黄金の獅子と、白い狐。
《獅子王の剛皮》を纏ったサイラオーグが拳を構えるその正面で、ギーツもまたマグナムシューター40Xを握り直した。
先ほどまでの攻防で、互いに見せたものは少なくない。
マグナムによる射撃。ブーストを利用した加速と姿勢制御。そして、身体の上下そのものを反転させるかのようなリボルブオン。
初見ではあまりにも奇妙だった戦い方も、サイラオーグは実際に受け、耐え、その一つ一つを自分の中へ蓄えていた。
だからといって、英寿が同じ手を繰り返すわけでもない。
二人とも、まだ終わるつもりはなかった。
先に動いたのはサイラオーグだった。
踏み込みだけで床が砕ける。
英寿がマグナムシューターを構え、乾いた銃声が連続して闘技場へ響いた。黄金の鎧へ弾丸が打ち込まれ、火花が散る。サイラオーグは頭部や関節へ向かうものだけを腕で弾き、胴を狙ったものは《獅子王の剛皮》で受けながら強引に前へ出た。
ギーツの両脚からブーストの排気音が響く。
身体が横へ弾けた。
高速で射線を変え、サイラオーグの側面へ回りながら再び引き金を引く。
だが、サイラオーグは振り向きながら英寿を追いかけなかった。
加速へ入る直前。
ギーツの足が向いていた方向。
それだけを見て、先に身体を捻る。
英寿が加速を終えて着地した場所へ、黄金の拳が飛び込んできた。
ギーツは上体を反らした。
拳が仮面の鼻先を通過する。
その腕の下へマグナムシューターを滑り込ませ、サイラオーグの腹部へ銃口を押し付けようとする。
だが発砲より早く、膝が銃身を跳ね上げた。
弾丸が天井へ消えていく。
「いいな」
英寿が小さく笑った。
サイラオーグは答える代わりに、左拳を振るった。
ギーツは腕で流し、そこから身体を回転させて蹴りを返す。サイラオーグは肩で受け止め、そのまま一歩踏み込んだ。
体当たり。
英寿がブーストで後ろへ抜ける。
サイラオーグは追わず、着地する先へ拳を伸ばした。
ギーツは空中でブーストをもう一度噴かし、無理やり身体の向きを変える。
拳を外し、そのまま横からマグナムシューターを撃ち込む。
火花が黄金の鎧を走った。
寝台から戦いを見ていた一誠が目を丸くする。
「さっきより当たってる……」
「サイラオーグさんも、英寿さんの動きを見ています」
アーシアが小さく呟いた。
隣では小猫も、闘技場から目を離さない。
「でも、英寿さんも同じ動きしてないです」
短い言葉だったが、それで十分だった。
攻防そのものが答えを示している。
サイラオーグが近づく。
英寿の手がデザイアドライバーへ走った。
『REVOLVE ON』
ギーツの身体が腰を基点として大きく反転した。
「来た……!」
観客側で、アザゼルが即座に身を乗り出した。
一誠が横目で見る。
「先生、まだそこ見てんのかよ!」
「当たり前だろ!」
返事はした。
だが、顔は一誠へ向かない。
視線はギーツの腰へ完全に固定されている。
「一回目より二回目、二回目より三回目だ。何度見たって情報は増える!」
「もう完全に研究対象じゃねぇか!」
「イッセー、今いいところなんだから黙ってろ!」
「俺の扱い雑じゃない!?」
そのやり取りとは無関係に、ギーツの反転は進んでいく。
マグナム側の脚がサイラオーグへ向く。
最初に見た時、そこからアーマードガンが発射された。
サイラオーグの腕が上がった。
しかし――銃声はしない。
「!」
英寿は撃たなかった。
射撃に備えて防御が上がった一瞬、その内側へ回転の勢いを利用して入り込む。
リボルブオンを終えたギーツが床を捉えると同時に、拳がサイラオーグの腹部へ突き刺さった。
黄金の装甲が軋む。
