ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。 作:稲荷竜
『やっぱり知ってたんじゃないですか』と、
『本当に知らなかったんだよ』と、俺は目で言い返した。
俺の家には新しい学生さんが上がり込んでいる。
「あっ、あたしはあの、えっと……」
「とりあえず、落ち着いて、お茶でも飲んでください」
「あ、あ、あ、ありがとうございます。持ち帰って家宝にします」
「飲んでください」
消費期限があるので。
……というか、なんだろう。
俺は彼女に真横に立たれた。それが、ついさっき。一時間前ぐらいか?
……もう十八時近いのか……女子中学生……帰ってください……外は明るいとはいえ……
ともかく、一時間前ぐらいに、彼女には真横に並ばれた。
その時にはこんな扱いじゃなかった。
でも、今、まるで、俺が『神』そのものであるかのような扱いだ。
この一時間でどういう変化があった?
俺を神、つまりなんだ、魔法少女ウィッチが神でいいのか? 魔法少女ウィッチだと特定しているとして、その方法は……見た目的には、左手首に巻き付いて離れない、この魔法のステッキだろう。
なぜかほかの魔法少女はこの、おじさんの左手首に巻かれてるにはギリギリ不自然な黒い腕時計っぽいもの(最初は形状だけだったのに、いつの間にか普通に時計の機能がついている)に対して何も言及していない。
ということは、これを見ただけで魔法の変身アイテムだとはわかっていない、ということだ。……どこかに『いる』らしい、彼女らの妖精も含めて。
視線……
スカウトさんの視線も、俺の左手首には向いてないな。
そもそも、左手首に奇妙な腕時計っぽいもの巻いた、っていう条件でスクリーニングして住所特定したにしては、特定が早すぎる。
マジでわからん。この一時間で彼女の中で何があったんだろう。
「えーっと、こちらから質問させていただいてよろしいでしょうか」
「は、はい。よろしくお願いします」
ディメンション・スカウトとして活動していた時の彼女は、かなり狂犬って感じだった。笑い方が『ひゃははははは』だったし……
でも今はなんだろう、借りてきた猫……とはちょっと違うか……『自分より"上"の相手を前にしたパワハラ上司』って感じの萎縮っぷりだ。そう考えると途端に嫌な感じだな。
ともあれ……
「まず、お名前を教えてくれるかな?」
「アッ、す、すみません、これは、至らず。あの、あた、わたくし、
「年齢は?」
「十三歳です」
部屋の平均年齢が下がってしまった。
なんだろう、十四歳との付き合い方もわかんないけど、一歳年下になるだけでさらにわかんないな、付き合い方。
いや付き合っていく必要も本来はないんだけど……
「えーっと、では間さんは、どうしてここに『神』がいると?」
「あの、わたくし、目的の物を探す魔法が使えまして、その、それなりに時間はかかるんですけど、でも『目的の物』そのものか、それの持ち主かがそばにいると、えっと、ゲージ? ゲージが溜まるの早まって、それで、さっきいきなり、ゲージがマックスになった感じで、ここに、『神』がおられると」
……うわ、厄介だ……
魔法で見つかったってこと? それもうどうしようもないな?
「それで、君の言う『神』は、この部屋のどのへんにいそうですか?」
「あの、頭の中に、マップ? 浮かぶんですけど、そのマップの、『探し物』の色がですね、あの、そこ……なので、あの」
めちゃくちゃ俺を指さしとる。
情報を整理しよう。
彼女は物探しの魔法が使える。
探してる対象(おそらく俺)のそばに来たため、物探し完遂に必要なゲージが急激にたまった。
これが、変身した時、真横に俺がいたにもかかわらず無反応だった理由──当時はゲージが溜まってなかった理由になる。
そんで、場所を特定して、俺の家に来た。
来た時には『神はおられますか』と、神=俺じゃない感じの扱いだったのは、あの時はまだレーダーマップの縮尺? 方向? がおおざっぱで、『この部屋にいる』ぐらいしかわからなかったんだろう。
レーダーマップが、俺が魔法少女になると頭に浮かぶアレと同じだとしたら、という仮定だけど。
で、改めて、『神』と俺の座標が重なっていることに気付いた。
ここにごまかす余地があるか。
ごまかしたいな、特に、聖さんと渚さんが、俺の左右で『下手な動きしたら即捕まえるぞ』みたいに俺を観察している今この時は……
ただ、さらに整理するなら、彼女らはまだ『神=ウィッチ』っていう図式を知らないはずではあるんだよな。
今は『このおじさん、やっぱり魔法少女の情報握って隠してやがった』の警戒だろう。
なのでアピールすべきは、こうだ。
一つ、俺は完全に間さんのことを知らなかった、と二人に納得させる。
二つ、俺は女子中学生に自分のことを神呼ばわりさせてるヤバイおじさんではない。
「……ええと間さん、あなたは、私が『神』に見えますか?」
「あたしの魔法は確かです」
「姿は違うんですね?」
「えと、それは、その……信仰対象は女神なので……男性ではないと思います」
「私のことを以前から知っていた、ということもありませんね?」
「はい。初対面です」
厳密には初対面じゃないんだが、初対面の時──つまり、変身してクラゲモンスターを退治した時彼女の中で、俺の存在は意識もしていなかったんだろう。
ただ『あたしの魔法は確かです』がちょっとムッとした声だったのがとても厄介。
姿も違う、そもそも性別からして違う。でも、この子は俺と同一座標に『神』がいると確信してる。
……まあ真実だけ宣言するか。
「まず、私はおそらく、あなたの言う『神』ではないと思います」
「いえ、そこにいらっしゃいます」
「……そもそも、あなたの言う『神』というのはなんなのでしょうか」
「母の故郷の創造神です」
「……母の故郷?」
「異世界です」
「…………」
「『すべてを泥から創り出す』という権能を持った神で、母をこっちの世界に逃がしてくださった存在だと聞いています。……あたしは、異世界人と、こっちの世界の人のあいだに生まれたんです」