アランスミシー探偵事務所の事件簿   作:山門門山

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case43 泣きっつらに蜂

第四十四話 昔馴染み

 

 爆発から。

 

 しばらくして。

 

 所長は瓦礫の中から立ち上がった。

 

「……」

 

 周囲を見回す。

 

 部屋は見るも無惨な状態だった。

 

 壁は吹き飛び。

 

 窓は砕け。

 

 ベッドは半分ほど瓦礫に埋まっている。

 

 それでも。

 

 所長自身には大した怪我はなかった。

 

「……服は使える」

 

 煤を払い。

 

「煙草は……」

 

 ポケットを探る。

 

「駄目か」

 

 折れた煙草を捨てる。

 

 そして。

 

「酒」

 

 所長は酒瓶を確認した。

 

 無事だった。

 

「よし」

 

 それだけで満足した。

 

 さらに部屋を見回す。

 

 持ち込んだ荷物の中には、まだ使えそうなものが残っている。

 

 酒。

 

 煙草。

 

 簡単な道具。

 

 財布。

 

 その他の物資。

 

「これも使えるな」

 

 所長は手当たり次第に拾い集める。

 

 荷物をまとめると。

 

 何事もなかったかのように外へ出た。

 

 すると。

 

「何をしているんですか!」

 

 モーテルの管理人が。

 

 血相を変えて走ってきた。

 

「これは一体なんなんです!」

 

「知らん」

 

「知らんじゃありません!」

 

「寝てたら爆発した」

 

「それはこちらも分かっています!」

 

 管理人は周囲を見回す。

 

 建物の壁は大きく崩れ。

 

 窓ガラスは散乱している。

 

「あなた!」

 

「ん?」

 

「何をしたんですか!」

 

「俺は何もしてねえ」

 

「では誰が!」

 

「テロリストだな」

 

「……は?」

 

 所長はあっさりと言った。

 

「テロリストだ」

 

「いや、あなたの部屋が爆破されているんですよ!?」

 

「だからテロリストだろ」

 

「そういう問題では――!」

 

「じゃあ頑張って片付けてくれ」

 

「待ってください!」

 

 所長は聞く耳を持たない。

 

 瓦礫を跨ぎ。

 

 外へ出る。

 

「この国のモーテルは物騒だな」

 

「あなたが原因では!?」

 

「じゃあな」

 

「ちょっと!」

 

 所長はそのまま車へ向かった。

 

 車の前まで来る。

 

「……」

 

 車体を眺める。

 

「まだ動くか?」

 

 運転席のドアへ手を伸ばす。

 

 その瞬間。

 

 ――ドォンッ!!

 

 轟音。

 

 車体が吹き飛んだ。

 

「…………」

 

 所長は。

 

 数メートル先に転がった車を眺めた。

 

 煙が上がっている。

 

 完全に壊れていた。

 

「……」

 

 所長は無言で立っている。

 

 怪我はない。

 

 服が少し煤けただけだった。

 

 ゆっくり振り返る。

 

 そこには。

 

 唖然としたモーテルの管理人。

 

「……」

 

「……」

 

 所長が口を開く。

 

「なあ」

 

「……はい」

 

「この国」

 

「はい」

 

「テロリストだらけか?」

 

「知りませんよ!」

 

 管理人が頭を抱える。

 

「私に聞かないでください!」

 

「モーテルが爆破されて」

 

 所長は指を一本立てる。

 

「車も爆破された」

 

「……」

 

「二回だぞ」

 

「私のせいじゃありません!」

 

「管理人だろ?」

 

「管理人だからってテロリストまで管理してません!」

 

「そうか」

 

 所長は少し考える。

 

「じゃあいい」

 

「何がです?」

 

「歩く」

 

「……」

 

 所長は荷物を持ち直す。

 

 そして煙草を一本取り出した。

 

 今度は無事だった。

 

 火をつける。

 

「……」

 

 煙を吐く。

 

「しょうがねえ」

 

 ポケットから携帯を取り出した。

 

 登録されている番号を一つ探す。

 

「……こいつだな」

 

 電話をかける。

 

 数回の呼び出し音。

 

『誰だ?』

 

「俺だ」

 

『……』

 

「久しぶりだな」

 

『……お前か』

 

「ああ」

 

『今どこにいる?』

 

 所長はモーテルの名前を告げる。

 

『分かった』

 

「迎えに来い」

 

『もう向かってる』

 

「……は?」

 

『だから、もう向かってる』

 

「なんで?」

 

『情報屋から連絡が来た』

 

「情報屋?」

 

『お前が魔界に入った』

 

『伯爵家の屋敷へ向かった』

 

『その後、モーテルに入った』

 

『そして――』

 

 少し間が空く。

 

『さっきモーテルが吹き飛んだ』

 

「……」

 

『その直後に車も吹き飛んだ』

 

 所長は黙る。

 

「お前」

 

『なんだ?』

 

「どこまで知ってる?」

 

『お前より詳しいかもしれんな』

 

「……」

 

『今から迎えに行く』

 

「頼む」

 

