アランスミシー探偵事務所の事件簿   作:山門門山

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CASE134 鬼の掃除

 

所長が重機関銃を構えた瞬間。

 

魔導鎧を着た男の動きが止まった。

 

「……待て」

 

その声には、明らかな動揺があった。

 

「その銃は……」

 

兵士の一人が振り返る。

 

「どうした!?」

 

魔導鎧の男が怒鳴った。

 

「散開しろ!! 遮蔽物に隠れるな! あれは人間が扱う銃じゃない!」

 

その言葉を聞いた瞬間、兵士たちが一斉に動き出した。

 

だが――遅かった。

 

所長が口元を歪める。

 

「しぃぃぃぃ――」

 

引き金を引く。

 

「ねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

轟音。

 

重機関銃が猛烈な勢いで火を噴いた。

 

倉庫中に凄まじい銃声が響き渡る。

 

巨大な弾丸が次々と吐き出され、兵士たちへ襲いかかった。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「逃げろ!」

 

「散開しろ!!」

 

兵士たちは必死に走る。

 

しかし、所長は構わず撃ち続ける。

 

木箱を盾にした兵士。

 

その木箱ごと撃ち抜かれる。

 

鉄板の陰へ逃げた兵士。

 

鉄板を貫通した弾丸が、その身体を吹き飛ばす。

 

倉庫の壁へ身を伏せた者。

 

壁を貫いた弾丸が、そのまま身体を引き裂く。

 

「ぐああああっ!!」

 

「助け――」

 

叫び声すら、次の銃声に掻き消された。

 

一発が兵士の胴体を直撃する。

 

身体が大きく吹き飛び、壁へ叩きつけられる。

 

別の兵士は肩から上を吹き飛ばされ、その場に崩れ落ちた。

 

さらに一人。

 

また一人。

 

所長は完全に怒りに任せていた。

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

照準などほとんど考えていない。

 

ただ敵がいる方向へ向け、引き金を引き続ける。

 

弾丸が鉄骨を穿つ。

 

分厚い倉庫の壁を貫く。

 

向こう側の車両まで撃ち抜く。

 

大量の薬莢が足元へ落ち続ける。

 

やがて――。

 

カチッ。

 

銃声が止まった。

 

「…………」

 

所長が引き金を引く。

 

カチッ。

 

「弾切れか……」

 

魔導鎧の男が荒い息を吐く。

 

周囲を見る。

 

三十人近くいた特殊部隊は、すでに六人しか残っていない。

 

床には血が広がり、壁には無数の弾痕。

 

そして――。

 

魔導鎧。

 

「……化け物が」

 

男が唸った。

 

所長は重機関銃を見下ろす。

 

「チッ」

 

そして、あっさりと放り捨てた。

 

魔導鎧の男が銃器を構える。

 

「だが、弾切れならば――」

 

魔導鎧の魔石が唸りを上げる。

 

「貴様など恐るるに足らん!」

 

銃口が所長へ向く。

 

その瞬間。

 

所長は足元に転がっていた太い鉄骨へ手を伸ばした。

 

「……?」

 

「うらぁっ!!」

 

ギギギギッ――。

 

巨大な鉄骨が、所長の怪力によって引き抜かれる。

 

「な――」

 

所長はそれを掴んだまま振りかぶる。

 

「邪魔だぁ!!」

 

ぶんっ!!

 

鉄骨が飛ぶ。

 

ドゴォン!!

 

魔導鎧の銃器へ直撃。

 

銃器が粉々に砕け散る。

 

「ぐおっ!」

 

魔導鎧は咄嗟に回避するが、勢いを殺しきれず壁へ叩きつけられる。

 

ガァン!!

 

装甲がひしゃげる。

 

「ぐ……!」

 

魔導鎧が立ち上がろうとした瞬間。

 

所長が目の前まで迫っていた。

 

「おおおおおおおお!!」

 

ドゴォン!!

