 

今度ははっきり聞こえる。

 

自分を呼んでいる。

 

一誠は目を閉じた。

 

怖さはまだある。

 

レイナーレに裏切られ、殺された記憶が消えたわけではない。

 

だが、今自分を呼んでいるのはあの女ではない。

 

リアス・グレモリーだ。

 

自分を救ってくれた。

 

居場所をくれた。

 

何度も一緒に戦った。

 

そして、自分が好きになった女の子だ。

 

「……俺、リアスが好きだ」

 

誰もいない暗闇だから言えた、ではない。

 

ようやく自分で認めた。

 

今度は本人にも伝える。

 

怖いなら、怖いままでいい。

 

それでも進む。

 

一誠は前を見る。

 

「戻ろう、ドライグ」

 

『ああ』

 

「まだサイラオーグさんに勝ってない」

 

『ならば勝ちに行くぞ、相棒』

 

暗闇の向こうから真紅の光が差し込んだ。

 

     ◆

 

リアスは倒れた一誠の傍らに膝をついていた。

 

呼吸はある。

 

だが反応がない。

 

「一誠……」

 

その手を握る。

 

ゲームである以上、ここで終わっても誰も一誠を責めない。

 

むしろ、ここまで戦っただけでも十分すぎる。

 

それでもリアスは知っていた。

 

一誠は、まだ終わりたくないはずだ。

 

「戻ってきて」

 

握った手へ力を込める。

 

「私はまだ、あなたと一緒に勝ちたいの」

 

その直後。

 

一誠の指が動いた。

 

「……え?」

 

右手がリアスの手を握り返す。

 

「一誠?」

 

赤い光が漏れた。

 

しかし、これまでの《赤龍帝の鎧》とは違う。

 

もっと深い。

 

鮮やかでありながら重い、真紅。

 

一誠がゆっくりと目を開いた。

 

「……聞こえてますよ」

 

リアスが息を呑む。

 

一誠は身体を起こした。

 

傷だらけだった鎧が光へ分解され、その下から新しい装甲が組み上がっていく。

 

「心配かけました」

 

「一誠……あなた……」

 

「もう一回、行ってきます」

 

リアスは何かを言おうとして、やめた。

 

代わりに頷く。

 

「ええ」

 

一誠がサイラオーグを見る。

 

黄金の獅子王は追撃せず、ずっと待っていた。

 

そして一誠の周囲に集まる力を感じ取ると、拳を構え直した。

 

「来たか」

 

「待たせましたね」

 

一誠は立ち上がる。

 

Triainaで使ってきた力が、一つへ纏まっていく。

 

速度。

 

防御。

 

打撃。

 

砲撃。

 

どれか一つへ偏るのではなく、それら全てを一つの鎧へ収める。

 

過去の赤龍帝が選んだ覇龍とは違う。

 

一誠自身が選んだ、新しい道。

 

神器から声が響いた。

 

『Cardinal Crimson Full Drive!』

 

真紅の光が爆発した。

 

その光が消えた時、そこにいたのは先ほどまでの赤龍帝ではなかった。

 

より深い真紅へ染まった鎧。

 

《真紅の赫龍帝》。

 

サイラオーグがその姿を見つめ、歓喜するように笑った。

 

「それがおまえの答えか!」

 

「はい!」

 

『行くぞ、相棒!』

 

「おう!」

 

一誠が消えた。

 

先ほどまでとは速度が違う。

 

サイラオーグも踏み込む。

 

真紅と黄金が激突した。

 

拳と拳。

 

衝撃が戦場を走る。

 

だが今度は、一誠だけが押し返されなかった。

 

両者の足元が同時に沈む。

 

サイラオーグの目が見開かれる。

 

「そうこなくてはな!」

 

黄金の拳が連続して振るわれる。

 

一誠は一発目を外へ流し、二発目をかわす。三発目を腕で受けながら身体を回し、真紅の拳をサイラオーグの脇腹へ叩き込んだ。

 

黄金の巨体が初めて大きく後退する。

 

しかしサイラオーグは倒れない。

 

踏み止まり、すぐに戻ってくる。

 

一誠も笑った。

 

もう相手の攻撃を全て避けようとは考えない。

 

受けるところは受ける。

 

かわすところはかわす。

 

そして、自分の拳が届く場所を作る。

 

それだけだった。

 

赤と金が何度も交差する。

 

一誠の兜へ拳が入る。

 

真紅の装甲が砕ける。

 

一誠もサイラオーグの胸へ拳を返した。

 

黄金の装甲へ亀裂が走る。

 

サイラオーグが膝を入れる。

 

一誠が受ける。

 

ドライグの声が飛ぶ。

 

『右だ!』

 

一誠は反射的に身体を沈めた。

 

拳が頭上を通過する。

 

「見えてる!」

 

『ならば言わせるな!』

 

「久しぶりに喋れたんだからいいだろ!」

 

『戦闘中だぞ、相棒!』

 

一誠は笑いながら踏み込んだ。

 

その拳をサイラオーグも迎え撃つ。

 