『酒はあるか?』

 

「ある」

 

『なら急ぐ』

 

 電話が切れた。

 

 所長は携帯をしまう。

 

「……」

 

 煙草を吸う。

 

「便利な奴だな」

 

 それからしばらく。

 

 瓦礫の前で待っていると。

 

 遠くから一台の車が近づいてきた。

 

 黒い車体。

 

 古いが、よく手入れされている。

 

 車が停まる。

 

 運転席から一人の魔族が降りてきた。

 

「……」

 

 所長を見る。

 

「久しぶりだな」

 

「おう」

 

 所長も立ち上がる。

 

「老けたな」

 

「お前は変わらんな」

 

「そうか?」

 

「図体も態度もな」

 

 魔族は所長の荷物を見る。

 

「酒か?」

 

「ああ」

 

「相変わらずだな」

 

「乗せてくれ」

 

「はいはい」

 

 所長は車へ乗り込む。

 

 魔族は運転席へ戻った。

 

「まずは家に行くぞ」

 

「ああ」

 

「話はそれからだ」

 

「酒を飲みながら話そうぜ」

 

「それも昔と変わらんな」

 

 車が走り出す。

 

 しばらくして。

 

 魔族の家へ到着した。

 

 古びた建物だった。

 

 だが。

 

 中には酒が大量に置かれている。

 

「相変わらずだな」

 

「お前に言われたくない」

 

 所長は笑う。

 

「再会を祝おうぜ」

 

「そうするか」

 

 二人は酒を用意した。

 

 グラスを合わせる。

 

「乾杯」

 

「乾杯」

 

 ごくっ。

 

「……うまい」

 

「いい酒だろ」

 

「ああ」

 

 しばらく酒を飲んでから。

 

 所長が尋ねる。

 

「それで」

 

「ん?」

 

「情報屋ってのは?」

 

「お前が気にするか?」

 

「俺のことを知りすぎだろ」

 

「魔界に入った時点でな」

 

 昔馴染みは酒を飲む。

 

「お前が伯爵家に入ったことも」

 

「モーテルに泊まったことも」

 

「部屋を吹き飛ばされたことも」

 

「車を吹き飛ばされたことも」

 

「全部、連絡が来てる」

 

「……」

 

「お前が何かやらかすたびに、こっちへ情報が流れてくる」

 

「便利だな」

 

「お前に関してはな」

 

「で」

 

 所長は酒を飲む。

 

「なんで俺は狙われた?」

 

 昔馴染みは。

 

 少し考えてから。

 

「恨まれてるからだろ」

 

「誰に?」

 

「魔族軍関係者」

 

「……」

 

「お前が軍にいた頃」

 

 昔馴染みはグラスを置いた。

 

「色々やっただろ」

 

「まあな」

 

「特に」

 

「捕虜の件だ」

 

 所長の眉が動いた。

 

「……ああ」

 

「覚えてるか」

 

「覚えてる」

 

「魔族の捕虜を捕まえた」

 

「そうだったな」

 

「それを」

 

 昔馴染みは淡々と話す。

 

「爆弾に改造した」

 

「……」

 

「内臓を抜き出して」

 

「そこへ爆薬を詰め込んだ」

 

「そして魔族側の施設へ送り込んだ」

 

 所長は酒を飲む。

 

「そうだったな」

 

「その爆発で」

 

 昔馴染みは続ける。

 

「かなりの被害が出た」

 

「まあ、そうだろうな」

 

「捕虜の家族」

 

「部隊の仲間」

 

「関係者」

 

「お前を恨んでいる奴は多い」

 

「……」

 

「しかも」

 

 昔馴染みは苦笑する。

 

「やり方がやり方だった」

 

「普通に殺すだけなら、まだ戦争だからと割り切れる奴もいる」

 

「だが」

 

「捕虜を生きたまま爆弾にした」

 

「それも内臓を抜いて」

 

「そりゃ恨まれる」

 

 所長はしばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……まあ」

 

 酒を飲む。

 

「戦争だったからな」

 

「その言葉で済ませるな」

 

「そうか?」

 

「そうだ」

 

 昔馴染みはため息をついた。

 

「だから、お前が魔界に入った時点で」

 

「誰かが狙ってくるとは思ってた」

 

「モーテルもか?」

 

「たぶんな」

 

「車も?」

 

「たぶん」

 

「なるほど」

 

 所長は煙草に火をつける。

 

「検問からか?」

 

「そうだ」

 

「尾行されてた?」

 

「ああ」

 

「気づいてたのか?」

 

「俺はな」

 

「じゃあ何で言わなかった?」

 

「情報屋から連絡が来るのを待ってた」

 

「……」

 

「お前が何をされるのか」

 

「少し興味があった」

 

「お前も変わらんな」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

 そして。

 

 同時に笑った。

 

 所長は酒を一口飲む。

 

「しかし」

 

「ん?」

 

「俺の寝床を吹っ飛ばした奴は」

 

「……」

 

「別の話だな」

 

 昔馴染みは。

 

 その言葉を聞いて。

 

 楽しそうに笑った。

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