続く拳が顎を狙う。
今度はサイラオーグの掌が受け止めた。
「今度は撃たないか!」
「撃つと思ってるなら、それを使えばいいだけだろ」
掴まれた拳を引くのではなく、英寿は自ら距離を詰める。
肘が胸部へ叩き込まれる。
《獅子王の剛皮》が衝撃を受け止めた。
サイラオーグはそのまま肩からぶつかり、ギーツを弾き飛ばす。
英寿が着地する。
そこへもう拳が迫っていた。
一撃目を流す。
二撃目を潜る。
三撃目。
ブーストを噴かして外へ抜けようとしたギーツへ、サイラオーグは途中で踏み込みの向きを変えた。
黄金の拳が胸部へ突き刺さる。
火花が弾けた。
「っ!」
ギーツの身体が大きく吹き飛ぶ。
床へ落ち、何度か転がり、最後には長く滑って止まった。
「入った!」
一誠が思わず声を上げる。
サイラオーグは追わなかった。
黄金の鎧を纏ったまま、英寿が立ち上がるのを待っている。
ギーツは片膝をつき、ゆっくりと身体を起こした。
マグナムシューターへ一度視線を落とす。
それから、サイラオーグを見る。
「やるじゃん」
短い言葉だった。
サイラオーグも笑う。
「まだだ、英寿!」
「ああ」
英寿はマグナムシューターを下ろした。
デザイアドライバーへ手を伸ばし、マグナムとブースト、二つのレイズバックルを取り外す。
「外した?」
一誠が眉を寄せる。
リアスは英寿の顔を見ていた。
「終わりではなさそうね」
その通りだった。
英寿の口元には、むしろ先ほどよりはっきりと笑みが浮かんでいる。
「なら――こっちも手を変えるか」
新たに取り出したのは、一つの赤いレイズバックルだった。
通常のブーストとは形が違う。
一誠たちはもちろん、アザゼルにも見覚えがない。
サイラオーグも何かが変わることを察し、僅かに重心を落とした。
英寿が赤いバックルをデザイアドライバーへ装填する。
『SET』
機械音声が響く。
赤いハンドルへ手を掛け、英寿は正面のサイラオーグを見据えた。
「さぁ――ここからがハイライトだ」
ハンドルを回す。
バックルが大きく展開した。
『BOOST MARKⅡ』
爆発するように赤い力が噴き上がる。
『READY FIGHT』
全身へ赤い装甲が展開されていく。
脚だけを覆っていた先ほどのブーストとは違う。
今度は上半身から下半身まで、ギーツの身体全体が赤い強化装甲に包まれていた。
仮面ライダーギーツ、ブーストフォームマークII。
ブーストマークIIレイズバックルによって変身する強化形態だ。
「……全身真っ赤になった」
一誠がぽつりと呟いた。
その言葉にアーシアが一誠を見る。
すると一誠は、自分の胸元へ視線を落とした。
つい先ほど、自分もまた全身を真紅の鎧で覆う新たな姿へ至ったばかりだ。
「なんか……ちょっと親近感あるな」
「親近感、ですか?」
「いや、ほら。俺もさっき全身真っ赤になったし」
一誠は闘技場のギーツを指さす。
「しかも向こうも『ブースト』だろ? 俺の方もずっと『Boost!』って言ってるしさ」
『そこに親近感を覚えるのか、相棒……』
久しぶりに響くドライグの声にも、僅かな呆れが混じっていた。
「いいじゃん! なんか仲間っぽくて!」
小猫が一誠とギーツを交互に見る。
「……赤いです」
「それだけ!?」
一誠の声が響いたところで、アザゼルが低く呟いた。
「……待て」
「今度は何だよ先生」
返事はない。
やはり一誠を見ていなかった。
アザゼルの視線は、ブーストマークIIの装甲ではなくデザイアドライバーへ落ちている。
「片側が空いてる」
一誠も腰を見る。
確かに、先ほどマグナムとブーストを使っていた時には左右両方へバックルが装填されていた。
