CASE133 怒れる鬼
薄暗い廃倉庫の奥。
リゼットとリリスは、古びた椅子に座らされていた。
周囲には武装した兵士たち。
少し離れた場所には、巨大な魔導鎧が何体も並んでいる。
「…………」
リゼットは俯いていた。
肩が小さく震えている。
「……ごめんなさい」
「王女殿下?」
「私のせいで……リリスまで……」
声が震える。
「私が旅行に行きたいなんて言ったから……」
「違います」
リリスはすぐに否定した。
「これは王女殿下の責任ではありません」
「でも……」
「私も所長も、自分の意思でお供しているのです」
リリスはそう言いながら、リゼットの肩へ手を置いた。
努めて平静を装っている。
だが――。
自分自身も怖かった。
所長が撃たれた。
目の前で倒れた。
その直後、自分たちは連れ去られた。
そして今。
周囲には、こちらを助けようとする者は一人もいない。
「大丈夫です」
リリスは静かに言った。
「必ず、なんとかなります」
その言葉は、半分はリゼットのため。
そしてもう半分は――自分自身に言い聞かせるためだった。
そんな二人の様子を、兵士たちは面白そうに眺めていた。
「いやぁ、まさかここまで上手くいくとはな」
「報酬、かなりの額になるんだろ?」
「当然だろ。公爵様が失敗するわけねぇよ」
「金が入ったら何に使う?」
「俺は家を買うかな」
「俺は酒だな」
下卑た笑い声が響く。
そして、そのうちの一人が二人を見る。
「しかし……せっかく王女様と美人の秘書様がいるんだ」
「……まさか」
「味見くらいしてもいいんじゃねぇか?」
「おいおい、バレたら殺されるぞ」
「始末する前なら問題ないだろ」
「へへ……確かにな」
リゼットの顔が強張った。
リリスも息を呑む。
恐怖で身体が固まる。
「……やめてください」
リリスが低い声で言った。
しかし兵士たちは笑うだけだった。
「お、怖がってるぞ」
「そりゃ怖いだろ」
「王女様、泣かないでくださいよ」
リゼットの目から涙がこぼれる。
「…………」
リリスはリゼットを庇うように身体を寄せた。
その時だった。
――遠くから、何かが聞こえた。
「……?」
兵士の一人が顔を上げる。
「なんだ?」
音が近づいてくる。
エンジン音。
それも、異常なほど大きい。
「車か?」
「こんな場所に?」
次の瞬間。
――轟音。
ドゴォォォォン!!
倉庫の壁が大きく揺れた。
「うわっ!」
「何だ!?」
巨大な車両が、正面の扉を吹き飛ばしながら倉庫へ突っ込んできた。
ブレーキを踏んだ形跡などない。
アクセルを踏み切ったまま、一直線。
鉄骨がひしゃげ、瓦礫が飛び散る。
「な、なんだこいつは!?」
特殊部隊が一斉に武器を構えた。
魔導鎧も起動する。
「一台だけだ!」
「たった一台で乗り込んできたのか!?」
「馬鹿が!」
兵士の一人が笑った。
「王女を助けに来たつもりか?」
魔導鎧が巨大な銃器を構える。
「車ごと消し炭にしてやれ!」
その瞬間。
――バンッ!!
車のドアが吹き飛んだ。
いや。
蹴り飛ばされた。
凄まじい衝撃でドアが宙を舞い、その軌道上にいた兵士二人を巻き込む。
「ぐ――」
二人はそのまま吹き飛ばされ、倉庫の壁へ叩きつけられた。
「…………」
倉庫内が静まり返る。
車の横から、巨大な影が降りる。
腹部には、まだ銃撃の痕跡が残っている。
それでも歩き方には、一切の迷いがない。
「…………」
所長だった。
片手には、グレンから奪ってきた大型重機関銃。
人間が扱うなら、ほとんど砲に近い代物。
それを――片手で持っている。
所長はゆっくりと顔を上げた。
そして。
「…………」
リリスとリゼットを見る。
二人が無事なのを確認する。
次に。
周囲の兵士を見る。
その目から、完全に感情が消えた。
「…………ドブネズミ共が」
低い声だった。
「一人残らず――」
重機関銃を持ち上げる。
「ぶち殺す!!」
倉庫全体に、所長の怒声が響き渡った。
リゼットは涙を浮かべたまま、その姿を見つめる。
リリスは呆然としながら呟いた。
「……本当に来た」
そして兵士たちはようやく理解した。
たった一人で乗り込んできた男が――。
救出に来たのではない。
自分たちを潰しに来たのだ。