レーティングゲームは、確かに終わった。
リアス・グレモリー眷属とサイラオーグ・バアル眷属。互いの意地と願いをぶつけ合った激戦は、兵藤一誠がサイラオーグを打ち倒したことで決着し、その直後には、一誠がようやくリアスの名を呼び、自分の想いまで伝えた。
本来ならば、あとは双方が傷を癒やし、長かった一日を終えるだけだったはずだ。
だというのに、闘技場の中央には再び二人の男が向かい合っていた。
一人はサイラオーグ。
つい先ほどまで満身創痍だった身体から傷も疲労も消え、握った拳には確かな力が戻っている。英寿が創世の力で戻したのは、戦いによって生じた傷と消耗だけだ。長い年月をかけて鍛え上げた肉体も、磨き続けてきた技術も、そのまま彼自身のものとして残されている。
そして正面には浮世英寿。
腰には、先ほど自ら取り出して装着した黒いデザイアドライバーが固定されていた。
「本当にやるのかよ……」
医療班によって寝台へ押し込まれていた一誠が、呆れと期待の入り交じった声を漏らした。
興奮に任せて上体を起こそうとした途端、全身が即座に痛みを訴える。
「いっ……!」
その肩へ、隣にいたリアスの手が伸びた。
「寝ながら見なさいって言ったでしょう?」
「いや、でもこれは寝てられる状況じゃないっていうか――」
「一誠?」
柔らかい声だった。
だからこそ逆らえない。
「……はい」
一誠は大人しく寝台へ戻った。
ただし、その視線だけは闘技場から一切離れていない。
中央では、サイラオーグが肩を回し、自分の身体を確かめるように一度だけ強く拳を握っていた。
「問題ない。完全に戻っている」
「なら、始めるか」
英寿がデザイアドライバーへ手を掛ける。
サイラオーグも腰を落とし、拳を構えた。
だが、二人が動き出す寸前だった。
「その前に、少しいいかな?」
穏やかな声が闘技場へ響いた。
リアスが弾かれたように振り返る。
「お兄様……?」
観客席へ続く通路から、一人の男が歩いてくる。
鮮やかな赤い髪。柔和な顔立ち。必要以上の威圧感を振り撒いているわけではない。それでも、その場にいた悪魔たちの空気は、彼が姿を現しただけで自然と引き締まった。
サーゼクス・ルシファー。
現在の冥界を治める魔王の一人にして、リアス・グレモリーの実兄である。
アザゼルは驚いた様子もなく片手を上げた。
「よう。遅かったな」
「待たせたかな」
サーゼクスは苦笑しながらそう返し、そのまま闘技場の中央へ視線を向けた。
ところが、その視線を受けた英寿にも驚いた様子はない。
むしろ、ようやく来たと言わんばかりだった。
「ようやく来たな」
その反応に、今度はサーゼクスが僅かに眉を上げた。
「……私が来ることを予想していたのかな?」
「仮にも神様を名乗ってる知らない奴が、お前たちの世界まで来てるんだ。誰も様子を見に来ない方が不思議だろ」
英寿は何でもないことのように肩をすくめる。
「むしろ遅いくらいだ」
魔王を前にしているというのに、遠慮も緊張もない。
かといって挑発しているわけでもなかった。
この世界を預かる立場の者なら、自分を確認しに来て当然だと考えているだけなのだろう。
サーゼクスはしばらく英寿を見つめ、それから小さく笑った。
「なるほど。確かに君の言う通りだ」
ゆっくりと距離を詰め、改めて英寿へ向き直る。
「初めまして、浮世英寿君。私はサーゼクス・ルシファー。四大魔王の一人であり――」
そこで一度、リアスへ視線を向けた。
「リアスの兄でもある」
英寿が反応したのは、後半ではなかった。
「……一人?」
「うん?」
「魔王っていうのは、一人じゃないのか?」
「ああ。現在の冥界には、私を含めて四人の魔王がいる。それぞれが役割を持ちながら、この冥界を支えているんだ」
「なるほど。そういう仕組みか」
必要な情報だけ受け取ると、英寿はあっさり納得した。