今は違う。
明らかに強力な形態になっているというのに、一方には何も付いていない。
「さっきので、左右両方に差せるのは見た。なのに今は一つだけだ」
サーゼクスが隣から問いかける。
「さらに別のものを加えられる可能性がある、と?」
「分からねぇ」
アザゼルは即答した。
「今の状態で反対側も使えるのか、ただ空いてるだけなのか、それすら俺には判断できねぇよ」
それでも視線は離れない。
「ただ――気にはなるな」
その疑問へ、英寿が答えることはなかった。
次の瞬間。
赤い姿が消えた。
「――ッ!?」
サイラオーグが反射的に腕を上げる。
轟音。
黄金の籠手へ赤い拳が叩き込まれた。
受け止めた。
そう認識した直後には、もう英寿が目の前からいなくなっている。
右。
サイラオーグが顔を向ける。
脇腹へ蹴りが突き刺さった。
《獅子王の剛皮》から火花が噴き上がる。
拳を振り抜く。
何もいない。
背後から衝撃。
さらに正面。
また姿が消える。
「速っ……!」
一誠の声が漏れた。
誰も突っ込まない。
通常のブーストも十分に速かった。
だがマークIIは、明らかに違う。
サイラオーグが英寿の姿を捉え、次の動きへ移ろうとした時には、既に別の角度から拳か蹴りが飛んでくる。
黄金の鎧へ赤い衝撃が次々と刻まれた。
それでもサイラオーグは倒れない。
途中から視線だけで追うことをやめた。
腕を上げ、急所を守る。
胴は《獅子王の剛皮》へ任せる。
一発。
右肩。
二発。
背中。
三発目は左脇腹。
攻撃されながら、僅かな情報を拾う。
足音。
床を蹴る衝撃。
接近した瞬間に生じる風圧。
そして何より――英寿が攻撃するなら、自分の身体へ近づかなければならない。
次の衝撃が来る直前。
サイラオーグの拳が動いた。
ギーツの拳と黄金の拳が正面から激突する。
凄まじい衝撃波が闘技場を走った。
「捕らえたぞ!」
サイラオーグが吼える。
一誠も寝台の上で目を見開いた。
「あれに合わせた!?」
英寿は一瞬だけ拳を止めた。
力比べなら、サイラオーグが強い。
黄金の拳が少しずつ赤い拳を押し返していく。
だが英寿は、それに付き合わなかった。
ふっと腕の力を抜く。
押す対象を失ったサイラオーグの身体が前へ流れる。
ギーツが消えた。
「後ろか!」
サイラオーグが振り返りざまに拳を放つ。
空を切る。
「なにっ?」
英寿は背後へ回っていなかった。
加速した直後に速度を殺し、ほとんど元の位置へ留まっている。
振り向いたサイラオーグの背へ、ギーツの拳が叩き込まれた。
黄金の装甲に亀裂が入る。
サイラオーグは前へよろめいたものの、すぐに振り返った。
その顔には笑みがある。
「面白い!」
「そりゃよかった」
再び赤い姿が消える。
今度のサイラオーグは、先ほどのように安易に拳を振らない。
待つ。
受ける。
その中から僅かな予兆だけを拾う。
完全には届かない。
赤い拳が肩を打つ。
蹴りが胴へ突き刺さる。
黄金の鎧に亀裂が増えていく。
それでも一度だけ、サイラオーグの腕がギーツの足首を掴んだ。
「捕まえた!」
そのまま床へ叩きつけようとする。
英寿は逆らわず、空中で身体を捻った。
自由な脚をサイラオーグの肩へ当て、その反動で掴まれた脚を外す。
着地。
即座に再加速。
今度は横からの拳。
サイラオーグが腕で受ける。
そのまま二人の距離が一気に詰まった。
拳と拳。
肘。
蹴り。
至近距離で何度も衝突する。
速度だけで外側を回り続けることもできた。
だが英寿はそれだけを選ばない。
サイラオーグが拳を振れば、その間へ入る。
掴まれれば力の方向を利用して抜ける。
