アランスミシー探偵事務所の事件簿   作:山門門山

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case123 後片付け

CASE126 食後の運動

 

バーベキューも、そろそろ終わりに近づいていた。

 

大量に用意された肉も野菜も、かなりの量が消えている。

 

そして――。

 

「締めだ」

 

所長が鉄板を見ながら言った。

 

「焼きそば作るぞ」

 

「まだ食べるんですか?」

 

リリスが思わず聞く。

 

「締めだからな」

 

「その理屈はおかしいと思います」

 

「何がだ」

 

所長は大量の麺を鉄板へ放り込んだ。

 

ジュウウウウッ――。

 

そこへ残った肉や野菜まで次々と投入していく。

 

「ちょっと所長、それ全部入れるんですか?」

 

「残しても仕方ねぇだろ」

 

「だからといって……」

 

「食えばいい」

 

所長は豪快に焼きそばを混ぜ始めた。

 

ソースの香りが広がる。

 

「うまそう!」

 

リゼットが嬉しそうに声を上げる。

 

「だろ?」

 

所長は大皿に山盛りの焼きそばを盛った。

 

そして――。

 

食べ始めた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

あまりの勢いに、リゼットたちは言葉を失う。

 

山盛りだった焼きそばが、見る見るうちに減っていく。

 

「……すごい」

 

リゼットが呟く。

 

「いつものことです」

 

リリスは慣れた様子だった。

 

ヴァルガスも笑う。

 

「相変わらずよく食うな」

 

「旅行中は特にな」

 

所長は焼きそばを頬張りながら答える。

 

やがて――。

 

「食った食った」

 

大皿が空になった。

 

それだけではない。

 

「これも残ってるな」

 

「所長、それは明日に――」

 

「今日食う」

 

残っていた肉や野菜まで所長の胃袋へ消えていく。

 

最後には鉄板の上まで綺麗になった。

 

「ふぅ……」

 

所長は腹をさすった。

 

「満足だ」

 

「……本当に全部食べましたね」

 

リリスが呆れる。

 

「食材を無駄にしない立派な精神だろ」

 

「量の問題です」

 

そのとき。

 

砂浜の方から声が聞こえてきた。

 

「もう少しだ!」

 

「あとちょっと!」

 

「誰か手を貸してくれ!」

 

所長が振り返る。

 

警察官たちは、まだ誘拐犯たちを砂浜から掘り出す作業に苦戦していた。

 

「…………」

 

所長は立ち上がった。

 

「遅ぇな」

 

「まさか……」

 

リリスが嫌な予感を覚える。

 

所長は砂浜へ歩いていく。

 

「おい、もういい」

 

「え?」

 

警察官が振り返った瞬間。

 

所長は砂から出ている誘拐犯の頭を掴んだ。

 

「えっ」

 

「所長!?」

 

「失礼するぞ」

 

ぐいっ。

 

「うおおおおっ!?」

 

所長が力任せに引っ張る。

 

ズボッ!

 

砂の中から、誘拐犯の身体が一気に引き抜かれた。

 

「……」

 

警察官たちが固まる。

 

所長はもう一人、また一人と引っ張り出していく。

 

「はい、よろしく」

 

「いや、あの……」

 

「後は任せた」

 

「はい……」

 

警察官は何とも言えない顔で敬礼した。

 

所長は満足して戻ってくる。

 

「よし」

 

「……警察の仕事を横から奪わないでください」

 

リリスが呆れる。

 

「時間短縮だ」

 

「そういう問題ではありません」

 

その後、三人だけでなくヴァルガス一家も加わり、全員でバーベキューの後片付けを始めた。

 

炭を片付け、食器をまとめ、ゴミを集める。

 

「いやぁ、食ったな」

 

所長が満足そうに腹を叩く。

 

「さて、次行くぞ」

 

「まだ行くの?」

 

リゼットが笑う。

 

「食後はコーヒーだ」

 

「なるほど」

 