サーゼクスも余計な説明を重ねず、そのまま本題へ入った。
「君についてはアザゼルから報告を受けている。京都で起きたことも、八坂殿を救ったことも、そして君がこの世界の体系には存在しない力を持っていることもね」
英寿は黙って続きを待つ。
「私がすぐに姿を見せなかったのは、リアスとサイラオーグにとって大切なレーティングゲームへ余計な事情を持ち込みたくなかったからだ。少なくとも今のところ君に敵対の意思はないと、アザゼルから聞いていたことも大きい」
「だから試合が終わるまで待ってたのか」
「ああ。ただ――」
サーゼクスの視線が、英寿とサイラオーグの間を往復する。
「試合が終わった途端に、また別の戦いが始まりそうなのは予想していなかったけれどね」
そこでサイラオーグが一歩前へ出た。
「英寿との手合わせは、試合前に俺からお願いしていたものです。サーゼクス様」
魔王に対する礼節は崩さない。
それでも声音には、いつもの堂々とした強さがあった。
「俺の試合を最後まで見てもらった上で、それでも応じてもらえるのなら、戦ってほしいと頼んでいました」
「そうだったのか」
サーゼクスが英寿を見る。
「君も受けるつもりなのかな?」
「ああ。約束してたからな」
英寿はサイラオーグへ視線を戻した。
口元が僅かに上がる。
「それに、俺も戦ってみたくなった」
サイラオーグの顔にも笑みが浮かんだ。
二人の意思が変わらないと悟ったサーゼクスは、それ以上止めようとはしなかった。
「分かった。止める理由はなさそうだ。ただ、私も見届けさせてもらおう」
英寿はサーゼクスを一瞥する。
「なら、最後まで見ていけよ」
「そうさせてもらうよ。君がどういう存在なのか、私自身の目でも見ておきたいからね」
サーゼクスが一歩下がる。
今度こそ、二人の間を遮るものはなくなった。
英寿が取り出したのは、二つのレイズバックルだった。
白いマグナムレイズバックル。
そして、赤いブーストレイズバックル。
それを見た一誠が眉を寄せる。
「あれ……?」
どちらも知っている。
以前、英寿との手合わせで一度ずつ見た力だ。
射撃を主体としたマグナム。
圧倒的な加速力を発揮するブースト。
だが、前回は別々に使っていた。
今回は違う。
英寿はマグナムレイズバックルをデザイアドライバー右側へ、ブーストレイズバックルを左側へ装填した。
「え、それ二つ同時に使えたのかよ!?」
一誠が思わず声を上げる。
アザゼルも、たちまち英寿の腰へ視線を固定した。
「なるほどな……左右に一つずつ差せるのか。二つ同時に使えるようには作られてるわけか」
あくまで、今見えているものから分かる範囲だけを口にする。
それ以上の構造は、まだ分からない。
そして英寿にも、説明するつもりはなさそうだった。
正面のサイラオーグを見る。
「変身」
『GET READY FOR BOOST & MAGNUM』
二つの力が同時に起動した。
白いマグナム装甲が上半身へ、赤いブースト装甲が下半身へ展開される。
性質の異なる二つの装備が一つの身体に組み合わされ、白狐を思わせる仮面を戴いた戦士が姿を現した。
仮面ライダーギーツ――マグナムブーストフォーム。
マグナムブーストはデザイアドライバー右側にマグナム、左側にブーストを装填する形態であり、リボルブオンによってその配置を逆転させたブーストマグナムへ移行できる。
その手に、マグナムシューター40Xが収まる。
サイラオーグが拳を構えた。
「行くぞ、英寿!」
「来いよ」
乾いた銃声が弾けた。
サイラオーグが前へ出る。
初弾を首の動きだけで外し、続く弾丸から身体をずらす。三発目へ腕を振るい、魔力を纏わせた拳で弾道を逸らしながら、そのまま距離を詰めた。
英寿も、その動きを待っていた。
ブーストを纏った両脚から激しい排気音が響く。
ギーツの身体が横へ弾けた。
逃げたのではない。
