アランスミシー探偵事務所の事件簿   作:山門門山

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case135 憤怒

CASE135 帰還

 

廃倉庫から外へ出ると、空は白み始めていた。

 

東の空から朝日が昇ろうとしている。

 

長い夜が終わろうとしていた。

 

所長はリリスとリゼットを連れて歩き出す。

 

「……所長、どこへ?」

 

リゼットが尋ねる。

 

「飯だ」

 

「え?」

 

「腹減ってるだろ」

 

二人を連れて、近くのカフェへ入る。

 

「甘いもんでも飲んで落ち着け!」

 

所長は二人にそう言って、甘い飲み物を注文した。

 

リゼットはまだ目元に涙の跡が残っている。

 

リリスも疲れ切っていた。

 

それでも、二人は出された飲み物をゆっくり口にする。

 

その向かいでは――。

 

所長が酒樽を抱えていた。

 

「…………」

 

リリスが無言で見る。

 

「何だ!」

 

所長はそのまま樽から酒をラッパ飲みする。

 

ぐびぐびと飲み続ける。

 

リゼットが所長の腹を見る。

 

「所長……」

 

「んだ!」

 

「お腹……」

 

銃撃で腹には大きな穴が開いている。

 

そこからまだ血が流れていた。

 

「血が出てるわ」

 

「知ってる!」

 

「治療しないと……」

 

「後だ!」

 

「でも――」

 

「今はいい!」

 

所長は酒を飲む。

 

「痛くないの?」

 

「痛ぇよ!」

 

「…………」

 

「死ぬほど痛かったわ!」

 

そう怒鳴りながらも、所長は酒を飲み続ける。

 

「だが今は、それより腹が立ってんだよ!」

 

二人が飲み物を飲み終える。

 

所長は立ち上がった。

 

「よし!」

 

「ホテル行くぞ!」

 

三人はホテルへ戻った。

 

***

 

ホテルのロビーは、まだ騒然としていた。

 

一睡もしていない兵士たちが慌ただしく行き交っている。

 

軍司令官は通信機を片手に、必死に指示を飛ばしていた。

 

「捜索範囲をさらに広げろ!」

 

「港湾地区は!?」

 

「まだ見つかっていません!」

 

その近くでは、ヴァルガスが青ざめた顔で立っていた。

 

ほとんど眠っていない。

 

エレノアも夫の隣に寄り添い、静かに涙を流している。

 

その時だった。

 

ホテルの入口から、三人の姿が現れた。

 

兵士の一人が気づく。

 

「……所長?」

 

そして目を見開く。

 

「所長だ!!」

 

一瞬でロビーが騒然となる。

 

「王女殿下もいる!」

 

「リリス嬢も無事だ!」

 

「戻ってきたぞ!」

 

歓声が上がる。

 

軍司令官が振り返る。

 

ヴァルガスも目を見開いた。

 

エレノアは涙を拭う。

 

だが、所長は歓声に応える様子を見せなかった。

 

「通信機貸せ!!」

 

怒声がロビーに響く。

 

「……所長?」

 

「通信機だっつってんだ!!」

 

兵士が慌てて差し出す。

 

所長はそれをひったくる。

 

「繋げろ!!」

 

「どちらへ?」

 

「俺を撃った奴だ!!」

 

兵士が通信を繋ぐ。

 

やがて向こうから声が聞こえてくる。

 

所長は開口一番、怒鳴りつけた。

 

「テメェか!!」

 

「俺を撃ったのはテメェのところの連中だな!!」

 

返事がある。

 

「うるせぇ!!」

 

「腹に穴まで開けやがって!!」

 

「見ろ!! まだ血が出てんぞ!!」

 

所長は自分の腹を指差す。

 

「俺を殺すつもりだったんだろうが!!」

 

「だったら覚えとけ!!」

 

「俺はなぁ!!」

 

「自分が撃たれたことを笑って済ませるような男じゃねぇんだよ!!」

 

「しかも腹に穴まで開けやがった!!」

 

「それだけで十分だ!!」

 

所長はさらに怒鳴る。

 

「それによぉ!!」

 

「俺の目の前で二人まで攫いやがったな!!」

 

リリスとリゼットを見る。

 

「俺を撃って!!」

 

「腹に穴を開けて!!」

 

「その上で俺の守ってる二人まで攫いやがった!!」

 

「テメェら!!」

 

「よくもやりやがったなぁ!!」

 

通信の向こうから何か言葉が返る。

 

「言い訳なんぞ聞かねぇ!!」

 

「黙って聞け!!」

 

「俺が誰だか忘れたか!!」

 

「俺の悪名を思い出せ!!」

 

「軍事裁判まで行ったオーガだぞ!!」

 

「俺が何をやった男なのか!!」

 

「もう一度よく調べろ!!」

 

所長は通信機へ顔を近づける。

 

「俺はなぁ!!」

 

「昔から敵に回しちゃいけねぇ奴だったんだよ!!」

 

「それをテメェらは自分から敵に回したんだ!!」

 

「しかも俺を撃った!!」

 

「腹に穴を開けた!!」

 

「だったら――!!」

 

「俺がお前らを潰すまで終わりだ!!」

 

さらに怒鳴る。

 

「お前の周りを殺し尽くしてやる!!」

 

「テメェの屋敷もだ!!」

 

「財産も全部だ!!」

 

「残らねぇぞ!!」

 

「全部灰にしてやる!!」

 

向こうから何か叫び声が返る。

 

「うるせぇ!!」

 

「俺に戦争仕掛けたことを後悔させてやるからな!!」

 

「俺を撃って腹に穴を開けたことを!!」

 

「死ぬほど後悔させてやる!!」

 

所長の怒鳴り声がロビー中に響き渡る。

 

「テメェの家族の腹に爆弾詰めて!!」

 

「テメェと一緒に地獄に吹き飛ばしてやる!!」

 

「俺が冗談で言ってると思うなよ!!」

 

「俺は本気だぞ!!」

 

「自分が誰を撃ったのか!!」

 

「何を敵に回したのか!!」

 

「俺の悪名を思い出せ!!」

 

「よく考えろ!!」

 

「俺に喧嘩を売ったんだぞ!!」

 

「だったら最後まで覚悟しろ!!」

 

通信の向こうから何か聞こえる。

 

「うるせぇ!!」

 

「テメェらが何を言おうが知ったこっちゃねぇ!!」

 

「俺は腹に穴を開けられた!!」

 

「その落とし前をつけさせる!!」

 

「俺を撃ったことを後悔しながら待ってろ!!」

 

「俺が――」

 

「テメェらのところへ行くまでなぁ!!」

 

ガンッ!!

 

所長は通信機を床へ叩きつけた。

 

「クソがぁ!!」

 

さらに踏みつける。

 

バキッ。

 

通信機が完全に壊れた。

 

「…………」

 

ロビーは静まり返っていた。

 

所長は荒い息を吐く。

 

腹から血が流れている。

 

それでも気にする様子はない。

 

ただ、怒りだけがまだ消えていなかった。

 

その隣では、リゼットが無事に両親のもとへ戻っている。

 

エレノアは娘を抱きしめる。

 

ヴァルガスも、ようやく娘の無事を確かめるようにその頭へ手を置いた。

 

所長はその様子を見ながら、腹を押さえる。

 

「……ったく」

 

「腹に穴開けやがって!!」

 

リリスが呆れたように言う。

 

「だから病院へ戻ってください」

 

「嫌だ!!」

 

「即答ですか」

 

「もう戻らねぇ!!」

 

「…………」

 

リリスは深いため息を吐いた。

 

所長はそのまま酒樽を抱え直した。

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