 

蹴りが入る。

 

魔導鎧の胸部装甲が大きく陥没する。

 

内部から鈍い破壊音が響いた。

 

そして次の瞬間――。

 

ひしゃげた装甲の隙間から、中にいた男の身体が勢いよく吹き飛んだ。

 

床を転がり、動かなくなる。

 

「…………」

 

残った特殊部隊員たちは完全に恐慌状態だった。

 

「化け物だ!」

 

「撃て!」

 

「撃ち続けろ!!」

 

人間用の銃器が一斉に火を噴く。

 

だが。

 

「効かねぇよ!!」

 

所長の身体には、いくつもの銃弾が当たる。

 

しかし分厚い筋肉と巨体を前に、致命傷にはならない。

 

所長が吠える。

 

そして、一人の兵士へ手を伸ばした。

 

「ひっ――」

 

足を掴む。

 

「やめ――」

 

所長が振り回す。

 

「うおおおおおっ!!」

 

兵士の身体が宙を舞う。

 

ドガッ!!

 

別の兵士へ直撃。

 

二人まとめて床へ転がる。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

残った兵士が逃げようとする。

 

所長は追いつき、その身体を掴んだ。

 

「逃げんな!」

 

そのまま床へ叩きつける。

 

ドンッ!!

 

動かなくなった。

 

最後の一人も、所長に殴り飛ばされて鉄骨へ激突する。

 

それで終わった。

 

倉庫に静寂が戻る。

 

所長は荒い息を吐きながら立っていた。

 

全身に血と埃が付着している。

 

だが――。

 

怒りが少しずつ収まっていく。

 

「…………」

 

そして、ふと気づく。

 

「……リリス?」

 

所長の顔色が変わった。

 

「リゼット?」

 

二人を見る。

 

リリスとリゼットは、倉庫の奥で呆然としていた。

 

所長は慌てて駆け寄る。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

「……所長」

 

「怪我は?」

 

「ありません」

 

「王女殿下は?」

 

「私も……大丈夫」

 

「そうか……」

 

所長は大きく息を吐いた。

 

そこで――。

 

ミシッ。

 

頭上から嫌な音がした。

 

三人が見上げる。

 

巨大な鉄骨が軋んでいる。

 

「…………」

 

所長の顔が引きつる。

 

「……やべぇな」

 

倉庫全体が崩れ始めていた。

 

「出るぞ!」

 

「え?」

 

所長は二人をそれぞれ片腕で抱え上げた。

 

「ちょ、所長!?」

 

「暴れるな!」

 

「私は歩けます!」

 

「そんな時間ねぇ!」

 

リゼットまで抱えたまま、所長は瓦礫を蹴飛ばして走る。

 

「ちょっと! 私たちを荷物みたいに――」

 

「黙ってろ!」

 

「横暴です!」

 

「後で文句聞いてやる!」

 

三人が倉庫の外へ飛び出した。

 

直後。

 

――ズガァァァン!!

 

廃倉庫が大きく崩れ落ちた。

 

大量の瓦礫が舞い上がる。

 

所長は二人を抱えたまま、その場に立ち尽くした。

 

「…………」

 

しばらくして。

 

「……危なかったな」

 

リリスが呆れた顔をする。

 

「原因の大部分は所長だと思いますが」

 

「細けぇこと言うな」

 

「細かくありません」

 

リゼットはそんな二人を見ながら、涙の跡が残った顔で小さく笑った。

 

「……でも」

 

所長を見る。

 

「助けに来てくれて、ありがとう」

 

所長は少しだけ目を逸らした。

 

「……当たり前だろ」

 

そして、いつものようにぶっきらぼうに付け加える。

 

「旅行の途中なんだからよ」

 

リゼットは思わず笑った。

 

リリスも小さく息を吐く。

 

――ようやく二人のもとへ戻ってきた所長の顔を見て。

 

彼女は、ほんの少しだけ安心したように微笑んだ。

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