高速で射線を組み替えながら、マグナムシューターを連射する。
正面から来なくなった弾丸を避けるため、サイラオーグが進路を変える。
そこへ、ブーストの推力を乗せた回し蹴りが飛んだ。
サイラオーグは腕を上げて受け止めた。
重い衝突音が闘技場へ響く。
「っ……!」
受けた腕ごと身体を押し流されるが、サイラオーグは倒れない。
足裏で床を削りながら踏み止まり、そのままギーツの足首を掴もうと腕を伸ばす。
英寿は脚を引かなかった。
代わりにブーストを噴かす。
推力が身体を強引に捻り、サイラオーグの手から脚が外れる。その勢いを利用して着地すると、英寿はマグナムシューターをハンドガンモードへ切り替え、至近距離から引き金を引いた。
ブーストの加速を打撃強化だけでなく、自らの姿勢変更や回避へ利用する戦い方は、英寿が得意としてきたものでもある。
サイラオーグは腕を交差して銃弾を受けながら、なおも前進を止めない。
「射撃と加速を同時に使うか!」
「二つ付けてるんだ。使わない手はないだろ」
英寿は軽く答えながら、銃撃の隙間へ蹴りを滑り込ませた。
射撃のために距離を取るのではない。
格闘へ移るからと銃を捨てるのでもない。
ブーストで射線を作り、マグナムで相手の動きを限定し、空いた場所へ自分から飛び込む。
サイラオーグが銃口へ意識を向ければ蹴りが来る。
蹴りへ意識を向ければ弾丸が飛ぶ。
サーゼクスは、その攻防を言葉少なに見つめていた。
「これが、報告にあったデザイアドライバーの力か」
「ああ。少なくとも、さっきサイラオーグを治した創世の力とは別物だ」
アザゼルは英寿の動きを追いながら答えた。
「バックルがそれぞれ別の能力を与えてるのは見りゃ分かる。ただ――」
ブーストの推力で強引に射線を変え、その動きから即座に射撃へ繋ぐギーツを見て、僅かに眉を寄せる。
「あの動きまでシステム側がどこまで補助してるのか、それとも英寿本人が使いこなしてるのか……そこまではまだ分からねぇな」
「君でもかい?」
「だから面白いんだろ」
アザゼルの口元が僅かに上がった。
その間にも、サイラオーグは銃撃を掻い潜っている。
一気にギーツの懐へ入った。
右拳。
英寿が半歩退いて外す。
続く左。
肩を傾けてかわす。
だが三発目は違った。
二発の拳で英寿の重心がどちらへ逃げるのかを確認し、その先へ先回りするように放たれている。
狙いは頭部。
避ける距離は、もう残っていない。
サイラオーグの拳が狐面へ迫る。
その瞬間、英寿の手がデザイアドライバーへ走った。
『REVOLVE ON』
「なにっ――!?」
サイラオーグの目の前で、ギーツの全身が腰のデザイアドライバーを基点に大きく反転した。
ほんの一瞬前まで頭部があった場所を、サイラオーグの拳が通り抜ける。
だが、驚くべきはそれだけではない。
回転に合わせ、上半身を構成していたマグナム側が下へ回り、下半身にあったブースト側が上へ移っていく。
見た目だけなら、腕と脚の位置関係まで丸ごと入れ替わっているとしか思えない。
人間の身体構造を基準に考えれば、どうやって成立しているのか理解不能な光景だった。
そして英寿は、その奇妙な切り替えすら単なる装備変更として終わらせない。
回転の途中。
マグナム側へ切り替わった脚がサイラオーグへ向いた。
次の瞬間、脚部のアーマードガンが火を噴いた。
「ぐっ!」
至近距離から撃ち込まれた弾丸を、サイラオーグは咄嗟に腕で受ける。
火花が散った。
マグナム装備は下半身へ回った場合にも脚部へ固定式短銃アーマードガンを備え、それを自在に用いるには高い戦闘センスを要する。英寿はその扱いに長けている。
その間にも回転は終わる。
再びギーツの足が床を捉えた時には、装備の配置は完全に逆転していた。
ブーストマグナムフォーム。
今度はブーストが上半身へ回っている。
英寿は止まらない。