もはや細かな技を競う余裕は、互いに残っていなかった。

 

これまで受けた傷。

 

消耗。

 

そして今の全力。

 

全てを抱えたまま、二人は最後の一撃へ向かう。

 

「兵藤一誠!」

 

「サイラオーグさん!」

 

二人の拳が同時に振り抜かれた。

 

黄金の拳が一誠の頬を打つ。

 

同時に、真紅の拳がサイラオーグの顔面へ入った。

 

衝撃が広がる。

 

一誠の足が揺れる。

 

サイラオーグもよろめく。

 

それでも二人とも倒れない。

 

もう一発。

 

さらに一発。

 

防御を捨てた殴り合いではない。

 

だが、互いに残されたものが減っていくにつれ、最後に信じられるものが自分の拳へ集まっていった。

 

一誠は息を吸う。

 

目の前が霞む。

 

それでもサイラオーグだけは見失わない。

 

『相棒!』

 

「分かってる!」

 

最後の一歩を踏み込んだ。

 

サイラオーグも同時に来る。

 

「おおおおおおおっ!」

 

「うおおおおおおおっ!」

 

拳と拳が交差した。

 

一誠の身体が大きく揺れる。

 

サイラオーグの拳も、一誠の頬を捉えていた。

 

だが、真紅の右拳はそれより僅かに深く入っていた。

 

黄金の兜に亀裂が走る。

 

サイラオーグの身体が止まる。

 

一誠も拳を振り抜いた姿勢のまま、荒い息を吐いた。

 

「……見事、だ」

 

サイラオーグの声が聞こえる。

 

そして。

 

巨体から力が抜けた。

 

一誠は咄嗟にその身体を抱き止めた。

 

「サイラオーグさん!」

 

黄金の鎧が光へ変わり、レグルスの力が解除されていく。

 

サイラオーグは意識を失っていた。

 

だが、その表情は穏やかだった。

 

間もなく、試合場へ判定が響いた。

 

サイラオーグ・バアル、戦闘続行不能。

 

そして――リアス・グレモリー眷属の勝利。

 

一誠はその宣言を聞き終えると、その場へ膝をついた。

 

「……勝った」

 

『ああ。勝ったぞ、相棒』

 

「そっか……」

 

ようやく笑った。

 

     ◆

 

リアスが駆け寄ってくる。

 

一誠は疲労でまともに立てなかったが、それでも彼女の姿を見ると顔を上げた。

 

「一誠!」

 

その呼び声を聞きながら、一誠は一度だけ息を整える。

 

怖さは消えていない。

 

でも。

 

怖いまま行けばいい。

 

「……リアス」

 

リアスの足が止まった。

 

一誠自身も、自分の口から出た名前に一瞬驚いた。

 

だが、今度は逃げなかった。

 

「リアス」

 

もう一度呼ぶ。

 

彼女の瞳が潤む。

 

「勝てました」

 

「……ええ」

 

「それと」

 

一誠は少しだけ躊躇った。

 

それでも続ける。

 

「俺、リアスが好きです」

 

リアスはしばらく何も言えなかった。

 

やがて涙を拭うこともせず、一誠の身体を抱き締める。

 

「遅いのよ……馬鹿」

 

「すみません」

 

「でも」

 

腕へ力が籠もる。

 

「私もよ、一誠」

 

その答えを聞いたところで、一誠からようやく緊張が抜けた。

 

ドライグが内側で何か言っていたが、今だけは聞かなかったことにした。

 

     ◆

 

試合終了後。

 

医療班が動き始め、戦場から負傷者たちが運び出されていく。

 

英寿は観戦席から立ち上がった。

 

アザゼルが横を見る。

 

「どうだった?」

 

「面白かったよ」

 

「それだけか?」

 

「本人に言う約束だからな」

 

そう言って、英寿はフィールドへ向かった。

 

試合中、彼は最後まで観客だった。

 

一誠が倒れても手を出さなかった。

 

リアスが苦しんでも、世界を書き換えなかった。

 

これは彼ら自身の戦いだったからだ。

 

だが。

 

試合はもう終わった。

 

サイラオーグが目を覚ましたのは、医療班による処置が始まってしばらくしてからだった。

 

「……俺は」

 

「負けたぞ」

 

聞き覚えのある声がした。

 

サイラオーグが顔を向ける。

 

英寿が立っていた。

 

「英寿……」

 

「一誠の拳の方が、最後は少しだけ先まで届いた」

 

サイラオーグは天井を見るように目を閉じた。

 

「そうか」

 

悔しさがないはずはない。

 

それでも、その顔には笑みが浮かんだ。

 

「ならば、俺の負けだ」

 

英寿はその答えに僅かに笑う。

 

サイラオーグが再び彼を見る。

 

「約束を覚えているか?」

 

「試合の感想?」

 

「ああ」

 

英寿は少し考えた。

 

「強かったよ」

 

飾らない答えだった。

 