防御されれば、次は違う角度へ回る。
速さそのものより、それをどう戦いへ繋げるか。
英寿が積み上げてきた戦闘経験が、マークIIの性能を動きへ変えていた。
アザゼルは無言でそれを見つめていた。
バックルが使用者へどこまで補助を与えているのか。
それはまだ分からない。
だが、少なくとも目の前で行われている全てを、単純に「速い形態だから」で片付ける気にはなれなかった。
一方、サイラオーグも決して諦めない。
何度も攻撃を受けながら、それでも僅かな隙を探し続ける。
黄金の拳が、ついにギーツの頬を掠めた。
英寿が返す。
赤い拳が《獅子王の剛皮》の胸部へ深く突き刺さった。
大きな亀裂が走る。
サイラオーグが数歩後退した。
荒い息を吐く。
黄金の鎧は各所が砕け始めている。
それでも、拳は下がらない。
「まだだ」
英寿は少し首を傾けた。
「まだ行くか?」
「当然だ」
サイラオーグが笑った。
「俺から頼んだ戦いだ。最後まで付き合ってもらうぞ、英寿!」
英寿も笑みを返す。
「最初からそのつもりだよ」
そこで、ギーツは構えを解いた。
逃げるためではない。
右手をデザイアドライバーへ下ろす。
それを見たサイラオーグも、意味を悟った。
残る全ての力を右拳へ集める。
黄金の魔力が膨れ上がり、傷ついた《獅子王の剛皮》が最後の輝きを放ち始めた。
英寿の指が、ブーストマークIIレイズバックルの赤いハンドルへ掛かる。
一度。
続けて、二度。
ハンドルを捻った。
『BOOST TIME』
赤いエネルギーがギーツの全身から一気に噴き上がる。
空気が震え、足元へ細かな亀裂が走った。
一誠が思わず声を漏らす。
「まだ出るのかよ……!」
アザゼルも今度ばかりはドライバーの構造ではなく、英寿そのものへ視線を向けていた。
サイラオーグは一歩も退かない。
拳へ集まる黄金の魔力がさらに強くなる。
「来い、英寿!」
英寿はもう一度、赤いハンドルを操作した。
『BOOST GRAND STRIKE』
全身を巡っていた赤い力が、一気に右脚へ集中した。
ギーツが床を蹴る。
爆発的な加速と共に、その身体が赤い閃光となって上空へ舞い上がった。
空中で身体を翻す。
眼下にはサイラオーグ。
避ける気はない。
黄金の拳を引き絞り、真正面から待ち構えている。
英寿の身体が落下へ転じた。
赤い光を纏った右脚が、一直線にサイラオーグへ向かう。
「おおおおおおおおッ!!」
サイラオーグが吼えた。
全身の力を乗せた拳を振り抜く。
ライダーキックと黄金の拳が、真正面から激突した。
轟音。
赤と金の光が闘技場を染める。
衝撃によって二人の周囲から砕けた床の破片が浮き上がり、そのまま外へ弾き飛ばされた。
サイラオーグの足元が砕ける。
それでも踏み止まる。
《獅子王の剛皮》を通して全身の力を右拳へ集め、ギーツの蹴りを押し返そうとする。
英寿も退かない。
右脚へ集中した赤いエネルギーが、黄金の拳と激しくせめぎ合う。
ほんの数秒。
それでも見ている者には、遥かに長く感じられた。
サイラオーグの腕が震える。
黄金の装甲へ入っていた亀裂が、少しずつ広がっていく。
「まだ……だッ!」
魔力が最後に膨れ上がった。
それでも赤い光は消えない。
英寿は叫ばなかった。
ただ、蹴りへさらに力を込める。
均衡が崩れた。
黄金の籠手に一本の亀裂が走った。
そこから腕へ。
肩へ。
胸へ。
無数の亀裂が一気に《獅子王の剛皮》全体へ広がる。
次の瞬間、黄金の鎧が砕け散った。
「――ッ!」
サイラオーグの身体が後方へ弾き飛ばされる。
何度も床を跳ね、長く滑った末にようやく止まった時には、《獅子王の剛皮》は完全に解除されていた。