着地した瞬間、ブーストが唸った。
右腕が一気に加速する。
至近距離からの脚部射撃を防いだばかりのサイラオーグは、まだ腕を戻し切れていない。
そこへ拳が突き刺さる。
「――っ!」
轟音。
サイラオーグの身体が後方へ吹き飛ばされた。
「回りながら避けて、そのまま足で撃った!?」
寝台の上で、一誠が目を剥いた。
しかし、今見たものを頭の中でもう一度整理した直後、さらに大きな声が出た。
「いや待て! 腕が足になって足が腕になってるだろ!? 体の構造どうなってんだよぉぉ!?」
今度ばかりはリアスも注意しなかった。
疑問としては、あまりにも正しい。
木場も目を丸くし、朱乃も珍しく言葉を失っている。小猫は無言のまま、今しがた起きた出来事を理解しようとギーツを凝視していた。
だが、その中で一人だけ、反応の方向がおかしい男がいた。
アザゼルである。
彼は既に一誠を見ていなかった。
それどころか、周囲すらほとんど視界へ入っていない。
身を乗り出し、ギーツの腰――デザイアドライバーへ視線を釘付けにしていた。
「……今、腰を基点に上下が反転したよな?」
返事を求めているわけではない。
完全に独り言だった。
「装甲だけじゃねぇ。腕と脚の位置関係まで変わってるように見えた……どういう処理だ? 身体ごと組み替えてんのか? いや、それなら一瞬で終わるのがおかしい。そもそも使用者への負荷は――」
「先生!?」
一誠が呼ぶ。
反応はない。
「先生ってば!」
「……もう一回やれ」
「え?」
アザゼルの目はギーツから離れない。
「もう一回やるよな? 今の。もう一度見せろ……次は途中をもっと――」
「試合中だぞ!?」
「イッセー、ちょっと黙ってろ。今いいところなんだ!」
「俺より取り乱してるじゃねぇか!」
その声が聞こえているのかいないのか。
吹き飛ばされたサイラオーグは既に立ち上がっていた。
腕に残った射撃の痕を一度だけ確認し、正面のギーツを見る。
驚きは残っている。
だが、困惑してはいない。
むしろ口元には笑みが浮かんでいた。
「面白い!」
床が砕ける。
再びサイラオーグが突っ込んだ。
英寿はマグナムの射撃を浴びせながら後退する。
しかし今度のサイラオーグは真っ直ぐ追わない。
左右へ細かく進路を変え、銃口の向きを見ながら先に射線から外れていく。
初めて見る力であっても、一度受ければ次へ活かす。
それがサイラオーグという戦士だった。
英寿の手が再びドライバーへ触れる。
『REVOLVE ON』
「来た!」
アザゼルが思わず身を乗り出した。
ギーツの全身が再び腰を基点に大きく反転する。
だが今度のサイラオーグは、その異様な光景に動きを止めなかった。
先ほど、途中から射撃が来た。
ならば警戒すべきは回転そのものではない。
マグナム側へ切り替わった脚が自分へ向く。
ほぼ同時に、サイラオーグは腕を上げた。
銃声。
弾丸が籠手へ弾ける。
それでも前へ出る。
リボルブオンが終わる。
ギーツの足が床へ戻った。
その位置へ、既にサイラオーグの拳が待っていた。
英寿は両腕を交差する。
拳が防御へ直撃した。
重い衝撃が全身を抜け、ギーツの身体が大きく後方へ滑る。
「おっ」
英寿の声が楽しそうに弾んだ。
「もう読んだか」
「同じものを何度も見せてもらって、何も学ばないつもりはない!」
サイラオーグが追う。
そこから、攻防の性質が変わっていった。
英寿がリボルブオンへ入れば、サイラオーグはもう回転だけを見ない。
途中の射撃。
切り替え後の位置。
次にブーストが配置される場所。
一度目は完全な奇襲だった動きを、一つずつ分解し始めている。
マグナムシューターの銃口が上がれば、その向きから射線を読む。
ブーストの排気音が強くなれば、加速へ移る直前の姿勢から進路を予測する。
当然、全てに対応できるわけではない。