「なるほどじゃありません」

 

リリスがため息を吐いた。

 

***

 

そして――。

 

所長の荒い運転によって、車は海沿いのカフェへ到着した。

 

「……」

 

リリスは車から降りるなり、深く息を吐いた。

 

「生きている……」

 

「大袈裟だな」

 

「大袈裟ではありません」

 

「私はもう慣れたわ」

 

リゼットが苦笑する。

 

海の見えるテラス席。

 

穏やかな海風を浴びながら、三人と魔王一家はコーヒーを楽しんでいた。

 

「こういう時間もいいわね」

 

エレノアが優雅にカップを口へ運ぶ。

 

「うん」

 

リゼットも嬉しそうだ。

 

ヴァルガスもゆっくりとコーヒーを飲んでいる。

 

所長はタバコを片手に、海を眺めていた。

 

「……平和だな」

 

「ええ」

 

リリスも頷く。

 

だが。

 

その平穏を――。

 

ドドドドドドッ!

 

大量の足音がぶち壊した。

 

「…………」

 

リゼットが振り返る。

 

「また?」

 

テラスへ向かって、大勢の男たちがやってくる。

 

その数は、昨日までとは比べものにならない。

 

「王女殿下を渡せ!」

 

「今度こそ逃がさねぇぞ!」

 

「…………」

 

リゼットは額を押さえた。

 

「もう、なんなの……」

 

エレノアは優雅にカップを置く。

 

「あらまぁ」

 

困ったように微笑んだ。

 

ヴァルガスは一口コーヒーを飲み――。

 

所長を見る。

 

「……任せても?」

 

所長も男たちを見る。

 

そして。

 

ニヤリ。

 

「腹ごなしの運動だな」

 

椅子から立ち上がる。

 

肩を回す。

 

首を鳴らす。

 

「いいぜ」

 

リリスがすぐに立ち上がった。

 

「所長」

 

「ん?」

 

「お願いですから」

 

リリスは真剣な顔で言う。

 

「暴れすぎないでください」

 

「善処する」

 

「その返事の時は、絶対に善処しないでしょう」

 

「細けぇなぁ」

 

所長は楽しそうに笑った。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

そして――。

 

一人で男たちの群れへ突っ込んでいった。

 

「来いおらぁ!」

 

「な、なんだこいつ!?」

 

「囲め!」

 

「囲めるもんなら囲んでみろ!」

 

テラスの外で、凄まじい騒音が響き始めた。

 

ドンッ!

 

ガシャーン!

 

「ぐわっ!」

 

「ぎゃあ!」

 

「待て、話を――!」

 

「うるせぇ!」

 

所長は完全に楽しんでいた。

 

リゼットはコーヒーを飲みながら、その光景を眺める。

 

「……もう驚かないわ」

 

「私もです」

 

リリスが答える。

 

エレノアは困ったように笑い、ヴァルガスは黙ってコーヒーを飲み続けている。

 

そして――。

 

五分も経たないうちに。

 

「…………」

 

「…………」

 

テラスの周囲には、誰一人として立っている者はいなくなった。

 

全員、地面に転がっている。

 

所長だけが無傷で立っていた。

 

「ふぅ」

 

所長は満足そうに息を吐く。

 

「いい運動だった」

 

そして倒れた誘拐犯たちの上に腰を下ろし、タバコを一本取り出す。

 

「…………」

 

火を点ける。

 

ふぅ――。

 

白い煙が海風に流れていく。

 

リゼットが呆れた顔で呟いた。

 

「……本当に、どこでもこうなるのね」

 

リリスもため息を吐く。

 

「ええ」

 

ヴァルガスはコーヒーを一口飲む。

 

「まあ……旅行とは、こういうものなのだろう」

 

「違うと思います、お父様」

 

リゼットが即座に否定した。

 

所長だけが、倒れた誘拐犯たちを足元に転がしたまま、実に満足そうにタバコを吸っていた。

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