アランスミシー探偵事務所の事件簿   作:山門門山

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case24 第一回チキチキ強奪合戦

 

 翌日。

 

 所長たちの強奪作戦が始まった。

 

 ――とはいっても、リリスとミレイアの仕事は、所長とはまったく違っていた。

 

「……来ました」

 

 農場を見下ろす小高い丘。

 

 リリスが双眼鏡を覗きながら呟く。

 

「護衛が動きます」

 

「何人だ?」

 

「農場から六人。輸送車側には四人」

 

「了解」

 

 ミレイアは地図へ目を落とす。

 

 二人の目的は戦闘ではない。

 

 農場の警備体制を把握すること。

 

 誰がどこを守っているのか。

 

 輸送隊がどの道を使うのか。

 

 そして、輸送隊が農場を離れた時、どれだけの人数が農場から離れるのか。

 

 それを確認することだった。

 

「所長から連絡は?」

 

「まだありません」

 

「なら、そろそろだな」

 

 ミレイアが街道を見る。

 

 遠くから、一台の車が走ってくる。

 

 妙に堂々としていた。

 

「……あれですね」

 

「間違いない」

 

「隠れる気がありませんね」

 

「いつものことだ」

 

 車は速度を落とさない。

 

 護衛たちが異変に気づいた。

 

 声を上げる。

 

 武器を構える。

 

 それでも車は止まらない。

 

「まさか……」

 

 リリスが呟いた。

 

「正面から行くつもりです」

 

「だろうな」

 

 次の瞬間。

 

 ドンッ!

 

 車が輸送車へ突っ込んだ。

 

 輸送車が大きく傾き、積み荷が道路へ散らばる。

 

「……」

 

「……」

 

 二人はしばらく無言だった。

 

「作戦というより交通事故ですね」

 

「所長にしてはいつも通りだ」

 

 車の扉が開く。

 

 巨大なオーガが降りてきた。

 

「よお」

 

 あまりにも気軽な声だった。

 

 護衛が怒鳴る。

 

「貴様、何者だ!」

 

「通りすがりの強盗だ」

 

「ふざけるな!」

 

 銃声。

 

 所長は車体を盾にして突っ込んでいく。

 

 そして、あっという間に護衛たちを蹴散らしていった。

 

 遠くから見ていたリリスが呟く。

 

「……あの人、真正面から行く必要があるんでしょうか」

 

「ないだろうな」

 

「ですよね」

 

 所長は鉈を振り回し、迫ってきた護衛を次々と倒していく。

 

 さらに拳銃を抜き、残った護衛を牽制する。

 

 やがて街道には、所長以外に動いている者がほとんどいなくなった。

 

「終わったみたいですね」

 

「いや」

 

 ミレイアは農場を見る。

 

「見ろ」

 

 農場からさらに人が出てきている。

 

「輸送隊が襲われたことを確認して、農場側から応援が向かっている」

 

「予定通りですね」

 

「ああ」

 

 ミレイアは人数を数える。

 

「農場に残った人数も記録しておけ」

 

「はい」

 

 その間にも、所長は木箱を車へ積み込んでいた。

 

 中身は、薬物精製前の原材料。

 

 所長は一箱を持ち上げる。

 

「……結構あるな」

 

 そして何かを思い出したように周囲を見回した。

 

「そういや、メッセージが必要だったな」

 

 所長は倒れている護衛の胸元へ歩み寄る。

 

 そして、護衛の装備を使いながら何かを書き残す。

 

 遠すぎて、リリスたちには細かい内容までは見えない。

 

「何を書いているんでしょう?」

 

「知らん」

 

 しばらくして、所長は満足そうに頷いた。

 

 その胸元には、

 

 『貴様らの原材料は黒鷲騎士団が頂く』

 

 という文字が残されていた。

 

「……黒鷲騎士団?」

 

 リリスが首を傾げる。

 

「そんな組織、聞いたことがありません」

 

「私もだ」

 