英寿もまた、一度見せた動きをそのまま繰り返す男ではなかった。
三度目のリボルブオン。
サイラオーグは即座に腕を上げた。
先ほどと同じなら、回転途中に脚部のアーマードガンが来る。
だが――銃声は響かなかった。
「!」
一瞬だけ生まれた迷い。
英寿はそれを逃さない。
射撃を警戒して上がったサイラオーグの腕、その外側へ回転の勢いを利用して身体を滑り込ませる。
切り替えを終えると同時に、蹴りが肩へ叩き込まれた。
「っ!」
サイラオーグが横へ押し流される。
それでも即座に踏み止まり、英寿へ向き直った。
「そう来るか!」
「もう一回同じことしても仕方ないだろ?」
「ならば、次も読んでみせる!」
再び激突する。
サイラオーグの拳を、英寿が僅かな動きで外す。
身体の横を通過した腕へ銃口を押し当てようとするが、サイラオーグはその意図を察して肘を引いた。そこから逆の拳を叩き込む。
ギーツはブーストの加速を使って身体を沈め、拳の下を潜る。
サイラオーグはすぐに膝を上げた。
英寿が腕で受ける。
衝撃。
互いに一歩ずつ離れた。
「……いいな」
仮面の奥から、英寿の声が漏れる。
強い。
単純な出力だけではない。
見せれば学ぶ。
読まれれば、次を読む。
一誠との戦いを外から見ていた時にも分かっていた。
だが、自分で拳を交えてみると、その厄介さはより鮮明だった。
サイラオーグもまた、笑っている。
「まだ終わりではないぞ!」
その身体から、黄金の魔力が噴き上がった。
空気が震える。
一誠たちには見覚えがあった。
つい先ほどまでの死闘で、サイラオーグが見せた力。
獅子の咆哮が闘技場を震わせる。
ネメアの獅子王レグルス。
その力が主へ重なり、黄金の鎧となってサイラオーグの全身を包み込んでいく。
《獅子王の剛皮》。
その完成を見ても、英寿は驚かなかった。
既に一度、目の前で見ている。
ただし――先ほどは観客として。
今度は、自分自身がその拳を受ける側だ。
「行くぞ、英寿!」
サイラオーグが踏み込んだ。
マグナムシューターが火を噴く。
一発。
二発。
三発。
弾丸が黄金の装甲へ次々と着弾し、火花を散らす。
だが、サイラオーグは止まらない。
射撃を受けながら強引に間合いを潰してくる。
英寿がブーストで横へ抜ける。
その先へ、サイラオーグが踏み込んだ。
「!」
先ほどまでの戦いで、加速の癖まで見ていた。
完璧に捉えたわけではない。
それでも、その一瞬だけは十分だった。
サイラオーグの手がギーツの肩を掴む。
「捕らえた!」
振り回す。
ギーツの身体が宙を舞い、そのまま地面へ叩きつけられた。
轟音。
床が大きく陥没する。
「英寿!」
一誠が思わず声を上げた。
ギーツはすぐさま転がって立ち上がる。
だが、サイラオーグは既に目前へ迫っていた。
一撃目。
英寿が腕で受け流す。
二撃目。
身体を捻って外す。
三撃目。
ブーストで間合いから抜けようとする。
その瞬間――サイラオーグの踏み込みが途中で変わった。
英寿の加速先へ、拳が伸びる。
激突。
火花が散った。
ギーツの身体が大きく吹き飛ばされる。
何度も床を跳ね、最後は長く地面を滑った。
ようやく止まる。
闘技場に、僅かな静寂が落ちた。
サーゼクスは何も言わない。
アザゼルも、この瞬間だけはリボルブオンの構造から意識を戻していた。
黄金の獅子鎧を纏ったサイラオーグが、遠くから拳を構えている。
「まだ終わりではないぞ、英寿!」
地面へ片膝をついていたギーツが、ゆっくりと顔を上げた。
そこに焦りはなかった。
むしろ――楽しんでいる。
英寿は立ち上がると、胸部についた埃を軽く払った。
そして正面のサイラオーグを見ながら、仮面の奥で笑う。
「……そこまで読んでくるか」
マグナムシューターを握り直す。
「面白くなってきたな」
黄金の獅子と、白い狐。
二人の間に、再び戦意が満ちていく。
戦いは――まだ、終わらない。