アランスミシー探偵事務所の事件簿   作:山門門山

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case12 楽しい楽しいお話合い

 

「……八千ゴールド?」

 

 マフィアの幹部が、呆れたように聞き返した。

 

「ああ」

 

 所長は腕を組み、倉庫の中央に立っていた。

 

「薬品、原料、完成品。それから生産設備まで全部まとめて八千だ」

 

「高すぎる」

 

「そうか?」

 

「そうに決まってるだろ!」

 

 幹部が倉庫を見回す。

 

「量は確かにある。設備も揃っている。だが、それでも八千ゴールドは暴利だ!」

 

「なら買わなきゃいい」

 

 所長はあっさりと言った。

 

「別に俺は困らねえ」

 

「……」

 

 幹部は歯を食いしばる。

 

「六千」

 

「八千」

 

「七千」

 

「八千」

 

「七千五百!」

 

「八千」

 

「……」

 

 幹部は頭を抱えた。

 

「お前、値引きする気ないだろ」

 

「ない」

 

 所長は即答した。

 

「だが、別の払い方ならあるぞ」

 

「……何だ?」

 

「八千ゴールドを一括で払う」

 

 所長は指を一本立てる。

 

「それが嫌なら、売上の十パーセントを毎月俺に払え」

 

「……は?」

 

「二つに一つだ」

 

 幹部の顔が引きつった。

 

「毎月十パーセントだと?」

 

「ああ」

 

「冗談じゃねえ!」

 

「嫌なら八千払え」

 

「……」

 

 幹部は黙り込む。

 

 毎月売上の一割。

 

 それを考えれば、八千ゴールドを払ってしまった方が長い目で見れば安い。

 

 とはいえ、八千という金額も決して軽くない。

 

「……八千払う」

 

「話が早い」

 

「だが、これ以上は出さんぞ」

 

「分かってる」

 

 所長は満足そうに笑った。

 

「商談成立だ」

 

 部下たちが金貨の入ったケースを運んでくる。

 

 所長は中身を確認した。

 

「……よし」

 

 金貨の重みを確かめ、ケースを閉じる。

 

「これでお前らも新しい商売ができるわけだ」

 

 幹部は疲れ切った顔で頷いた。

 

「そういうことだ」

 

「まあ、新しい商売をさせてやったんだ」

 

 所長は笑った。

 

「感謝しろよ」

 

「誰のせいでこんな金を払ったと思ってる」

 

「細けえことは気にするな」

 

 所長は豪快に笑う。

 

「この前の貴族よりゃ儲けられるだろ!」

 

「……まあ、それはそうだが」

 

 幹部はため息をついた。

 

 そこで、幹部がふと倉庫の奥を見る。

 

「ところで」

 

「あ?」

 

「ここにいた生産者はどうした?」

 

 所長の笑みが止まった。

 

 ほんの一瞬。

 

 所長は倉庫の外へ目を向ける。

 

 そこには、自分の車が停まっている。

 

 荷台には、拘束されたエルフたちが積まれている。

 

 所長は車を見つめた。

 

「……それは」

 

 口元がゆっくりと吊り上がる。

 

「後日の商談だ」

 

「……」

 

 幹部の顔から血の気が引いた。

 

「お前……まさか」

 

 所長は答えない。

 

 ただ、邪悪な笑みを浮かべる。

 

「……人身売買する気か?」

 

 幹部の声が僅かに震えた。

 

 所長はしばらく黙っていた。

 

「どうなるかな」

 

 それだけ言って、さらに笑った。

 

「……」

 

 幹部はそれ以上聞かなかった。

 

 聞かない方がいい。

 

 そう判断した顔だった。

 

 所長は金貨のケースを受け取る。

 

「じゃあな」

 

「ああ……」

 

「いい商売しろよ」

 

 所長は笑いながら車へ向かった。

 

 荷台の扉を開ける。

 

 中には大量の荷物。

 

 薬。

 

 金貨。

 

 帳簿や取引記録。

 

 そして大量の銃器と軍用品。

 

 その隙間に、拘束されたエルフたちがいる。

 

「乗ってるな」

 

 所長は確認する。

 

 エルフたちは互いに顔を見合わせた。

 

 先ほどまでの会話は、荷台まで聞こえていた。

 

 ――後日の商談。

 

 ――人身売買。

 

 エルフたちは怯えていた。

 

 しかし、一人が小さく呟いた。

 

「……人身売買なら」

 

「……?」

 

「少なくとも、すぐには殺されない」

 

 別のエルフが頷く。

 

「そうだな」

 

 殺されるのであれば、わざわざ買い手を探す必要などない。

 

 自分たちは商品になる。

 

 ならば、生き残る可能性はある。

 

 そう考えれば、少しだけ気が楽になった。

 

 所長が運転席へ乗り込む。

 

 エンジンが唸る。

 

 車が走り出した。

 

 夕暮れの街を抜ける。

 

 エルフたちは荷台の中で身を寄せ合っていた。

 

「……」

 

 誰も口を開かない。

 

 やがて車が止まった。

 

「着いたぞ」

 

 所長の声がする。

 

 シャッターが開く音。

 

 車がガレージへ入る。

 

 そして再びシャッターが閉じられた。

 

 薄暗いガレージ。

 

 所長が荷台を開ける。

 

「さて」

 

 エルフたちを見る。

 

「お前ら」

 

「……はい」

 

 代表らしいエルフが返事をした。

 

 所長はしばらくそいつを見た。

 

「代表は誰だ?」

 

「……私です」

 

「そうか」

 

 所長は頷いた。

 

 次の瞬間。

 

 拳が振り抜かれた。

 

 鈍い音。

 

 代表のエルフがその場に崩れ落ちた。

 

「……え?」

 

 残されたエルフたちが凍りつく。

 

 所長は倒れたエルフを見下ろした。

 

「お前が代表か」

 

「……」

 

 返事はない。

 

「なら話が早い」

 

 所長は拳を軽く振る。

 

 残されたエルフたちは理解した。

 

 人身売買なら殺されない。

 

 ――そんな自分たちの考えが、最初から間違っていたことを。

 

 所長は車の荷台からエルフたちを見回した。

 

「さて」

 

 低い声が響く。

 

「誰から話を聞こうか」

 

 ガレージの扉が閉じる。

 

 外からは、街の喧騒が遠く聞こえていた。

 

 だが、この場所には届かない。

 

 エルフたちはようやく理解する。

 

 自分たちは売られるのではない。

 

 ――これから、この男に話を聞かれるのだ。

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