「身体が強いだけじゃない。自分が何を持ってて、どう使えば一番強いかを分かってる。仲間も見えてるし、相手が変われば自分の戦い方も変える」

 

サイラオーグは黙って聞いている。

 

「それだけ積み上げてきたのが、見れば分かる」

 

英寿はそこで一度言葉を切った。

 

「だから面白かった」

 

サイラオーグが笑った。

 

「そう言ってもらえるなら光栄だ」

 

そして少しの沈黙の後、続ける。

 

「英寿」

 

「何だ?」

 

「今度は、俺と戦ってくれないか」

 

アザゼルが後ろで眉を上げた。

 

リアスも、一誠の治療を受けながらその声を聞いていた。

 

一誠が思わず顔を上げる。

 

「サイラオーグさん!?」

 

サイラオーグは英寿だけを見ている。

 

「今日、俺は兵藤一誠と戦った。そして負けた。だからこそ今度は、おまえがどれほどの戦士なのか知りたい」

 

英寿の口元が上がった。

 

「いいぜ」

 

あまりにもあっさりした返答だった。

 

アザゼルが呆れる。

 

「いや待て。サイラオーグは今、試合が終わったばっかりだぞ」

 

「分かってる」

 

英寿はサイラオーグを見る。

 

「俺もやるなら、今のお前とは戦いたくない」

 

サイラオーグが僅かに眉を寄せる。

 

「ならば、回復した後に――」

 

「その必要はない」

 

英寿が右手を僅かに上げた。

 

空気が変わる。

 

一誠が気づいた。

 

リアスも。

 

アザゼルも。

 

京都で聞いたことのある、あの音が来る。

 

「やるなら、万全のお前とやりたいからな」

 

――ゴォォン。

 

鐘が鳴った。

 

魔界の試合会場へ、重く澄んだ音が広がっていく。

 

次の瞬間、サイラオーグの身体から傷が消え始めた。

 

裂けた皮膚が戻る。

 

腫れが引く。

 

骨や筋肉へ残っていた損傷が消え、荒れていた呼吸も静かになる。

 

傷だけではない。

 

長時間の試合によって積み重なった疲労まで、最初から存在しなかったかのように抜けていく。

 

サイラオーグは自分の手を見た。

 

指を握る。

 

腕を動かす。

 

身体が軽い。

 

試合前と変わらない。

 

いや、自分の鍛えた力も感覚も一切変えられていないまま、損傷と疲労だけが消えている。

 

「これは……」

 

サイラオーグが英寿を見る。

 

「身体が完全に戻っている」

 

「傷と疲れを戻しただけだ」

 

英寿は平然としていた。

 

「お前が鍛えた力まで弄るつもりはないよ」

 

会場が静まり返っていた。

 

京都で英寿の力を見た者は、その意味を知っている。

 

しかし、今日初めて英寿を見る者たちにとっては違った。

 

試合直後、満身創痍だったサイラオーグ・バアルを、一瞬で完全な状態へ戻した。

 

魔法陣もない。

 

治癒術式もない。

 

ただ鐘が鳴っただけだった。

 

サイラオーグはしばらく自分の身体を確認したあと、英寿を見る。

 

その目に先ほどまでとは別の熱が宿る。

 

「これが、おまえの神としての力か」

 

「ああ」

 

英寿は平然としていた。

 

そのまま手を伸ばし、デザイアドライバーを取り出す。

 

黒いドライバーを腰へ当てると、ベルトが展開して身体へ固定された。

 

一誠がそれを見て目を見開く。

 

「英寿……まさか」

 

英寿はサイラオーグから目を逸らさない。

 

「こっちは準備に使っただけだ」

 

ドライバーへ手を添える。

 

「戦うのは――こっちでな」

 

サイラオーグの顔に、獅子のような笑みが戻った。

 

「望むところだ」

 

アザゼルが額を押さえる。

 

「レーティングゲームが終わったと思ったら、今度は神様とサイラオーグかよ……」

 

治療を受けていた一誠も、疲れているはずなのに身体を起こしていた。

 

「……見たい」

 

リアスが呆れたように一誠を見る。

 

「あなたはまず治療を受けなさい」

 

「いや、でも英寿が戦うんですよ!?」

 

「寝ながら見なさい」

 

「はい……」

 

英寿はそんなやり取りを背後に聞きながら、僅かに笑った。

 

京都へ来てから、彼は何度か戦った。

 

曹操とはほんの一合。

 

一誠とは訓練。

 

だが今から始まるものは、そのどちらでもない。

 

目の前にいるのは、自分の力だけで長い年月を積み上げ、その果てに今日、一誠と真正面から殴り合った男。

 

サイラオーグ・バアル。

 

英寿自身も、戦ってみたいと思った。

 

神としてではない。

 

世界を書き換えて勝つつもりもない。

 

一人の仮面ライダーとして。

 

サイラオーグが拳を握る。

 

英寿もデザイアドライバーへ手を添えた。

 

レーティングゲームは終わった。

 

そしてようやく、この世界へ来た仮面ライダーの戦いが始まろうとしていた。

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