アランスミシー探偵事務所の事件簿   作:山門門山

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case96 ディナー

もちろん。そこを反映すると、軍司令官の立ち位置がかなり明確になる。

 

今回は、

 

* 軍司令官は魔王一行の護衛責任者としてリヴァリア共和国に来ている

* 所長とは、以前の魔族の国での一件を通じて面識がある

* リリスも魔族の国編で司令官と接しているので、完全な初対面ではない

* ただし、今回の再会でリリスが先に「あの人」と気づくというより、所長の反応から司令官だと分かる

* 司令官は仕事中なので、魔王一行から勝手に離れられない

* 所長は「護衛として来てるのか」と納得する

* そして司令官からすると、よりによって護衛対象である魔王一家が滞在するホテルで、過去に散々苦労させられた所長と再会するという状況

 

この前提でCASE97を作り直す。

 

 

CASE97 護衛任務と最悪の再会

 

部屋に荷物を置いた二人は、しばらく休んでいた。

 

六日間の長旅。

 

途中で二泊したとはいえ、所長はほとんどの道を自分で運転してきた。

 

大きな身体をソファに沈める。

 

「……疲れたな」

 

「でしょうね」

 

リリスは窓を開ける。

 

海から乾いた風が吹き込んでくる。

 

アストリアの事務所で感じていた蒸し暑さとは違う。

 

風が心地よい。

 

「でも、来てよかったですね」

 

「ああ」

 

所長は目を閉じる。

 

「ここなら暑さで死ななくて済む」

 

「大袈裟です」

 

「俺には重要な問題だ」

 

しばらく休んだ後、二人は夕食のために部屋を出た。

 

ホテル内のレストランへ向かう廊下を歩いていると、リリスが所長を見る。

 

「……所長」

 

「ん?」

 

「お願いがあります」

 

「なんだ?」

 

「今日は、いつもの酒の飲み方はやめてください」

 

「…………」

 

「お願いします」

 

所長は頭を掻いた。

 

「流石に分かってるよ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「以前もそう言っていました」

 

「今日は休暇だぞ」

 

所長は苦笑する。

 

「せっかくの旅行で騒ぎを起こすほど馬鹿じゃねぇよ」

 

「……約束ですよ」

 

「分かったって」

 

リリスはようやく頷いた。

 

 

ホテルのレストランは非常に落ち着いた雰囲気だった。

 

大きな窓から夕暮れの海が見える。

 

白いクロス。

 

静かな照明。

 

給仕たちも客の邪魔をしないよう、手際よく動いている。

 

所長は席に着くと、運ばれてきた酒を一口飲んだ。

 

「……うめぇ」

 

「よかったですね」

 

その後も所長は、驚くほど大人しく酒を楽しんだ。

 

一気飲みもしない。

 

店員にも絡まない。

 

大声も出さない。

 

ただ、酒を飲みながら料理を楽しんでいる。

 

「ちゃんと飲めるんですね」

 

リリスが言う。

 

「俺を何だと思ってんだ」

 

「普段の所長です」

 

「…………」

 

所長は少し苦笑した。

 

「今日は休暇だからな」

 

やがて料理が運ばれてくる。

 

魚料理。

 

野菜。

 

パン。

 

そして――

 

所長の前には、通常の客とは明らかに違う量の料理が並んだ。

 

大きな肉。

 

山盛りの付け合わせ。

 

「……なんだこれ?」

 

給仕が丁寧に答える。

 

「オーガのお客様向けのお料理でございます」

 

「オーガ向け?」

 

「はい。当ホテルでは各国、各種族のお客様をお迎えしておりますので」

 

所長は料理を見つめる。

 

「高級ホテルって、オーガ向けのサービスまであるのか」

 

「それだけ各国から客が来るのでしょう」

 

「なるほどな」

 

所長は嬉しそうにナイフを取った。

 

肉を切る。

 

一口。

 

「…………」

 