ギーツはその反対側へ着地する。
片膝をついて衝撃を逃がし、そのままゆっくりと立ち上がった。
サイラオーグも起き上がろうとする。
一度、肘まで身体を持ち上げる。
しかし、そこで力が抜けた。
再び仰向けになり、荒い呼吸を繰り返した。
しばらくして、その顔に笑みが浮かぶ。
「……見事だ」
英寿が変身を解く。
赤い装甲が消え、いつもの姿へ戻る。
サイラオーグは天井を見上げたまま言った。
「俺の負けだ、英寿」
英寿はその側まで歩き、右手を差し出した。
「強かったよ」
サイラオーグは差し出された手を見てから、英寿の顔を見る。
「それは、先ほども聞いた」
「今度は俺自身が戦って確かめた感想だ」
僅かな沈黙の後、サイラオーグは笑った。
英寿の手を掴む。
その身体が引き起こされる。
敗れたというのに、サイラオーグは俯いていなかった。
「次は勝つ」
英寿も笑う。
「おう。楽しみにしてるぜ」
余計な慰めも、言い訳もない。
一度負けたのなら、次は勝つ。
それだけでよかった。
そのやり取りを見届けたところで、サーゼクスが静かに口を開いた。
「浮世英寿君。一つ、聞いてもいいかな」
英寿が振り返る。
「何だ?」
「君は神なのだろう?」
「ああ」
「なら、先ほどサイラオーグの傷を癒やした力も、京都で使ったという力も、この戦いで使おうと思えば使えたはずだ」
サイラオーグも黙って英寿を見る。
英寿は少しだけ考えるように視線を上げたが、答えは簡単だった。
「サイラオーグが見たかったのは、神様の奇跡じゃないだろ」
腰のデザイアドライバーへ軽く手を添える。
「戦ってくれって言われたから、ライダーとして、俺として戦った。それだけだ」
サーゼクスはすぐには答えなかった。
願いを現実へ変えるほどの力を持ちながら、それを戦いへ持ち込まず、一人の戦士として相手の願いに応える。
アザゼルから報告を受けただけでは分からなかった浮世英寿という男の輪郭を、少しずつ掴み始めていた。
その横で、一誠はもっと別の疑問に辿り着いていた。
「なあ、英寿」
「ん?」
「マグナムとブーストを二つ同時に使えて、その上に今の全身真っ赤な奴があるんだろ?」
「ああ」
「京都で見た白いギーツは、それよりさらに上だよな?」
「ああ」
一誠はしばらく黙った。
頭の中で数えようとしたらしい。
途中で諦める。
「……英寿、お前いくつ持ってんだよ」
「さあな」
英寿は片手を上げ、指で狐を模した形を作った。
一誠が即座に声を上げる。
「絶対知ってるだろ!」
英寿は狐の形を作った手をそのままに、涼しい顔をしている。
「じゃあ今までなんで教えてくれなかったんだよ!」
「聞かれなかったからな」
「そういう問題か!?」
勢いよく身体を起こそうとした一誠の肩へ、リアスの手が置かれる。
「一誠」
ぴたりと止まった。
「……はい」
大人しく寝台へ戻る。
朱乃が口元を隠して笑い、長く張り詰めていた闘技場の空気がようやく少し緩んだ。
サーゼクスも僅かに表情を和らげる。
だが、すぐに英寿へ向き直った。
「浮世英寿君」
「ん?」
「改めて、私と少し話をさせてもらってもいいかな」
先ほどまでとは僅かに声の質が違う。
リアスの兄としてではない。
冥界を預かる四大魔王の一人としての言葉だった。
英寿もそれを察したのだろう。
嫌がる様子もなく頷く。
「ああ、いいぜ」
そして僅かに口元を上げた。
「今度は魔王の用件か?」
「そういうことになるね」
レーティングゲームは終わった。
サイラオーグとの約束も果たされた。
そして今度は、異世界から現れた神と、この世界を治める者が、真正面から言葉を交わす番だった。