第五十話 悪友と武器
司令官との話を終えた所長は、司令部の門へ向かっていた。
ただし。
両手には、再び手錠がかけられている。
「……」
所長は無言で自分の手首を見る。
「信用されてねえな」
隣を歩く副官は無言だった。
その後ろには数名の兵士。
銃こそ向けられてはいないものの、どう見ても護送されているようにしか見えない。
「俺、客として来たんだが」
「指名手配中の人物を客扱いするほど、我々も肝が据わっていない」
「そうか」
所長は肩をすくめる。
やがて門が見えてきた。
その外には一台の車が停まっている。
運転席から、見覚えのある男が降りてきた。
「おう」
所長が手を上げる。
「遅かったな」
「お前が軍の司令部に乗り込んだと聞いた時は、今日あたり処刑されていると思っていた」
昔馴染みは、所長の手元を見る。
「……なんだ、その手錠」
「司令官が念のため付けておけと」
「なるほど」
昔馴染みはニヤニヤと笑った。
「今から処刑でもされるのか?」
「……」
所長のこめかみに青筋が浮いた。
「お前」
「なんだ?」
「それ、面白いと思って言ってるのか?」
「かなり」
「そうか」
所長は手錠を見た。
そして。
ぐっ。
金属が軋んだ。
「……え?」
昔馴染みの笑顔が止まる。
所長は両手を左右へ引っ張った。
次の瞬間。
バキンッ!
手錠が真っ二つに引きちぎられた。
「……」
兵士たちが固まる。
副官も固まった。
所長は何事もなかったかのように手首を見る。
「まだ残ってるな」
手首には、千切れた金属の輪がわずかに残っていた。
所長はそれを指でつまむ。
ぐっ。
金属片がさらに変形する。
「邪魔だ」
べりっ。
まるで布を毟るように、残骸を指で引き剥がした。
所長は、その金属片を副官へ放り投げた。
「返す」
副官は反射的に受け取った。
所長は一度も副官を見なかった。
「じゃあな」
そのまま車へ向かう。
「おい、待て!」
副官が声を上げる。
しかし所長は振り返らない。
「早く乗れ」
「おう」
昔馴染みが運転席へ戻る。
所長は助手席へ乗り込んだ。
車が走り出す。
*
「それで?」
昔馴染みがハンドルを握りながら聞く。
「何があった?」
「カルテルについて色々聞いた」
「ほう」
「軍の管理区域を借りてる連中がいる」
「やっぱりか」
「軍内部に協力者がいる」
「そりゃ面白い」
「それから、軍から魔導鎧が盗まれてるらしい」
昔馴染みの眉が跳ね上がった。
「……魔導鎧?」
「ああ」
「軍用の?」
「そうだ」
「何着?」
「複数」
昔馴染みはしばらく黙った。
そして。
「一つ欲しいな」
「お前が?」
「ああ」
所長は興味なさそうに窓の外を見る。
「好きにしろ」
「いや、お前に頼みたい」
「なんでだ?」
「売れる客を知ってる」
所長が初めて昔馴染みを見る。
「……ほう」
「魔導鎧を欲しがってる金持ちがいるんだ」
「軍用だぞ」
「だから高く売れる」
「俺には必要ねえ」
「知ってる」
「俺が着ても仕方ねえしな」
「それも知ってる」
昔馴染みは悪い笑みを浮かべた。
「だから、がめてくれよ」
「俺が盗むのか?」
「お前ならできるだろ」
「お前、俺を何だと思ってる?」
「元軍人で、現役の荒事屋」
「探偵だ」
「探偵が軍の司令部に手錠付きで連れていかれるか?」
「……」
所長は黙った。
「まあいい」
昔馴染みは続ける。
「客は確実に買う」
「いくらだ?」
「それは品物を見てからだな」
「お前、商売になると急に生き生きするな」
「金になる話だからな」
所長は煙草を咥えた。
「まあ、見つけたら考えとく」
「よし」
「まだ盗むとは言ってねえぞ」
「分かってる」
「その顔は分かってねえだろ」
「細かいことはいい」
車はそのまま街道を進んでいった。
*
しばらくして。
昔馴染みの家に到着する。
外から見ると、古びた倉庫のような建物だった。
しかし。
中へ入った瞬間、所長の足が止まる。
「……おい」
「どうだ?」
「随分あるな」
壁一面に並べられた銃器。
棚には弾薬。
机には工具。
整備途中の銃まで置かれている。
「お前のために用意した」
「俺用か?」
「ああ」
昔馴染みが一丁の拳銃を取り出した。
普通の人間が使う拳銃より明らかに大きい。
銃身も長く、グリップも太い。
「オーガ用の大型拳銃だ」
所長が受け取る。
「重いな」
「お前なら片手でいけるだろ」
所長は片手で構えた。
「悪くねえ」
「弾も特注だ」
「いいじゃねえか」
次に、昔馴染みは大型のライフルを取り出した。
「こっちは大型ライフル」
所長が受け取る。
「長いな」
「オーガの腕力なら反動も問題ない」
「なるほど」
所長は肩に担ぐ。
「こいつは使えそうだ」
「そして最後」
昔馴染みが奥からケースを運んできた。
床に置く。
重い音が響いた。
「対物ライフル」
ケースが開く。
巨大な銃身。
大型の機関部。
人間が扱うには明らかに過剰な大きさ。
「トーチカ破壊用だ」
「……」
所長はしばらく無言で眺める。
「これ、いいな」
「だろ?」
「こいつは買う」
「金は?」
「ツケで」
「ふざけるな」
「昔馴染みだろ?」
「だから金を払え」
「ケチだな」
「お前が言うな」
所長は対物ライフルを持ち上げる。
「こいつがあれば、面倒な扉も開けられそうだ」
「お前の場合、扉を開けるというより壁ごと無くしそうだな」
「それも便利だ」
昔馴染みは呆れながら笑った。
「で、魔導鎧は?」
「まだ言うのか」
「売れる客がいるんだ」
「分かった分かった」
所長は煙草に火をつける。
「見つけたら、持ってくる」
「よし」
「ただし」
「なんだ?」
「俺は魔導鎧には興味ねえ」
「知ってる」
「ならいい」
所長は大型拳銃を眺めながら、満足そうに笑った。
「俺は銃があれば十分だ」
昔馴染みは、その言葉を聞いて笑った。
「それで十分と言いながら、今まで何回壁を壊した?」
「数えてねえ」
「だろうな」
二人の間に、久しぶりの気楽な笑い声が響いた。