二口。

 

「うめぇ」

 

すっかり機嫌がよくなった。

 

「こりゃいいな」

 

「お気に召したようですね」

 

「ああ」

 

酒を飲み、料理を食べる。

 

長旅の疲れも忘れるような夕食だった。

 

――その時。

 

「…………」

 

所長の動きが止まった。

 

視線。

 

誰かがこちらを見ている。

 

所長が顔を上げる。

 

レストランの奥。

 

数人の魔族がまとまって座っている。

 

その中心にいるのは――

 

魔王。

 

そして、その周囲には側近や親族。

 

さらに、その少し外側。

 

周囲を警戒するように立つ護衛たち。

 

その中に、一人の男がいた。

 

魔族軍の軍装。

 

所長と目が合った瞬間――

 

男の顔が固まった。

 

「…………」

 

所長も目を細める。

 

「……あ?」

 

リリスが所長を見る。

 

「どうしました?」

 

所長は男から目を離さない。

 

「……あいつ」

 

「?」

 

「あの軍司令官だ」

 

リリスも男を見る。

 

そして思い出した。

 

魔族の国。

 

あの時の騒動。

 

軍司令官と所長。

 

「……ああ」

 

リリスが小さく呟く。

 

「以前の……」

 

「ああ」

 

所長はグラスを置く。

 

「まさかこんなところで会うとはな」

 

司令官は明らかに所長を認識している。

 

そして、その表情にはなんとも言えない疲労感があった。

 

所長は周囲を見る。

 

魔王。

 

親族。

 

護衛。

 

「……なるほど」

 

「何がです?」

 

「護衛だ」

 

「はい?」

 

「魔王一行の護衛として来てるんだろ」

 

リリスも周囲を確認する。

 

確かに司令官は、護衛たちの中にいる。

 

「そういうことですか」

 

「ああ」

 

所長は納得したように頷く。

 

「そりゃ仕事だな」

 

「でしょうね」

 

「じゃあ、向こうも大変だ」

 

所長は司令官を見る。

 

かつて魔族の国で自分に散々振り回された男。

 

その男が今は、魔王一家の護衛という重要な任務でここにいる。

 

そして休暇に来たはずの所長が、同じホテルにいる。

 

「…………」

 

司令官は遠くから所長を見ている。

 

所長は気にせず肉を切った。

 

「まあ、俺からは何もしねぇよ」

 

「本当ですか?」

 

「今日は休暇だからな」

 

「それなら安心です」

 

「向こうも仕事中だ。こっちに構ってる暇なんかねぇだろ」

 

リリスは少しだけ司令官を見る。

 

司令官はまだこちらを見ていた。

 

「……所長」

 

「なんだ?」

 

「向こうは随分こちらを気にしているようですが」

 

「昔のことを思い出してんだろ」

 

「でしょうね」

 

所長は肉を口に運ぶ。

 

「まあ、昔の話だ」

 

そして酒を一口。

 

「俺も忘れてる」

 

「所長が忘れているだけでは?」

 

「そうかもしれん」

 

リリスはため息をついた。

 

その一方で、司令官は心の中で頭を抱えていた。

 

なぜ、ここにいる。

 

魔王陛下の護衛任務。

 

本来なら何の問題もない、平穏な避暑だった。

 

それなのに。

 

かつて魔族の国で騒動を起こし、自分たち軍を散々振り回した男が――

 

よりによって自分が護衛している魔王一家と同じホテルで、

 

オーガ向けの特別料理を満面の笑みで食べている。

 

しかも本人は、まるで何事もなかったかのように休暇を満喫している。

 

司令官は小さく息を吐いた。

 

「……頼むから、今回は何も起こすなよ」

 

その祈りが所長に届くはずもない。

 

当の本人はというと、

 

「リリス」

 

「はい?」

 

「この肉、うめぇぞ」

 

「……それはよかったですね」

 

完全に休暇を満喫していた。

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