 ミレイアが即答する。

 

「たぶん、今作った」

 

「でしょうね」

 

 所長は何食わぬ顔で車へ戻った。

 

 そして、農場へ向かって一度だけ手を振る。

 

「じゃあな」

 

 そのまま車を走らせていった。

 

 リリスとミレイアは、しばらくその姿を見送った。

 

「……本当に帰ってしまいました」

 

「目的は達成したからな」

 

「私たちは?」

 

「予定通り、ここを監視する」

 

 所長が去った後も、二人は丘から動かなかった。

 

 農場の警備が混乱している。

 

 輸送隊を追う者。

 

 負傷者を運ぶ者。

 

 そして――。

 

 カルテルの本隊へ連絡を取る者。

 

 時間が経つにつれて、農場の警備が少しずつ戻っていく。

 

「今夜はこれ以上動かないでしょう」

 

「だろうな」

 

 ミレイアは双眼鏡を下ろした。

 

「だが、問題はこれからだ」

 

「所長が何か仕掛けている可能性がありますね」

 

「……あいつならやる」

 

 その頃。

 

 所長はすでに農場からかなり離れた場所を走っていた。

 

 車の荷台には、奪った原材料が積まれている。

 

「よし」

 

 所長は満足そうに笑う。

 

「一回目は成功だ」

 

 そして、後部をちらりと見る。

 

「……あとは任せたぞ」

 

 何を、とは言わない。

 

 ただ、所長はそのまま走り去った。

 

 数時間後。

 

 強奪現場へ、カルテルの人員が到着した。

 

「ひどい有様だな……」

 

 現場を調べる。

 

 倒れた護衛。

 

 壊れた輸送車。

 

 散乱した荷物。

 

 そして、奪われた原材料。

 

「積み荷は?」

 

「ほとんど持っていかれています」

 

「犯人は?」

 

「分かりません」

 

「黒鷲騎士団という名前を残している」

 

「そんな組織、聞いたことがないぞ」

 

 男たちは周囲を調べる。

 

「ここに何か仕掛けられているかもしれん」

 

「慎重に――」

 

 その時だった。

 

 カチッ。

 

「……?」

 

 誰かが足元に落ちていた小さな部品を踏んだ。

 

 次の瞬間。

 

 轟音が響いた。

 

 ドォォォォンッ!!

 

 現場一帯が爆風に包まれる。

 

「うわぁぁぁっ!」

 

 男たちが吹き飛ばされる。

 

 車両が大きく揺れ、周囲に煙が立ち込める。

 

 しばらくして、現場には静寂が戻った。

 

 誰も知らない。

 

 この罠を仕掛けた本人は、すでに遥か遠くへ逃げていることを。

 

 そして――。

 

 所長は車の荷台を確認していた。

 

「……」

 

 木箱が並んでいる。

 

「上出来だ」

 

 所長は煙草に火をつけた。

 

 だが、そこからさらに一つの問題が生まれる。

 

 奪った原材料を、どうするか。

 

「全部燃えたことにするか」

 

 所長は一人で呟いた。

 

 もちろん、実際には燃えていない。

 

 所長はその一部を別の場所へ隠していた。

 

 リリスにも。

 

 ミレイアにも。

 

 まだ話していない。

 

「……まあ、後で考えるか」

 

 煙草を咥えたまま、所長は車を走らせる。

 

 一方、農場近くでは。

 

「……」

 

 ミレイアが双眼鏡を下ろした。

 

「何か起きたな」

 

 遠くから爆発音が聞こえた。

 

 リリスが振り返る。

 

「所長でしょうか?」

 

「十中八九な」

 

「……」

 

「戻るぞ」

 

「はい」

 

 二人は農場を後にする。

 

 第一回の強奪は成功した。

 

 そしてこの日から――。

 

 カルテルと、存在しないはずの組織。

 

 黒鷲騎士団。

 

 その奇妙な追いかけっこが始まった。

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